最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第408話 魔王レアの潜在する能力の大きさ

 朝にレアが目が覚めるとそこは、いつも泊まらせてもらっている長老の家だった。倒れる前の記憶が朧気だったレアは、何故ここで寝ているのだったかを思い出せずにいた。

「そういえば、研鑽中に私は倒れたのだったかしら?」

 ようやく頭の中が覚醒していき、何が起きたかを思い出したレアだった。

 そこでレアは更に自分の感覚に違和感を感じ始めるのだった。魔力がいくらでも湧いて来るようでいて、いつもの自分の魔力とは違うように感じるのである。

「何か違和感を感じる」

 そう呟きながら寝かされていた部屋を出て居間へ入るが、いつもならそこでレアが顔を見せれば座ったままでレアに向けて挨拶をするバルドの姿がなかった。

「バルドはどこかに行ったのかしら?」

 仕方がないのでレアはそのまま朝の身支度を終えて長老の家を出る。そこでいつものように、集落の外の森へ出ようとするレアに後ろから声が掛けられた。

「おやおやレアさん。もう体調はよろしいのですかな?」

 クワを持っているその男は、いつも畑に居るこの集落の住人であるビル爺で、普段は集落の外の森に研鑽に向かう時に会釈をして通り過ぎていくだけだったが、今日は珍しく声を掛けてきたのだった。

「あ! もしかして貴方が昨日、私を家まで運んでくれたのかしらぁ? おかげ様でこの通りよぉ!」

 レアはニコニコと笑みを浮かべて、その場でくるりと回って見せる。

「ははは! そうですか、そりゃ良かったですじゃ。他に何か変わった事はありませんかな?」

「そうねぇ。私の魔力がねぇ? 戦闘状態でもないのに研ぎ澄まされているというか、調子がいい時みたいな感覚なのよねぇ」

「ほう?」

 そこでビル爺は目を細めて感心するような表情になる。

「でもまぁ錯覚みたいなものなのでしょうけどね。朝起きて洗面台を見た時に、自分の身長がような、そんな程度の微々たる違いよぉ」

 レアが自分の違和感を例を出しながら事細やかにビル爺に説明すると、ビル爺はその感覚を抱いているレアに彼の中にある知識の一つが浮かび上がってきて、目を丸くさせて思考に至らしめられた後にその目を鋭くさせてレアを視線で射貫くのだった。

 レアはそう言っていつものように、リーシャたちのいる森に向かおうとするが、そこでビル爺に気になる事を言われるのだった。

「そうですか。まだまだによって、が馴染むまでには時間が掛かると思っていたのに、余程あなたにはセンスがあるようですなぁ」

「『』? 貴方それは一体どういう意味かしら?」

 外へ向かう足を止めて、レアは振り返りビル爺に問い返す。

「今日エイネ嬢と戦うことがあったら、二色の併用を使う感覚を持ったまま『紅い目スカーレット・アイ』を使って自身の『青』と『紅』を混ぜ合わせてみなさい。前回のように自身の体内へ余波を抑え込むのではなく、外へ、ひたすら外へね。抑え込もうとはせずに魔力を為すがままに、開放しておやりなさい」

 そう言うとビル爺はニコリとレアへ向けて笑顔を向けた後に、自身の畑へと向かっていくのだった。

「ちょ、ちょっと……!」

 レアがどういうことなのかを聞こうとしたが、ビル爺は立ち止まることなく先に進んでいってしまった。

「まぁ、また帰りにでも聞けばいいかしらぁ?」

 そう言うとレアはビル爺とは逆の道へ、森の方へと足を向けて歩いていくのだった。

 ……
 ……
 ……

「『だ。覚えようとして覚えられるモノではない。まさか以外にこんな集落で出会うとは思わなかったねぇ?」

 ビル爺は後ろを振り返り、もう見えなくなりそうな程小さくなった、レアの背中を見据えながらそう告げた。

「このタイミングでなければ『上』に報告して『魔王軍』に推挙したかったがな」

 そう言うとビル爺は惜しむように、レアという名の『』をのだった。

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