最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第195話 暴走するラルフ
――それから数日が過ぎた。
ユファやシスの魔法による『シティアス』の建物などの修復は進んでいき、ソフィ達がここに来た頃とは比べ物にならない程の復興を見せていた。
そろそろ首都『シティアス』の方の修復作業を終えて、隣町の『ガネーサ』や『レイズ』城の修復に移行してもいい頃合いかもしれない。
そんな風にユファとシスが話し合っていると遠くから戦闘の音が聞こえてくるのだった。
二人は喧騒の方に向かって歩いていくと、街の外れでラルフが戦っている姿が見えた。
「へえ?」
ユファは感心するようにラルフを見た後に感嘆の声をあげた。
何故なら数日前に彼女の主であるソフィから、今の目の前で戦っているラルフに治療を施すように頼まれた時に見た彼と、今の彼ではまるで別人のような強さになっているからであった。
「あの子、もっと強くなるわね」
ラルフはハウンド・ドッグの『ハウンド』と戦っていた。ハウンドはソフィから直接名前を頂戴した『ロード』の一体で『ソフィ』直属の配下である。
戦力値が3000万を越えるハウンドを相手に、人間であるラルフは上手く立ち回っていた。
まだまだ力の差があり本当の殺し合いであれば、ラルフはハウンドには勝てないだろうがユファは長年の戦闘経験から、ラルフの戦闘センスを即座に見抜いた。
一度ミスと呼べる受け方をした後は、すぐに修正をしながら戦っているのである。
格上の相手と戦いながらそこまで冷静に立ち回れるのだから、強くならないわけがない。
「あの人はソフィさんの配下のラルフさんね。何度か私はあったことがあるけど、確かその時は戦力値が600万くらいだった筈なのだけど……」
そう言われてユファは、漏出でラルフの戦力値を測る。
【種族:人間 名前:ラルフ・アンデルセン 戦力値:1150万】。
「待ちなさい? 本当に数日前に600万だったの?」
シスも戦力値を確認したのだろう、驚いていた顔を浮かべていた。
確かに戦力値をあげるには命懸けで強者と戦う事が近道ではあるが、それでも戦力値を上げようとするならば、死地を幾度なく潜り抜けなくてはいけない筈である。
こんな短期間で上がるのは、流石にあり得ないと二人は思うのだった。
「シス殿、ユファ殿お疲れ様です」
近くで見ていた事に気づいたのだろうベアが、二人に声をかけてきた。
「あら? 貴方はソフィ様の配下のアウルベアの『ベア』だっけ?」
ユファがそう言うとコクリとベアは頷いて見せた。
「建物の修復の方は終わったのですか?」
「ええ。もうそろそろシティアスの方の修復作業を終えて次に移ろうかというところ……なんだけど、ちょっと聞かせて欲しい事があるのだけどいいかしら?」
「ええ、私に分かる事でしたらお答えします。何でもお気軽に聞いて下さい」
にこやかにそう言うベアの言葉を聞いて、ユファは先程シスと話をしていた疑問をベアにぶつけるのだった。
「この短期間でかなり彼は成長をしているように思うのだけど、何か貴方達と戦う事によって、戦力値を上げる特別な秘策でもあるのかしら?」
冗談交じりにユファがそう言うと、ベアは真顔のままで答える。
「はははは! 何もありませんよ。単純にラルフ殿は戦い続けているのですよ」
「……えっと、戦い続けてって……。も、もしかしてだけど、私が治癒魔法をかけにいったあの日からずっと戦っているというわけではないんでしょ?」
ベアはその通りだと頷いて見せた。
「いやはや、どんどんと強くなるラルフ殿を見ていると、私たちも協力をしたくなりましてね?」
「う、嘘でしょ……?」
呆然とした表情でベアの顔を見るユファだった。
ベアは『ラルフ殿はたいしたものです』と褒めたたえているが、ユファの耳にはもうベアの言葉は入ってきていない。
「ちょっと、悪いわね」
ベアがまだ喋ろうとしているのを制止して、ユファは戦闘中のラルフの元へ駆け寄っていく。
ハウンドとラルフは、ユファの存在に気づき手を止める。
「すみませんが、今は戦闘に集中させていただきたいのですが」
少し苛立ち混じりにそう言って、ラルフは近づいてくるユファを遠ざけようとする。
「ええ、少しだけ確認をしたら存分に戦わせてあげるから、こちらを向きなさい」
しかしユファの言葉を無視するように、ラルフはこちらを見ない。
「こちらを見なさい」
ユファは凛とした声で再び同じセリフを告げる。
ラルフは舌打ちをしながらこれ以上は誤魔化しきれないと感じて、ゆっくりとユファの方を振り返る。
「馬鹿な子ね……。死にたいの?」
ラルフの状態は見る者がみれば、とても危うい状態だった。
連日連夜最低限度の休憩で戦い続けているラルフは疲労困憊と、睡眠不足の状況下で強引に集中力を高める事で、自分の身体を誤魔化している状態で戦い続けていたのだった。
――ランナーズ・ハイという言葉を知っているだろうか?
