最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第114話 最後の火
レルバノンの屋敷は凄惨たる状況であった。
壁のあちこちに亀裂が入り天井はレルバノンのオーラで吹き飛ばされて、領地内の庭から近くを流れる川に至るまで、ソフィ達が行った戦闘によって開通してしまっていた。
「……」
屋敷に全員が戻ってきたが、誰も言葉を発せられない。
シスの事を心配しているのはともかく『レルバノン』が、自身の屋敷を見て引いている顔を浮かべているのを見ると、誰もが声を出すのを憚れているのだった。
――しかしこれは『魔王』同士が争った以上、仕方のない事ではあった。
「すまぬな、レルバノンよ……」
ソフィが声を掛けると、ようやくレルバノンは我に返る。
「い、いえいえお気になさらず」
「いや……、俺が軽率にシス女王にレイズ魔国の惨状の事を伝えたのがまずかったな」
シチョウも頭を掻きながら『すまねぇ』と、一言を口にしながらレルバノンに頭を下げた。
「本当に気にしないでください。それより私は貴方が、ここに来た理由を教えていただきたいのですが」
レルバノンはそう言って、シチョウの顔を見る。
「そうだったな。俺がここに来た理由は『ディアス』王に『シス』女王が生きているかどうかを確かめてきてくれと言われたんだ」
そう言ってシチョウは、横で寝かされているシス女王を見た。
「成程、ディアス王が……」
レルバノンはラルグ魔国のNo.2だった頃からトウジン王の事はよく知っている。
そしてそれが意味する理由も理解できた。
(彼をここに派遣した本当の理由はシス女王の生存確認ではなく、シチョウ君を生かすためでしょうね)
レルバノンはディアス王の真意をそう推理した。
(そうせざるを得ないと王が判断したという事はつまり、ディアス王はもう……)
レルバノンはそこまで考えが追い付き、直ぐに今後の主軸を決める。
「シチョウ君、君はすぐにでもヴェルマー大陸へ戻りたいのでしょうが、決して今戻る事はオススメはしません」
レルバノンがそう言うと、直ぐにヴェルマー大陸へと戻ろうと考えていたシチョウは当然反論する。
「何故だ? 俺はディアス王にシス女王の事を伝えねばならない」
放っておくと勝手に戻りかねないと、そう感じたレルバノンは本心を伝えた。
「『ラルグ』魔国と『トウジン』はすでに戦争が開始されているでしょう。そして『レイズ』魔国が滅びた今、万に一つも『トウジン』魔国には勝ち目がない」
「はっ! そんな事は百も承知だ」
レルバノンの言葉にシチョウは反論せず同意する。
「だからどうした? たとえ国が滅ぼされようと俺はトウジンの民だ」
たとえ彼一人になろうとも、憎き敵を滅ぼすために命をかける事に躊躇いはない。
「ディアス王は貴方に何故『ミールガルド』大陸に行くように告げたか、その理由を知りたくはないですか?」
だが、レルバノンの言葉は決意を固めているシチョウでさえ、聞いてみようと思わせる魅惑的な言葉だった。
「ディアス王が俺に『ミールガルド』へ向かわせた理由……だと?」
「ディアス王は、シス女王の生存等気にしていたわけではなく、貴方を生かせるために『ミールガルド』大陸に向かわせたのです」
「!」
流石にその言葉はシチョウを驚かせた。
「すでにディアス王は今回の戦争で『トウジン』魔国が滅ぼされる事は承知だったでしょう。そして大事な『トウジン』の最後の火に、今後を託そうと考えたのでしょう」
間髪入れずにレルバノンは口上を続ける。
「その最後の火がシチョウ君……、貴方だ!」
「俺が『トウジン』の最後の火?」
シチョウが素直にレルバノンの言葉を受け入れるのには理由があった。
それはこのタイミングで『ミールガルド』へ行くように告げた『ディアス』王のシチョウを案じる目をここに来る前に見ていたからだった。
(ディアス王、貴方はあの時俺に生きるように告げたかったのか?)
