最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第448話 ソフィの放つ『理』違いの中位魔法

 シスの居るレイズ城最上部の部屋でユファに『ことわり』を教わってから数日が過ぎ、今日もまたソフィは『ことわり』の研鑽を始めていた。

 いつもと違うところはソフィ達の他にレアがついてきた事だろうか。
 ユファ達にレパートの『ことわり』を教わっていると言う事を聞いたレアは、何か手伝える事があればという気持ちで自らもソフィに願い出たのである。

 そして現在ソフィが『レパート』の『ことわり』を使いながら、発動している『魔法』は『中位魔法』である。

 ソフィは『中級魔法』と呼んでいたが、どうやら『リラリオ』や『レパート』の世界では『中位魔法』と呼んでいる者が多いらしく、それを利用して『ことわり』違いを分別する意味で、ソフィもまた、レパートの『ことわり』を使う場合の『中級魔法』を『中位魔法』と呼ぶようになった。

「いいですね。もう簡単な魔法であれば、私たちの世界の『ことわり』の魔法でも十分扱えています」

 ユファはそう言ってソフィの研鑽を褒めたたえるが、ソフィはあまり喜んではいなさそうだった。

「うーむ『ことわり』の基礎を理解したという意味では前進をしたのだし、喜ぶべきなのだろうがな。この程度の魔法は詠唱等必要もせずとも魔力を思い描いた形に変えるだけで扱える魔法であるからな『神域』位階の魔法で早く試してみたいところだな」

 『超越』位階魔法までなら『ことわり』が変わっていてもすぐに扱えるだろうとソフィも考えているが『神域』や『時魔法』といった高難度の魔法になってくると『ことわり』によって普段と違う微々たる『魔』の発動でさえ、難しくなってくるだろう。

 更にこれが『概念跳躍アルム・ノーティア』といった魔法になれば、慣れている『魔法』とは違って一から覚えないといけないために『理』を変えながら『魔』の本髄を見極めるのに相当な時間を要するだろうと睨んでいた。

 しかしこればかりは仕方のないことだった。

 ソフィのように膨大な魔力を持っていようが、長年『魔』を使った戦いの経験が豊富であったとしても世界が違う『ことわり』を覚えると言う事には、全く関係がないからである。

 そもそも別の世界の『ことわり』を覚えるという事自体が、通常では考えられない事であり、更には『概念跳躍アルム・ノーティア』は別世界の新魔法の部類であるため、大魔王フルーフや、大賢者エルシス。それにミラといった『魔法』を開発・改造が出来る者でもなければ、簡単に作り替える事が出来ないのだから全くのゼロから覚える他には無いのである。

 それこそこんな短期間で『中位魔法』とはいえ『ことわり』違いの魔法をここまで早く覚えられたソフィは流石の才能センスであった。

「では少し結界を張るぞ? お主達の世界の『ことわり』を使って、一度戦闘時の威力を試してみたい」

「分かりました『炎の連矢ファイアー・アロー』ですよね? 訓練人形の硬度と耐久度を最高まで上げますので、そちらで威力を確かめてみて下さい」

「うむ、出してくれ」

 そう言うとソフィは、魔力回路に魔力を供給した後に『炎の連矢ファイアー・アロー』を頭で連想する。

 そしてソフィは魔力回路から少しずつ魔力を全身に行き渡らせた後に詠唱を開始する。

「『炎よ敵を貫く矢へと姿を変え敵を滅せ』」。

 ――中位魔法、『炎の連矢ファイアー・アロー』。

 するとソフィの詠唱がのった『レパート』の『ことわり』の刻印を刻んだ魔法陣が、出現し始める。

 更にはソフィの迸る魔力が魔法に点火して、魔法陣は高速回転を始める。
 そして炎の矢が具現化されて真っすぐに『ユファ』の作り出した『訓練人形』に向かっていった。

 パァンッ! という空気が破裂するような音が鳴り響いた後、炎の矢は訓練人形を粉々に吹き飛ばしていき、それでも威力が消えずにソフィの張った『結界』と衝突し拮抗を始める。

「シス! レア! 私の後ろに!」

 ユファは慌ててシス達の盾となり、ソフィの放った『中位魔法』の魔力の余波から守る。

 キィイインという音と共に『ユファ』の目が『金色』になり、結界の外側から更に『ユファ』の結界が覆いかぶさる。

 ソフィの結界を見縊ったわけではないが、その目の前の迫力につい『ユファ』は動かされてしまった形である。

 やがてソフィの炎の矢は威力を失っていき、結界の内側で静かに消えた。

「すまぬな『青』も『金色』も使わなければ、詠唱を有しても構わぬだろうと思ったのだが、過剰に魔力を費やしてしまって予想以上の威力になってしまったようだ」

 本来のアレルバレルの『ことわり』では、威力を見紛う事は無いソフィだったが、どうやら別の世界の『ことわり』を用いた事で目算を少しばかり見誤ったようだった。

「いえ、ソフィ様の魔力につい体が動いてしまいました。しかしやはり凄まじい迫力ですよね。これで『中位魔法』だというのですから、これから先に扱われる『上位魔法』の対処に少し心配になりましたよ……」

 ユファは苦笑いを浮かべながらそう告げた。

 そして後ろにいるレアやシスも目を丸くして驚いていた。

(詠唱があるからって、こんなの『中位魔法』の規模じゃないわよぉ? 下手をすれば『中位魔法』で『』程度、粉々になってしまうわぁ)

 そしてレアは封印していたソフィとの戦いを行った過去の光景を思い出し、足をガクガクと震わせて怯えるのだった。

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