最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第374話 大魔王ヌーの残した悪魔王
レアが目を覚ますと、隣で寝ていた筈のエイネとリーシャの姿がすでになかった。
「……んぅ」
ぼんやりとした眼を擦りながらレアが起き上がると、どたどたと走ってくる足音が聞こえた。
「レア! 起きて、朝だよ!」
閉じられた襖をあけ放ちながら、リーシャが中へ入ってきた。
「ありゃ……? 起きていたのね」
「ええ。残念ながら今起きたところよぉ?」
身体を起こしていたレアを見て、リーシャは少し残念そうにしていた。どうやら自分が起こしてあげたかったのだろう。
「まぁいいや。ごはん出来ているから早く顔を洗ってきてね!」
どうやら朝食を用意してくれているらしい。それを告げるとリーシャは、入ってきた勢いそのままに出ていった。
「ふふっ。忙しない子ねぇ?」
レアはそう言うと寝室を出て洗面所へと向かって廊下を歩いていると、昨日のバルド長老達が居た部屋から朝食のいい匂いが漂ってくるのだった。
「寝起きの小腹にこの匂いはかなり効くわねぇ」
顔を洗ってバルドが居る部屋に入ると、人数分の朝食が用意されていた。
「おはようございます」
部屋に入ったレアに向けてバルドとエイネが挨拶をしてくれた。
「昨日はよく眠れましたかな?」
「ええ、ぐっすりよ。ありがとうねぇ?」
レアがにこりと笑顔を向けると、それはよかったとバルドは頷く。
「レアさん。お口に合うか分かりませんが、是非食べていってください」
そういって用意してくれていた朝食の前に案内してくれる。
「ありがとう。頂くわね」
「早く食べようよ!」
もう我慢出来ないとばかりにリーシャがそう言うので、苦笑いを浮かべながらもエイネが頷く。
「「いただきます」」
ボアの肉をスライスした物と、畑で取れた野菜が所せましとテーブルに並んでいた。味付けはエイネがしたのだろうか。ボアの肉と新鮮な野菜はとても美味しく感じられた。
そして何よりレアは料理を囲んでみんなで食べるのは久しぶりのことであり、エイネの美味しい食事を食べながら彼女は『リラリオ』の世界で皆で食べていた時の光景が思い出されていた。
――『リラリオ』の世界では、あの後どうなったのだろうか。
ディアミールへと避難させたベイド達は無事だろうかとか。ラクスは研鑽を続けているだろうかとか。それにセレスちゃんは私の残した手紙を読んでくれているだろうかとか。レアは食べながら色々とリラリオの世界の事が思い出されていくのだった。
そしてエリスの事が思い出された時、レアの食事をしていた手が完全に止まった。
(……)
レアはいつも隣で支えてくれた『エリス』と食べた食事を思い出して少しだけ涙ぐむ。
「レア……?」
レアが声をする方を見ると、リーシャが心配そうにこちらを見ていた。
「……何でもないのよぉ。美味しい食事は久しぶりだったから驚いたみたい」
咄嗟に言い訳が思いつかなかったレアがそう言うとリーシャは笑う。
「エイネさんが作ってくれたんだよ! 私もエイネさんのごはんが大好き!」
リーシャがそう言うと、あらあらと嬉しそうに笑うエイネの姿があった。
「おかわりもあるから、レアさんも遠慮せずに食べて下さいね」
エイネの言葉に頷いたレアは、止めていた箸を動かして食事を頂いた。
…………
そして朝食を終えると、バルドが出支度を整え始めた。
「……場所さえ教えてくれたら、私が一人で行ってくるわよぉ?」
レアがそう言うが、バルドは首を振って拒否をする。
「あそこは大魔王が本拠地としていた場所でね。普段は出入り禁止の場所なのですよ。私が同行すれば中へも入れますので同行させてもらいましょう」
どうやらその場所の管理はこの集落がしているようで、その管理者のバルドが居なければ、普段は入れない場所のようだ。
「私も行きたい!」
バルドとレアの会話を聞いていたリーシャがそう言うと、エイネがやんわりと注意をする。
「あの場所へは子供は入ったらダメって教えたでしょ? 貴方はビル爺の畑仕事のお手伝いね?」
「……はーい」
不満顔を浮かべながらもエイネの言葉には、素直に従うリーシャだった。
「それでは、行きますか」
準備を整えたバルドがそう言うと、エイネとレアは頷くのだった。
……
……
……
森の中にある集落を出ると、バルド達は空に浮き始める。
「目的地へは少し距離があるため、飛んで行きますが構いませんか?」
「ええ、私は構わないわよ?」
レアの言葉にこくりと頷いて、一行は空を飛んで目的地へと向かうのだった。
昨日レアが通ってきた空を飛んで行く。どうやら目的地は昨日四体の魔族が居た場所の近くのようだ。
(あのローブの男たちは、一体何を探していたのかしらぁ?)
