最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第378話 互いの主張のズレと噛み合わない話
「私が数十年程度でリーシャに抜かれると言ったわね? 確かに五歳にして『最上位魔族』の戦力値を持っているのは認めるけど、それでも百年に満たない時間で『二色の併用』はおろか『青』すら得る事は難しいと思うけどぉ?」
リラリオは当然の事。更に魔族の全体のレベルが高い故郷の『レパート』の世界ですら、百歳程度の子供では『魔王領域』に至るのは至難である。
それを目の前のバルドは『真なる大魔王』の領域に居るレアを見て越える可能性があると言うのである。
苦労して真面目に研鑽を続けてきたレアにとっては、それは許しがたい侮辱である。たとえ冗談で言ったのだとしても決してレアは許せない。
「そんな小手先な技術を覚えるのであれば、確かに時間を要するでしょうが、単に強くなるだけならば、そんなものに頼らなくてもいいと思いますがね」
「貴方本気で言っているの? 『魔王』以上の戦闘で『青』やそれ以上のオーラを使わずに戦うなんて自殺行為だと思うのだけど」
「もちろん最終的にはオーラを使って戦う事は当たり前になってくるでしょうが、それ以前の話ですよ」
「それは基本戦力値となる部分を上げろという話かしらぁ?」
それくらいの事はレアでも理解している。
レアは今更そんな基礎的な話に付き合いたくはないという気持ちを抱きながら、バルドに向けて反論しようとする。
「ふーむ……。貴方はどうやら理論的な部分ばかりが先んじて肝心な部分を理解していないようですな」
溜息を吐くバルドに、再びレアは苛立ちを覚える。
「では簡単な質問をしますが、貴方は相手が自分よりも少しでも戦力値が高いと思えば、すぐに逃げるのですかな?」
「相手が自分より強いと思うのであれば、相手より強くなるまでは戦いを挑まないわねぇ」
「なるほど。貴方は相当良い環境の中で育てられたようですな」
強くなる為のイロハや魔法の類は、幼き頃からフルーフに全て学んできた。それを甘いと告げるバルドにレアは反感を覚えてしまう。
「貴方は強さ以前に、戦いの心構えが出来ていないのですよ」
「な、なんですって?」
――戦力値や魔力以前の話である。
それこそ戦闘の基本の部分を指摘されるレアであった。
「まぁそこまで凝り固まった成長をしてしまっている以上、矯正は相当に難しいでしょうがね。我らの世界では戦争が始まれば、死は常に身近にあるのですよ。相手が強いと思ったら一度身をひいてなどと、この『アレルバレル』はそんな甘い話が通じる世界ではない」
戦力値が相手より低かろうが高かろうが、戦争になれば相手は待ってくれない。戦うしかないのだとバルドは言っているのである。
「相手より力が劣っていようが魔力が足りてなかろうが、一度戦闘が始まれば工夫をして相手に勝たなければ死が待っているのです」
レアはバルドが言いたいことが、なんとなく分かってきた。
つまり相手より強くなるまで待つのではなく、相手に襲われても対応できるような戦い方を覚えろとそう告げているのだろう。
「魔力が自分より高い者が極大魔法を使えば『青』も使えない魔族はどう工夫をしたところでどうしようもないと思うのだけどぉ?」
「確かにそこまで差があるのであれば仕方がないでしょうな。私が言いたいのは相手が魔法に長けているのであれば、魔法を使わせないようにする。相手が物理に長けているのであれば、それを考慮して、距離を取るといった戦い方を普段から身につけておく事が重要だと申しているのです。相手が自分より魔力が上だから勝てない。相手が自分より強いから仕方ないというのは、逃げでしかないでしょう?」
「……駄目ね。貴方が何を言いたいのか、よく分からないわぁ。相手が自分より強ければ、相手より強くならないとダメという事ではないのぉ?」
「そうですよ? 私が言いたい事と貴方が言いたい事は最終的には同じ事なのですが、その行きつくまでの過程の話をしているのです」
「貴方の持論を聞いていると少し工夫をすれば勝てるような少し格上の相手でさえ、今のままでは勝てないから、確実に勝てるまでは戦わないようにしよう。そのよう逃げ腰でいるように思えるのですよ」
戦力値や魔力の数値で判断してしまっており、互角の戦いであっても数値で判断してしまい、大局を見過ごすとバルドは言いたいのだった。
「そうだとしてもね。それが数十年でリーシャが私に勝てるようになるという理由には、どうも結びつかないんだけど。戦力値が10億に近い今の私に、たった戦力値が1000万程度のあの子が、本当に貴方はこの短い期間で追いつけると思っているのかしら?」
「戦力値は追いつけないでしょうな。しかし戦闘で貴方に勝つ事は、不可能ではないと思います」
互いの主張の論点がズレているために、両者の間で話が全く噛み合わない。
――戦力値で追いつけないのに、戦闘になってどうやって勝てるというのだろうか?
