最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第651話 議論の末

 今後についての会議が『イルベキア』で行われている頃。
 『ハイウルキア』の城でもまた別の会議が行われていた。

「ぐぬぬっ……! ヴァルーザの奴め。魔族と手を組んでまでこの大陸を支配したいのか!」

 『ハイウルキア』に居るガウル龍王は、イーサ龍王が葬られた事というよりもどちらかといえば『イルベキア』の国王ヴァルーザが、力を持つ魔族と手を組んで『スベイキア』を襲ったと考えて同盟国に対する不信感を募らせていたのである。

「ガウル様。このままでは『イルベキア』が大陸全土を束ねる支配国家となります。今はまだ各国が混乱状態である為に直ぐには名乗りをあげないでしょうが、落ち着いた頃を見計らってあのヴァルーザ龍王めは、この『アサ』の支配者となる為に動き出すでしょう。その前に『スベイキア』襲撃事件を名目に『イルベキア』国と同盟関係を解消して『イーサ』龍王の無念を晴らす戦いとして『イルベキア』に戦争を仕掛けましょう!」

 ガウル龍王にそう進言するのは、国のNo.2である『メッサーガ』であった。

「お、お待ちください! そ、そんな事は今決める事ではないでしょう!!」

 メッサーガの恐ろしい発言に慌てて待ったをかけようと、一体の龍族が椅子から立ち上がる。その龍族の名は『ピード』というハイウルキアのNo.3であった。

「何を言うか『ピード』! 今決めねばいつ決めるというのだ? 『イルベキア』は『スベイキア』転覆をずっと考えていたのかもしれぬのだぞ! 下手をしたら魔人達との戦争すら『イーサ』龍王を狙う為の布石だったのかもしれぬ!」

「お、お待ちください。魔人達との戦争をする事を決めたのは、イーサ龍王の筈でしょう?」

「本当にそうかな? そういう風に仕向けたのが、ヴァルーザ龍王かもしれんのだぞ?」

「そうだな。実際に魔人達の大陸に襲撃を掛けたのもまた『イルベキア』の軍だったしな」

 会議に参加している『ハイウルキア』の龍族達は『メッサーガ』の言葉を皮切りに、思い思いに話始めるのだった。

 そこに今まで各重鎮達が話す内容を黙って聞いていた一体の龍族が口を開いた。

「皆さん、少し落ち着いて下さい『スベイキア』城を襲撃されて『イーサ』龍王は亡くなられたが『スベイキア』という大国は、滅ぼされてはいないのでしょう?」

 ハイウルキア国のNo.4の『ジラルド』が『スベイキア』にはまだ後継者となり得るものが、多く居るという事を示唆する事で、ヒートアップしていく『イルベキア』との戦争論の流れをゆっくりと断ち切ろうと鎮めていく。

「む……。確かに『スベイキア』にはまだ『コープパルス・ドラゴン』筆頭の強さを持つ『ネスコー』殿や『イーサ』龍王のご子息『シェイザー』殿もおられるか」

「確かに。国はまだ健在である以上、我々より遥かに強い力を持つ『コープパルス・ドラゴン』がいる『スベイキア』には『ヴァルーザ』龍王も簡単には手出しできぬか?」

 話の流れが少しずつ変わっていく空気を感じ取り、ピードは『ジラルド』に感謝の視線を送るのだった。その視線を受け取った『ジラルド』は、ピードに軽く頷きを返す。

「だがそのコープパルス・ドラゴンの、イーサ龍王が魔族にやられたのだぞ?」

「そもそもその魔族というのは、一体何者なのだ……?」

「確かにそれが気になるところだ。我々龍族の『ブルードラゴン』でさえ『コープパルス・ドラゴン』の民には遠く及ばぬというのにな」

 イルベキアとの戦争話から今度は、魔人達の大陸に居る筈の件の魔族の話題へと変わっていく。

「そういえばその魔族は、スベイキア大国の城に張られていた『結界』ごと『イーサ』龍王を葬ったように見えましたな」

 直接その様子をガウル龍王と見ていた『メッサーガ』の発言により、その場を見ていなかった重鎮達は再び騒ぎ始める。

「そ、それは本当の事なのですか、メッサーガ殿!」

「イーサ龍王を守る為のその結界は、あの膨大な魔力を有する選ばれた国王の側近達が張っていた難攻不落とさえいわれていた『コープパルス・ドラゴン』の『結界』でしょう?」

「何かの間違いなのでは? 何らかの騙し打ちにあう以外に、そもそもあのイーサ龍王がやられるとは思えぬのだが……」

「いやむしろそんな騙し打ち程度で『イーサ』龍王がやられるのか? この場に居る者達で誰かそれが可能だと思えるか?」

 ガウル龍王の一言で騒がしかった室内は水を打ったように静まる。

 ――

 『結界』がどうとか『コープパルス・ドラゴン』がどうとか、そういう話では無いのである。
 この世界で最強の力を有する筈のイーサ龍王がやられたというのが、最大の議論点なのであった。

「その魔族を我が『ハイウルキア』に迎え入れる事は可能か?」

 ガウル龍王の突拍子のないその発言に、その場に居る者達は困ったように顔を見合わせるのだった。

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