最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第150話 ヴェルトマーとの出会い6
「なんだと? もう一度言ってくれないか?」
先程この部屋でとんでもない事を口走った『ヴェルトマー』に対して、この国のNo.4である近接近衛部隊の隊長『ラティオ』は眉をひそめながらそう告げた。
「だから私がそのレルバノンとかいう奴を消してあげるから、それを行う為に必要な指揮権及び指揮系統の権限等を一時的でいいから、私に譲りなさいと告げたのよ」
ヴェルトマーは淡々ととんでもない事を告げた。
軍の指揮を執るという事は国の存亡を一手に担うという事と同義であり、そんな事を軍に属する者達で行えるのは『魔法部隊』隊長の『リーゼ』、そして『近接近衛部隊』隊長の『ラティオ』のみであった。
これは『魔法部隊』副長の『エルダー』や『近接近衛部隊』副長の『テレーゼ』であっても、通常では許可される事はなくこれまでの歴史上で前例も無かった事である。
その軍の指揮を執る立場を寄こせと口にしたのが、入隊したばかりの新人である『ヴェルトマー』が、この非常に逼迫した状況に陥っている中で、飄々とした態度で口にしたのである。
ラティオが不満を抱くのも当然であると言えた。
これには流石に『リーゼ』や『エルダー』も驚いた顔を浮かべてはいるが、当然の事のように口を挟む様子は無かった。
その事に『セレス』女王や他の幹部達は訝しげな表情を浮かべる。
普段であればこういう時に一番最初に咎めるのが、口うるさい『リーゼ・フィクス』の筈だからである。
しかしいくら待っても『リーゼ』の口から言葉が出る事はなかった。
流石に今後の行く末がかかっていると言える程の重要な会議が良くない方向へと向かいつつある、この異様とも呼べる空気を何とかしようと仕方なく『セレス』女王が動くのであった。
「貴方は、最近シスに魔法を教えている『ヴェルトマー』といったかしら?」
セレス女王はシスの横にべったりと張り付いている『ヴェルトマー』の方を見ながら告げた。
「はい。そうですよ女王様?」
最近入隊したばかりの一介の新人の兵士が、大国の女王が直接名指しで声を掛けたというのに、全く怯む様子をみせずに『ヴェルトマー』はニコリと笑みを浮かべて返事をする。
「娘を可愛がってくれている事には感謝しています。でもねヴェルトマー? 今の私達は国の存続がかかっている程のとても真剣な会議で話をしているのです」
「ええ、どうやらそのようですね? 何やら大変重要な拠点があっさりと落されてしまったようですねぇ? 全くそんなに重要な拠点なのでしたら、もっと力を入れて守らないといけませんよ」
とんでもない返事をする『ヴェルトマー』に唖然としているのは『セレス』女王だけではなく、その場に居る『リーゼ』や『シス』を含めた全員が、彼女に視線を向けながら目を丸くしていた。
「どうやら相当にお困りの様子なのでしょう? この可愛いシスがこれだけ困った表情を浮かべるのを見るのは私にはとても辛いので、仕方なくこの私が手を貸しましょう」
ヴェルトマーはやれやれとばかりにそう告げて、溜息を吐きながら両方の手のひらを上に向けて肩をすくめるのであった。
ヴェルトマーのあまりのその言葉と態度に、ラティオが苛立ち混じりに口を開いた。
「ば、馬鹿にするな!! お前みたいな新人に一体何が出来るというのだ!?」
ばんっと机を叩く大きな音を立てたかと思うと、その場で激昂してラティスは立ち上がる。
だが『ヴェルトマー』は強面のラティオの恐ろしい一喝に対して少しも怯える様子はなく、ゆっくりと視線をラティオに向けただけであった。
ヴェルトマーの視線上に居る『エルダー』は、そのヴェルトマーの不敵な笑みを見てしまい、自分の胸の前で必死に腕を組んだかと思うとガタガタと震え始める。
その場に居る者達が一様に声を揃えて大丈夫なのかと声を掛けたくなる程に彼女の震えが大きくなっていき、必死に自分の身体を守る様にぎゅっと自分の体を抱きながら、視線を決して合わされないように自分の足元を必死に見つめ続けていた。