マラソンなどの運動で走り続けると、体に負荷がかり限界を感じ始めた時に自分の体を守るために、ベータ・エンドルフィンというものが脳で分泌されて、脳がハイになりストレスを打ち消して疲労などを一時的に掻き消す現象と言われている。
この状態になると多幸感に包まれて辛いと感じなくなりもっと行ける、もっと頑張れると言った気になるのだが、負荷がかかっている状態が休みを取った時のように解消されている訳ではない。
この状態が続いてる時は、痛みや苦しみなどが麻痺していてなんともないが、元の状態に戻った時にセロトニンが枯渇されていきノルアドレナリンが減少する。
――そうなると、どうなるのか?
不機嫌状態になり今までの多幸感が失われて、ストレスが一気に爆発して暴力的になる。
そしてその時に自分の冷静さは失われて身体が疲れている事に気づかず無理をしてしまい、取り返しのつかないことになる事があるとても危険な状態なのである。
「邪魔をしないでいただきたい! 私はもっと強くならなければ、奴に追いつけない!」
こういう風に普段の冷静さを失い、普段であればやらないミスを犯しやすくなるのである。
そして強引に休ませようとしたユファに対して冷静さを失っているラルフは、払いのけようと力をこめて、殴りかかりに近い状態でユファに手を出す。
ユファは『淡く青い』オーラを瞬時に出して、ラルフの暴力的な手を右手で掴んだ。
そしてその掴んだラルフの手が軋む程の強さで握りしめる。
めきめきという嫌な音と共に、ユファはラルフの右手の指を粉砕していき骨折させる。
「自分を見失った挙句に他人に迷惑をかける馬鹿が、ソフィ様の配下だと宣う事は、私が許さない!」
ユファの暴力的な声がずしりと、疲弊しきった体ごとラルフの耳をつんざく。
「!!」
そして次の瞬間には、ユファの目が金色になる。
「冷静さを取り戻すまで眠りなさい」
大魔王化状態のユファが魔瞳『金色の目』をラルフに使う。
強制的に意識をシャットアウトさせられたラルフは、膝から崩れ落ちてその場で気を失った。
「ら、ラルフ殿!」
ベアが慌ててラルフを介抱しようと駆け寄るが、そのベアもまたユファの近くで縫い付けられるように動けなくなる。
――ユファがベアを睨んでいる為である。
「貴方もこいつの修行に付き合うのならば、ちゃんと監督しなさい! 無理をさせて死なせたら、意味がないでしょう! あの方の配下ならしっかりと考えなさい!」
嵐のようにその場に、風が吹き荒れる。
ユファの怒りによって『淡く青い』オーラが吹き荒れて、周りに衝撃を与え続けているのだった。
大魔王の余波をまともに受けて、真なる魔王に近い魔物のベアが全く動けない。
「も、申し訳ない、以後気を付けます!」
何とかベアが謝罪を口にするとユファは深呼吸をして、ようやく『大魔王化』を止めるのだった。
それでも周りにいた『ロード』の五体やソフィの配下達は『大魔王』ユファを見て怯えてそして小刻みに震える。
「ま、まぁまぁ、落ち着いて! ほら、ヴェル? 建物修復しないと、ねっ? ほら、ヴェルさーん? 行きましょうねぇ……?」
シスは後ろからユファに抱き着いて、この場から強引に彼女を遠ざけていく。
去り際にシスはこちらを見てシュンとしていたベアに『ごめんね?』という気持ちを込めて、申し訳無さそうにウインクして去って行った。
ユファやシスの魔法による『シティアス』の建物などの修復は進んでいき、ソフィ達がここに来た頃とは比べ物にならない程の復興を見せていた。
そろそろ首都『シティアス』の方の修復作業を終えて、隣町の『ガネーサ』や『レイズ』城の修復に移行してもいい頃合いかもしれない。
そんな風にユファとシスが話し合っていると遠くから戦闘の音が聞こえてくるのだった。
二人は喧騒の方に向かって歩いていくと、街の外れでラルフが戦っている姿が見えた。
「へえ?」
ユファは感心するようにラルフを見た後に感嘆の声をあげた。
何故なら数日前に彼女の主であるソフィから、今の目の前で戦っているラルフに治療を施すように頼まれた時に見た彼と、今の彼ではまるで別人のような強さになっているからであった。
