最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第360話 魔族の王レアVS始祖龍キーリ

 始祖龍キーリ達が宮殿を出て真っすぐに『魔王レア』の元へと向かっていると、待機を命じていたノイス達が『キーリ』の姿に気づき近づいてくる。

「し、始祖様! どうなされたのですか?」

 他の守護龍達もここに居る始祖龍の存在に気付いて、続々とキーリの元へと集まってくる。

「アイン達がやられたようだ……。いいからお前達もついてこい」

 幼い少女の姿のキーリがそう言うと、ノイス達は心底驚いた様子をみせるのだった。

「いいか? 俺がアイツと戦うから絶対に手を出すなよ?」

「し、しかし……」

 まだまだレアの実力をその身に感じていない守護龍達は、という印象を捨てきれていない様子だった。

「今は丁寧に説明している暇はないな。とりあえずお前らもついてこい」

 ここで問答をしている暇はないとばかりに、キーリは再び大陸を南下していく。慌てて数体の守護龍達はキーリを追従するのだった。

 ……
 ……
 ……

「ふぅ」

 襲ってきた全ての守護龍達を倒したレアは、魔力を少しでも温存する為に『二色のオーラ』を消して一息吐く。

 レアは先程の戦闘を思い出して、この世界に来た時の自分とは比べ物にならない成長を実感していた。

「確かに強くはなったけど、今はこう何か、何かが足りないわねぇ?」

 確かに強くなった実感はあるが、何か物足りなさといったものを感じるレアであった。

 そこにかつて彼女の傍でいつも彼女レアを想い、健気に声を掛けてくれていたのを思い出す。

 ――『流石はレア様です!』 

 ――『ご無理はなさらないでくださいね?』

 ――『お疲れ様です!』

 …………

「あぁ、そっか……。かぁ」

 いつもレアの傍に居てくれて、レアがすることに一喜一憂してくれた魔族が今は傍に居ない。

 がこの場で一人で戦い続ける今のレアに、物足りなさを感じさせているのだった。

「わ、わたしは何を考えているのよぉ? 私はいつも一人だったでしょう」

 フルーフ以外に何もいらないと強がって、彼女は『レパート』の世界でもいつも孤独に研鑽を続けてきた。

 当時『レパート』の世界で『レア』の研鑽を見てやろうと気にかけてくれた同胞の魔族も居たが、親から捨てられてひどい仕打ちを受け続けて来たことで、は、その助けを差し伸べてくれている存在の声を聞こえないフリをして、いつも失礼な態度を取って相手から離れて行ってくれるのを待って、そしていつもその後は泣きそうになりながら、彼女は孤独に自分一人で頑張ってきたのだ。

 しかしこの世界に来たことでエリスやラクス。そして大勢の魔族達に慕われたことで今まで手にしたことのなかった充実感を味わっていたレアは、その満ち足りた感情を再び失ったことで、物足りなさを感じてしまっていたのだった。

「わ、私にはフルーフ様がいるもの……!」

 浮かんでくるエリスの笑顔を必死に首を振って払う。しかし払っても払ってもレアを慕う者たちの顔が浮かんでくる。

 ――この世界はいい思い出があまりにも多すぎる。

「早くフルーフ様の所へ帰らないと……!」

 涙が出そうになるのを堪えながら、彼女はフルーフの事を考えて再び顔を上げて前を向くレアであった。

 そしてレアはこの世界に来た時に感じた、圧倒的な戦力値を持つ『キーリ』が迫ってきている事を感知する。

「お前で最後だ、龍族の王!」

 レアは近づいてくるキーリに気持ち新たにそう告げると、再び青を纏い始めるのだった。

 そして『キーリ』が側近の守護龍達を引き連れてレアの元へ辿り着いたかと思うと、すでにレアがその大いなる魔力を用いた『極大魔法』の準備にとりかかっていた。

「ちぃっ……! お前ら、俺の背後へ来い!」

 慌てて守護龍達は人型の姿のまま始祖龍キーリの背後に回る。キーリはその様子を確認すると、すぐに緑のオーラを纏い始めて『魔力』を開放する。

 レアの放った極大魔法は『神域魔法』の領域に到達している。キーリは瞬時にレアの魔法の規模を測り、その威力の大きさに苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる。