如何に策を弄したところで、強い力を持つ者に弱い者が勝てる筈がない。そのトータルを明確な数値で表す事が出来るのが『戦力値』の筈なのである。
だが、目の前のバルドはその『戦力値』で負けている者が、戦闘で勝つことは不可能ではないと告げている。
――今のレアは全く理解が出来なかった。
「レアさん。一度エイネと戦ってみてはくれませんか? 私の言いたい事はそれで伝わると思います」
「ええ。それは構わないけど『エイネ』ではなくて、直接あなたが教えてくれないのかしら?」
貴方が直に教えてくれたらいいのにとばかりに、レアがそう告げるとバルドは嘲笑する。
「先程も言いましたがね。私が言いたいのはあくまでも戦闘の心構えの事なのですよ。私とあなたほどの差があれば、それはもう工夫でどうにかなる問題ではない。そこは貴方の持論のように強くなるまで逃げるか、逃げられなければ戦って死ぬしかないでしょうな」
バルドが言いたいのは相手の戦力値が少しでも自分より高ければ、相手より強くなるまで戦わないレアの特徴を指摘しており、その戦い方では僅差の相手と戦う場合の戦闘経験の差で不利になると言いたいのである。
何もレアの言葉を全て否定しているわけではなく、レアとバルド程の差があればそれはもう戦いにすらならないために、差が少しでも縮まるまで強くなるしかない。そこではレアの持論は間違ってはいないのである。
あくまで自分より少し上の相手と戦う場合でも圧倒的な差がある場合でも同じように、確実に勝てると判断するまで戦いを避けるという、そのレアの心構えを考え直させようというのであった。
細かい事だと思うかもしれないが、その心構え一つで常に戦争があらゆるところで起きるこの『アレルバレル』の世界では、とても重要な事であり、更に言えばフルーフを追うとなれば、それを熟知している『組織』の者達と遅かれ早かれ戦う事となる。
当然そんな事になればレア程度の実力者ではどうにもならず、レアが八方塞がりになる未来がバルドにはあっさりと予想できたのであった。
「分かったわ。エイネと戦えばいいのね? そこで私がエイネと戦って勝てば『フルーフ』様を追いかけるために、貴方に色々と知っている事を話してもらいたいのだけど? それはいいかしらぁ?」
レアはバルドのエイネと戦ってほしいという言葉を逆手にとって、更にフルーフの情報を引き合いに交渉に出るのだった。
相手の話に乗る代わりにこっちにも旨味が欲しいとばかりに、いつの間にか等価交換のような話に持っていくレアであった。
話をすり替えていつの間にか相手にその気にさせるのが、非常に得意なレア特有の交渉術である。
その本筋を理解しているバルドだったが、そのレアの企みを知った上で頷くバルドだった。
「ええ。それで構わぬよ。エイネに勝てる事があればワシはもう何も言わぬ。ワシが知っている事は貴方に全て話しましょう」
バルドは余程の自信があるようで、それがレアは気に入らなかった。
「言ったわね? 屋敷で戦った時の力は全く本気ではなかったのよぉ? 私の本気の力を知ったらあなたは今までの発言を後悔することになるわよぉ!」
レアの言葉に最後まで笑いを浮かべているバルドだった。
……
……
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苦労して真面目に研鑽を続けてきたレアにとっては、それは許しがたい侮辱である。たとえ冗談で言ったのだとしても決してレアは許せない。
「そんな小手先な技術を覚えるのであれば、確かに時間を要するでしょうが、単に強くなるだけならば、そんなものに頼らなくてもいいと思いますがね」
「貴方本気で言っているの? 『魔王』以上の戦闘で『青』やそれ以上のオーラを使わずに戦うなんて自殺行為だと思うのだけど」
「もちろん最終的にはオーラを使って戦う事は当たり前になってくるでしょうが、それ以前の話ですよ」
「それは基本戦力値となる部分を上げろという話かしらぁ?」
それくらいの事はレアでも理解している。
レアは今更そんな基礎的な話に付き合いたくはないという気持ちを抱きながら、バルドに向けて反論しようとする。
「ふーむ……。貴方はどうやら理論的な部分ばかりが先んじて肝心な部分を理解していないようですな」
溜息を吐くバルドに、再びレアは苛立ちを覚える。
「では簡単な質問をしますが、貴方は相手が自分よりも少しでも戦力値が高いと思えば、すぐに逃げるのですかな?」
「相手が自分より強いと思うのであれば、相手より強くなるまでは戦いを挑まないわねぇ」
「なるほど。貴方は相当良い環境の中で育てられたようですな」
強くなる為のイロハや魔法の類は、幼き頃からフルーフに全て学んできた。それを甘いと告げるバルドにレアは反感を覚えてしまう。
「貴方は強さ以前に、戦いの心構えが出来ていないのですよ」
「な、なんですって?」
――戦力値や魔力以前の話である。
それこそ戦闘の基本の部分を指摘されるレアであった。
「まぁそこまで凝り固まった成長をしてしまっている以上、矯正は相当に難しいでしょうがね。我らの世界では戦争が始まれば、死は常に身近にあるのですよ。相手が強いと思ったら一度身をひいてなどと、この『アレルバレル』はそんな甘い話が通じる世界ではない」