レアがそんな事を考えていると、一体の魔族が空を飛んでいる私達に向けて手を振っていた。
「……ソフィ様の配下の魔族ですな、降りましょう」
バルドがそう言うとレアとエイネは頷く。
ゆっくりと空から下降していき、手を振っていた魔族の元へ向かう。
空から降りてくるバルド達を迎えると、そこに居た魔族は頭を下げる。
「これはバルド様。今日はどうなされたのですか?」
大魔王が居たという跡地の近くで見張っていた魔族がそう言うと、バルドが口を開く。
「この先の『件の領地』へ入りたいのだが」
「バルド様も知っての通り、ここから先へは軍の所縁ある者だけしか入る事を許可出来ません」
見張りはレアを見ながらバルドに告げる。
「彼女は私の所縁の者だが、文句があるのか?」
バルドが少し圧を掛けるとすぐさま見張りの魔族は首を振る。
「こ、これは失礼致しました! それでしたらお通り下さい!」
「それでは、行きましょうか」
レアはちらりと見張りを見るが、恐縮した様子で敬礼しながら前を向いていた。
(魔王軍か。どうやらこのバルドという男は、集落の長老と言っていたけれど、本当はどういう身分なのかしら?)
この見張りの様子を見る限りでは『バルド』という男は間違いなく、ソフィとやらの魔王軍の関係者なのだろう。それも相当な幹部なのだろうと、感じさせられるレアだった。
見張りが居た場所から少し歩いていくと開けた場所に出た。そして少し離れた先に大きな屋敷が見える広大な土地だった。
この景色は見覚えがあり、確かにレアが『レパート』の世界でヴァルテンに見せられた映像にあった場所だった。
「……ここで間違いないわぁ! ここを少し調べさせてもらってもいいかしらぁ?」
レアがそう言うと、バルドは笑みを浮かべて頷いた。
「ええ、ご自由になさってください。私達はあの屋敷の中で休ませてもらいますので」
「助かるわぁ!」
レアはさっそく映像にあったフルーフの居た場所へ向かう。その後ろ姿を見送りながら、バルド達は屋敷へと歩を進めるのだった。
…………
どれくらいの時間を調べただろうか。レアはフルーフの魔力の残滓等を探したり、何か残っていないかと調べまわったが、何一つ手掛かりなどは残ってはいなかった。
もちろん屋敷の中も入り探ったが、こちらも特筆すべき物は何もなかった。
「何も見つからないわねぇ」
目的の物など何一つ見つからなかったレアは、現在屋敷の中の書斎に居た。最後に何かないかと選んだ場所がここだっただけの話で、別に書斎に用があったわけではなかった。
そしてレアは何気なく書斎にあった本棚を眺める。
「ん……?」
しかしそこで本棚にあった一冊の本に注目する。そこにはこの屋敷の主が持っていたであろう魔導書の一冊だった。
「せめてこの世界の『理』の魔法でも覚えて帰ろうかしらぁ」
すでにフルーフの手がかりが手に入る確率は薄く、諦観しながらレアはそう呟く。
中をペラペラとめくり書かれている字を見るが、この世界の字で書かれている為何も読めない。仕方無くレアはレパートの『理』の魔法を使い翻訳に魔力を費やす。
「……へぇ」
そこに書かれている魔法は『超越魔法』や『神域魔法』といった高位中の高位の魔法が記載されていた。これを記した者は、相当な魔法使いであることが見て取れる。
しかしどれもこれも稀代の大天才である『フルーフ』から魔法を教わったレアにとっては、そこまで感銘を受ける程ではなかった。
レパートの世界の大魔王達であれば、誰もが使える程度の『魔法』の類である。
書籍の最後の方までぺらぺらとめくっていたレアは、中から一枚のメモが書かれた紙を見つけてぴたりと手を止めた。
――『概念跳躍』(数多ある世界を行き来出来る『時魔法』)。