「そして君がこの大陸に来る二日間の間に、もうすでに戦争は終わっているだろう」
つまり今戻ったところで、戦争は既に終結しているという事だろう。
「そんな……!」
「私が居た頃の『ラルグ』魔国であったならば、戦争がひとたび始まれば各地に駐屯させている全軍を使って全部隊を投入してみせただろう」
それはつまり長く見積もっても二日もあれば『トウジン』という大国であろうと、攻め滅ぼせるという事を暗に告げている。
あくまでラルグが今まで三国で睨み合っていたのは『ラルグ魔国』と『レイズ魔国』、それに『トウジン魔国』の三国でバランスをとっていたからである。
レイズ魔国の『ヴェルトマー』と『シス』が率いていた魔法部隊は統率に優れ、更には『ヴェルトマー』の魔法はレイズ全軍の魔法力を引き上げるという事も可能であった為に、まさに遠く離れた所から一気に敵を殲滅させるという、凶悪な魔法軍隊を作り上げる事に成功していた。
そして『トウジン』魔国は目に優れて敵の穴を瞬時に見極めて、完璧な連携を取りながら死を恐れずに特攻する魔族たちが多数居る。
この二つの国を同時に相手する事は、流石の『ラルグ』魔国といえどもリスクが大きく不可能だった。
しかし今回のように『レイズ』魔国が誇る魔力増幅された魔法部隊の遠距離攻撃がなくなれば『ラルグ』魔国は自由自在に全魔国軍を動かす事が出来る。
そうなれば『ヴェルマー』大陸でもはや、ラルグ魔国を止める手立て等ない。
まさに現在のラルグ魔国軍は攻、守、速に優れた『ラルグ』魔国の歴史の中でも最強の時代であろう。
――『レイズ』魔国が敗れた時点で『ラルグ』魔国の『ヴェルマー』大陸統一を止める事は、不可能となったという事であった。
壁のあちこちに亀裂が入り天井はレルバノンのオーラで吹き飛ばされて、領地内の庭から近くを流れる川に至るまで、ソフィ達が行った戦闘によって開通してしまっていた。
「……」
屋敷に全員が戻ってきたが、誰も言葉を発せられない。
シスの事を心配しているのはともかく『レルバノン』が、自身の屋敷を見て引いている顔を浮かべているのを見ると、誰もが声を出すのを憚れているのだった。
――しかしこれは『魔王』同士が争った以上、仕方のない事ではあった。
「すまぬな、レルバノンよ……」
ソフィが声を掛けると、ようやくレルバノンは我に返る。
「い、いえいえお気になさらず」
「いや……、俺が軽率にシス女王にレイズ魔国の惨状の事を伝えたのがまずかったな」
シチョウも頭を掻きながら『すまねぇ』と、一言を口にしながらレルバノンに頭を下げた。
「本当に気にしないでください。それより私は貴方が、ここに来た理由を教えていただきたいのですが」
レルバノンはそう言って、シチョウの顔を見る。
「そうだったな。俺がここに来た理由は『ディアス』王に『シス』女王が生きているかどうかを確かめてきてくれと言われたんだ」
そう言ってシチョウは、横で寝かされているシス女王を見た。
「成程、ディアス王が……」
レルバノンはラルグ魔国のNo.2だった頃からトウジン王の事はよく知っている。
そしてそれが意味する理由も理解できた。
(彼をここに派遣した本当の理由はシス女王の生存確認ではなく、シチョウ君を生かすためでしょうね)
レルバノンはディアス王の真意をそう推理した。
(そうせざるを得ないと王が判断したという事はつまり、ディアス王はもう……)
レルバノンはそこまで考えが追い付き、直ぐに今後の主軸を決める。
「シチョウ君、君はすぐにでもヴェルマー大陸へ戻りたいのでしょうが、決して今戻る事はオススメはしません」
レルバノンがそう言うと、直ぐにヴェルマー大陸へと戻ろうと考えていたシチョウは当然反論する。
