最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第541話 打ち明ける事柄と忠告
ソフィ達は先程の職員の男に案内された裏口から階段を昇り、冒険者ギルドの二階へと上がった。
「一番手前の部屋だと言っていたな?」
「ええ。昔は一階の窓口の奥が『ディラック』の居るギルド長の部屋だったのにね」
小さな辺境の町にある弱小ギルドだった頃の冒険者ギルドからは、もう全く想像できない程に大きく改装された『グラン』のギルドであった。
ソフィはディラックの居ると教えられた一番手前の部屋をノックする。
「ああ、どうぞ」
すぐに中から懐かしい『ディラック』の声で返事が返ってきた。
「うむ。失礼するぞ?」
ソフィはディラックの声に応えるように口を開きながら、そっと部屋の扉をあける。
「久しぶりだな、ソフィ君!」
「『レイズ』の冒険者ギルドの設立の一件以来だな。ディラックよ、元気をしていたか?」
ディラックは椅子から立ち上がり、ソフィの前まで出向いて手を伸ばして握手を求めてきた。ソフィはそのディラックの手を握り握手を交わすのだった。やがて座るように促されたソフィ達は、ディラックと向い合せに座るのだった。
「それにしても驚いたぞ? このギルドも前に来た時とはだいぶ変わったな」
ソフィがこのギルドに所属した頃は、ギルド対抗戦でも常に予選で敗北する程の弱小ぶりだった。勲章ランクAや少なくともBのランクが多く参加する『ギルド対抗戦』であっても、この『グラン』は勲章ランクAどころか、Bすらもあまり居なかったのだから、昔を知る者であれば今のグランの盛況ぶりは信じられないものだろう。
「ふふ。全て君のお陰だよ。君があの時このグランのギルドに所属してくれなければ、今も変わらずに弱小ギルドのままだっただろう。君にギルドに所属してもらって本当に感謝しているよ!」
「クックック。我が冒険者ギルドに入ろうかと思ったのは、レグランの実の代金を稼ごうと思ったからだ。礼を言うのであれば『レグランの実』を売っていた露店のおやじに感謝するのだな」
「ははは! その露店の店主を教えておいてくれ。今度謝礼を送らねばならないからな」
「クックック!」
――冗談を交えてつつ、談笑を続けるソフィ達であった。
そして話は近況のギルドの事や、ヴェルマー支部の冒険者ギルドの今後の展望等に移っていった。
「……という事で今後は『ヴェルマー』大陸の冒険者ギルド支部も数を増やしていきたいと思っているのだが、ソフィ君にも『三大魔国』以外の近隣諸国に冒険者ギルドを設立出来るように、君に力添えを頼めないだろうか?」
「それなんだがな。すまぬが断らせてもらう。当分は我も力になれそうにないのだ」
「そ、そうなのか。理由を聞かせてもらっても?」
二つ返事で首を縦に振ってくれるとまでは言わないが、こうしてあっさりと断られるとは『ディラック』も思ってはいなかったようだった。
ちらりとソフィは隣に居るリーネの顔を見る。
リーネはソフィが真実を語りたがっている事を察して、コクリと頷くのだった。
「ディラックにはまだ伝えてなかったかもしれぬが、我は元々この世界の存在ではないのだ」
「は?」
ソフィは自分がこの『リラリオ』の世界の存在ではなく『アレルバレル』という世界からきた大魔王だという事を説明するのだった。
最初は何の冗談だと言う顔をしていたディラックだったが、ソフィの話す内容は納得するだけの真実味があった。
「ち、違う世界からきた大魔王……? な、なるほど……! ど、道理でソフィ君がこれだけ強いわけだ。むしろ信じるなという方が、無理があるかもしれないな。だ、大魔王か……。だ、大魔王!?」
ソフィの強さを考えれば確かに魔族だという話は理解出来たディラックだが、別世界の大魔王という言葉だけはどうもしっくりとはこなかったようで、何度も大魔王と呟いては驚いていた。
「元の世界へ戻る方法がなかった頃はもう、この世界で骨をうずめる覚悟だったのだがな。帰る方法が見つかった今はやるべき事を先にしなくてはならぬ」
「君が別世界でも『王』の立場であったのであれば、確かに統治を放っておくわけにもいかぬのだろうな……。いやはやスケールが大きすぎて、少し想像が追い付かないのだが、確かにこういった事情を聞かされては、流石に仕方がない事なのだろう、という事は理解が出来たよ。ソフィ君」
