第497話　リーネの返事

　屋敷の庭でベアにもたれ掛かって昼寝をしていたソフィは、日差しの強さにゆっくりと目を覚ますのだった。

「いつの間にか我は眠っていたか。ベア？」

「……」

　そこにはソフィにしがみつくように、後ろから抱いて寝ているベアが居た。
　ソフィがレパートの『理ことわり』の研鑽を終えた後、そのまま眠りに落ちたソフィを風邪をひかぬようにとベアがソフィを抱いていたのだった。

「貴方が寝ていた後、ずっとベアはそうしていたわよ？」

　ソフィが声をする方を向くとそこには笑みを浮かべたリーネが、庭に備え付けてある椅子に座ってこちらを見ていた。

「そうか。しかし今度はベアが熟睡しているようだな」

　クックッとソフィが笑いながら、ベア抱き抱えられている状態から抜け出す。

「紅茶でも淹れましょうか？」

「うむ、頼む」

　そう言うとリーネは頷いて庭にある椅子から立ち上がった。
　現在ソフィの屋敷にはリーネの兄である『スイレン』が作っていった、木で出来た椅子やテーブルが置かれている。モノづくりが好きなスイレンがこの屋敷に居た頃に作っていったものだった。

「はい、どうぞ」

　それから少しして紅茶を二人分淹れてきてくれた『リーネ』からカップを受け取る。

「すまぬな」

　ソフィが紅茶を飲み始めた頃を見計らいリーネは口を開く。

「ねぇ、ソフィ」

「……？」

「いつ頃に『アレルバレル』の世界に戻ろうと思っているの？」

　唐突なリーネの言葉だったが、別にベアとの会話を聞いていたという訳ではなく、元々この事を話そうと考えていたのだろう。

　ミールガルド大陸からヴェルマー大陸へ向かう時、リーネが同じような表情をしていたのをソフィは思い出した。

「やり残した事はまだまだ多い。この国の事や組織の事。それにリディアの事もあるしな」

「……」

「それらが全て片付いた後、我は戻ろうと思っておるよ。」

「そっか……」

　会話はそこで止まり、互いに紅茶を飲みながらそして互いを見つめ合う。やがてソフィは静かに口を開いた。

「……リーネよ今・後・の・生・涯・を・我・に・捧・げ・、妃・と・し・て・ア・レ・ル・バ・レ・ル・に・来・て・欲・し・い・」

　その言葉にリーネは驚かずにゆっくりと、紅茶を飲み干した後に言葉を返した。

「しょうがないなあ。お姉さんが『貴・方・に・つ・い・て・い・っ・て・あ・げ・る・わ・よ・』」

　リーネは出会ったばかりの頃を思い出させるような言い回しをしながらも、ソフィのプロポーズに、とても嬉しそうな顔をするのだった。

「クックック。ついていってあげるときたか」

「ふふふ。私は貴方が魔王だからとか、最強の存在だとか関係なく接するつもりだから、覚悟しておきなさいね？」

「よかろう。我に生涯を捧げる覚悟を持ったお主にこの世で一番の幸福をくれてやろう」

「それは難しいかもね？　だって今が……。こ・れ・ま・で・生・き・て・き・た・中・で・、一・番・幸・せ・だ・も・の・」

　その言葉にソフィは立ち上がり、椅子に腰掛けたままのリーネの唇を奪うのだった。

　…………

　ベアは寝たふりをしながらこっそりと二人の様子を見て、遠い所から同じようにソフィ達を見守っていた『サーベル』や『ベイル』と共に陰ながら二人を祝福をするのだった。

　…………

　そしてソフィ達の様子を見ていたのはベアやサーベル達だけではなかった――。

「ほら見ろイリーガル！　俺の言った通りだっただろう？」

「まさかソフィ様が人間の女性に心を奪われるとはな」

「カッカッカ！　あのソフィが妃をとるか！　まさかワシが生きておる間に、こんな日を迎えるとは思わなかった」

「……あんな嬉しそうな顔をする親分は珍しい」

　イリーガルは主の顔を見て、自身も嬉しそうに顔を綻ばせるのだった。

「だが、分かっておるな？　リ・ー・ネ・『様・』がソ・フ・ィ・の・妃・となる以上、今後ワシらは死ぬ気で守らねばならぬぞ？」

「当然ですね。リーネ殿、いや……リ・ー・ネ・様・は『ア・レ・ル・バ・レ・ル・の・王・』の妃・なのですから」

「今後は俺の配下達を全てリ・ー・ネ・様・の護衛につけよう」

　こうしてリーネはソフィのプロポーズを受けて、生涯添い遂げる覚悟を持って、ソ・フ・ィ・の・妻・となるのだった――。