「何故だ? 俺はディアス王にシス女王の事を伝えねばならない」
放っておくと勝手に戻りかねないと、そう感じたレルバノンは本心を伝えた。
「『ラルグ』魔国と『トウジン』はすでに戦争が開始されているでしょう。そして『レイズ』魔国が滅びた今、万に一つも『トウジン』魔国には勝ち目がない」
「はっ! そんな事は百も承知だ」
レルバノンの言葉にシチョウは反論せず同意する。
「だからどうした? たとえ国が滅ぼされようと俺はトウジンの民だ」
たとえ彼一人になろうとも、憎き敵を滅ぼすために命をかける事に躊躇いはない。
「ディアス王は貴方に何故『ミールガルド』大陸に行くように告げたか、その理由を知りたくはないですか?」
だが、レルバノンの言葉は決意を固めているシチョウでさえ、聞いてみようと思わせる魅惑的な言葉だった。
「ディアス王が俺に『ミールガルド』へ向かわせた理由……だと?」
「ディアス王は、シス女王の生存等気にしていたわけではなく、貴方を生かせるために『ミールガルド』大陸に向かわせたのです」
「!」
流石にその言葉はシチョウを驚かせた。
「すでにディアス王は今回の戦争で『トウジン』魔国が滅ぼされる事は承知だったでしょう。そして大事な『トウジン』の最後の火に、今後を託そうと考えたのでしょう」
間髪入れずにレルバノンは口上を続ける。
「その最後の火がシチョウ君……、貴方だ!」
「俺が『トウジン』の最後の火?」
シチョウが素直にレルバノンの言葉を受け入れるのには理由があった。
それはこのタイミングで『ミールガルド』へ行くように告げた『ディアス』王のシチョウを案じる目をここに来る前に見ていたからだった。
(ディアス王、貴方はあの時俺に生きるように告げたかったのか?)
「そして君がこの大陸に来る二日間の間に、もうすでに戦争は終わっているだろう」
つまり今戻ったところで、戦争は既に終結しているという事だろう。
「そんな……!」
「私が居た頃の『ラルグ』魔国であったならば、戦争がひとたび始まれば各地に駐屯させている全軍を使って全部隊を投入してみせただろう」
それはつまり長く見積もっても二日もあれば『トウジン』という大国であろうと、攻め滅ぼせるという事を暗に告げている。
あくまでラルグが今まで三国で睨み合っていたのは『ラルグ魔国』と『レイズ魔国』、それに『トウジン魔国』の三国でバランスをとっていたからである。
レイズ魔国の『ヴェルトマー』と『シス』が率いていた魔法部隊は統率に優れ、更には『ヴェルトマー』の魔法はレイズ全軍の魔法力を引き上げるという事も可能であった為に、まさに遠く離れた所から一気に敵を殲滅させるという、凶悪な魔法軍隊を作り上げる事に成功していた。
そして『トウジン』魔国は目に優れて敵の穴を瞬時に見極めて、完璧な連携を取りながら死を恐れずに特攻する魔族たちが多数居る。
この二つの国を同時に相手する事は、流石の『ラルグ』魔国といえどもリスクが大きく不可能だった。
しかし今回のように『レイズ』魔国が誇る魔力増幅された魔法部隊の遠距離攻撃がなくなれば『ラルグ』魔国は自由自在に全魔国軍を動かす事が出来る。
そうなれば『ヴェルマー』大陸でもはや、ラルグ魔国を止める手立て等ない。
まさに現在のラルグ魔国軍は攻、守、速に優れた『ラルグ』魔国の歴史の中でも最強の時代であろう。
――『レイズ』魔国が敗れた時点で『ラルグ』魔国の『ヴェルマー』大陸統一を止める事は、不可能となったという事であった。
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