最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第298話 魔人の幹部級リオンとリーベ

「た……、助けてくれっ……!!」

 必死に懇願する男は『レイズ』魔国からそう遠く離れていない『ダイオ』という小さな魔国の住民であった。

 『ダイオ』魔国は現在『ヴェルマー』大陸統一を果たした『ラルグ』魔国の属国の一つとなったが、元々は『レイズ』魔国の支配圏にあった国で漁が盛んに行われている港町をいくつも持ち、ヴェルマー大陸でも有名な国の一つであった。

 そのダイオ魔国はレイズの魔族達の食の観点からみてもとても重要な拠点であり、延いてはヴェルマー大陸の重要な拠点でもあった。

 そんな港町を幾つも抱えるダイオ魔国の住人達は、魔人達に次々と襲われてパニック状態に陥っていた。

「ギャハハハ、脆いな魔族って連中はよぉ!」

 魔人『リオン』は、先程助けを求めていた魔族の男の首を片手で持ち上げながら嗤うのだった。

「ヒッ……やめっ……。ぎぇっっ……!」

 魔人リオンが『ダイオ』魔国の魔族の首を握り潰す。

「久しぶりの戦争を楽しみたいのは分かるが、シュケイン様の命令を忘れるなよ?」

 暴れるリオンを宥めるように女性の魔人が声を掛けた。

 ――その女性の魔人の名は『リーベ』。

 この二体の魔人は彼らの王である『シュケイン』から、軍を率いて魔族の大陸を襲うように命じられた精鋭の魔人であった。

 【種族:魔人 名前:リオン 年齢:3000歳
 状態:通常 戦力値:9800万 所属:ディアミール大陸】。

 【種族:魔人 名前:リーベ 年齢:2500歳
 状態:通常 戦力値8800万 所属:ディアミール大陸】。

「リーベ。分かってるって! 魔族の王ってやつをボコボコにして『シュケイン』様の元へ連れて行けばいいんだろ?」

 リーベは会話の片手間に魔族達を潰していくリオンを見て眉を寄せる。

 だが、彼の言い分は間違ってはいない為に何も言わずに溜息を吐くリーベだった。

 ディアミール大陸の方角から空を飛んで攻めてきた魔人たちは、海沿いにある『ダイオ』魔国の拠点を次々と制圧していき、残すは『ダイオ』魔国を残すのみとなっていた。

 リオン達の狙いはまず『ダイオ』魔国の領土を全て制圧して魔人達の拠点を作り、そこにディアミールの本国の魔人達を呼び寄せた後、一気に魔族の王『レア』が居る『ラルグ』魔国に攻め込む手筈だった。

 魔人にとって魔族とは格下の種族としか見ておらず、苦戦などする筈がないと確信している。現在攻めてきている魔人達の幹部級の魔人は『リオン』と『リーベ』のみで、残りの魔人達は下級兵ばかりであった。

 しかし下級兵である魔人であっても決して侮れるモノではなく、一体一体が、戦力値4000万を超えている。

(※この時代の『ヴェルマー』大陸の平均的な魔族の戦力値は300万~500万である)

 神々に近い種族とされる『龍族』と、表立って喧嘩を売ろうとしている種族『魔人』が、弱いわけがないのである。

 リオンもリーベも幼い頃から種族の序列は耳が痛い程聞かされており、精霊族や魔族そして人間族等は、自分たち魔人族に逆う事の出来ない脆い種族だと思っている。

 今回の魔人たちの行動は魔族たちを傘下に収めて龍族との戦争の為に、弾除けを少しでも増やす程度にしか思ってないなかった。

 自分達がこの戦争で魔族達に負ける可能性など、毛ほども考えてはいない。すでにここまで多くの魔族達を蹴散らしてきた魔人達を顧みても負ける要素はなかった。

 ――そして彼らはついにダイオ魔国に到着する。

 ここまで魔人達はたった一体も死ぬことはなく、リオンやリーベ達はほぼ無傷であった。

「さて、じゃあそろそろ国を一つ落としますか」

 そう言ってリオンは腕を回しながら不敵に笑うと、リオンの背後にリーベが続きながら頷いた。そこから更に背後から続々と魔人たちが列をなして進軍する。

 その様子を見てまだ生存している魔族達は、絶望に打ちひしがれるのだった。

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