最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第502話 ソフィの成長
「ありがとうございました」
ラルフは今日の修練を終えた後、研鑽に付き合ってくれた師である『ユファ』に挨拶をする。
リーシャに『殺意』の視線の重要性について聞いた日から数日が過ぎ、ラルフは実戦中に『殺気』を織り交ぜて戦うようになり、確かに戦うでやりづらい相手になったとユファも感じていた。
「ええ。動き自体も良くなってきているし、今度やるときは私ともう一度実戦形式をやりましょうか」
「はい。宜しくお願いします」
…………
ユファはラルフを見送った後、実戦でどう立ち回ろうかと考えていたが、そこで背後から声を掛けられた。
「ラルフの修行は順調か?」
声の主はローブを纏った若い少年の姿をしたソフィだった。
「ソフィ様? お久しぶりです!」
ユファはそう言って、ソフィに頭を下げて挨拶をする。
「彼はよく頑張っていますよ。確実に前より強くなっていますし、もう私の『代替身体』程度であればいくら策を張り巡らせても、勝てないくらいですよ」
ユファの『代替身体』時の姿である『ヴェルトマー』は『最上位魔族』領域ではあるが、現在は『梗桎梏病』を患ってはいない為に自由に本来の魔力を使える。それを加味しても『ラルフ』にはもう勝てないだろう。
「しかしそれでも『リディア』が相手では、正直まだまだ難しいところですね」
ユファは剣士リディアがそこらにいる魔王程度ではない事を知っているし、前回の戦いでは、彼女自身がリディアの事を今の内に殺そうと本気になる程だった事を踏まえると、今のラルフではまだリディアに勝つのは、難しいだろうと判断していた。
「そうか。しかしあやつは『金色のオーラ』自体を纏ったのは最近のようだが、二刀の具現化はすでに『金色の体現』からきておったのだろうしな。簡単には勝てぬ相手でないことは確かだが、そこまで焦る事はないと我は思う」
ソフィと出会ってから『リディア』も『ラルフ』も僅かな期間だというのに、急成長を果たしている。この『リラリオ』の世界で考えれば、すでに驚く程の実力者である。
ソフィは今後のラルフ達の展望を考えて、今の差などはそこまで大した事ではないと考えていた。
一番やってはいけない事は、目先の差を考えて腐り諦める事。
重要なのは自分を信じて更なる強さへ自らを昇華させる事である。
「しかし『金色の体現』を果たしているリディアに、ラルフが追い付けるのでしょうか?」
ユファのその質問は『リディア』に対する『ラルフ』の事を想ってではなく、自身もまた『金色の体現者』では無い事からくる不安を現す考えからくるものだった。
「その結論の前に過程を話す事になるがなユファよ、人間や魔族に拘らず必ず何処かで強さの限界というのは訪れる。しかし真にその限界まで達する者は少ないのだ」
ユファはソフィの話に、相槌を打たずに耳を傾ける。
「本来は『紅』や『青』。それに『二色の併用』といった『力』を纏う理由は、成長の限界まで達した者が、更なる力を得る為に有るモノだった」
そう言うとソフィは左手を前に出した後、その手にオーラを込め始める。
「しかしな。いつからかそういった成長の限界を達した者が纏うオーラを、そこまで辿り着いていない者。つまり限界まで達していない者が真似をし始めてしまったのだ。確かにその力に目覚めてしまえば簡単に自分の力を飛躍的に伸ばす事が出来る為に、便利なその力に頼ってしまうのも無理はあるまい……」
ソフィの左手は、紅から青へと色を変えていく。
「『紅』や『青』の練度の上限まであげてしまえば、確かに元々の力に比例して非常に強力な力を得る事だろう。しかし元々の力の限界まで達する事が、出来なければ本末転倒なのだ」
そして『紅』と『青』の『二色』が交わっていく。
「今の魔族の多くは基本値となるその者が持つ力の限界まで達することは珍しく、安易に多大な力を得る事の出来る『オーラ』に頼って戦場に出る。そして限界まで強くなる前に、命を落とす者が多いのだ」
ソフィの左手からオーラの力が弱まっていく。
「ここで先程のお主の質問の答えだが、リディアとラルフの双方が限界まで力を伸ばす事が出来たと仮定した場合では『金色の体現者』であるリディアには、ラルフは勝てぬだろうな」
ソフィの左手から一度オーラが消えたかと思えば次の瞬間。辺りを眩く照らす程の『金色』が具現化された。
「しかしだ。ラルフの強さの限界というモノがもし『リディア』の限界値を上回っているならば、いくらリディアが『金色のオーラ』を纏っておったとしても、元々の力の差でラルフが勝る場合もある」
「つまり重要なのは『金色』を纏える事ではなく、個々が持つ力の限界に近づけた者が勝つだろうとソフィ様は仰るのですね?」
「元々の戦力値の限界が1万程度しかない者が、金色を纏えば戦力値は10万にはなる。だが、元々の戦力値の限界が7万程でもあれば『青』の練度が1.5程しかなくとも『金色の体現者』をあっさりと抜き去る事も可能なのだ」
――ソフィの言いたい事をユファは理解する。
つまり金色を纏えるとかオーラの練度に差があるから勝てないと諦めるのではなく、そう言った心配は自身の力の限界まで高めてこれ以上の成長が見込めないと判断した暁に、苦悩すれば良いと告げているのである。
「まだリディアもラルフも若すぎる程の年齢であり、二人はまだまだこれからも更に強くなれる。あやつらの強さの天井が何処までなのか、それすらも分からぬ今の状態でそんな心配をしてもまるで意味はないという事だ」
ソフィはそこまでユファに話をすると、ふと彼の友人エルシスが過去に嘆いていた言葉を思い出すのだった。
「自分の成長の限界を確かめられる相手に出会わなければ、その限界に気付けないか。まさしくその通りだ……」
ユファは、ソフィの目が信じられない程に儚げで悲しそうになったのを見るのだった。
(……我はもう限界まで来ただろうか?)
