最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第573話 崩落する山

 ルビリスの魔力が上昇していくのを見た魔神は、一体あの魔族がどのような魔法を使うのかと、相当に興味を抱いたのか、攻撃をしようとしていた手を止めてまで観察を始める。

 ――しかしルビリスが『を使う機会は訪れなかった。

 何故ならルビリス達の組織の総帥である『ミラ』が、この場に一瞬で『転移』してきた後に、玉砕覚悟のルビリスの魔法発動を『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』を用いて止めた為である。

「み、ミラ様……!?」

 フルーフから『発動羅列化』した『魔神』の技を抽出する為に、ここから離脱した筈のミラが、目の前に現れた事で驚くルビリスだった。

「私は時間を稼げとは言ったがな。お前に死ねとまで命じたつもりはないぞ?」

実験体フルーフからの『羅列化』への抽出は、お済になられたのですか?」

「ああ。お前のお陰でな」

 その言葉を聞いたルビリスは表情を緩める。

「そうですか」

 嬉しそうな表情をしているルビリスを一瞥した後に、ミラは鼻をならして視線を『魔神』に向ける。

「ひとまず作戦は終了だ。イザベラ城でヌー達と合流後に、再び『アレルバレル』の世界へ向かう」

「分かりました」

 ルビリスの同意の言葉を聞いた直後『ミラ』は魔神が動いたのを確認する。

 ――次の瞬間。

 最初に見せた威力の『高密度のエネルギー波』が『魔神』からミラに向けて放たれるのであった。

「み、ミラ様!」

 ルビリスが騒ぐがミラは冷静に金色を纏わせる。
 恐ろしく早い魔神の『エネルギー波』は、先程までルビリスに向けて放っていたお遊びとは違って、一撃で相手を浄化する事が出来る程の威力を誇っていた。

 ――しかし……。

 まるでレーザービームのような『魔神』の『エネルギー波』に対して、ミラの射程範囲ギリギリまで引き付けた後に『ミラ』もまた同様に魔法を放つ。

 は、魔神が向けるエネルギー波と、まさに『』で『』を持っていた。

 しかし『魔力回路』から放出した『魔力』の消費量は、ミラの『一回分』の総魔力量程を使わされる事にはなったのだが――。

 敵を粉々にする程の威力を持った『エネルギー波』同士がぶつかり合い、その衝撃は大魔王の渾身の『極大魔法』を上回る程だった。

 そして山脈の岩山が衝撃で崩れていき、砂塵で視界が完全に見えなくなる。

「よし、行くぞ」

「え!? は、はい!」

 ミラは周囲が見えなくなった今が好機チャンスと判断して、ルビリスの肩に手を置きながら『高等移動呪文アポイント』を発動するのだった。

 そしてその『高等移動呪文アポイント』の効力によって『高速転移』を遥かに上回る速度で、イザベラ城へと向かっていくのだった。

 ――二人が飛び立ったコンマ数秒後。

 ミラ達が居た場所に『魔神』の追撃の『エネルギー波』が放たれて、岩山が崩壊したかと思えば、そのまま勢いは止まらずに山の中をエネルギー波が突き破っていき、山は崩壊した上に地形がえぐれていった。

 次に同じ規模のエネルギー波が放たれると、完全に崩壊してこの山脈は地図上から消えてしまうだろう。

「――」(逃しはしない)

 ミラ達の魔力を感知した『魔神』は恐ろしい速度で、この場を後にしたミラ達を追いかけるのだった。

 …………

 イザベラ城の前に到着したミラ達は、周囲を見渡してヌー達の姿を探す。
 しかし先にこの場所に来ていた筈のヌー達の姿が無く、流石にミラは焦り始める。

「私は実験体達を頼むとは言ったが、城の中に入れとは言ってはいないぞ!」

 舌打ちをしながらミラは直ぐに『念話テレパシー』を大魔王ヌーに送る。こうしている間にも『魔神』は直ぐにこちらの居場所を察知して向かってくるだろう。

(今どこにいる? アレルバレルの世界へと向かう準備をするぞ)

 ミラが『念話テレパシー』でヌーに語り掛けると、流石に直ぐに返事がくるのだった。

(分かっている。この世界を離れるならば準備が居るだろう? それに安心しやがれ。もうそちらに向かっている)

 何処までも自分勝手なヌーだったが、作戦を細かに話していなかったミラも悪い。この世界を自分の物のように扱っていたヌーは、この城に多くのマジックアイテムなども残していたのだろう。それらを回収しようとしていたようであった。

 しかし説明をしていなかったミラも悪いが、今はそんな事を悠長にしている場合ではないのだ。こうしている間にもグングンとこちらに向けて、魔神が迫ってきているのをミラは感知した。

(いいかよく聞け。こちらに魔神が向かってきているのは分かっているな?)

(ああ、もちろんだとも)

 ミラはしっかりと理解していると判断して、次の指示を出し始める。

(よし。この世界を離れる前に、後一度だけ試しておきたい事がある)

(……何?)

 訝しげに返事をするヌーに向けて、ミラはその最後の作戦を話し始めるのだった。

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