全ての事情を聞かされたディラックは、神妙な顔をしながら、ゆっくりと頷くのだった。
「すまぬな。こちらの世界のヴェルマー大陸の『ラルグ』魔国の王の一件は、前回の後任を決める会議で『レイズ』魔国のギルド長を務めていた『レルバノン』が国王として就く事になる。冒険者ギルド長であった奴の事だ。何か冒険者ギルドで大事なことを決めるというのであれば、お主にも都合がいいだろう。我も今回の件はレルバノンに話を通しておく」
「す、すまないなソフィ君。君の事情をよくも知らないというのに、勝手に話を進めてしまって……」
「何を言うか。我はお主にも世話になった。今もとても感謝しておるのだ」
「……ありがとう」
ソフィの言葉にディラックは申し訳なさそうな表情から一転して、嬉しそうな表情へと変わっていった。
そしてそれからはソフィがこの大陸を離れてからの話で盛り上がるのだった。
…………
「さて、ではそろそろ我らは行かせてもらうとしようか」
ソフィがそう言って立ち上がると隣に居たリーネも立ち上がる。
「久々に会えて嬉しかったよソフィ君。またいつでも顔を見せに来てくれよ?」
「我も久しぶりに話せて楽しかった。おっと忘れるところだった」
「ん?」
「このギルドの前で整理券を配っていた優秀そうな職員と、さっき話をする機会があったのだがな。ここをやめて田舎へ帰ろうとしていたぞ。目先の事に囚われすぎて大事な人材を失う事のないようにな?」
ソフィは先程の職員の事もそうだが、謙虚さを損なえば大事なものも失う事になると暗にディラックへと伝えるのだった。
「そ、それは……。心配かけてすまない。肝に銘じよう」
ソフィの言葉の意味を理解したディラックは、気を引き締め直す。
そのディラックの顔を数秒程眺めていたソフィは、ようやく笑顔になるのだった。
「うむ。そうしてくれ。それではな?」
「私も失礼しますね」
ソフィとリーネはその言葉を最後に部屋を出ていくのだった。
「ありがとうソフィ君。どうやら私は少し天狗になっていたようだった。どれだけギルドが大きくなっても初心の気持ちを忘れては意味がない……!」
ギルドが大きくなり人が集まった事でディラックは、気が大きくなっていた事を反省して、今後は『自重の心』を心掛けようと固く決心をするのであった。
……
……
……
「一番手前の部屋だと言っていたな?」
「ええ。昔は一階の窓口の奥が『ディラック』の居るギルド長の部屋だったのにね」
小さな辺境の町にある弱小ギルドだった頃の冒険者ギルドからは、もう全く想像できない程に大きく改装された『グラン』のギルドであった。
ソフィはディラックの居ると教えられた一番手前の部屋をノックする。
「ああ、どうぞ」
すぐに中から懐かしい『ディラック』の声で返事が返ってきた。
「うむ。失礼するぞ?」
ソフィはディラックの声に応えるように口を開きながら、そっと部屋の扉をあける。
「久しぶりだな、ソフィ君!」
「『レイズ』の冒険者ギルドの設立の一件以来だな。ディラックよ、元気をしていたか?」
ディラックは椅子から立ち上がり、ソフィの前まで出向いて手を伸ばして握手を求めてきた。ソフィはそのディラックの手を握り握手を交わすのだった。やがて座るように促されたソフィ達は、ディラックと向い合せに座るのだった。
「それにしても驚いたぞ? このギルドも前に来た時とはだいぶ変わったな」
ソフィがこのギルドに所属した頃は、ギルド対抗戦でも常に予選で敗北する程の弱小ぶりだった。勲章ランクAや少なくともBのランクが多く参加する『ギルド対抗戦』であっても、この『グラン』は勲章ランクAどころか、Bすらもあまり居なかったのだから、昔を知る者であれば今のグランの盛況ぶりは信じられないものだろう。
「ふふ。全て君のお陰だよ。君があの時このグランのギルドに所属してくれなければ、今も変わらずに弱小ギルドのままだっただろう。君にギルドに所属してもらって本当に感謝しているよ!」
「クックック。我が冒険者ギルドに入ろうかと思ったのは、レグランの実の代金を稼ごうと思ったからだ。礼を言うのであれば『レグランの実』を売っていた露店のおやじに感謝するのだな」
「ははは! その露店の店主を教えておいてくれ。今度謝礼を送らねばならないからな」
「クックック!」
――冗談を交えてつつ、談笑を続けるソフィ達であった。
そして話は近況のギルドの事や、ヴェルマー支部の冒険者ギルドの今後の展望等に移っていった。
