最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第194話 基礎戦力値の作り方

 昨夜のベアからの突然の連絡に驚かされたソフィだったが、ラルフが努力して強くなろうとしている事を知ったソフィは嬉しさを隠す事が出来なかった。

 そして喜びをかみしめながらソフィは、リーネたちの待つ場所へと向かう。

 今日はリーネの修行をメインに行い、戦力値をあげる訓練を行う予定である。

 前日にソフィが指定していた修行の場に、リーネとスイレンとシチョウは既に到着していた。

 ひとまずユファとシスの建物の修復が終わるまでの間に、リーネ達の戦力値を上げられるだけ上げておいておこうと考えるソフィであった。

 何故なら建物が修復し終えた後は冒険者ギルドの事や、ヴェルマー大陸の各町を探索したり等で、時間を割く事になるからである。

 暇と言えば語弊があるが、今ならば比較的自由に時間をとれるのだから時間を有効に使うという意味では、ソフィにとってリーネ達の修行が優先されたのだった。

「お主ら早いな。まだまだ約束の時間まではあるようだが」

 ソフィがそう言うとリーネはやる気に満ち溢れている顔で口を開いた。

「私達の修行の為に時間を使ってもらってるからね。遅刻なんてしちゃ失礼でしょ!」

 口ではそう言うリーネだが、内心ではソフィに構ってもらえて嬉しいリーネであった。

「良い心がけだな。よしそれならば早速修行を行おうと思うのだが、シチョウよお主はスイレンの面倒を見てくれんか?」

「ああ、それは構わないが。昨日言っていた期日とやらは決まっているのか?」

「そうだな。ひとまずはシス達の建物の修復の目途が経つまで、と言う事にしておこうか」

 それは暗にという事である。

「まぁ、そんなもんだろうな」

 シチョウも軽くそう返事をするが、リーネとスイレンは嘘だろうと顔を見合わせて驚いていた。

「ま、待ってくれ! そんな簡単に戦力値は上がらないだろう?」

 数日で戦力値が50万程度から200万まで上がるのならば、冒険者ギルドは勲章ランクA以外の者達が居なくなってしまう。

 そんな簡単なものではない筈だと、常識の範囲内にいる二人は目で告げていた。

 しかしソフィは当然だとばかりに頷くと口を開く。

? 想像を絶する努力をしてもらうだけだ」

 ソフィの目は爛々と輝いていた。

「の、望むところだ!」

 スイレンは顔をヒクつかせながら、何とかそう口にする。

「ではスイレンはシチョウに任せるとして、リーネはまず基礎体力の向上からだな」

「お、お手柔らかにお願いします!」

 リーネは敬礼のポーズをとりながらそう言った。

 こうしてソフィの監修で『影忍』二人の修行が本格的に始まるのだった。

 …………

 基礎体力の向上というが、そもそもリーネは全く運動が出来ないわけでもなく、すでに戦力値4万といえばミールガルド大陸ではそれなりに戦える方であり、冒険者の勲章ランクもBと高い。

 ――だが、あくまでそれは人間の平均値としての意味であった。

 ここヴェルマー大陸で同じように冒険者をするには、自衛をする為にかなり戦力値を上げなくてはならない。

 その為の修行であるがまずはどれだけ体力を持つかを、測る意味も兼ねて持久走から始められた。

 しかし単に走るだけではなく、長距離だというのに全力疾走で動けなくなるまでの時間を測るといわれた。

 ソフィからその言葉を聞いたリーネは、ソフィに構ってもらえて嬉しいという気持ちは一瞬で吹き飛ぶのであった。

 そして本当にが始まるのだった。

 その内容通りに全力疾走での持久走なのだが、あくまで背後から一定の速度を保ちながら追いかけてくるソフィに抜かれさえしなければ、全力疾走ではなくても構わないらしい。

 それを聞いたリーネは少し気が楽な気持ちを持ったが、それは余りにも大きな間違いだった。

「クックック! もっと速度をあげねば追い抜いてしまうぞ?」

 そのソフィの速度はリーネが全速力で走るのと同意の速度なのであった。

「はぁっはぁっ、ちょ、ちょっと……、は、はやいわよ!」

 影忍の里のトップの実力を持っていたリーネが全速力で走ってようやく、ソフィの一定の速度より早いくらいであった。

 こんなペースでマラソンなんて、絶対にスタミナが保たないとリーネは確信するのであった。

 それでも何とか一時間程は安定して、全速力で走り続ける事ができたリーネだった。

 リーネが普通の人間ではなく『忍者』だからこそ持ったというべき体力であった。

「ご、ごめんソフィ……。ほ、本当にもう無理」

 すでに数百キロは走り切ったリーネは、その場で倒れそうになるところで、一定の速度で背後から迫って来ていたソフィが身体を支えてくれた。

「うむ、そうか。よく頑張ったぞ」

 最初からこのペースで走り切るとは思っていなかったのか、あっさりとソフィは許してくれた。

「よいかリーネよ。休憩はずっと続けても構わぬから、息が整ったら手足のストレッチだけは怠るな」

 満身創痍の状態だったリーネだが、ソフィの言葉に何とか頷く事が出来た。

 整備体操の重要性は、里の修行でもきつく教えられていたのでリーネは反論はしなかった。

 数秒程息を整えた後、前屈や屈伸などを交えながら休憩を繰り返す。

 ようやく落ち着いてきたところでリーネは、水分補給をしてもいいかとソフィに確認を取る。

「動けなくなるような飲み方をせず、少しずつとるのなら構わぬ」

 ソフィの許可を取ったので、スタート地点に用意してきていたリュックから、水を取り出して飲み始めた。

 そしてリーネが水分補給をしている横で、兄のスイレンもまたシチョウと修行をしていた。

 リーネのように基礎体力向上の修行ではなく、どうやら実戦形式のようだった。

「いいか? 大事なのは毎回何度も同じ動きが出来るかどうかだ」

 シチョウの言葉を素直にスイレンは聞く。

「本番で大事なのは自分の身体が思い通りに動き、思い通りに得物を動かす事だ」

 こちらも基礎演習なのだろうが、今のリーネより遥か先の修行をしているとリーネでさえも感じられた。

 リーネは兄と自分の間で、ここまで差があったのかと今更ながらに思うのだった。

 自分が里から出た後、絵を描いたりして世界を旅をしている間も兄は冒険者として、着々と戦力値を高めながら、軍に入る為に行動をしていたのだ。当然に自分と差がついていてもおかしくはなかった。

 リーネはその事を考えながら、やがて立ち上がってソフィの顔を正面から見る。

「ごめん、待たせたわね! 続きをお願いします!」

 休憩前と休憩後でリーネの意欲が全然違ったのを見て、ソフィは嬉しそうに頷く。

 ――そして再び、修行が再開されるのであった。

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