「こ、これは! アルム……、ノーティア!?」
この魔法はレア達の世界の支配者であった大魔王フルーフが、長年かけて編み出した新魔法である。この世界の本に何故それが挟まっているかとレアは考え込む。
「フルーフ様が関係していなければ、こんな世界で『概念跳躍』が書かれているメモがあるなんてあり得ない!」
この屋敷の元々の所有者であったといわれる大魔王が、個人的に書いたメモだったのかは分からないが、フルーフと面識があった者だという証であることに間違いはなかった。
レアはそっと魔導書の中に挟まっていたメモを抜き取る。
「手掛かりはあったわねぇ? この世界にフルーフ様が居たことは間違いないわぁ」
まだあのヴァルテンの残した映像が全て真実であるとは限らないが、この世界に『概念跳躍』を記載したメモが残されていた以上は、誰かがなんらかの手段でフルーフから魔法を聞き出した者が居るのは間違いがなかった。
「!?」
放心状態だったレアだが、持っていた魔導書から禍々しい魔力を感知して慌ててメモを抜き取った後に魔導書を投げ捨てる。
床に捨てられた魔導書から、どす黒い煙のようなモノが噴き出してきたかと思うと一体の悪魔が具現化されていく。
「本に潜ませた悪魔か!」
レアは窓から脱出しようと移動するが、そこで束縛されたような嫌な感覚を味わう。
「……今のは、結界か!」
煙が晴れていき、ゆっくりとソレは目を覚ます。
レアは舌打ちをしながら、履いているミニのフレアスカートのポケットへメモを仕舞うと、青のオーラを纏い始める。
「このメモを守る仕掛けなのか、それとも魔導書の方なのか。一体それはどっちなんでしょうねぇ?」
本に潜み出てきた悪魔は『悪魔王』だった。
『下位悪魔』や『上位悪魔』の上位とされるデーモン族で、デーモン族の中では、上から数えて三番目に位置する悪魔である。
(※最上位に位置する『悪魔』は『統括悪魔』。次に『悪魔皇帝』そして『悪魔王』である)。
デーモン族の強さは種類だけではなく、年齢によって左右されるのだが、更にデーモン族は契約を交わす事でその契約主から魔力を供給されて強くなる事がある。
そしてこの魔導書を守るように命令されていた『悪魔王』もまた例に漏れずに一体の魔族の契約者がいた。
その契約者は『大魔王』の領域に居る魔族であり、名は『ヌー』といった。
この悪魔自体が上位種な『悪魔王』な上に『最恐』の大魔王の魔力が供給されており、更に最悪な事にこの悪魔はヌーから『名付け』がされていた。
【種族:デーモン族 名前:悪魔王・ガーラ(名付け) 年齢:4300歳
魔力値:2700万 戦力値:3億4500万 所属:『大魔王』ヌーの配下】。
圧倒的な力を見せる悪魔は、目の前の魔族が主の残した魔導書を手にした事を知り、不機嫌そうな目でレアを睨みつける。
「貴方。いったい誰に向かって、その憎たらしい視線を向けているのかしらぁ?」
「……んぅ」
ぼんやりとした眼を擦りながらレアが起き上がると、どたどたと走ってくる足音が聞こえた。
「レア! 起きて、朝だよ!」
閉じられた襖をあけ放ちながら、リーシャが中へ入ってきた。
「ありゃ……? 起きていたのね」
「ええ。残念ながら今起きたところよぉ?」
身体を起こしていたレアを見て、リーシャは少し残念そうにしていた。どうやら自分が起こしてあげたかったのだろう。
「まぁいいや。ごはん出来ているから早く顔を洗ってきてね!」
どうやら朝食を用意してくれているらしい。それを告げるとリーシャは、入ってきた勢いそのままに出ていった。
「ふふっ。忙しない子ねぇ?」
レアはそう言うと寝室を出て洗面所へと向かって廊下を歩いていると、昨日のバルド長老達が居た部屋から朝食のいい匂いが漂ってくるのだった。
