最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第443話 心配と苦悩

 ソフィ達が魔法で屋敷に戻ってきたことを感知した『ブラスト』が玄関の方へ顔を見せた。

「お帰りなさいソフィ様。リーネさん! ん? チビっ子に何かあったのですか?」

 ソフィに挨拶をしたブラストは、帰る前にはいなかった大勢の『ベイル・タイガー』達と、リーネに抱き抱えられているレアを見てそう尋ねた。

 少し遅れてキーリも玄関先の庭に顔を見せた。

「おかえりソフィ様! ってレア!?」

 ブラスト同様にソフィに挨拶をするキーリだったが、レアの姿を見て目を色変える。

「ど、どうしてレアが……!!」

 慌ててキーリは『リーネ』の手の中に居るレアの元まで向かってくる。

「キーリよ。すまぬがレアを寝かせてやりたいのだ。すぐに準備をしてもらえるか」

「あ……、ああ! 分かったぜ!」

 心配そうにレアの顔を見ていたキーリだったが、ソフィにそう言われて慌てて頷き、屋敷に戻っていった。

 ソフィはキーリの後ろ姿を見送った後、ラルグ魔国に駐屯させているベアや『ロード』達に『念話テレパシー』を送る。

(お主達聞こえておるか? 悪いがお主達に頼みたい事がある。ミールガルド大陸で見つけた魔物達を配下にしたのだがな。当分その管理をお主達に任せたい)

(ソフィ様? 分かりました!)

(そちらに直ぐに向かいます!)

 突然のソフィからの『念話テレパシー』に『ラルグ』魔国の警護をしていたベア達だったが、ソフィの言葉が何よりも優先されるため、それぞれ駐屯していた魔物達が『オーラ』を纏いながら全力でラルグ魔国からソフィの屋敷へと向かってくる。

(詳しい話は後で伝える。ひとまず今は丁重に面倒を見てやってくれ)

(御意!)

 ベア達の返事を聞いたソフィは、そこで『念話テレパシー』を切るのだった。

「……悪いがお主達はもう少しこの庭で休んでいてくれるか?」

「グルル!」(分かった!)

 ベイルがそう言うと他の『ベイル・タイガー』達も頷きながらその場で休み始めた。

 ソフィはそれを確認した後、屋敷の中へと入っていくのだった。

 ……
 ……
 ……

 屋敷の部屋にレアを運び寝かせた後、リビングに移動したソフィ達。
 ラルフがギルドに呼びに来た時ユファにも警護をと頼まれたため『念話テレパシー』でキーリにユファ達を頼んだが、そのユファの姿が見えない。

 どこに行ったかを尋ねようとするが、その前にキーリが口を開いた。

「ユファならレイズ魔国だぜソフィ様。今はレイズ城周辺の空に俺の配下達を駐屯させて護衛させてる」

「そうか、突然すまなかったな」

「あ、ああ……、それはいいんだけど、一体何があったんだ?」

 レアの命に別状はなかったために、キーリは先程よりはだいぶ落ち着きを取り戻してはいたが、それでもそわそわしている様子は、他人からも見て取れるのだった。

「うむ。我も襲ってきた者の事は、詳しくは分からぬがひとまず順を追って話すとしよう」

 …………

 ソフィはまずルードリヒ国王のエイルと出会った事や、そこで『ギルド指定Aランクの魔物の討伐依頼』を受けて『トータル』山脈に向かい討伐をする代わりに、ギルド指定の魔物をラルグ魔国へと連れていく事でクエストを達成した事を伝えた。

 そしてそのクエスト達成をギルドに報告しに行く間。魔物達をレアとラルフに頼んだが、そこでレア達は何者かに襲われてそこを通りがかったという人間が『レア』や『ベイル・タイガー』達を助けてくれたのだと余すことなく伝えるソフィだった。

