最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第304話 ディアミール大陸全域の戦争準備

 魔人達が住む『ディアミール大陸』では、魔人の王『シュケイン』が魔人達を一堂に集めて『ヴェルマー大陸』への全面戦争を仕掛ける為に準備を進めていた。

 当初の予定では『下級兵』を従えた『幹部級』である『リオン』と『リーベ』が、ヴェルマー大陸へと乗り込み、ヴェルマー大陸の沿岸地帯を支配圏に置いているダイオ魔国を制圧して、そのダイオ魔国を足がかりに少しずつ侵略地域を増やしていく算段であった。

 そして計画通りに『ダイオ』魔国が持つ港町などを落として、残すところはダイオ魔国のみという通達を受けた本国では『中級兵』1万という大軍勢とその指揮官として『幹部級』を更につけてヴェルマー大陸へ向かわせた。

 ――しかし直後に予期せぬ報告が再びリーベから届いたのである。

 その内容によるとらしき魔族は、圧倒的な力をもっており、すでに『下級兵』の多くの魔人がその魔族一体に全滅させられそうだというのだ。

 そして『幹部級』であるリオンが、直ぐに本国にいる『幹部級』を含めた全軍出撃を号令するように伝えるようにとリーベに指示をしたらしい。その通達は直ぐに『シュケイン』の耳にも入り、慎重な性格である彼は全魔人を集めたというわけであった。

 現在ディアミール大陸に居る戦闘部隊に在籍する魔人は『下級兵』が16万体。そして『中級兵』が10万体。更には『上級兵』が5万体に『幹部級』7体と、合計30万体を超える魔人達がこの場に集結している。

 流石は龍族と真っ向から全面戦争を行おうと考えている魔人族であり、その大半が血の気の多い戦闘員である為に、戦争を行う為の部隊の規模も他の種族とは一線を画していた。

 話を戻すと先に出撃をしていた『幹部級』1体と『中級兵』1万の部隊は、現在が『ディアミール』大陸と『ヴェルマー』大陸の間の空で待機をしていた。

 ――これは全軍出撃号令が発せられた場合に後で合流する為であった。

 大陸にいる魔人達は、龍族との戦争であれば納得がいくが、に魔人達の総戦力を注ぎ全面戦争をするなど信じられなかった。

 しかし魔人達も魔族以上に戦闘意欲があり『上級兵』達の中には、嬉しそうな表情を浮かべている者も多かった。

 とくに先立って出撃をした『中級兵』の姿を見ていた『上級兵』数体は、棚から牡丹餅といわんばかりに既に『スクアード』を使ってやる気を見せていたのだった。

 魔人の住む大陸である『ディアミール大陸』では、人間や魔族のように多くの町があるわけではなく、大陸全土を五分割にして階級区分に分けて住んでいる。

(※南側地帯に『下級兵』が集まって住んでおり、階級が高い者程徐々に北上して移り住んでいく形である)

 魔人の軍隊を引退した者達は階級に関係なく軍に貢献した実績から、引退時の一つ上の階級へと特進できる為、引退者は例外なく『中級兵』以上の扱いを受けており住んでいる所も西側の地域に移り住んでいる。

 そして本国と呼ばれる場所があり、そこにはや『幹部級』達が住んでいる。現在その本国に30万体を超える魔人達が集まっているという事である。

 参列している多くの魔人達の最前列に、現在本国にいる7体の『幹部級』が連ねて立っていた。

 ここにいる『幹部級』の魔人は、すでに魔族達の大陸へ向かった『リオン』や『リーベ』、そして『中級兵』の引率をしている『幹部級』の者達よりも強く、この『ディアミール』大陸の最強の戦力値を持つ者たちである。

 そして本国にある城からそんな魔人達を見下ろしている者が、魔人の王『シュケイン』である。

「どうやら今の魔族の王は我ら魔人の『幹部級』に匹敵するようだ」

 ザワついていた本国にいる魔人達だが『シュケイン』が喋るとピタリと止み、そしてその言葉に再びザワつき始めた。

「既に向かった『下級兵』達は全滅らしいぞ」

「馬鹿なっ! 相手は所詮魔族だぞ?」

「何かの間違いじゃないのか?」

「ワシら同胞の恥を晒しやがって!!」

 口々に魔人たちは囀る。それもその筈彼らにとっては、魔族など眼中になく玩具程度にしか思っていなかったのだから、この話を聞かされて苛立ちを見せるのは仕方のない事であった。

 それが『下級兵』とはいえ同胞がやられた事で、彼らの自尊心プライドは大きく傷つけられたようだった。

 そしてそれまで一言も喋らずに王の言葉を黙って聞いていた『幹部級』が口を開いた。

「それでシュケイン様。その『下級兵』達がやられたことは分かりましたが、向かっていた『リオン』達もやられたという事なのでしょうか?」

 囀っていた同胞達とは違い、憤慨する訳でもなく冷静に唯々真実を聞かせて欲しいという意味合いを含めた声をあげたのは『幹部級』の一体にして、魔人の中では珍しい現実主義な魔人『バラン』であった。

 その言葉にシュケインは改めて口を開いた。

「先程も言ったが、リーベからの最後の言葉は『下級兵』達が全滅してリオンから急いで本国に全軍出撃の号令を出して欲しいという言葉を伝えてきたのみだった。しかしその後にワシが直接リーベに『念話テレパシー』を送っても返ってはきておらぬところから、つまりはそういうことなのじゃろうな」

 シュケインの言葉にざわりと、今までとは質の違う空気が本国を覆い始めるのだった。

 『下級兵』がやられた事で憤慨し、同胞達を詰っていた空気が一変して『幹部級』がやられたのであれば、。という不安が助長した為であった。

「そうですか。彼らは『幹部級』の中では下位とはいえ、それでも『リオン』や『リーベ』は紛う事なきしっかりと『幹部』と呼べる程の強者だった筈と私は記憶していた筈なのですがね」

 『バラン』も『シュケイン』の言葉に相当にショックを受けたのだろう。

 普段よりも更に斜格的で回りくどい言葉を告げながら考え込むのだった。

「そこまで今の魔族というのは強いという事ですか。では一層の事、侮ってはいけませんね」

 あくまで冷静に淡々と告げるバランだった。

 他の『幹部級』達も表情はそれぞれ違うようだったが、魔族の『価値』を改めていたようだった。

「リオンやリーベ達に悪いとは思うが、十分に魔族というのは役に立ちそうだな」

「ああ。龍族と戦う為には、少しは役に立ちそうだ」

『上級兵』以下の者達とは違い、この場にいる『幹部級』達は、その魔族の王や魔族達を兵士にした後のことを考え、どれくらい利用価値があるのかを話し始めるのだった。

 そして魔人の王シュケインは、その様子にニヤリと笑みを浮かべる。

 多くの者を集めた理由は、魔族を攻め滅ぼすというワケだけではなく、魔族の有用性と、攻め滅ぼした後の事を考えて欲しいという願いからだった。

 そしてバランや他の『幹部級』の言葉によって魔族という認識は改められた。更にはその先の事を見据えて話し始める姿を見て再びシュケインは口を開く。

「うむ。如何に強い魔族がいようとも我ら魔人は個々でそれを上回るのだ! そしてそうであるあれば、魔族どもを我らが取り込み、あの胡坐をかいておる憎き龍族共に、我ら『魔人族』の力というモノを分からせてやろうではないか!」

「「うおおおっっ!!」」

 そのシュケインの力強い言葉に場の空気は一転して、士気が一気に高まるのであった。

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