直接この『ヴェルトマー』から本当の殺意を受けた事のある『エルダー』にとって、ヴェルトマーを怒らせる事がどれ程までに恐ろしい事なのか――。
決してこの場で口には出せないが『エルダー』にとっては『鮮血のレルバノン』よりも、味方である筈の『ヴェルトマー』に誰よりも恐怖を感じていた。
大国である『ラルグ』『トウジン』と並ぶ『レイズ』魔国だが、その中でも『魔法』が随一と呼ばれる程の『レイズ』魔国で魔法部隊の副長にまで上り詰めた彼女が、これまでの生涯で見たことがない程の『魔力』が込められた『魔法』を数千という規模の『魔法陣』を展開された後に、その『ヴェルトマー』にお前を殺すと告げられた経験をした事のある彼女にとって、『ヴェルトマー』に対して意見なんて大それた事を行える者などこの世に存在する筈がないと深層心理に恐怖と共に植え付けられていた。
だからこそ今の彼女が考えている事はラティオに対して『お願いだからこれ以上、ヴェルトマーを怒らせないで欲しい』という必死の哀願であった。
そんな『エルダー』の考えている事など分かる筈もなく、ヴェルトマーとラティオのやり取りは着々と進んでいく。
「ふふふ、何が出来るかしら? 貴方が試してみる?」
ヴェルトマーはラティオを嘲笑うかの如く、鼻を鳴らして挑発をする。
流石にここまで馬鹿にされたラティオは、もう後には引けなくなるのであった。
「礼儀知らずもここまで行けば才能だな」
そしてラティオは恐ろしい形相をしたまま、ヴェルトマーの前まで歩いていく。
セレス女王を含めたその場に居る『エルダー』を除いた全員が二人のやり取りを視線で追いかける。
エルダーは自分の足元を見ながら必死に、明日は何を作って食べようかなとか、自分の大好きなモノで頭の中をいっぱいにするのであった。
「少し付き合え」
そう言ってラティオはそのまま会議室を出ていった。
流石にセレス女王も一部始終を見ていたために事情を汲んで、溜息を吐きながらも呼び止める真似はしなかった。
「あーらら、流石にこの場で始める程の馬鹿ではないようね」
右手の袖口を口元に持っていって上品に笑うヴェルトマーであった。セレス女王は静かにヴェルトマーに魔法をかける。
(『漏出』)。
【種族:??? 名前:ヴェルトマー 年齢:???
魔力値:測定不能 戦力値:測定不能 所属:シス専属の護衛】。
(わ、私の魔力をもってしても、何一つ情報が開示されないですって!?)
測定不能と表記されるという事は、隠蔽魔法の有無の前にその『漏出』を放った者の『魔力』がその推し量ろうとした相手の魔力を大きく下回るという事の証左である。
セレス女王の魔力は彼女の母親であった、先代レイズ魔国王である『エリス』女王には及ばないモノではあるが、現在のこの『レイズ』魔国の中では最も高く、そのセレス女王が『漏出』を用いたにも拘わらず表示されないという事は、彼女が女王となり現体制となってからは一度たりとも無かった事であった。
そしてこっそりと漏出を使ったセレス女王であったが、驚愕の表情を浮かべていると『ヴェルトマー』が『セレス』女王を見て嘲笑った。
セレス女王が声に出して魔法を詠唱したわけでもないため、気づかれる筈もないというのに『ヴェルトマー』には全てを見透かされているように感じてしまうのであった。
――そしてその瞬間に、セレス女王は悟ってしまう。
この『ヴェルトマー』が、自分を越える程の『魔族』だという事に。
「ごめんねシス。どうやらさっきの男に付き合わなきゃ行けなくなっちゃった。でも直ぐに『魔法』を教えてあげるから、部屋でお利口さんにして待っててね?」
突然に話を振られたシスだったが、直ぐに懐いている彼女に対してコクリと頷くのであった。
「うふふ、本当にあなたは可愛いわね!」
慈愛に溢れたその笑顔は彼女の本質を知らなければ、恋に落ちても仕方がない程であった。
……
……
……