戦力値が相手より低かろうが高かろうが、戦争になれば相手は待ってくれない。戦うしかないのだとバルドは言っているのである。
「相手より力が劣っていようが魔力が足りてなかろうが、一度戦闘が始まれば工夫をして相手に勝たなければ死が待っているのです」
レアはバルドが言いたいことが、なんとなく分かってきた。
つまり相手より強くなるまで待つのではなく、相手に襲われても対応できるような戦い方を覚えろとそう告げているのだろう。
「魔力が自分より高い者が極大魔法を使えば『青』も使えない魔族はどう工夫をしたところでどうしようもないと思うのだけどぉ?」
「確かにそこまで差があるのであれば仕方がないでしょうな。私が言いたいのは相手が魔法に長けているのであれば、魔法を使わせないようにする。相手が物理に長けているのであれば、それを考慮して、距離を取るといった戦い方を普段から身につけておく事が重要だと申しているのです。相手が自分より魔力が上だから勝てない。相手が自分より強いから仕方ないというのは、逃げでしかないでしょう?」
「……駄目ね。貴方が何を言いたいのか、よく分からないわぁ。相手が自分より強ければ、相手より強くならないとダメという事ではないのぉ?」
「そうですよ? 私が言いたい事と貴方が言いたい事は最終的には同じ事なのですが、その行きつくまでの過程の話をしているのです」
「貴方の持論を聞いていると少し工夫をすれば勝てるような少し格上の相手でさえ、今のままでは勝てないから、確実に勝てるまでは戦わないようにしよう。そのよう逃げ腰でいるように思えるのですよ」
戦力値や魔力の数値で判断してしまっており、互角の戦いであっても数値で判断してしまい、大局を見過ごすとバルドは言いたいのだった。
「そうだとしてもね。それが数十年でリーシャが私に勝てるようになるという理由には、どうも結びつかないんだけど。戦力値が10億に近い今の私に、たった戦力値が1000万程度のあの子が、本当に貴方はこの短い期間で追いつけると思っているのかしら?」
「戦力値は追いつけないでしょうな。しかし戦闘で貴方に勝つ事は、不可能ではないと思います」
互いの主張の論点がズレているために、両者の間で話が全く噛み合わない。
――戦力値で追いつけないのに、戦闘になってどうやって勝てるというのだろうか?
如何に策を弄したところで、強い力を持つ者に弱い者が勝てる筈がない。そのトータルを明確な数値で表す事が出来るのが『戦力値』の筈なのである。
だが、目の前のバルドはその『戦力値』で負けている者が、戦闘で勝つことは不可能ではないと告げている。
――今のレアは全く理解が出来なかった。
「レアさん。一度エイネと戦ってみてはくれませんか? 私の言いたい事はそれで伝わると思います」
「ええ。それは構わないけど『エイネ』ではなくて、直接あなたが教えてくれないのかしら?」
貴方が直に教えてくれたらいいのにとばかりに、レアがそう告げるとバルドは嘲笑する。
「先程も言いましたがね。私が言いたいのはあくまでも戦闘の心構えの事なのですよ。私とあなたほどの差があれば、それはもう工夫でどうにかなる問題ではない。そこは貴方の持論のように強くなるまで逃げるか、逃げられなければ戦って死ぬしかないでしょうな」
バルドが言いたいのは相手の戦力値が少しでも自分より高ければ、相手より強くなるまで戦わないレアの特徴を指摘しており、その戦い方では僅差の相手と戦う場合の戦闘経験の差で不利になると言いたいのである。
何もレアの言葉を全て否定しているわけではなく、レアとバルド程の差があればそれはもう戦いにすらならないために、差が少しでも縮まるまで強くなるしかない。そこではレアの持論は間違ってはいないのである。
あくまで自分より少し上の相手と戦う場合でも圧倒的な差がある場合でも同じように、確実に勝てると判断するまで戦いを避けるという、そのレアの心構えを考え直させようというのであった。
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当然そんな事になればレア程度の実力者ではどうにもならず、レアが八方塞がりになる未来がバルドにはあっさりと予想できたのであった。
「分かったわ。エイネと戦えばいいのね? そこで私がエイネと戦って勝てば『フルーフ』様を追いかけるために、貴方に色々と知っている事を話してもらいたいのだけど? それはいいかしらぁ?」
レアはバルドのエイネと戦ってほしいという言葉を逆手にとって、更にフルーフの情報を引き合いに交渉に出るのだった。
相手の話に乗る代わりにこっちにも旨味が欲しいとばかりに、いつの間にか等価交換のような話に持っていくレアであった。
話をすり替えていつの間にか相手にその気にさせるのが、非常に得意なレア特有の交渉術である。
その本筋を理解しているバルドだったが、そのレアの企みを知った上で頷くバルドだった。
「ええ。それで構わぬよ。エイネに勝てる事があればワシはもう何も言わぬ。ワシが知っている事は貴方に全て話しましょう」
バルドは余程の自信があるようで、それがレアは気に入らなかった。
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