最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第129話 王室に招かれたソフィ

 ラルグ魔国軍の強襲を撃退したソフィは『ケビン』王国に集っていた貴族達に招かれて『ケビン』王の居る王室に足を踏み入れた。

「よくぞ参られた」

 この大陸に存在する二大国家の内の一つ『ケビン』王国。

 その国の王『ケビン・ダ・ブルモス・七世』にソフィは名指しで迎えられた。

 王に命令されてここまでソフィを連れてきたのは、数か月前にギルド対抗戦に来賓として招かれた『ケビン』王国の大貴族『マーブル』侯爵であった。

「お初にお目にかかる、我はソフィと申す者」

 王族や貴族でもない単なる冒険者の少年が、王や大貴族の前で余りにも堂々とした様子で自己紹介を行った為に、その場に居る者達は感心するようにソフィを見るのであった。

「あれだけの馬鹿げた『魔法』を使って見せたのだから、一体どんな少年が来るかと思っていたが、礼儀もしっかりしておるようだ」

 感心したとばかりにケビン王は頷く。

 普通の冒険者であれば、大人であってもこの場では緊張してしまい、上手く喋る事す出来ないであろう。

 しかし『アレルバレル』の『魔界』の統治を数千年と続けてきたソフィにとって、この場が緊張とは無縁なのも仕方がない事であった。

 この場に居る王族や貴族などがいくらそれらしく振る舞っていても、まだまだ隙の多い若者達という風にしかその両目には映ってはいないからである。

 そしてソフィは一人一人の貴族の顔を見ながらあらゆる事を判断していく。

(どうやらこの国は、のようだな)

 ソフィはこの国の派閥の関係性を即座に見極める。

(王の横にいる我をあまり歓迎していない男、あれがこの国の公爵……、といったところだろうな)

 ――ソフィの考えはこれ以上ない程に的確であった。

 王の横に並び立つ貴族こそが『ステイラ公爵』であり、何故この場にと言いたげな表情をしてソフィを見下している。

 ケビン王が許してなければ『即刻この部屋から出ていけ』とでも言われそうであった。

 むしろソフィは早くレルバノンの屋敷に戻りたいと思っている為に『即刻出ていけ!』とでも言われて退室をさせられる事を望む程であった。

 では何故この場所に素直についてきたかというと『ラルグ』魔国とやらの戦争はまだ、終わっていないという事を『ケビン』国王に伝える為であった。

 すでに王国軍は壊滅状態である為に、兵を挙げるといった事は出来ないだろうが、王国には王国のプライドというものがあり、戦争が続くとなればそれが邪魔をして無理にでも兵を出そうとするだろう。

 だがそれはソフィ達にとっては、でしかない。

 それを防ぐ為にこの国の防衛のみに人員を注ぎ、決して無茶をしないで欲しいという事を伝える為に、大人しく王室へと招かれたのだった。

「此度の働きは素晴らしいものであった。ヴェルマー大陸の目的は分からぬが突然の開戦。そしてあれ程の規模の魔物達。お主達冒険者が居なければ、我が国はどうなっていた事か」

 感謝の言葉を述べる王だが、隣にいる『ステイラ』公爵は不満そうにソフィ達を見ていた。

 しかし『ケビン』王の言葉はまさに本当の事であった。

 あのままソフィやリディアとった冒険者達が手を出さなければ『ケビン』王国は滅ぼされていたであろう。

 その事は『ステイラ』公爵も分かっている為に、王の言葉に口を挟む事は出来ない。

「その事なのだがなケビン国王。ラルグ魔国とやらの戦争はまだ終わってはおらぬぞ?」

 上機嫌に『ケビン』王が口を開いていたが、ソフィの不穏な言葉を聞いて目を丸くする

「そ、それはどういう事かな? 我々も魔物達が全滅したところを見ていたが?」

 ソフィの言葉に納得出来ていない『ケビン』王以外の貴族達も慌てて頷いた。

「我の知り合いに『レルバノン』という者がおるのだが、その者の話では先の襲撃は先遣隊でしかないそうだ。そしてその先遣隊がやられた以上、奴らは本腰を入れてこれから本気でこの国に攻め込んでくる事だろう」

「な、何じゃとっ……!」

 ケビン王は今の言葉に耳を疑う。

 他の貴族達も絶望といった表情を浮かべて、一様にソフィの顔を見るのだった。

 最強の軍隊と謳われていた王国軍が何も出来ずに魔族達に滅ぼされかけていたのに、あの魔族達が『ヴェルマー』大陸の全軍ではなく、単なる先遣隊だと言われてしまえば、驚愕の表情を浮かべるのは仕方がない事だろう。