 威力を軽減、若しくは相殺を狙わずに防御の手段をとれば、レアの魔力に飲み込まれて消滅するだろう。

「仕方ねぇ……っ!」

 ――『龍滅ドラゴン・ヴァニッシュ』。

 レアの神域魔法にキーリは仕方なく自身の大技である『龍滅ドラゴン・ヴァニッシュ』を放った。

 キーリは出来れば『龍滅ドラゴン・ヴァニッシュ』を放ちたくはなかった。この技はキーリの持つ魔法や技の中で一番威力があるため、下手をすれば自分たちの大陸ごと吹き飛ばしてしまう恐れがあるためである。

 しかしそれでも放ったのは、キーリの予想を超える程のレアの魔法を見た為であった。

 青のオーラで魔力値が膨れ上がっている状態のレアの『神域魔法』である『凶炎エビル・フレイム』と、キーリの『緑のオーラ』から放たれた『龍滅ドラゴン・ヴァニッシュ』が真正面からぶつかり合う。

 迸る魔力と魔力のぶつかり合いは、数秒間に渡り拮抗し続けていた。

「くそ、俺の『龍滅ドラゴン・ヴァニッシュ』でも吹き飛ばせねぇか!」

 キーリは右手で放った龍滅にさらに魔力を込めるが、レアの神域魔法を押し切れない。

 そしてレアもまたキーリの龍滅の威力に内心驚いていた。

(流石に簡単にはいかないか……。それにしても青を纏っている私の『凶炎エビル・フレイム』と互角とは恐れ入るわねぇ)

 すでにレアのいる領域は『大魔王』階級クラスである。

 『二色の併用』をまだ使ってはいないとは言っても、レアの『青のオーラ』の練度は3を上回っているのである。

 つまり魔族の位で言えば『真なる魔王』を遥かに凌駕する魔力と、戦力値を有している状態である。そんなレアの『神域魔法』と、ほぼ同等の威力を持っているキーリの龍滅は立派に脅威と言えた。

 そこでレアはニヤリと笑みを浮かべて、あっさりと魔力を弱める。当然今まで拮抗していた力のバランスが崩れて、レアに向かって魔法は飛んでくる。

「龍族、貴方が本当に強いかどうか、試してあげるわぁっ!」

 瞬間――。その言葉と同時にレアの姿が消える。

 魔族の得意とする転移を使い、一瞬でレアはキーリとの距離を殺し近づく。

「し、始祖様!」

 突然目の前に現れたレアに守護龍達は驚いた声をあげる。

「さぁ、いくわよぉっ!」

 まずレアはまだ『龍滅ドラゴン・ヴァニッシュ』に魔力を費やして、隙だらけのキーリの顔を目掛けて『オーラ』を纏った右手で思いっきり殴り飛ばそうとする。

「ちぃ……っ! 接近戦まで出来るのかよ魔族!」

 龍滅のコントロールを捨てて、キーリは両手をクロスにしながらレアの全力の拳をガードする。

 コントロールされなくなったキーリの『龍滅ドラゴン・ヴァニッシュ』は、そのまま大陸を破壊しながらも威力が衰えず、そのまま大陸を沈めながら、真っすぐと海の向こうまで威力を維持したまま見えなくなった。