「寝起きの小腹にこの匂いはかなり効くわねぇ」
顔を洗ってバルドが居る部屋に入ると、人数分の朝食が用意されていた。
「おはようございます」
部屋に入ったレアに向けてバルドとエイネが挨拶をしてくれた。
「昨日はよく眠れましたかな?」
「ええ、ぐっすりよ。ありがとうねぇ?」
レアがにこりと笑顔を向けると、それはよかったとバルドは頷く。
「レアさん。お口に合うか分かりませんが、是非食べていってください」
そういって用意してくれていた朝食の前に案内してくれる。
「ありがとう。頂くわね」
「早く食べようよ!」
もう我慢出来ないとばかりにリーシャがそう言うので、苦笑いを浮かべながらもエイネが頷く。
「「いただきます」」
ボアの肉をスライスした物と、畑で取れた野菜が所せましとテーブルに並んでいた。味付けはエイネがしたのだろうか。ボアの肉と新鮮な野菜はとても美味しく感じられた。
そして何よりレアは料理を囲んでみんなで食べるのは久しぶりのことであり、エイネの美味しい食事を食べながら彼女は『リラリオ』の世界で皆で食べていた時の光景が思い出されていた。
――『リラリオ』の世界では、あの後どうなったのだろうか。
ディアミールへと避難させたベイド達は無事だろうかとか。ラクスは研鑽を続けているだろうかとか。それにセレスちゃんは私の残した手紙を読んでくれているだろうかとか。レアは食べながら色々とリラリオの世界の事が思い出されていくのだった。
そしてエリスの事が思い出された時、レアの食事をしていた手が完全に止まった。
(……)
レアはいつも隣で支えてくれた『エリス』と食べた食事を思い出して少しだけ涙ぐむ。
「レア……?」
レアが声をする方を見ると、リーシャが心配そうにこちらを見ていた。
「……何でもないのよぉ。美味しい食事は久しぶりだったから驚いたみたい」
咄嗟に言い訳が思いつかなかったレアがそう言うとリーシャは笑う。
「エイネさんが作ってくれたんだよ! 私もエイネさんのごはんが大好き!」
リーシャがそう言うと、あらあらと嬉しそうに笑うエイネの姿があった。
「おかわりもあるから、レアさんも遠慮せずに食べて下さいね」
エイネの言葉に頷いたレアは、止めていた箸を動かして食事を頂いた。
…………
そして朝食を終えると、バルドが出支度を整え始めた。
「……場所さえ教えてくれたら、私が一人で行ってくるわよぉ?」
レアがそう言うが、バルドは首を振って拒否をする。
「あそこは大魔王が本拠地としていた場所でね。普段は出入り禁止の場所なのですよ。私が同行すれば中へも入れますので同行させてもらいましょう」
どうやらその場所の管理はこの集落がしているようで、その管理者のバルドが居なければ、普段は入れない場所のようだ。
「私も行きたい!」
バルドとレアの会話を聞いていたリーシャがそう言うと、エイネがやんわりと注意をする。
「あの場所へは子供は入ったらダメって教えたでしょ? 貴方はビル爺の畑仕事のお手伝いね?」
「……はーい」
不満顔を浮かべながらもエイネの言葉には、素直に従うリーシャだった。
「それでは、行きますか」
準備を整えたバルドがそう言うと、エイネとレアは頷くのだった。
……
……
……
森の中にある集落を出ると、バルド達は空に浮き始める。
「目的地へは少し距離があるため、飛んで行きますが構いませんか?」
「ええ、私は構わないわよ?」
レアの言葉にこくりと頷いて、一行は空を飛んで目的地へと向かうのだった。
昨日レアが通ってきた空を飛んで行く。どうやら目的地は昨日四体の魔族が居た場所の近くのようだ。
(あのローブの男たちは、一体何を探していたのかしらぁ?)