「そ、そんな事が……!」

 レアの事が余程気がかりだったのだろう。キーリは事情を聞いている間、ずっとソフィの言葉に耳を傾けていた。

「しかしソフィ様。そのチビッ子を手に掛けたという『魔族』のことは気になりますね……」

 それまで話を聞いていたブラストもまた、甲冑に身を包んでいた魔族に着目する。

「……あの甲冑に身を包んだ騎士は、私では全く歯が立ちませんでしたよ。レアさんが庇ってくれなければ、私はソフィ様に伝えに行く事すら出来なかったでしょうね」

 余程悔しかったのだろう。ラルフは歯をきしませるように音を立てて、震える手を握りしめる。

「ふむ。しかしどうやらその魔族も通りがかった『人間』とやらに倒されたようだが、我はその人間の事も気になっておってな?」

 レアを襲ったという甲冑に身を包んだ騎士とやらは、少なく見積もってもラルフやレアより強いのだろう。

 しかし『アレルバレル』の世界で『エルシス』が居たような時代ではなく、ここは『リラリオ』の世界である。

 元々ソフィはミールガルド大陸に居た事もあり、ギルド対抗戦にも出場していた事で冒険者の者達であるならば、ある程度の人間達の強さは理解しているつもりだった。

 だが『代替身体だいたいしんたい』とはいっても『金色』を纏える程の強さであるレアを倒した魔族を追い返す事の出来る人間が居るというのは、少なからずソフィに衝撃を与えるのだった。

(リディアではないだろうしな。そもそも奴はまだこの大陸で魔力を感じておるし、あやつであったならば、我がその魔力に気づかぬわけがない)

「ソフィ様。レアが狙われているとはまだ決まったわけじゃねぇが、今後もレアが襲われるかもしれねぇし、俺が護衛についても構わないか?」

「……ああ、そうだな。我もこれまで以上に『結界』を強固にはするつもりだが、お主達もレアをを見てやっていて欲しい」

「ああ!」

「御意!」

「分かりました」

「何かあれば、すぐに伝えるわね」

 その場にいる者達は全員頷き、各々に返事をするのだった。

 ……
 ……
 ……

 その頃。魔力を失い『念話テレパシー』をすることも出来なくなった騎士の男は、ミールガルド大陸から遠く離れた今は誰も住んでいない大陸である『ディアミール』大陸で、誰も居ない場所を延々と歩き続けていた。

「くそっ……! ここは一体何処なんだ!!」

 瘴気のような霧に満ちている場所を歩き続けていた甲冑に身を包んだ『ビラーノ』は、知らず知らずの内に『梗桎梏病こうしっこくびょう』を患っていた。

 この病気は魔族にのみ発症する病気であり、日常生活を送る上では問題は無いのだが、生命力ではなく魔法を扱うを麻痺させてしまう恐ろしい病気であり、一気に悪くなるのではなく、徐々に進行が進んでいく病気で、治療する事は現在の医学では難しく、薬さえないので最終的には『魔法』を全て使えなくなる。

 かつてユファの『代替身体だいたいしんたい』時に彼女はこの病気にかかり『災厄の大魔法使い』と呼ばれた彼女であっても、その身体では魔力を上手く扱えなくなり、最後には簡単な『魔力探知』や『魔力感知』ですらコントロールが出来なくなってしまった程である。

 この大陸に飛ばした山伏は、自身の術で何処へ飛ぶかは本人ですら分からないために、この大陸に飛ばされたのはあくまで偶然ではあったのだが『ビラーノ』という『』にとってはだった。

 本来レア達を救った山伏の恰好をした人間は『ビラーノ』の魔力を失わせて、再び研鑽を積ませてから、魔力を回復させるつもりであった。単に少しお灸をすえて徳を積ませる努力をさせようとしていただけだったのである。

 ――しかし結局はこの大陸に来た事によって元々『魔力』がなくなった状態で、更に魔力が使えない状態に陥ってしまった。

 これから更に病気が進行すると徐々に『魔力のコントロール』が出来なくなっていくため、このままここに居れば『ビラーノ』は二度と戦闘が出来ない身体となるだろう。

 そしてそんな事を知る由もないビラーノは、ミラに連絡を取るどころか、定時連絡をする事すらできず、このままでは一方的な同盟破棄をしたと思われてしまうかもしれない。

 このまま連絡がなければ使いの者を出されて『ビラーノ』の現状を知り、使い物にならないと判断されて処分されてしまう可能性もあった。

 そんな事になれば終わりだとばかりにビラーノは焦るが、どうすることも出来ずに『ディアミール大陸』で絶望に打ちひしがれるのであった。

 ……
 ……
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