最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第599話 冷静かつ大胆に

 牢の外に出た『フルーフ』は早速自身の周囲に『漏出サーチ』を展開する。
 既に自分自身には『隠幕ハイド・カーテン』を使っている為、フルーフが結界の中であっても、魔法を使っても感知されてはいない。

 すでにこの『結界』の魔力の規模を知り尽くしているフルーフは、何も臆さずに魔法を使っていく。

 この結界は大魔王上位領域に居る、ルビリスが張っている結界だったが『魔』としての位が違いすぎるフルーフの前では、利用される程度の『結界』の規模に成り下がっていた。

 今のフルーフの『隠幕ハイド・カーテン』を突破し、魔力を感知できる存在が居るとしたら『エルシス』か『ミラ』。そして大魔王『シス』くらいだろう。

 魔法の質に魔力の質の両方が兼ね揃っていなければ、フルーフの纏う『隠幕ハイド・カーテン』を打ち破ることは出来ない。

 しかしそれはあくまで魔力の感知に対してのみであり、目の前で遭遇すればすぐに露見してしまう。その事を『フルーフ』は理解した上で堂々とイザベラ城の地下で歩を進めていく。

 戦力値という範囲で物を測れば、フルーフは精々が大魔王最上位領域の下限程だろう。
 いくら『魔』に対して卓越した力を持っているフルーフであっても、一対一で戦えばルビリスや、バルド程度には勝てるだろうが、同じく最上位領域に居るヌーや『』に近づいているミラには到底敵わない。

 『概念跳躍アルム・ノーティア』を使えば、フルーフはあっさりとこの世界から脱出する事は出来るだろうが、流石に『隠幕ハイド・カーテン』を使っていても『時魔法タイム・マジック』程の膨大な魔力を隠し通す事は難しいだろう。

 『概念跳躍アルム・ノーティア』を使う事でミラに感知されでもすれば、すぐに追いかけられてこられてあっさりとフルーフは再び捕縛されてしまい、今度こそフルーフは容赦なく消されてしまう事だろう。

 あくまでミラは再びフルーフを洗脳する事で、利用する為にフルーフを生かしているのである。
 今はまだ大人しく捕まっていると『ミラ』に信じ込ませておいて、少しでも時間を稼ぐ事が重要であるとフルーフは考えるのだった。

 そして出来ればこのままミラに見つからずに城の外へと向かい、結界の外側まで辿り着いた後に、改めて『概念跳躍アルム・ノーティア』で『ミラ』に見つかる可能性の低い世界へと向かうべきであり、生き残れるとしたらこの方法しかないだろう。

 しかしそれ程に差し迫った状態だというのに、堂々とイザベラ城を歩いていくフルーフは果敢というべきか、それともの所為なのか。

 判断がつきにくいが恐らくこういった者が、古き良き時代の大魔王なのであろう。
 何があろうと狼狽えずに、自分の覇道を突き進む。フルーフは自分の探求心の為に、一つの支配した世界に留まらずに別世界の景色を見に行った程である。

 それ程の豪快な性格をしているフルーフは、臆するという事は、全くしないのだった。

「面白い構造の城をしておる。いずれワシの城もこういった迷路を要した造りに変えてみようか」

 うんうんと頷きながら、辺りを散策しながら着実に地上へと向かっていくフルーフだった。

 ……
 ……
 ……

 フルーフが牢を抜け出した事など露にも思わないミラは、これからどうやってフルーフを操る算段をつけるかという事に頭を悩ませていた。

 フルーフの洗脳が解けた事に関してあくまで推測の域だが、魔神の『技』に対して『発動羅列』を読み解かせたことが原因では無いかとあたりをつけたのである。

 『魔神』の『技』を魔法にするにあたっての『発動羅列』の何が要因だったかは分からないが、もしかすると『発動羅列』の文体のどこかを読み組ませて解かせる事で『神聖魔法』の『発動羅列』を解除するに値する『』の意味合いに繋がったのかもしれない。

 ――しかしそれが明確な理由というワケでは無い。

 あくまで推測の域でしかないが『発動羅列』を素直に読める私では分からない『何か』が『魔神』の『技』を【発動羅列化】する時に引っかかったのだろう。そう考える理由は最後にフルーフに新魔法で『発動羅列化』させた魔法が、だった為である。

 『魔神』から『技』を奪い魔法化したものは三つ。

 一つ目は恐るべき威力を持つ『高密度のエネルギー波』。
 二つ目は、魔力の渦を円状に広げさせて範囲内全ての存在を一瞬で『浄化する波動』。
 更に三つ目となるモノは相手の『時魔法タイム・マジック』の『発動羅列』に干渉し、すでに発動条件の九割以上を満たしている魔法に対して『スタック』ごと魔力を消失させる『技』である。

 ――そして怪しいのが件の三つ目であった。
 これこそが原因だとミラが考えている魔神の技である。

 フルーフが『発動羅列化』に成功した魔神の『技』自体の効果は、相手の『時魔法タイム・マジック』をスタックさせた魔力ごと、無効化させる魔法で間違いはない。フルーフの発動羅列化を読み解く新魔法自体には、何ら問題は無かったのである。何かあったとするならば、この『魔神』の『技』を読み取ったときのフルーフ自体に問題があったのだと考えられるのだった。

(タイミングは『魔神』の『技』に対して『発動羅列化』する時だったのか、それとも『魔神』が『ヌー』に対して『時魔法タイム・マジック』無効化の『技』を使った時に生じたのだろうか……)

 こうなるのであれば、最後に欲張らずに『浄化する力』までに、留めておくべきだったのかもしれない。しかし『時魔法タイム・マジック』の無効化は、ミラが当初に計画していた効果そのモノだったのである。

(あの時にだ。たとえあの時にもう一度、同じ場面を経験する機会があったとしても、結局私は同じ事を繰り返すだろう)

 厳密には『時魔法タイム・マジック』無効化から、更にフルーフに新魔法を生み出させてあわよくば、

 ――『対魔法無効化アンチ・ディフェンス・マジック』までを計画していたミラであった。

 相手が発動状態に入っている魔法までもが無効化出来るとなれば、今度こそミラは『魔神級』のへと昇華する事が可能になったであろう。

 どちらにせよこれはフルーフという『新魔法』を生み出す事の出来る存在が居なければ、とてもミラだけでは不可能な計画である。

 もしこれがエルシスであれば、フルーフ無しに実現することを可能と出来たのかもしれないが、残念ながら『』では、成し遂げるに値するだけの資質を持ち得なかったようである。

「今はひとまずあいつを再び管理下に置く方法を考えるべきだな」

 何故洗脳が解けたのかという空論からかなり脱線してしまったと判断したミラは、再び脱線した内容を戻して思惟し直す事にするのだった。

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