レアがそんな事を考えていると、一体の魔族が空を飛んでいる私達に向けて手を振っていた。
「……ソフィ様の配下の魔族ですな、降りましょう」
バルドがそう言うとレアとエイネは頷く。
ゆっくりと空から下降していき、手を振っていた魔族の元へ向かう。
空から降りてくるバルド達を迎えると、そこに居た魔族は頭を下げる。
「これはバルド様。今日はどうなされたのですか?」
大魔王が居たという跡地の近くで見張っていた魔族がそう言うと、バルドが口を開く。
「この先の『件の領地』へ入りたいのだが」
「バルド様も知っての通り、ここから先へは軍の所縁ある者だけしか入る事を許可出来ません」
見張りはレアを見ながらバルドに告げる。
「彼女は私の所縁の者だが、文句があるのか?」
バルドが少し圧を掛けるとすぐさま見張りの魔族は首を振る。
「こ、これは失礼致しました! それでしたらお通り下さい!」
「それでは、行きましょうか」
レアはちらりと見張りを見るが、恐縮した様子で敬礼しながら前を向いていた。
(魔王軍か。どうやらこのバルドという男は、集落の長老と言っていたけれど、本当はどういう身分なのかしら?)
この見張りの様子を見る限りでは『バルド』という男は間違いなく、ソフィとやらの魔王軍の関係者なのだろう。それも相当な幹部なのだろうと、感じさせられるレアだった。
見張りが居た場所から少し歩いていくと開けた場所に出た。そして少し離れた先に大きな屋敷が見える広大な土地だった。
この景色は見覚えがあり、確かにレアが『レパート』の世界でヴァルテンに見せられた映像にあった場所だった。
「……ここで間違いないわぁ! ここを少し調べさせてもらってもいいかしらぁ?」
レアがそう言うと、バルドは笑みを浮かべて頷いた。
「ええ、ご自由になさってください。私達はあの屋敷の中で休ませてもらいますので」
「助かるわぁ!」
レアはさっそく映像にあったフルーフの居た場所へ向かう。その後ろ姿を見送りながら、バルド達は屋敷へと歩を進めるのだった。
…………
どれくらいの時間を調べただろうか。レアはフルーフの魔力の残滓等を探したり、何か残っていないかと調べまわったが、何一つ手掛かりなどは残ってはいなかった。
もちろん屋敷の中も入り探ったが、こちらも特筆すべき物は何もなかった。
「何も見つからないわねぇ」
目的の物など何一つ見つからなかったレアは、現在屋敷の中の書斎に居た。最後に何かないかと選んだ場所がここだっただけの話で、別に書斎に用があったわけではなかった。
そしてレアは何気なく書斎にあった本棚を眺める。
「ん……?」
しかしそこで本棚にあった一冊の本に注目する。そこにはこの屋敷の主が持っていたであろう魔導書の一冊だった。
「せめてこの世界の『理』の魔法でも覚えて帰ろうかしらぁ」
すでにフルーフの手がかりが手に入る確率は薄く、諦観しながらレアはそう呟く。
中をペラペラとめくり書かれている字を見るが、この世界の字で書かれている為何も読めない。仕方無くレアはレパートの『理』の魔法を使い翻訳に魔力を費やす。
「……へぇ」
そこに書かれている魔法は『超越魔法』や『神域魔法』といった高位中の高位の魔法が記載されていた。これを記した者は、相当な魔法使いであることが見て取れる。