「……という事で今後は『ヴェルマー』大陸の冒険者ギルド支部も数を増やしていきたいと思っているのだが、ソフィ君にも『三大魔国』以外の近隣諸国に冒険者ギルドを設立出来るように、君に力添えを頼めないだろうか?」
「それなんだがな。すまぬが断らせてもらう。当分は我も力になれそうにないのだ」
「そ、そうなのか。理由を聞かせてもらっても?」
二つ返事で首を縦に振ってくれるとまでは言わないが、こうしてあっさりと断られるとは『ディラック』も思ってはいなかったようだった。
ちらりとソフィは隣に居るリーネの顔を見る。
リーネはソフィが真実を語りたがっている事を察して、コクリと頷くのだった。
「ディラックにはまだ伝えてなかったかもしれぬが、我は元々この世界の存在ではないのだ」
「は?」
ソフィは自分がこの『リラリオ』の世界の存在ではなく『アレルバレル』という世界からきた大魔王だという事を説明するのだった。
最初は何の冗談だと言う顔をしていたディラックだったが、ソフィの話す内容は納得するだけの真実味があった。
「ち、違う世界からきた大魔王……? な、なるほど……! ど、道理でソフィ君がこれだけ強いわけだ。むしろ信じるなという方が、無理があるかもしれないな。だ、大魔王か……。だ、大魔王!?」
ソフィの強さを考えれば確かに魔族だという話は理解出来たディラックだが、別世界の大魔王という言葉だけはどうもしっくりとはこなかったようで、何度も大魔王と呟いては驚いていた。
「元の世界へ戻る方法がなかった頃はもう、この世界で骨をうずめる覚悟だったのだがな。帰る方法が見つかった今はやるべき事を先にしなくてはならぬ」
「君が別世界でも『王』の立場であったのであれば、確かに統治を放っておくわけにもいかぬのだろうな……。いやはやスケールが大きすぎて、少し想像が追い付かないのだが、確かにこういった事情を聞かされては、流石に仕方がない事なのだろう、という事は理解が出来たよ。ソフィ君」
全ての事情を聞かされたディラックは、神妙な顔をしながら、ゆっくりと頷くのだった。
「すまぬな。こちらの世界のヴェルマー大陸の『ラルグ』魔国の王の一件は、前回の後任を決める会議で『レイズ』魔国のギルド長を務めていた『レルバノン』が国王として就く事になる。冒険者ギルド長であった奴の事だ。何か冒険者ギルドで大事なことを決めるというのであれば、お主にも都合がいいだろう。我も今回の件はレルバノンに話を通しておく」
「す、すまないなソフィ君。君の事情をよくも知らないというのに、勝手に話を進めてしまって……」
「何を言うか。我はお主にも世話になった。今もとても感謝しておるのだ」
「……ありがとう」
ソフィの言葉にディラックは申し訳なさそうな表情から一転して、嬉しそうな表情へと変わっていった。
そしてそれからはソフィがこの大陸を離れてからの話で盛り上がるのだった。
…………
「さて、ではそろそろ我らは行かせてもらうとしようか」
ソフィがそう言って立ち上がると隣に居たリーネも立ち上がる。
「久々に会えて嬉しかったよソフィ君。またいつでも顔を見せに来てくれよ?」
「我も久しぶりに話せて楽しかった。おっと忘れるところだった」
「ん?」
「このギルドの前で整理券を配っていた優秀そうな職員と、さっき話をする機会があったのだがな。ここをやめて田舎へ帰ろうとしていたぞ。目先の事に囚われすぎて大事な人材を失う事のないようにな?」
ソフィは先程の職員の事もそうだが、謙虚さを損なえば大事なものも失う事になると暗にディラックへと伝えるのだった。
「そ、それは……。心配かけてすまない。肝に銘じよう」
ソフィの言葉の意味を理解したディラックは、気を引き締め直す。
そのディラックの顔を数秒程眺めていたソフィは、ようやく笑顔になるのだった。
「うむ。そうしてくれ。それではな?」
「私も失礼しますね」
ソフィとリーネはその言葉を最後に部屋を出ていくのだった。
「ありがとうソフィ君。どうやら私は少し天狗になっていたようだった。どれだけギルドが大きくなっても初心の気持ちを忘れては意味がない……!」
ギルドが大きくなり人が集まった事でディラックは、気が大きくなっていた事を反省して、今後は『自重の心』を心掛けようと固く決心をするのであった。
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