最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第191話 影忍の潜在能力

 冒険者ギルドが正式に設立された事でギルド長レルバノンの元に、次々とレイズの者達が集まり冒険者として加入していく。

 主だった者はやはり『リーゼ』や『レドリア』、そして『シチョウ』も加入するのだった。

 ここではギルドの加入に試験などはないような物で、簡単な書類を提出するだけでギルド加入が出来る仕組みになった。

 ギルド側としても猫の手も借りたい状況であったことに加えて、どんな者でもこの大陸の魔族であれば戦力値が100万を下回ることがない為でもあった。

 ギルドに加入したすぐの状態は『グラン』のギルドでソフィが、Eランクから始められたような特例等もなく、全員が平等にGランクから始める事となる。

 パーティ編成やフレンド登録。それにクエストの受ける条件などは、ミールガルド大陸と変わらずにそのままの規則のままとされた。

 つまり最初のGランクの状態から、いきなりBやAといった高ランクのクエストを受ける事は出来ない。

 しかし現状ではAランクやBランクの依頼などの存在はなく、皆が受けられる『』を対象としたクエストや簡単な素材集めが主となるだろう。

 但し今まで冒険者ギルド等がなかったヴェルマー大陸の者達にとっては、何もかもが無知の状態からスタートする為に、レルバノン達が作ったマニュアルが置かれているギルドの隅のスペースに新規の冒険者達がごった返しているのだった。

 その様子を見て凝り性の『レルバノン』は『近いうちに講習会のような物を開く必要がありますね』と胸中で呟き意欲を高めていた。

 そしてソフィはというと、リーネ達の修行をすると決めてから色々とカリキュラムを考えていたが、遂に本日実行しようとスイレンとリーネを首都シティアスの街の外にある、街道の一角に集めていた。