先程この部屋でとんでもない事を口走った『ヴェルトマー』に対して、この国のNo.4である近接近衛部隊の隊長『ラティオ』は眉をひそめながらそう告げた。
「だから私がそのレルバノンとかいう奴を消してあげるから、それを行う為に必要な指揮権及び指揮系統の権限等を一時的でいいから、私に譲りなさいと告げたのよ」
ヴェルトマーは淡々ととんでもない事を告げた。
軍の指揮を執るという事は国の存亡を一手に担うという事と同義であり、そんな事を軍に属する者達で行えるのは『魔法部隊』隊長の『リーゼ』、そして『近接近衛部隊』隊長の『ラティオ』のみであった。
これは『魔法部隊』副長の『エルダー』や『近接近衛部隊』副長の『テレーゼ』であっても、通常では許可される事はなくこれまでの歴史上で前例も無かった事である。
その軍の指揮を執る立場を寄こせと口にしたのが、入隊したばかりの新人である『ヴェルトマー』が、この非常に逼迫した状況に陥っている中で、飄々とした態度で口にしたのである。
ラティオが不満を抱くのも当然であると言えた。
これには流石に『リーゼ』や『エルダー』も驚いた顔を浮かべてはいるが、当然の事のように口を挟む様子は無かった。
その事に『セレス』女王や他の幹部達は訝しげな表情を浮かべる。
普段であればこういう時に一番最初に咎めるのが、口うるさい『リーゼ・フィクス』の筈だからである。
しかしいくら待っても『リーゼ』の口から言葉が出る事はなかった。
流石に今後の行く末がかかっていると言える程の重要な会議が良くない方向へと向かいつつある、この異様とも呼べる空気を何とかしようと仕方なく『セレス』女王が動くのであった。
「貴方は、最近シスに魔法を教えている『ヴェルトマー』といったかしら?」
セレス女王はシスの横にべったりと張り付いている『ヴェルトマー』の方を見ながら告げた。
「はい。そうですよ女王様?」
最近入隊したばかりの一介の新人の兵士が、大国の女王が直接名指しで声を掛けたというのに、全く怯む様子をみせずに『ヴェルトマー』はニコリと笑みを浮かべて返事をする。
「娘を可愛がってくれている事には感謝しています。でもねヴェルトマー? 今の私達は国の存続がかかっている程のとても真剣な会議で話をしているのです」
「ええ、どうやらそのようですね? 何やら大変重要な拠点があっさりと落されてしまったようですねぇ? 全くそんなに重要な拠点なのでしたら、もっと力を入れて守らないといけませんよ」
とんでもない返事をする『ヴェルトマー』に唖然としているのは『セレス』女王だけではなく、その場に居る『リーゼ』や『シス』を含めた全員が、彼女に視線を向けながら目を丸くしていた。
「どうやら相当にお困りの様子なのでしょう? この可愛いシスがこれだけ困った表情を浮かべるのを見るのは私にはとても辛いので、仕方なくこの私が手を貸しましょう」
ヴェルトマーはやれやれとばかりにそう告げて、溜息を吐きながら両方の手のひらを上に向けて肩をすくめるのであった。
ヴェルトマーのあまりのその言葉と態度に、ラティオが苛立ち混じりに口を開いた。
「ば、馬鹿にするな!! お前みたいな新人に一体何が出来るというのだ!?」
ばんっと机を叩く大きな音を立てたかと思うと、その場で激昂してラティスは立ち上がる。
だが『ヴェルトマー』は強面のラティオの恐ろしい一喝に対して少しも怯える様子はなく、ゆっくりと視線をラティオに向けただけであった。
ヴェルトマーの視線上に居る『エルダー』は、そのヴェルトマーの不敵な笑みを見てしまい、自分の胸の前で必死に腕を組んだかと思うとガタガタと震え始める。
その場に居る者達が一様に声を揃えて大丈夫なのかと声を掛けたくなる程に彼女の震えが大きくなっていき、必死に自分の身体を守る様にぎゅっと自分の体を抱きながら、視線を決して合わされないように自分の足元を必死に見つめ続けていた。
直接この『ヴェルトマー』から本当の殺意を受けた事のある『エルダー』にとって、ヴェルトマーを怒らせる事がどれ程までに恐ろしい事なのか――。
