最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第564話 残酷な者達

 ダールの世界にある山脈の頂で、大賢者ミラは自身が編み出した魔法を発動させた。その魔法は発動と同時に膨大な魔力を消費するが、この魔法はミラにとってはそれ以上のメリットがある。

 ――大賢者エルシスが開発した『』。

 その魔法を崇敬すると共に自身でも改変を行いながら少しずつ思い通りに作り替えていき、そして彼の『最高傑作』と呼べる『魔法』へと昇華させたのが、今の発動した『仮初需生テンポラーヴォ』という魔法である。

 『仮初需生テンポラーヴォ』は魔力を持つ他者の『魂』を生贄にして仮初の『命』を創り出す。もちろんこの『仮初需生テンポラーヴォ』に、ミラがどれだけの魔力を費やしたかによって効力が変わってくるが、この時ミラが放った魔法の規模はであった。

 それも当然の事であろう。何故なら今回は今までのような自身の『仮初の命』を増やす事に使う為では無く、今回は魔神を呼び出すという明確な目標がある為である。

 …………

 ミラの『仮初需生テンポラーヴォ』によって多くの魂が空へと昇っていく。この魂の一つ一つが『ダール』の世界に多く居る魔族達のものである。彼らは何も知らず、突然にミラの手によって命を奪われたのである。極大魔法などによっての爆発が起きて殺されたわけでは無い為に、彼らは何が起きたか分からないままに理解する間も無く、生涯を終えさせられたのである。

 リディアの言葉を用いて形容するならば、これこそが『上』の領域に居る者達なのである。を持つ者の前では力を持たぬ者は、抵抗する事どころか認知する事も無いままに、強者によって大事なものを奪われてしまう。

 彼らにも守るべき家族や毎日の生活があった。
 しかしそれら全ては『上』に居る者の勝手な都合によって、全てを奪われる事となったのである。

 『仮初需生テンポラーヴォ』の効果範囲は『魔力』に比例している為、その効果範囲は大陸全土である。

 生み出した魂を自らの『仮初の命』に代えて、自らの『生命回路』に次々と吸収していく。彼らの魂の一つ一つが、これからのミラの糧となるのである。

「ふむ。流石にこれだけの規模では、私の魔力を以てしても一度では賄いきれないか……。まあ無理もないな。よしリベイル! 

「分かりました」

 ミラは配下のリベイルに指示を出すと、神殿に被害を出さぬよう空へと身体を浮かびあがらせる。

 突然の総帥の言葉だったが瞬時にリベイルは返事をして、金色のオーラを纏いながら攻撃態勢に入った。

 そしてリベイルは一度眼鏡をあげながら主であるミラの顔を見た後、極大魔法を空高く浮かんでいったミラに向けて放つのだった。

 空中に浮いていたミラの身体が爆発して、あっさりと白目を剥いて絶命する。しかしすぐに青白い光がミラの居た場所を包み込むと、何事も無かったかのようにミラは再生して、ゆっくりと目を開けて自らの手をみやる。

「よし。魔力が元に戻ったな」

 元々持っていた『生命のストック』の一つ使って再生したミラは、自身の魔力が完全に元に戻っている事を確認すると、再び西側の空へと向かいまたもや『スタック』を使い始める。

 そしてまた先程と同規模の魔力を費やして、今度は西側方面の別大陸に向けて『仮初需生テンポラーヴォ』を発動するのだった。そしてミラは次々と『生命回路』に仮初の命を増やしていく。

 そうした事を何度も繰り返し始めて、そのたびに自傷行為と言えるような行動をとりながら、何度も蘇り魔力を回復させて多くの命を奪い続けるミラであった。

 ミラは魔力を回復をさせる為に、死を繰り返していく。これは厳密には魔力の回復を行っているわけではなく、死ぬ事によって蘇生を果たした時にその身体の元の魔力の状態に戻しているという事である。

 そしてこの一回の『死』にも、今『仮初需生テンポラーヴォ』を使って、集めている他人の『命』が使われ始めているのである。

 この一回の『魔力分』の回復に使われる為に、命を奪われた彼らはたまったものではないだろう。こんな事を平然とやってのけるミラという元人間は、もはや人間として正常な心を持ち合わしてはいないだろう。

 そして周りに居る『煌聖の教団こうせいきょうだん』の信徒たちも、ミラのやっている行為を当然のように平然と眺めている。多くの大量虐殺が行われているというのに、彼らの目には主であるミラが『程度にしか映っていない。

 ――この場に居る『煌聖の教団こうせいきょうだん』には、もはやまともな心を持ち合わせているモノは誰も居なかった。

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