ユファが何かを察して泣きそうになりながら、ソフィを見て案じているのに気づかず、ソフィは自問自答をしながらこれまで生きてきた、長い生涯を振り返るのだった。
少し前に戦った『ハワード』という魔族は、数多の世界を支配する程の『大魔王』であったらしいが『金色』を纏う『ハワード』を相手に、ソフィは第二形態のままで勝利を得てしまった。
『力の魔神』を相手にした時は第二形態から第三形態へと変身を遂げて『金色』を纏いはしたが、それでもソフィはまだ『三色併用』や、更に上の形態を見せずともあっさりと勝利をものにしてしまった。
ソフィはこの先に自分の力の限界を知る事はないのだろうかと久しく忘れていた『孤独感』を思い出すのだった。
そしてかつてエルシスが恐れた『指標の無き成長』をソフィは数千年経った現在にしてその身に味わう事となった。
――最強の大魔王はまだ『限界』を迎えてはいない。
自身の『限界』を知らないソフィは『レパート』の世界の『理』を研鑽し始めた事で魔力が更に増して強くなっているという事を知る由もなかった。
ラルフは今日の修練を終えた後、研鑽に付き合ってくれた師である『ユファ』に挨拶をする。
リーシャに『殺意』の視線の重要性について聞いた日から数日が過ぎ、ラルフは実戦中に『殺気』を織り交ぜて戦うようになり、確かに戦うでやりづらい相手になったとユファも感じていた。
「ええ。動き自体も良くなってきているし、今度やるときは私ともう一度実戦形式をやりましょうか」
「はい。宜しくお願いします」
…………
ユファはラルフを見送った後、実戦でどう立ち回ろうかと考えていたが、そこで背後から声を掛けられた。
「ラルフの修行は順調か?」
声の主はローブを纏った若い少年の姿をしたソフィだった。
「ソフィ様? お久しぶりです!」
ユファはそう言って、ソフィに頭を下げて挨拶をする。
「彼はよく頑張っていますよ。確実に前より強くなっていますし、もう私の『代替身体』程度であればいくら策を張り巡らせても、勝てないくらいですよ」
ユファの『代替身体』時の姿である『ヴェルトマー』は『最上位魔族』領域ではあるが、現在は『梗桎梏病』を患ってはいない為に自由に本来の魔力を使える。それを加味しても『ラルフ』にはもう勝てないだろう。
「しかしそれでも『リディア』が相手では、正直まだまだ難しいところですね」
ユファは剣士リディアがそこらにいる魔王程度ではない事を知っているし、前回の戦いでは、彼女自身がリディアの事を今の内に殺そうと本気になる程だった事を踏まえると、今のラルフではまだリディアに勝つのは、難しいだろうと判断していた。
「そうか。しかしあやつは『金色のオーラ』自体を纏ったのは最近のようだが、二刀の具現化はすでに『金色の体現』からきておったのだろうしな。簡単には勝てぬ相手でないことは確かだが、そこまで焦る事はないと我は思う」
ソフィと出会ってから『リディア』も『ラルフ』も僅かな期間だというのに、急成長を果たしている。この『リラリオ』の世界で考えれば、すでに驚く程の実力者である。
ソフィは今後のラルフ達の展望を考えて、今の差などはそこまで大した事ではないと考えていた。
一番やってはいけない事は、目先の差を考えて腐り諦める事。
重要なのは自分を信じて更なる強さへ自らを昇華させる事である。
「しかし『金色の体現』を果たしているリディアに、ラルフが追い付けるのでしょうか?」
ユファのその質問は『リディア』に対する『ラルフ』の事を想ってではなく、自身もまた『金色の体現者』では無い事からくる不安を現す考えからくるものだった。
「その結論の前に過程を話す事になるがなユファよ、人間や魔族に拘らず必ず何処かで強さの限界というのは訪れる。しかし真にその限界まで達する者は少ないのだ」
ユファはソフィの話に、相槌を打たずに耳を傾ける。
「本来は『紅』や『青』。それに『二色の併用』といった『力』を纏う理由は、成長の限界まで達した者が、更なる力を得る為に有るモノだった」