決してこの場で口には出せないが『エルダー』にとっては『鮮血のレルバノン』よりも、味方である筈の『ヴェルトマー』に誰よりも恐怖を感じていた。
大国である『ラルグ』『トウジン』と並ぶ『レイズ』魔国だが、その中でも『魔法』が随一と呼ばれる程の『レイズ』魔国で魔法部隊の副長にまで上り詰めた彼女が、これまでの生涯で見たことがない程の『魔力』が込められた『魔法』を数千という規模の『魔法陣』を展開された後に、その『ヴェルトマー』にお前を殺すと告げられた経験をした事のある彼女にとって、『ヴェルトマー』に対して意見なんて大それた事を行える者などこの世に存在する筈がないと深層心理に恐怖と共に植え付けられていた。
だからこそ今の彼女が考えている事はラティオに対して『お願いだからこれ以上、ヴェルトマーを怒らせないで欲しい』という必死の哀願であった。
そんな『エルダー』の考えている事など分かる筈もなく、ヴェルトマーとラティオのやり取りは着々と進んでいく。
「ふふふ、何が出来るかしら? 貴方が試してみる?」
ヴェルトマーはラティオを嘲笑うかの如く、鼻を鳴らして挑発をする。
流石にここまで馬鹿にされたラティオは、もう後には引けなくなるのであった。
「礼儀知らずもここまで行けば才能だな」
そしてラティオは恐ろしい形相をしたまま、ヴェルトマーの前まで歩いていく。
セレス女王を含めたその場に居る『エルダー』を除いた全員が二人のやり取りを視線で追いかける。
エルダーは自分の足元を見ながら必死に、明日は何を作って食べようかなとか、自分の大好きなモノで頭の中をいっぱいにするのであった。
「少し付き合え」
そう言ってラティオはそのまま会議室を出ていった。
流石にセレス女王も一部始終を見ていたために事情を汲んで、溜息を吐きながらも呼び止める真似はしなかった。
「あーらら、流石にこの場で始める程の馬鹿ではないようね」
右手の袖口を口元に持っていって上品に笑うヴェルトマーであった。セレス女王は静かにヴェルトマーに魔法をかける。
(『漏出』)。
【種族:??? 名前:ヴェルトマー 年齢:???
魔力値:測定不能 戦力値:測定不能 所属:シス専属の護衛】。
(わ、私の魔力をもってしても、何一つ情報が開示されないですって!?)
測定不能と表記されるという事は、隠蔽魔法の有無の前にその『漏出』を放った者の『魔力』がその推し量ろうとした相手の魔力を大きく下回るという事の証左である。
セレス女王の魔力は彼女の母親であった、先代レイズ魔国王である『エリス』女王には及ばないモノではあるが、現在のこの『レイズ』魔国の中では最も高く、そのセレス女王が『漏出』を用いたにも拘わらず表示されないという事は、彼女が女王となり現体制となってからは一度たりとも無かった事であった。
そしてこっそりと漏出を使ったセレス女王であったが、驚愕の表情を浮かべていると『ヴェルトマー』が『セレス』女王を見て嘲笑った。
セレス女王が声に出して魔法を詠唱したわけでもないため、気づかれる筈もないというのに『ヴェルトマー』には全てを見透かされているように感じてしまうのであった。
――そしてその瞬間に、セレス女王は悟ってしまう。
この『ヴェルトマー』が、自分を越える程の『魔族』だという事に。
「ごめんねシス。どうやらさっきの男に付き合わなきゃ行けなくなっちゃった。でも直ぐに『魔法』を教えてあげるから、部屋でお利口さんにして待っててね?」
突然に話を振られたシスだったが、直ぐに懐いている彼女に対してコクリと頷くのであった。
「うふふ、本当にあなたは可愛いわね!」
慈愛に溢れたその笑顔は彼女の本質を知らなければ、恋に落ちても仕方がない程であった。
……
……
……
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
23252
-
-
104
-
-
3395
-
-
1
-
-
59
-
-
29
-
-
58
-
-
4503
-
-
3087
コメント