最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第549話 努力が結果を生むという事

 エルシスがリディアの元へと向かっていったのを確認したソフィは口を開いた。

「……これが努力する人間の正しい成長だ。努力をすれば全ての者が、結果を出せるわけではないが、努力をしていなければ、奴のこの結果は生まれていないだろう」

 そしてソフィはリディアと何かを話しているエルシスと、その横に居るユファを見つめた後、ゆっくりと視線を自らの居る場所より高い空へと向けた。

だろうか。今日までの過去の自分とは、明確に違いが出る。自分の成長を実感出来た時、我は一体どれ程の幸福を味わうのだろうな」

 ソフィは視線を自分の両手に向けながら、静かに呟くのだった。

「「ソフィ様……」」

 ソフィの配下である二人は何といって声を掛けていいか分からず、静かに主の名を呼ぶのだった。

「屋敷へ帰ろうか」

 そして哀愁が漂う表情を浮かべたソフィは、顔を前に向けたまま二人に告げる。

「「……御意」」

 二人の返事を受け取ったソフィは、最後にリディア達の方に視線を向ける。リディアとユファはこちらには最後まで気づかずに何かを喋り続けていた。しかしたった一人だけ、そのソフィの視線に気づき空を見上げる者が居た。

 ――大賢者『エルシス』。

 ソフィの友人にして生涯をソフィの『願望』を叶える為に捧げた人間。

 彼はソフィが居る事にずっと前から気づいて居たのだろう。背後に居る『イリーガル』や『ブラスト』ではなく、ずっと。そしてソフィに向けて何かを呟いている。

 ――『』。

「!」

 声を出さずに発せられた言葉。その言葉の意味を読唇術によって、ソフィに正しく伝わったようだった。

「クックック。本当にお主はどこまでも『』よな」

「どうされましたか? ソフィ様?」

 最後にエルシスと視線を交わした後、ソフィは笑みを浮かべて頷いた。

「いや、何でもない。帰るぞ」

 ソフィは最後にそう言うとエルシスから視線を外して、イリーガル達を見ながらそう言うのだった。

 ……
 ……
 ……

 ――空に浮かんでいたソフィが、自分を見た後に笑みを浮かべて去っていった。

 どうやら自分のメッセージを正確に理解して頷いてくれたのだろうと思い、エルシスは嬉しそうにする。

「ねぇ? 聞いてる?」

 ユファが何やら自分に話しかけているのに気づいたエルシスは、慌ててユファの方を見る。

「ごめん。ちょっと呆けていたみたいだ、何?」

「もう! シスにちゃんと意識を戻せるのかって聞いたのよ!」

 ぷりぷりと怒っているユファを見て可笑しさを感じて、失礼ながらも笑ってしまうエルシスだった。

「ふっ」

 そしてそんな二人のやり取りを見ていた、リディアも静かに笑う。

「何がおかしいのよ!」

 ユファはリディアの頭にチョップを振り下ろすが、すっと身体を後ろに反らして避ける。

「あっ、こら、避けるな! あんたには色々と、言いたい事もあるんだからね!」

 更に追撃をしようとするユファだが、その全ての攻撃を華麗に避けきるリディアだった。

 バックステップをしながら避け続けるリディアに一撃入れようと、ユファは追いかけて行った。その二人の様子を眺めながら、エルシスは憂いの表情を浮かべる。

(今度こそ本当に君の願望は叶えてあげるよ。ボク自身がとはもう言えなくなったけど。きっとあの子はボクより

 新たな目標と決意を手にしたエルシスは、心の中でそう呟く。
 そしてエルシスは自分と同じ身体を共有している『』に向けても言葉を向ける。

(……だからほんの少しだけ、ボクに君の時間をわけてくれないかな?)

 実際に言葉として返事が返ってくるわけではなかったが『彼女シス』が『いいよ』と笑って言っている姿が脳内に感じられたエルシスだった。

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