「出来れば我たちが迎撃するまでの間、このまま手を出さずに民達をこの城で匿いながら、避難を促してもらえると助かるのだが」

 ソフィがそこまで言うと流石に黙ってはいられなかったのか『ステイラ』公爵が顔を真っ赤にしながら口を開いて怒号をあげるのであった。

「貴様ぁっ! 馬鹿な事を言うでないぞ! 国に対して戦争を仕掛けられておるのに、我々国家の人間が冒険者風情に守られていろとでも言うつもりか!」

 これ以上は我慢が出来ないとばかりに『ステイラ』公爵が遂に本音を漏らした。

 その言葉にソフィの後ろで黙って事の成り行きを見守っていたラルフが、微笑みを浮かべながら口を開いた。

「……に守られなければ、この国はあっさりと滅ぼされて全員死んでいたというのに、大きな口を叩かないで頂きたいですね」

 ラルフの言葉に『ステイラ』公爵は、みるみる顔を赤くしていく。

「な、な、なんだと! き、貴様!! 平民の分際で、誰に向かって口をきいておるかぁっ!」

「おや、これは失礼。何も出来ない癖に功績をあげたソフィ様をたたえるでも感謝をするでもなく、文句だけを述べる発言に、少々思う所がありましてね……」

「ラルフよその辺でよい」

 むしろこれからが相手をどん底へ叩き落とすところなのだと考えていたラルフだが、主であるソフィが制止する以上はここまでだと判断して黙って頷いた。

 ケビン王もさらに口を開こうとするステイラ公爵を止める。

「それで話を戻したいのだが、具体的に我々はどうすればよいのだ?」

 先程までの上機嫌だったケビン王の顔は、もう見る影もなかった。

「我もラルグ魔国とやらが、どの程度の規模で来るかは分からぬ。先遣隊の時のような数であればよいが、あの人数の何倍もというのであれば我らだけでは、全員を助けられるとは安易には言えぬ」

 敵の一部の戦力であろう先遣隊ですら、何も出来ずに国が滅びかけたのだ。

 あれほどの強さ以上の者達が、更なる数を増やして攻めてくるというのであれば、今度こそ国が滅びるのは間違いないだろう。

「だからこそ我らが戦う間、民達を守るために兵を出して欲しいのだ」

 ソフィの言っている事は王国にとっては、至れり尽くせりの筈である。

 しかし自尊心の塊というべきこの国の貴族達にとっては、ソフィの提案はのであった。

「何が目的なのだ? ?」

 何と『ステイラ』公爵はソフィの親切心で言った言葉を、なのかと問い始めたのだった。

 ソフィも流石にこのステイラ公爵の発言には、困った表情を浮かべるのであった。

「ふんっ! もういいだろうソフィ。ここまで言われて俺達が協力する必要が無いだろう」

 今まで黙っていたリディアが、吐き捨てる様に口を開いた。

「金の為なら何でもする浅ましい冒険者風情が調子に乗るなよ! 貴様らの力など借りずとも、我々だけでどうにでもしてみせる! もういい、貴様らは用済みだ! お前らのような憎たらしい平民の顔をこれ以上見ていると気分が悪くなる一方だ! さっさとここから出ていけ!」

 ステイラ公爵は手で虫を払うような仕草を見せながら、ソフィ達に退室を促すのであった。

「ま、待て、ステイラ公爵! 流石に言いすぎじゃぞ!」

 喧騒の中でソフィは、冷静に王とステイラ公爵の力関係を測る。

(妙な事だ。大貴族とはいっても一国の王を差し置いて、ここまで勝手な発言が許されるだろうか?)

 ソフィはこの国家がこのままであるならば近い将来、この国の王が代わるか国家自体が崩壊しかねないと悟る。

 ――強固だと思われる事が呆気なく崩壊するのは、いつの時代も魔族も人間も変わらない。

 畑違いの百人が、百人とも同じ考えを持つ事などあり得ないのだから――。

「まあ余計な事をして欲しくないというのであればそれでもよいが、邪魔だけはしないでもらいたい。以上だ」

 見た目が十歳程の少年に邪魔をするなと言われた事で、先程から既に頭にきていた『ステイラ』公爵はもう傍から見ても顔が真っ赤であった。

「だがこれだけは言うておくぞ。。上の者が下の者を考えずに行動して、皆を不幸にするのは決してしてはならぬ事だ」

「!?」

 そのソフィの言葉は『ケビン』王の心の深い所に突き刺さるのであった。

「ガキが知った風な事を吐くな! さっさと出ていけと言っている!!」

 ステイラ公爵は一切ソフィの言葉に耳を貸さずに、怒鳴りつけるのであった。

「では、行くぞ」

 ソフィが先導して部屋を出ていくと、リディアやラルフにスイレンたちは後をついていく。

 残された部屋の者達は困ったように互いに顔を見合わせていた。

 部屋を出ていくソフィの頭の中は『アレルバレル』の世界の事を思い出していた。

(我は常に民を思っておったが、民達は本音ではどう思っておったのだろうか。合理的に進めすぎる事はあったと思うが、果たして本当に圧政だったであろうか……)

 ソフィはもう『アレルバレル』の世界に居た頃の事を、

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