最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第738話 妹と姉

 選定の試験が終わり『九大魔王』である『ブラスト』『イリーガル』『エイネ』『リーシャ』の四人が全会一致で魔族ステアの実力を認めた為、新たにを果たした。

 これまでの常となってきた選定の試験で序列入りを果たして来た猛者達でも、その大半は『三桁』であり、良くて『二桁』に序列入りをするのだが、ステアはあのイリーガルに傷をつけただけでは無く、これまでの功績や勝負を決めるキッカケとなった『ベイク』や、Aクラスの魔族達からの信望も厚い事を評価されて『序列一桁』に暫定という形ではあるが、序列入りを認められるのだった。

(※序列のNo.としては、既に1位~9位までが存在している為、ステアの序列は『暫定』として『0位』となった)。

 当然序列一桁に入る幹部には、部下を編成して部隊を持つ事になるのだが、現在は魔王軍の多くの配下達が、アレルバレルの世界から消え去っている為、元々彼が組織していた中立部隊の者達から部隊の編成を行う事となった。

 そしてAクラスの中から百体の魔族が選出されて、直属の指揮官をステアとされた。
 更にその序列一桁となったステアの部隊の副指揮官には、ベイクが任命された。

 彼もまた選定の試験で『イリーガル』の肩口にダメージを与えて、ステアの序列入りをによって彼も序列入りを認められたのだが、ステアの片腕として同じ部隊に編成させて欲しいという本人からの強い要望により、ステアの組織する部隊の副指揮官という座に落ち着いたのだった。

 残されたAクラスの魔族やBクラスの魔族もまた、あくまで暫定という立場ではあるが、九大魔王達の直属の配下として、当分の間は部隊員に任命される事となった。

 こうして新たにソフィの魔王軍の編成が終わり、ようやくソフィの魔王軍は止まっていた時間が動き出すのだった。

 ……
 ……
 ……

 ――しかし、これで試験の話が終わったわけではなかった。

 …………

 新たにステアの序列入りが決まった後、主だった者達は魔王城へと戻っていき、選定が行われた施設にはブラストの結界も解除されていた。そしてその場所には『リーシャ』『エイネ』『レア』『ミデェール』の四体の魔族の姿があった。

 ソフィが始めた今回の序列入りの選定は終わりを迎えたのだが、Bクラスの選定が終わった時のミデェールの話をエイネから聞かされたリーシャが、個人的に思うところがあり、エイネとミデェールを呼び出して、をやりたいとそう言いだしたのである。

「リーシャ、一体どういう事か説明してもらえる?」

 ミデェールを守るように立つエイネは、この場所に呼び出した張本人であるリーシャにそう尋ねた。

「Bクラスの選定が終わった後、エイネさんは自慢気に私に言ったよね? そこに居るが、私の動きを見切っていたって」

 リーシャは少しばかりエイネに対して棘のある言葉でそう伝えると、エイネは溜息を吐いて口を開いた。

「リーシャ……。貴方まだ嫉妬しているのかしら? いい加減、大人になったらどうなの?」

「なっ……!? あ、あたしがいつ嫉妬なんかしたのかしらぁ!? あたしの動きを見切ったって、エイネさんが自慢気にあたしに言うから、その事を明確にしてやろうって、思っただけじゃない!!」

(あれだけ目くじら立てておいて、嫉妬してないって言い張るのは、流石に無理があるんじゃないかしらぁ)

 リーシャの隣でレアは、そんな事を考えるのだった。

 本来レアは父であるフルーフと、一緒に魔王城へと戻ろうとしていたが、リーシャの様子が気に掛かり、この場に残ったのであった。

 レアにとってリーシャは、可愛い妹のようなものであり、あんな思いつめた表情を見せられて、無視など出来ようも無かったようである。

「バルドの爺に裏切られた後、あたしはを重ねてきたか、レアと離れ離れになった後も、ひたすら修行を続けてきたのよぉ!?」

「それを私に言ってどうするの? ?」

 徐々にエイネも内に燻ぶっていた気持ちが、徐々に燃え上がっていく。

「一緒に生きてきたからこそ、あたしがどれだけ、苦労したか知っているでしょう?」

「一体何が言いたいの貴方は?」

 要領を得ないリーシャに溜息を吐きながらエイネは、言いたい事があるならはっきりと言えと告げる。

「うー……っ!! くぅ……、くっ……!」

 歯を食いしばりながら、リーシャは目に涙を浮かべ始める。
 どうやらリーシャ自身も何が言いたいか、気持ちが纏まっていないのだろう。しかしエイネに言いたい事はそれこそ山ほどある。

 いつも一緒に居たエイネが、自分以外の存在に気を許している事にも納得がいかないし、そんなミデェールもエイネに対して遠慮なく好意を寄せている。気持ちの上では理解しているのだろうが、リーシャには感情のコントロールが上手く出来ていない。

 レア程では無いがリーシャもまた、幼少の頃から親という存在を知らず、エイネを姉代わりにずっと一緒に生きてきた。家族同然であった彼女が、自分以外を気に入って接している事がリーシャにとっては今、この世の終わりのように感じられているのだろう。

 ――しかしそれも仕方の無い事であった。

 魔族として『生』を長く生きてきた彼女だが、これまでに本当は経験していく多くの事が経験できず、日々『アレルバレル』という世界で殺されないように、死なずに生きていく為にのみ心血を注いできた。

 気が付けば『アレルバレル』の世界最大の組織。大魔王ソフィの魔王軍に所属し、その魔王軍に九人しか居ない最高幹部『九大魔王』の末席にまで『リーシャ』は座れるようになった。

 だが、戦闘面では大きく成長した彼女であっても感情面ではまだまだ子供なのであった。
 彼女の世界の多くを占めている存在。エイネを誰かにとられそうになっているという事が、彼女の中で許せないのだろう。

 それでも選定が始まるまでは我慢が出来ていた。しかしエイネが目の前で彼を褒めた事で、リーシャの我慢の限界点を越えてしまったのである。

 それも自分の動きを『ミデェール』という魔族が見切っていたと、そのが自慢気に伝えてきたのだからリーシャにとっては、それはそれはたまらなかっただろう。

 横で話を聞いていたレアも、エイネを少しだけ責めるように睨んだ。

(……普段のエイネなら、他者の気持ちの機微をよく理解出来る筈なんだけどねぇ、あの男に完全に気持ちがいっちゃってるから、リーシャの気持ちを理解してあげられないのねぇ)

 泣きそうになっているリーシャが必死に我慢をする姿を見たレアは、今回ばかりは、と決心するのだった。

「何が言いたいかハッキリさせなさいと、ワタシは言ったのだけど? 用が無いならこのまま帰らせてもらうわね」

「……あっ!」

「行きましょう、ミデェール」

「え……、あの……」

 ミデェールはリーシャとエイネの顔を交互に見て悩むが、強引にエイネがそのミデェールの手を取って歩いて行ってしまった。

 後ろ姿を見ながらエイネに手を伸ばそうとしたが、そこでリーシャの体は動かなくなった。目に涙を溜めながらその去っていく『』の姿を見続けるのだった。

 そのまま二人は去っていくかと思われたが、リーシャのその伸ばされた手をレアは優しく両手で握りしめる。そして後ろからエイネに声を掛けた。

「……。エイネ……、貴方ねぇ? それはないんじゃないのぉ?」

 レアが声を掛けると前を向いたまま、ピタリと足を止めるエイネだった。

 ……
 ……
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