最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第264話 ライバル同士の邂逅

 レイズ魔国の国境まで来ていたレインドリヒは、ユファをどう誘い出そうかと考えていた。しかしそこに目当てのユファの魔力が近づいてくるのをレインドリヒは感じ取る。

「好都合だ!」

 そう言ってレインドリヒは、薄く笑みを浮かべた。

 レインドリヒがユファの魔力を感知してから僅か数分でユファは、レインドリヒの元へと辿り着く。

「久しぶりだな。ユファ」

 そう言うレインドリヒは、優し気な表情を浮かべていた。

「ええ、まさかアンタがレアと手を組んでいるとは思わなかったわよ?」

 対するユファは少しだけ表情に陰りを浮かべる。

 同じレパートの世界出身の。互いに同じ世界に君臨する大魔王であるフルーフを倒す事を目標として、レパートの世界で、を目指した者同士である。

 あの頃のレアはまだ最上位魔族の最上位程であり『魔王』と呼べる領域にようやく辿り着くかどうかという強さだった。

 しかしそんなレアはフルーフの為だけに研鑽を続けて、先輩大魔王であるレインドリヒや、ユファよりも強くなった。

 生き残る為には確かに強い者につくという事は悪い事ではないだろう。

 だがそれでも過去のレインドリヒを知るユファにとっては、誰かの下について行動するレインドリヒに、何も思うところがないわけではなかった。

「それはお互い様だな。レアの言葉を借りるわけではないが、大魔王ソフィは別世界の王だぞ? 負けん気の強かった『災厄の大魔法使い』様が、誰かの下についているなんてあの頃からは想像もつかないところだが」

 皮肉交じりにレインドリヒは言葉を返す。

「何とでも言いなさい? 今の私は『よ! ソフィ様に仇為すというのであれば、貴方でも喜んで殺すわ」

 レパートの世界では『災厄の大魔法使い』だった彼女は『九大魔王』の『ユファ』に訂正するようにとばかりに、そうレインドリヒに告げる。

 『青』のオーラを纏い始めるユファをレインドリヒは細目でる。

 三千前とはオーラの練度が違う。彼女が如何にこの数千年の間、研鑽を積んでいたかを示すに十分に値するオーラだった。

「いい練度だユファ。純粋で領域を知る者には心地良い」

 そして良いものを見せてもらったとばかりに、レインドリヒも同練度の『青』を示す。

 互いに同じ世界で育った魔族。現在は袂を分かった大魔王ユファ。

 しかしヴァルテンや組織のモノとは違い、量産性ではなく独創性に溢れるその練度に、レインドリヒはここ最近で一番温かい気持ちを胸に抱いた。

(俺もお前と一緒に行動を共にすれば、少しはマシな生涯をおくれただろうか?)

 そんな言葉を決して口には出さないが、レインドリヒは心の中で吐露する。

「ユファよ、俺が勝てば一つ俺の言う事を聞いてくれないか?」

 今から殺し合うというのに、突然に魔術師『レインドリヒ』はそんな事を口にする。

 ユファはそんなレインドリヒを見て、呆れた表情を浮かべたかと思うと溜息を吐いた。

「アンタってさ、いつもそうよね? こっちがその気になった後に、ようやく本題に入るから相手側からしたら乗るしかなくなるのよ。全く大した魔術師様だわ」

 そう言いながらもユファは、いつも通りのレインドリヒの態度に薄く笑う。

「いいわよ? 何を言うつもりか分からないけど、私を倒せたらアンタのいう事を聞いてあげてもいい」

 普段の彼女であれば、簡単に相手の言葉に乗るような事は言わないが、レインドリヒはこれまで何度も死闘を繰り返してきたある意味での

 ユファはそれなりにこの男を認めている為に、今のレインドリヒの目を見て首を縦に振るユファだった。

「感謝するよ。ユファ」

 レインドリヒはその言葉を最後に表情を消した。

(ああ、良かった……。これで

 レインドリヒもまた同郷のライバル『ユファ』の強さを誰よりも信頼している。そんなユファが約束をしてくれたのだ。

 ――あとはユファにに、気合を入れるだけだ。

 魔術師の異名を持つレインドリヒは、その異名が名を成す通りの力をこの場で示し始めるのだった。

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