最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第273話 衝突、大魔王ヌー

「あ、貴方……!」

 ヌーの魔力から解放されて手をぷらぷらとさせながら、レアは助けに入ってくれた魔族『ソフィ』の顔を見る。

「お主は下がっておるのだ。悪いがお主の戦闘はここまでにしてもらう」

 そう言ったソフィの怒りが孕んだ声に震えが走り、色々と聞きたいところだったが、今はおとなしく言う事を聞くレアであった。

 そしてソフィの魔力の圧をその身に受けて吹き飛ばされたヌーは、遠くからこちらに向けて魔法を放ってきた。

 レアですら見た事のないヌーの魔法だが、その迸る魔力の大きさに目を丸くする。

 『金色』の体現を果たしているレアから見ても、余りにも桁違いな魔力の圧であった。

 しかしそれ程の威力の魔法であっても、ソフィはあっさりと魔法をぶつけて相殺する。

「我に手を出すのか? 数千年前の事を忘れたとは思えぬが」

 いつの間にかソフィの前に転移してきていた相手。大魔王ヌーに向けて、ソフィはそう言った。

「いちいち癇に障る野郎だ! いつまでもあの時のままだと思わぬ事だな、化け物がぁ!」

 ――神域魔法、『邪解脱エビル・リベラシオン』。

 ソフィの周りに死神たちが集まり、体内に侵入しようとしてくる。

「クックック、見た事のない魔法だな。これは如何なる神格持ちの死神か? どれ、見てやろう」

 ――超越魔法、『終焉の呪エンドオブカース』。

 何とヌーの放った新魔法の神域魔法に対して、ソフィの放ったのは超越魔法であった。

 だが、ヌーの『邪解脱エビル・リベラシオン』によって現れた死神達は、ソフィの『終焉の呪エンドオブカース』によって現れた夥しい数の死霊達の大きな口に次々と喰われていく。

 ――魔法としての質はヌーの方が高いが、魔力そのものが違いすぎる。

 ソフィの魔力をもってすればこの程度の超越魔法でさえ、神格を有する『死神達』を呼び出す神域魔法さえも圧倒するといういい見本だった。

「流石は化け物だな、だがこれならどうだ!」

 そういうヌーはついに本気になったのか、力を開放し始めた。

 目が『金色』になったかと思うと、ヌーの周りに『金色』のオーラが纏われ始める。

 先程までとは明らかに違う魔力上昇を果たしたヌーは、更に魔法をソフィに向けて放つ。

 【種族:魔族 名前:ヌー(大魔王化) 魔力値:340億
 状態『金色』 戦力値:測定不能 地位:数多の世界を束ねる王】。

 現在のソフィの魔力で測れる基準値を遠く越えたようで、ヌーの戦力値は測定不能と表記された。

 これはヌーの纏うオーラによって行われた、魔力上昇が大きく関係している。

「『金色』か、懐かしいなヌーよ」

 数千年前の戦争の時もこのオーラを纏いながら戦っていた事を思い出しながらそう口にするが、先程までとは比べ物にならない魔力の魔法であった。

 青と紅のオーラに身を包んだソフィだが、今度は簡単にソフィが吹き飛ばされていく。

 もはやこの二体の魔族の戦闘に入れるのは、レアでも不可能であった。

 ……
 ……
 ……

「な、なんなのよぉ……!」

 その場にいればあっさりと自分の命が飛ばされると判断したレアは『念話テレパシー』で配下達にラルグ魔国を攻撃させるのをやめさせた後、その配下達のところへ転移してきていた。

 今は双方戦闘が行われてはおらず、休戦状態となっているラルグの塔付近の上空で、レアは先程のヌーの言葉を思い返していた。

(大魔王ソフィがフルーフ様を壊したんじゃないの? あいつが話していた事は本当なの?)

 答えの出ないイライラがレアを襲っているところに『ラルグ』の塔に転移してきた『ユファ』と『レインドリヒ』の二人と遭遇するのだった。

 そして二人は上空にいるレアの魔力を察知して声をあげる。

「レア!?」

「お前は『魔王』レア!」

 レインドリヒとユファの両者はここに居る筈のソフィではなく、レアが居る事に驚いた声をあげるのだった。

「どうしてレインドリヒちゃんが『先輩ユファ』と一緒にいるのかしらぁ?」

 敵である筈のユファと自分の配下の筈のレインドリヒが仲良く並んでいる姿を見て、イライラ状態のレアは更に不機嫌になり、苛立ち混じりにそう声を出すのであった。

 ……
 ……
 ……

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