最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第353話 魔族に戦争を仕掛けた事を後悔し始める龍族の王

 それから時が経ち、再び龍族の住むターティス大陸では動きがあった。

 ブリューセンが戻らなかった事で、キーリは今後の行動を決めかねていたのである。

「魔族の王レアか。ブリューセン達だけじゃ勝ち目はねぇとは思っていたが、まさかヴェルマー大陸から誰一人として戻ってこねぇとまでは考えられなかったな」

 玉座で深く腰を据えながら、キーリはうんうん唸りながらそう言った。

「はい。魔族がここまで強くなるとは思いもしませんでした」

 『十体の守護龍』筆頭のディラルクがそう言うと『キーリ』は少し嬉しそうな顔を浮かべる。

「そうだろう? あいつは必ず強くなるとは思っていたんだ。だが、少しばかり思っていたのとは違ったな」

「と言いますと?」

 キーリは組んでいた脚を変えて、再び眉を寄せる。

「俺の最初の見立てではあいつは自分が先頭に立って、戦い占領した相手を配下にして数を増やしていきながら、やがては俺達と戦争をするつもりかと思っていたんだが……」

 キーリはちらりとディラルクの顔を見上げながら、続きを話す。

「あいつはどうやら味方の士気を上げて戦うスタイルじゃねぇな。仲間を上手く使う戦い方が苦手なのかどうなのかまでは分からねぇが、あいつはたった一人で何でもしようとするタイプだな」

 ――キーリの意見は間違いではなかった。

 今までフルーフ以外に仲間と呼べる仲間は居らず、レパートの世界でも魔王軍として行動をしていなかったレアは、単身で戦う事しかしてこなかった。

 つまり自分一人で戦うのは得意だが、仲間と連携をとったり配下を上手く使って戦う事が出来ないのである。

「成程。そうだとすれば、逆に好機チャンスなのではないでしょうか? 魔族の王レアが強いとは言っても、我ら龍族全軍を相手に一体ではどうにもできますまい」


「お前は馬鹿か?」

「え!?」

 猫背気味に玉座の上で上体を前にしながら喋っていたキーリは、憐れむようにディラルクを見上げた後、ゆっくりと玉座の背もたれに体を倒して溜息を吐いた。

「自分ひとりでなんでもしようとする奴ってのはな。まず他のやつを数に入れずに、自分がやろうとしていることが、出来るかどうかを考えて行動する奴が多い。中には何も考えずに自らを過信して、物事を測って失敗する奴もいるが、あいつは、レアはそうじゃない。あいつは出来るかどうかを考えて出来ないと思ったところで一度身を引きながら、自分ひとりで出来るようになるまで延々と機を伺いながら出来るようになるまで待つタイプだ」

 つまりどういうことなのかと、ゴクリと唾を飲みながらディラルクは主の言葉を待つ。

「あいつが次に、それは確実にだ」

 それはつまり時間を与えれば与える程に、レアという魔族は厄介になるだろうとキーリは告げているのである。

 そしてそれは決して間違いではなかった。キーリがレアを意識する事になったのは魔人の一件からだが、レアはこの世界に降り立った数年前からすでにキーリを意識して行動を続けていた。

 キーリを含めた龍族を倒すには、今のままではダメだと瞬時に理解したレアはこれまで数年間毎日研鑽を続けてきたのである。

 そして『』や『』の練度を高めつつ、
 魔人や精霊を相手に自身の成長を確かめながら現在も力を高め続けている。

「中途半端に仲間に頼って戦うような奴より、俺は最初から自分ひとりで何でもこなそうとするやつの方が苦手だ」

 大抵のやつは自分ひとりでやろうとして壁を感じて諦める奴が多いが、中にはそれでも諦めずに、成し遂げてしまう天才がいるのである。

 そしてそれは今回の襲撃の一件のせいで、キーリ自らの手でレアの成長を促進させてしまっていた。

 今後は死に物狂いであの魔族は、彼女達『龍族』をとりに来るだろう。

 キーリは数日前の夜に放ったレアの魔力の膨大さを思い出して、面倒な事になったと思い始めているのであった。

 だが、キーリ達龍族が世界の調停のために、ヴェルマー大陸を襲わなかったとしても、時間の経過とともにいつかはレアは、成長を遂げてキーリ達と戦争を起こしていただろう。

 ――結局のところ。レアがフルーフの命令を受けてこの世界に来た瞬間に、キーリ達の運命は決まっていたといえるだろう。

 その事に気づくのが遅くなるか、早くなるかの違いしかないという事に、この時のキーリには知るよしもなかった。

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