しかしどれもこれも稀代の大天才である『フルーフ』から魔法を教わったレアにとっては、そこまで感銘を受ける程ではなかった。
レパートの世界の大魔王達であれば、誰もが使える程度の『魔法』の類である。
書籍の最後の方までぺらぺらとめくっていたレアは、中から一枚のメモが書かれた紙を見つけてぴたりと手を止めた。
――『概念跳躍』(数多ある世界を行き来出来る『時魔法』)。
「こ、これは! アルム……、ノーティア!?」
この魔法はレア達の世界の支配者であった大魔王フルーフが、長年かけて編み出した新魔法である。この世界の本に何故それが挟まっているかとレアは考え込む。
「フルーフ様が関係していなければ、こんな世界で『概念跳躍』が書かれているメモがあるなんてあり得ない!」
この屋敷の元々の所有者であったといわれる大魔王が、個人的に書いたメモだったのかは分からないが、フルーフと面識があった者だという証であることに間違いはなかった。
レアはそっと魔導書の中に挟まっていたメモを抜き取る。
「手掛かりはあったわねぇ? この世界にフルーフ様が居たことは間違いないわぁ」
まだあのヴァルテンの残した映像が全て真実であるとは限らないが、この世界に『概念跳躍』を記載したメモが残されていた以上は、誰かがなんらかの手段でフルーフから魔法を聞き出した者が居るのは間違いがなかった。
「!?」
放心状態だったレアだが、持っていた魔導書から禍々しい魔力を感知して慌ててメモを抜き取った後に魔導書を投げ捨てる。
床に捨てられた魔導書から、どす黒い煙のようなモノが噴き出してきたかと思うと一体の悪魔が具現化されていく。
「本に潜ませた悪魔か!」
レアは窓から脱出しようと移動するが、そこで束縛されたような嫌な感覚を味わう。
「……今のは、結界か!」
煙が晴れていき、ゆっくりとソレは目を覚ます。
レアは舌打ちをしながら、履いているミニのフレアスカートのポケットへメモを仕舞うと、青のオーラを纏い始める。
「このメモを守る仕掛けなのか、それとも魔導書の方なのか。一体それはどっちなんでしょうねぇ?」
本に潜み出てきた悪魔は『悪魔王』だった。
『下位悪魔』や『上位悪魔』の上位とされるデーモン族で、デーモン族の中では、上から数えて三番目に位置する悪魔である。
(※最上位に位置する『悪魔』は『統括悪魔』。次に『悪魔皇帝』そして『悪魔王』である)。
デーモン族の強さは種類だけではなく、年齢によって左右されるのだが、更にデーモン族は契約を交わす事でその契約主から魔力を供給されて強くなる事がある。
そしてこの魔導書を守るように命令されていた『悪魔王』もまた例に漏れずに一体の魔族の契約者がいた。
その契約者は『大魔王』の領域に居る魔族であり、名は『ヌー』といった。
この悪魔自体が上位種な『悪魔王』な上に『最恐』の大魔王の魔力が供給されており、更に最悪な事にこの悪魔はヌーから『名付け』がされていた。
【種族:デーモン族 名前:悪魔王・ガーラ(名付け) 年齢:4300歳
魔力値:2700万 戦力値:3億4500万 所属:『大魔王』ヌーの配下】。
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