「あの子、もっと強くなるわね」
ラルフはハウンド・ドッグの『ハウンド』と戦っていた。ハウンドはソフィから直接名前を頂戴した『ロード』の一体で『ソフィ』直属の配下である。
戦力値が3000万を越えるハウンドを相手に、人間であるラルフは上手く立ち回っていた。
まだまだ力の差があり本当の殺し合いであれば、ラルフはハウンドには勝てないだろうがユファは長年の戦闘経験から、ラルフの戦闘センスを即座に見抜いた。
一度ミスと呼べる受け方をした後は、すぐに修正をしながら戦っているのである。
格上の相手と戦いながらそこまで冷静に立ち回れるのだから、強くならないわけがない。
「あの人はソフィさんの配下のラルフさんね。何度か私はあったことがあるけど、確かその時は戦力値が600万くらいだった筈なのだけど……」
そう言われてユファは、漏出でラルフの戦力値を測る。
【種族:人間 名前:ラルフ・アンデルセン 戦力値:1150万】。
「待ちなさい? 本当に数日前に600万だったの?」
シスも戦力値を確認したのだろう、驚いていた顔を浮かべていた。
確かに戦力値をあげるには命懸けで強者と戦う事が近道ではあるが、それでも戦力値を上げようとするならば、死地を幾度なく潜り抜けなくてはいけない筈である。
こんな短期間で上がるのは、流石にあり得ないと二人は思うのだった。
「シス殿、ユファ殿お疲れ様です」
近くで見ていた事に気づいたのだろうベアが、二人に声をかけてきた。
「あら? 貴方はソフィ様の配下のアウルベアの『ベア』だっけ?」
ユファがそう言うとコクリとベアは頷いて見せた。
「建物の修復の方は終わったのですか?」
「ええ。もうそろそろシティアスの方の修復作業を終えて次に移ろうかというところ……なんだけど、ちょっと聞かせて欲しい事があるのだけどいいかしら?」
「ええ、私に分かる事でしたらお答えします。何でもお気軽に聞いて下さい」
にこやかにそう言うベアの言葉を聞いて、ユファは先程シスと話をしていた疑問をベアにぶつけるのだった。
「この短期間でかなり彼は成長をしているように思うのだけど、何か貴方達と戦う事によって、戦力値を上げる特別な秘策でもあるのかしら?」
冗談交じりにユファがそう言うと、ベアは真顔のままで答える。
「はははは! 何もありませんよ。単純にラルフ殿は戦い続けているのですよ」
「……えっと、戦い続けてって……。も、もしかしてだけど、私が治癒魔法をかけにいったあの日からずっと戦っているというわけではないんでしょ?」
ベアはその通りだと頷いて見せた。
「いやはや、どんどんと強くなるラルフ殿を見ていると、私たちも協力をしたくなりましてね?」
「う、嘘でしょ……?」
呆然とした表情でベアの顔を見るユファだった。
ベアは『ラルフ殿はたいしたものです』と褒めたたえているが、ユファの耳にはもうベアの言葉は入ってきていない。
「ちょっと、悪いわね」
ベアがまだ喋ろうとしているのを制止して、ユファは戦闘中のラルフの元へ駆け寄っていく。
ハウンドとラルフは、ユファの存在に気づき手を止める。
「すみませんが、今は戦闘に集中させていただきたいのですが」
少し苛立ち混じりにそう言って、ラルフは近づいてくるユファを遠ざけようとする。
「ええ、少しだけ確認をしたら存分に戦わせてあげるから、こちらを向きなさい」
しかしユファの言葉を無視するように、ラルフはこちらを見ない。
「こちらを見なさい」
ユファは凛とした声で再び同じセリフを告げる。
ラルフは舌打ちをしながらこれ以上は誤魔化しきれないと感じて、ゆっくりとユファの方を振り返る。
「馬鹿な子ね……。死にたいの?」
ラルフの状態は見る者がみれば、とても危うい状態だった。
連日連夜最低限度の休憩で戦い続けているラルフは疲労困憊と、睡眠不足の状況下で強引に集中力を高める事で、自分の身体を誤魔化している状態で戦い続けていたのだった。
――ランナーズ・ハイという言葉を知っているだろうか?