 その場には何と冒険者となったばかりの『シチョウ』も誘われており『ソフィ』『スイレン』『リーネ』『ラルフ』『シチョウ』がこの場に集まっていた。

「それでソフィ。そろそろ俺が呼ばれた理由を教えてもらってもいいか?」

 シチョウは何故自分が呼ばれたか分からず、ソフィに言われるがままにこの場に連れて来られたのだった。

「うむ。お主がラルグ魔国の幹部の者と戦った時に、一瞬だけ姿を消した技があったであろう?」

 シチョウは少し思い出すかのように考えていたが、やがて合点が言ったようで同意するように声をあげた。

 スイレンとリーネは姿という、ソフィの単語に反応して顔を見合わせる。

「シチョウ殿は、我々のを使えるのか?」

 スイレンがシチョウに問いかける。

「影忍? いや、俺のは『空蝉うつせみ』という『トウジン』に伝わる技を使っているだけだが」

 影忍の忍術を直接見た事がないシチョウは、何かの勘違いでこの場に連れて来られたのかと思い始めた。

「今この場で使ってもらえるか?」

 ソフィがそういうと『シチョウ』は頷く。

「姿を曖昧にするだけでいいのか?」

 ソフィは思案していたが、やがて首を横に振る。

「いや、どうせなら我に向かって斬りかかってみてほしい」

「分かった、寸止めでいいだろう?」

 ソフィはコクリと頷く。

「では、行くぞ」

 前のめりに姿勢を倒しながらゆっくりとシチョウは『空蝉うつせみ』と呼ばれる技を使用する。

 ――次の瞬間『シチョウ』の姿が忽然と消えた。

「!?」

 リーネとスイレンの目から見てもシチョウの技が、影忍の技と瓜二つなのを見て目を丸くする。

 ひゅっという音だけが聞こえたと思うと、ソフィの首筋にシチョウの得物があてられていた。

「見事だ。やはりこれは凄い物だな」

 かつてリーネが『グラン』の冒険者ギルドで、今のようにソフィの目の前で姿を消した時と同じ驚きを感じる事が出来た様子であった。

 確かにこれだけ見事に姿を消されると、同じ魔族同士の殺し合いの範疇であれば、シチョウは負けないだろうなとソフィは思うのだった。

「だが、これが一体何だと言うんだ?」

 刀を鞘に戻しながらシチョウはソフィに疑問をぶつける。

「うむ。それは現物を見てもらったほうが早いな。リーネ?」

「う、うん」

 ソフィに声を掛けられてリーネだが、今のを見ていて何をしたらいいかを理解したリーネは、先程のシチョウと同じように『影忍』の技を使う。

 ――次の瞬間。音もなく完全に姿を消すリーネ。

 これは超速度や『時』を操るような魔法でもなく、リーネ特有の技であった。

「ほう? 確かにこれは完璧な『』だ」

 トウジン魔国の次期頭首と言われていたシチョウを以てして、そう言わしめたリーネであった。

「だが、魔力感知ができる魔族には、姿を隠すだけではどうにもならんだろうな」

 そう言ってシチョウは魔力感知でリーネの場所を探り当てて、肩に手を置こうとする。

「クックック。リーネ、本気で躱して見せよ」

 ソフィがそう言うと、姿が見えないがリーネは頷いているようだった。

 シチョウがリーネの肩を叩こうとしたが、そこに居る筈のリーネの姿がなく、魔力感知で場所が分かっている筈なのにも拘らず……。

 ――

「な、何!?」

 シチョウが再び魔力感知で探るが目の前にいる筈なのに、別のところからもリーネの魔力が感じられたのだった。

 スイレンは自分の妹の完璧な『影忍』の技術に魅入っていた。

(やはり俺の妹は天才だ!)

 ここまで完璧に『影忍』の極意と呼べる術を使える同胞を、影忍の首領であった『スイレン』ですら見たことがなかった。

「もう術を解いてもいい?」

 リーネはシチョウが見ている方向と真逆の位置から声をあげた。

 慌ててシチョウは声の方を振り返ると、ゆらりとリーネの姿が朧げに見え始めてやがて完全に姿を見せた。

「こ、これは凄いな『空蝉うつせみ』とは全く違う」

 シチョウの言葉はソフィ達に『自分達の技よりもさらに優れている』と評価しているように聞こえた。

「この技の凄いところは自らだけではなく、他者にも同じように技をかけて姿を消す事が出来るところなのだ」

 ソフィが過去にリーネによって、姿を隠してもらった時の事を伝えるとシチョウはさらに驚きを見せるのであった。

「自分だけでなく任意に他者にかけられるのか? そうであるならば、まるでこれは技法というよりも一種の『魔法』と呼べる代物だな」

 リーネは自分の技術を評価されて顔を赤くしてテレていた。

「しかし完全に場所を把握していたと思ったが、どうやったんだ?」

 シチョウがリーネに問うとリーネは静かに口を開いた。

「二つの技を使ったのよ。一つ目は存在を遮断する忍術、そして触れられそうになった瞬間に、もう一つの忍術『分身』という技で

 忍者というものが分からないシチョウは、疑問の表情を浮かべながらリーネの言葉に耳を傾ける。

「分身? 存在を二つに分ける? お、お前二人に増える事が出来るのか?」

 リーネはコクリと頷いた。

「厳密に言うと100の魔力を50ずつに分けて、一人を二人分に分ける感じかな」

 シチョウは先程までの単なる『人間』の少女を見る目ではなく、恐ろしい者を見る目で『リーネ』を見る。

 何故シチョウがそんな目をするか。それはこの『分身』という技だけではなく、先程の『空蝉うつせみ』のように姿を消す技と組み合わせる事で、恐ろしい連携の攻撃が出来ると踏んだからである。

 もしもだが目の前の少女が、自分と同じ程の強さを身に着けた場合の事を考えると恐ろしい。

「可能性を感じるであろう?」

 ソフィがクックックと笑いながらリーネを褒め讃える。

「ああ。人間にしておくのはくらいだ」

 もし魔族であったなら『上位魔族』程度であっても十分な脅威の存在となっていただろう。

「そこで我が鍛えてやろうと思ってな。良ければお主にも手伝ってもらいたいのだが。よいか?」

 ソフィがシチョウに問いかけると、笑みを浮かべて頷いた。

「成程、面白いじゃないか? 俺で手伝えることがあるのなら手伝うぞ」

 ソフィはそのシチョウの返答に満足そうに頷くのだった。

 そしてリーネとスイレンは互いに顔を見合わせて、協力者が増えたことに嬉しそうに頷き合うのだった。

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