最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第537話 見慣れない門

「ではソフィ様。お戻りになられる時は直ぐにお知らせください」

「うむ。お主も久しぶりに仲間と会うのだから、こちらを忘れてゆっくりするがよい」

 ソフィがそう言うと、嬉しそうにベアは頭を下げる。

 ここは『ミールガルド』大陸の『グラン』の町が近くにある『ベア』が、縄張りとしていた森の中である。

 昨晩リーネが『グラン』の景色を見たいという言葉から、ミールガルド大陸に来たソフィ達であった。元々二人で行くつもりだったが、そこでリーネはベアの居た森の事を思い出して、それならば縄張りとしていた森へ、ベアを連れていこうと提案したのであった。

 アウルベアの同胞達は『ベア』と一緒に森を離れたが、他種族のベアの配下達だった魔物達は、そのまま森に残っていた為、久しぶりにベアは会える事となったのだった。

 最初はソフィ達もベアの仲間達と戯れていたが、やがてリーネと町へ向かう事となり、その間ベアは森に残るという事になったのである。

 ソフィとリーネがグランの方へ向かうのをベア達は、背後から手を振りながら見送る。

「やっぱりベアを連れてきて正解だったね」

「うむ。やはりだな」

 この森に着いた瞬間にベアの匂いを嗅ぎ取った他の縄張りの仲間の魔物達が、直ぐにベアの元に集まってきたのである。最初は少し照れた様子だったベアだが、最後の方は、をしていたのが印象的だった。

「あ! 見てみてソフィ! 懐かしいなぁっ!」

 森の出口が近づき少しずつグランの建物が森からも見えてきた。リーネも懐かしいと呟きながら、嬉しそうだった。

「むっ! 少し待てリーネよ。この町にあのような門があったか?」

 ベアの森からグランの町付近まで歩いてくると、昔来た時には見覚えの無い大きな門があり、その門を守る人間が複数人立っていた。

「確かに……。昔に私が住んでいた時にはなかった筈よ」

 もう少し近くで見てみようとソフィ達が門に近寄ると、こちらの存在に気づいた門の周りに居た人間達が、険しい表情をしながら近づいてきた。

「そこの二人組止まりなさい。君達は冒険者……ではないか。その割には幼すぎるな」

 リーネと10歳くらいの全身ローブで包まれた子供の二人を見比べながら、門番は口に手を当てながらつぶやく。

「いえ、私達はその冒険者よ。信じられないなら『冒険者証ライセンス』を見せましょうか?」

「え? あ、ああ……。持っているのなら直ぐに見せなさい」

 リーネはそう言うと門番が頷いた。

「はい。どーぞ」

 リーネは半ばこの後の門番達の反応を予測しながら、素直に『冒険者証ライセンス』を手渡すのだった。

 そして案の定、門番は手渡された『リーネ』の冒険者証ライセンスを見て目を丸くして驚くのだった。

「ぼ、冒険者ランクA!?」

 手に持った冒険者証ライセンスと、リーネの顔を見比べながら驚いた様子を見せる門番だった。

「う、嘘だろ……」

「偽造じゃないのか?」

 失礼な事を宣う門番に少し眉を寄せるリーネだが、黙って成り行きを見守っていると、再び門番が口を開いてきた。

「そっちの君も冒険者証ライセンスを持っているのか?」

 リーネの冒険者証ライセンスで十分身元の確認が出来る為、本来は必要のない確認だったが、リーネと同じパーティを組んでいると思われる少年が気になったのだろう。隣に居た別の門番が、ソフィにも冒険者証ライセンスを提示させようとしてくるのだった。

「うむ。これでよいか?」

 ソフィはそう言うとすぐに見せる準備をしていた、自分の冒険者証ライセンスを取り出して見せた。クッケの街に入る時に直ぐに提示出来なかった事を気にしていたソフィは、今回すぐに出せた事で少し誇らしそうな顔を見せるのだった。

「こ、こっちも勲章ランクB……、うぉっ!?」

「ど、どうした?」

「な、な、名前を、み、見てみろ!」

「そんなに驚く事はないだろ? お前は大袈裟だな……。 異名持ちの冒険者だったのか? えーっと、なになに……? え、そ、ソフィ? 『破壊神』ソフィ!?」

「「「破壊神ソフィ!?」」」

 『グラン』の門番達はリーネの時とは比べ物にならない大声をハモらせる。そして門番の一人が、ローブに包まれたソフィの顔を見ようとしてきた為、ソフィはフードを外して素顔を晒す。

「う、うわー!! 本物の破壊神だ!」

「英雄ソフィ!? は、初めてみた!」

「お、おい! 何をしている!! は、はやく冒険者ギルドに伝えに行け!」

 その場で余りの驚きで口早に騒ぎ立てる門番達に、リーネが溜息を吐いた。

「待って。私達はゆっくりと町を見て歩きたいの。騒ぎを起こさないでくれないかしら」

「クックック。騒ぎを止めるのが、お主達の仕事だろう? 自分達が騒ぎを起こしてどうするのだ」

 二人に窘められて舞い上がっていた門番たちは、顔を赤くして頭を下げてきた。

「す、すみません。つ、つい……」

「俺達『破壊神』に……。あ、貴方に憧れて『ルードリヒ』領から『ケビン』領の『グラン』まで来たんですよ」

「そ、そうなんですぅ……! ま、まさか本物に会えるなんて……、ぐすっ……。か、母ちゃんに直ぐに伝えないと……」

 最初は全員が驚いていた様子だったが、目をキラキラさせている者に、涙を流して喜ぶ者と、各々が思い思いの感情を表に出し始めるのだった。

「そ、そうか。それは光栄な事だが、そろそろ我達を町の中へ入れてくれぬだろうか?」

 ソフィがそう言うと慌てて門番たちは門を開ける。

「す、すみませんでした! ど、どうぞお入りください!」

「待ってください! あ、握手をお願いできませんか!」

 ソフィは門番一人一人に握手をしてやると、門番たちは感動の声をあげる。背後で門番たちが、などと口にしているのをききながら、ようやくソフィ達は『グラン』の町へ入るのだった。

 ……
 ……
 ……

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