そう言うとソフィは左手を前に出した後、その手にオーラを込め始める。
「しかしな。いつからかそういった成長の限界を達した者が纏うオーラを、そこまで辿り着いていない者。つまり限界まで達していない者が真似をし始めてしまったのだ。確かにその力に目覚めてしまえば簡単に自分の力を飛躍的に伸ばす事が出来る為に、便利なその力に頼ってしまうのも無理はあるまい……」
ソフィの左手は、紅から青へと色を変えていく。
「『紅』や『青』の練度の上限まであげてしまえば、確かに元々の力に比例して非常に強力な力を得る事だろう。しかし元々の力の限界まで達する事が、出来なければ本末転倒なのだ」
そして『紅』と『青』の『二色』が交わっていく。
「今の魔族の多くは基本値となるその者が持つ力の限界まで達することは珍しく、安易に多大な力を得る事の出来る『オーラ』に頼って戦場に出る。そして限界まで強くなる前に、命を落とす者が多いのだ」
ソフィの左手からオーラの力が弱まっていく。
「ここで先程のお主の質問の答えだが、リディアとラルフの双方が限界まで力を伸ばす事が出来たと仮定した場合では『金色の体現者』であるリディアには、ラルフは勝てぬだろうな」
ソフィの左手から一度オーラが消えたかと思えば次の瞬間。辺りを眩く照らす程の『金色』が具現化された。
「しかしだ。ラルフの強さの限界というモノがもし『リディア』の限界値を上回っているならば、いくらリディアが『金色のオーラ』を纏っておったとしても、元々の力の差でラルフが勝る場合もある」
「つまり重要なのは『金色』を纏える事ではなく、個々が持つ力の限界に近づけた者が勝つだろうとソフィ様は仰るのですね?」
「元々の戦力値の限界が1万程度しかない者が、金色を纏えば戦力値は10万にはなる。だが、元々の戦力値の限界が7万程でもあれば『青』の練度が1.5程しかなくとも『金色の体現者』をあっさりと抜き去る事も可能なのだ」
――ソフィの言いたい事をユファは理解する。
つまり金色を纏えるとかオーラの練度に差があるから勝てないと諦めるのではなく、そう言った心配は自身の力の限界まで高めてこれ以上の成長が見込めないと判断した暁に、苦悩すれば良いと告げているのである。
「まだリディアもラルフも若すぎる程の年齢であり、二人はまだまだこれからも更に強くなれる。あやつらの強さの天井が何処までなのか、それすらも分からぬ今の状態でそんな心配をしてもまるで意味はないという事だ」
ソフィはそこまでユファに話をすると、ふと彼の友人エルシスが過去に嘆いていた言葉を思い出すのだった。
「自分の成長の限界を確かめられる相手に出会わなければ、その限界に気付けないか。まさしくその通りだ……」
ユファは、ソフィの目が信じられない程に儚げで悲しそうになったのを見るのだった。
(……我はもう限界まで来ただろうか?)
ユファが何かを察して泣きそうになりながら、ソフィを見て案じているのに気づかず、ソフィは自問自答をしながらこれまで生きてきた、長い生涯を振り返るのだった。
少し前に戦った『ハワード』という魔族は、数多の世界を支配する程の『大魔王』であったらしいが『金色』を纏う『ハワード』を相手に、ソフィは第二形態のままで勝利を得てしまった。
『力の魔神』を相手にした時は第二形態から第三形態へと変身を遂げて『金色』を纏いはしたが、それでもソフィはまだ『三色併用』や、更に上の形態を見せずともあっさりと勝利をものにしてしまった。
ソフィはこの先に自分の力の限界を知る事はないのだろうかと久しく忘れていた『孤独感』を思い出すのだった。
そしてかつてエルシスが恐れた『指標の無き成長』をソフィは数千年経った現在にしてその身に味わう事となった。
――最強の大魔王はまだ『限界』を迎えてはいない。
自身の『限界』を知らないソフィは『レパート』の世界の『理』を研鑽し始めた事で魔力が更に増して強くなっているという事を知る由もなかった。
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