最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第398話 大賢者ミラの残していた生体実験室

 二人は所狭しと並んでいる装置を横目に先へ進んでいく。

「ちょっ、ちょっと!」

 レアはカプセル装置の前で足を止めたかと思うと、慌ててバルドに声を掛けるのだった。

 何とそのカプセル装置の中には魔物ではなく、明らかに『人間』の首から上の部分が浸かっていたのであった。目が閉じられているが、魔物ではなく誰が見ても人間の成れの果てのように見える。

「生体実験施設? 人間と魔物の研究? しかし、こんなものを調べてどうしようと言うのだ?」

 バルドはブツブツと不気味な装置の中を見ながら呟く。

 食い入るように装置の中を見ているバルドの背後、突如ぼやっとした人影が形成されていく。

「ば、バルド! 後ろ!」

「むっ!?」

(あのバルドがこんなにも無防備な姿を晒すなんて……。こんなのそこまで興味を惹くものに見えないけどねぇ)

 咄嗟にレアの声を聴いたバルドは、背後から首を掴もうとしてきた手を躱す事に成功するが、彼がこんなにも隙を作って食い入るようにカプセルの中身を見ている事に驚いたレアであった。

 そしてそのバルドの首を掴もうと伸ばしてきた『人間』に見える生物の手を躱すと同時に、バルドは『青のオーラ』を纏い始めたかと思うと、左手での手を掴み上げながら引き寄せて右手で心臓目掛けて突き入れた。

「――」

 虚ろな目を浮かべた人間のような化け物は、そのまま出てきた時と同じように、ぼやけながら消えていった。

「い、今のは一体なんなのぉ?」

 バルドは突き入れた右手を確かめるように握ったりしていたが、やがてカプセルの装置に視線を向ける。

 しかしそこには先程まで目を閉じていた筈の『人間』のようなモノの目が見開かれており、

 そしてそんなバルドもまた中の『人間』のようなモノに視線を注ぐ。

「今襲ってきたのはこいつと同じモノだった。この施設に入り込んだモノを襲うように設定されていたのか、それとも自分の意思を持って襲ってきたのか……」

 バルドは研究者のような目を浮かべながらブツブツと独り言ちるのだった。

「しかしこんな研究をする必要性だけが分からぬ。兵器として運用するつもりならば、何故『人間』ではなく力のある『魔族』を素材にしないのだ? 実験の初期段階だったという事なのだろうか? いや『組織』の者達は皆何やら救いを求めていたが、もしかするとそれが何か関係しているのだろうか?」

 レアは培養カプセルの中に居る存在とにらめっこをしたまま動かなくなった『バルド』を見て溜息を吐くのだった。

(ここは何かの実験施設なのは間違いはないようだけどぉ。フルーフ様については何も手掛かりがなさそうねぇ)

 そこまで考えたところで、バルドがレアに向かって口を開いた。

「レアさん。ここをもう少し調べたいところですが『ジェイン』から『念話テレパシー』が入りました。地上ではそろそろ決着がつくようなので、巻き込まれないうちに出ましょうか」

「ええ、そうねぇ。残念ながらこの施設は全く私には関係がないようだし、もういいわねぇ」

 心底がっかりしたという表情を浮かべてレアがそう言うと、バルドは困ったように笑う。

「それでは行きましょうか」

「ええ」

 レア達は来た道を戻ってそのまま階段があった場所に辿り着くのだった。

「それにしても一体、ここは何だったのかしらねぇ?」

 レアが背後を振り返ると何やらバルドが『人間』の上半身だけが漬けられているいる『カプセル装置』があった場所を見つめていた。

「バルド……?」

「この施設の事は『ジェイン』達には、報告しておいた方がよさそうですな」

 レアに言葉を返した後に階段を上がるように視線をレアに向ける。先に階段を上り始めたレアを確認した後、再びバルドはカプセル装置のある方に振り返る。

 ――、コッソリと『魔法』を使い始めるのであった。

 魔力の奔流を感じたレアが振り返るが、その頃にはもう止んでいて、ゆっくりとバルドも後をついてくるのだった

「あれぇ?」

「ふむ? どうかしましたか? レアさん」

「いや、ごめんなさい。何でもないわ」

(背後から歪な魔力を感じたような気がしたのだけれど、気のせいかしらぁ?)

 レアはバルドに愛想笑いを浮かべたが、直ぐに首を振って屋敷まで戻っていった。

 屋敷に戻ると先程の魔王軍の魔族と自分で告げていた『ジェイン』が、階段のある部屋で待っていた。何やらジェインは怒っている様子であった。

「バルド様……! 先程私は観察をするのは構いませんが、大人しくしていて下さいと、確かに申しましたよね?」

 どうやら勝手に動き回ったバルド達に、ジェインはおかんむりだった。

「すまぬな。しかし先程伝えた通り、地下に怪しげな施設を発見したのじゃ。ここを壊す前に一度調べた方がいいかもしれぬぞ」

「ええ。それは後でディアトロス殿に伝えておきますが……」

 更に何かを告げようとしたジェインだったが、バルドの様子から何を言っても無駄だと理解したようでジェインは溜息を吐いてそれ以上は何も言わなかった。

「まぁいいでしょう。それじゃあ後のことは私どもに任せて、バルド様達はお戻りください」

「うむ……。そうさせてもらうとしようか。それではレアさん行きましょう」

「分かったわぁ」

 屋敷を出た後は『ジェイン』に先導されながら拠点の外まで見送られた。そしてバルドに頭を下げて去っていくジェインを横目にレアは再び溜息を吐いた。

 結局レアにとってはここでは得るモノは何もなく、ただの無駄骨だった事でがっかりしながら帰路につくのであった。

 ……
 ……
 ……

 レア達が森の集落へと帰路についた後、先程の話の通りに『ジェイン』は地下の施設のことを『ディアトロス』に報告をすると、ディアトロスはその場所が気になった様子でジェインに案内されるのだった。

 レアやバルド達が入ったその地下には『オーク』の臓器や手足などが入れられている『培養カプセル装置』があったため、ディアトロスはそれを隈なく調べていたが、そこには『バルド』の時のように『人間』のようなモノが襲ってくるような事も無かったため、結局単なる魔物の研究施設と結論づけられた。

 並べられているカプセル装置が、間が空いているのが気にはなったが、結局そのまま地下空洞ごと屋敷を吹き飛ばすことにするのであった

 ……
 ……
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