 しかし今はそんなことを気にする暇はなく、キーリはレアのオーラを纏った連撃を受け止め続ける。

 反撃しようにもレアの拳の速度を止められず、徐々に後ろへと下がらされていく。

「く、が!!」

 その様子を見兼ねた『十体の守護龍』の内の一体の『ゼグ』が、人型の姿のままでキーリの背後から飛び上がり、レアの頭上高くから蹴りを繰り出すのだった。

「ば、馬鹿者! 手を出すなと言っただろうがぁ!」

 始祖龍キーリが勝手にレアに向かって攻撃を出したゼグを叱咤し、何とか止めようとするが間に合わない。

「雑魚は引っ込んでなさい!」

 何とレアは『青のオーラ』を纏った左手で『ゼグ』の攻撃を軽く払ったかと思うと、その反動を利用して右足でゼグを蹴り飛ばすのだった。

 ――あまりにも洗練されたその連携。

 たった一発の蹴りだが『大魔王』階級クラスにいるレアが更に、青を纏った状態で蹴り飛ばしたのである。

 戦力値一億を超える龍族『ゼグ』は、たった一発で意識を遮断されてしまい、そのまま地面に頭から突っ込んで痙攣をおこしながらやがて絶命してしまった。

「ゼグッ!!」

 キーリは同胞の安否を確かめようとしてしまい、一瞬とはいっても『レア』を

 ――『私を相手に余所見なんて、いい度胸ねぇ?』

 キーリはハッとしてレアに視線を戻すが、すでにその場からレアは消えていた。

「アイツ! どこへいった!?」

 慌ててレアを探すキーリだが、完全に気配を殺されて居場所が掴めない。

 そこに一筋の雷光が天空から『キーリ』に向かって降り注がれる。

 ――神域魔法、『天空の雷フードル・シエル』。

「ま、まずい!」

 キーリは背後にいるノイス達が思いっきり蹴り飛ばす。吹っ飛ばされたノイスは、後ろに居た守護龍達をも巻き込み後方へ飛んでいく。そこに光の速さで落ちてくる雷光は『キーリ』に直撃する。

「ぐあああっっ!!』

 キーリは同胞の龍達を庇う事には成功したが、自らはその雷に飲み込まれて大きなダメージを負う。

 そしてレアの攻撃はそれでは終わらない。

「これで終わりよぉ!」

 ――神域魔法、『凶炎エビル・フレイム』。

 どす黒い炎が雷で焼け焦げているキーリをさらに包み込む。そしてレアは再び魔力を高めていく。

 一瞬で最大値まで高められたレアの魔力。一気に高められた魔力は暴走して、レアですら苦い表情を浮かべた。

 だが、この機を逃す訳にはいかないレアは『金色の目ゴールド・アイ』を使って自らの魔力を強引にコントロールする。

「ぐぐ……っ! 吹きとべぇっっ!!」

 ――神域魔法、『天雷一閃ルフト・ブリッツ』。

 『天空の雷フードル・シエル』とは比べ物にならない威力を持った雷光は、再びレアの魔力によって導かれて『キーリ』に向かっていく。

 確実に仕留められたと笑むレアだが、次の瞬間信じられないものを目撃する。

「ちょ、調子に乗るなよぉっっ!!」

 ――『龍呼ドラゴン・レスピレイ』。

 レアの放った雷はそっくりそのまま反射されて、レアに向かっていく。

「な……!? ま、まずい!」

 自分が放った必殺とも呼べる魔法が、そのままの威力を以てレアに襲い掛かってくる。

「く……っ!!」

 反射された光の速さの雷を防ぐ時間などなく、レアは半ば死を覚悟しながら体を捻って躱す。

 何とか直撃を避けることが出来たが、今の一撃を如何な理由だろうと『キーリ』に耐えられたのは精神的に辛いモノがあった。そして対するキーリは、どうやらレアを本格的にと認めたのだろう。

 先程までとは比べ物にならない魔力がキーリの体を覆っていき、そしてさらにそれは上昇していく。

「お前は危険だ。生かしておくワケにはいかなくなった」

 そして本気になったキーリは人型から、一気に龍の姿へと変貌していくのだった。

 その場から信じられない程の速度で下がり離れたレアは『キーリ』の魔力の余波から身を守ろうとする。そして本気となったキーリの形態を見て言葉を漏らす。

「全く、本当に一筋縄ではいかないわねぇ。龍族の王?」

 白く長い体をしたキーリの龍の姿を見ながら、レアもまた自身の残存魔力を確かめる。

 何かあったときの為の温存していた魔力を惜しみなく使い、のである。

 『青』3.2 『紅』1.2からなる――。

 ――『二色の併用』。

 二つの色のオーラがレアの周りを纏い始める。

 ――

 目は『金色』。纏うオーラは『青』と『紅』。

 『魔王』レアは『龍族』キーリに最後の勝負を挑む。

 ――すでにこの両者の戦いに、他の龍達が入り込む余地はなくなっていた。

 ……
 ……
 ……

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