マラソンなどの運動で走り続けると、体に負荷がかり限界を感じ始めた時に自分の体を守るために、ベータ・エンドルフィンというものが脳で分泌されて、脳がハイになりストレスを打ち消して疲労などを一時的に掻き消す現象と言われている。
この状態になると多幸感に包まれて辛いと感じなくなりもっと行ける、もっと頑張れると言った気になるのだが、負荷がかかっている状態が休みを取った時のように解消されている訳ではない。
この状態が続いてる時は、痛みや苦しみなどが麻痺していてなんともないが、元の状態に戻った時にセロトニンが枯渇されていきノルアドレナリンが減少する。
――そうなると、どうなるのか?
不機嫌状態になり今までの多幸感が失われて、ストレスが一気に爆発して暴力的になる。
そしてその時に自分の冷静さは失われて身体が疲れている事に気づかず無理をしてしまい、取り返しのつかないことになる事があるとても危険な状態なのである。
「邪魔をしないでいただきたい! 私はもっと強くならなければ、奴に追いつけない!」
こういう風に普段の冷静さを失い、普段であればやらないミスを犯しやすくなるのである。
そして強引に休ませようとしたユファに対して冷静さを失っているラルフは、払いのけようと力をこめて、殴りかかりに近い状態でユファに手を出す。
ユファは『淡く青い』オーラを瞬時に出して、ラルフの暴力的な手を右手で掴んだ。
そしてその掴んだラルフの手が軋む程の強さで握りしめる。
めきめきという嫌な音と共に、ユファはラルフの右手の指を粉砕していき骨折させる。
「自分を見失った挙句に他人に迷惑をかける馬鹿が、ソフィ様の配下だと宣う事は、私が許さない!」
ユファの暴力的な声がずしりと、疲弊しきった体ごとラルフの耳をつんざく。
「!!」
そして次の瞬間には、ユファの目が金色になる。
「冷静さを取り戻すまで眠りなさい」
大魔王化状態のユファが魔瞳『金色の目』をラルフに使う。
強制的に意識をシャットアウトさせられたラルフは、膝から崩れ落ちてその場で気を失った。
「ら、ラルフ殿!」
ベアが慌ててラルフを介抱しようと駆け寄るが、そのベアもまたユファの近くで縫い付けられるように動けなくなる。
――ユファがベアを睨んでいる為である。
「貴方もこいつの修行に付き合うのならば、ちゃんと監督しなさい! 無理をさせて死なせたら、意味がないでしょう! あの方の配下ならしっかりと考えなさい!」
嵐のようにその場に、風が吹き荒れる。
ユファの怒りによって『淡く青い』オーラが吹き荒れて、周りに衝撃を与え続けているのだった。
大魔王の余波をまともに受けて、真なる魔王に近い魔物のベアが全く動けない。
「も、申し訳ない、以後気を付けます!」
何とかベアが謝罪を口にするとユファは深呼吸をして、ようやく『大魔王化』を止めるのだった。
それでも周りにいた『ロード』の五体やソフィの配下達は『大魔王』ユファを見て怯えてそして小刻みに震える。
「ま、まぁまぁ、落ち着いて! ほら、ヴェル? 建物修復しないと、ねっ? ほら、ヴェルさーん? 行きましょうねぇ……?」
シスは後ろからユファに抱き着いて、この場から強引に彼女を遠ざけていく。
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