最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第88話 ヴェルマー大陸

 ソフィ達の居る『ミールガルド』大陸から遥か離れた大陸にして、魔族達が住む『ヴェルマー大陸』の西側の魔国『ラルグ』。

 その中にそびえ立つ塔の最上階にこの国の王は居た。

 【種族:魔族 名前:シーマ『王』 年齢:6432歳
 魔力値:999 戦力値:3770万 所属:ラルグ魔国】。

「諜報の者がやられたか……」

 玉座に座っている王、シーマは静かに口を開いた。

「はい。レルバノンの配下程度では、どうにもならない者を送り込んでいた筈なのですが……」

 スフィアの定時連絡が途絶えた事で彼女がスパイであった事に気づかれて、殺されたと判断したようだ。

「だが、場所の情報はもう掴んでいたのだろう?」

 シーマ王と会話している者は、現在のフィクスの称号を持つ男『ゴルガー』であった。

 【種族:魔族 名前:ゴルガー『フィクス』 年齢4211歳
 魔力値:999 戦力値:2237万 所属:ラルグ魔国】。

「はい、どうやら奴らは人間の住む大陸『ミールガルド』大陸にある『ケビン王国』領へと逃げ込んでいたようです」

「クックック、レルバノンも落ちたものよな。まさか落ち延びた先がとは」

 シーマ王の言葉に厭味な笑みを浮かべて頷く『ゴルガー』だった。

「まあそちらは今は放っておいてもいいだろう。それで前線の方はどうなっている?」

 シーマ王の声色が変わった事で、ゴルガーは慌ててラルグ魔国の状況を述べる。

「げ、現在、第一軍をレイズの首都『シティアス』の近くまで進めております。いつでも開戦の準備は出来ておりますよ」

「それは重畳だ。あの『シス』の奴もこちらの動きは掴んでいるだろうが、奴は南から迫ってきている『トウジン』の奴らにも気を配らなければならぬ状況だ。ゴルガーよ今が我がラルグの攻め時ぞ」

「はい、忌々しい魔女もこれで終わりですね」

「そういう事だ」

 最上位魔族達の笑いが、塔の最上階で響き渡るのだった。

 ……
 ……
 ……

 現在までヴェルマー大陸は『ラルグ』『レイズ』『トウジン』の三大魔国が睨み合う冷戦状態であった。

 今までは何とか三国でバランスが取れていて、誰かが『魔王』と称される事もなかったが、レイズ魔国のNo.2であった『ヴェルトマー・フィクス』が、病にせったことで事態は急変する。

 レイズは元々魔国としてはそこまで大きいものではなかった。

 そのレイズがラルグやトウジンという大国家と渡り合えるようになったのは、レイズの頂点に立つ『シス女王』とその側近の『ヴェルトマー・フィクス』の存在のおかげである。

 ヴェルトマーはその優れた頭脳と膨大な魔力を用いて『レイズ』魔国全域に『中位魔族』までの攻撃を無効化させるという『結界』を編み出したのである。

 そしてその『結界』だけに留まらずヴェルトマーは、次々と新魔法を編み出して戦局を有利に持っていき、気が付けばレイズを『三大魔国』と呼ばれるほどに発展させたのだった。

 そしてヴェルトマーの編み出した新魔法をレイズ国の女王『シス』は何倍も増幅させて使い、その膨大な『魔力』から使用される『魔法』の脅威は、他国からの侵略をなくさせる程に恐れさせたのであった。

 この『シス』と『ヴェルトマー』が居れば、いずれはレイズ魔国がヴェルマー大陸を手中に収める事も可能だと、ヴェルマー大陸中にある多くの国々から言われるようにまでなっていた。

 しかしそんなヴェルトマーであったが『梗桎梏病《こうしっこくびょう》』という稀に魔族にのみ発症する病にかかり、魔力をうまく操れなくなってしまった。

 罹患してもそれだけが原因で死ぬ事はなく、日常の生活を送ることには問題はないが『上位魔族』以上の者達と戦う事は出来なくなるだろう。

 それほどまでに戦力値が落ち込んでしまったヴェルトマーに、各国の魔族達は好機チャンスとみて『レイズ』魔国を攻め落とすべく開戦しようとしているのである。

 ……
 ……
 ……

「シス様! シティアスの西側からラルグの軍勢が迫ってきております」

 レイズの女王『シス』は私邸で寝ていたところに侍女の魔族の発報に起こされて、慌てて飛び起きるのだった。

の状況を察したタイミングで戦争を仕掛けてくるなんて……。なんと姑息な奴らなの!」

 女王シスは弱気になりそうな自分を何とか奮い立たせる。

「すぐに議場へ向かう。お前達! 主だった者たちを集めよ!」

 シス王女の言葉に侍女は、即座に行動を開始する。

 ……
 ……
 ……

 更にレイズ魔国の首都『シティアス』の南から『トウジン』の斥候部隊が到着する。

 斥候部隊長の『マーティ・トールス』は、部下達に今は動かずにレイズとラルグの動向を見守るように指示するのだった。

「お前達いいか? ラルグの第一軍が攻撃を開始したら、迷わずに南からレイズに攻め込むんだ」

 マーティの言葉に死を恐れぬ軍勢は、雁首を揃えて返事をする。

 トウジン魔国の恐ろしい所は魔国の国民同士の絆が恐ろしく深く、たとえ一兵卒が敵軍にやられただけであっても、報復の為に国全体が動き確実に敵を仕留める。

 報復や復讐がが達成されるまでひたすらに連続で攻め込み、敵が滅ぶまで延々と戦闘は繰り返される。

 相手が日和って謝ってこようが、それこそ許しを乞うてこようが一切の許しはない。

 自身が動けなくなるまで必ず何百年かけてでもやり返す。

 ――その相手が兵であろうが国であろうが、やられたら徹底的にやり返す。常識知らずの恐ろしい魔国がこの『トウジン』魔国である。

 すでにトウジンは多くの同胞達が『レイズ国』に奪われている。

 レイズ魔国が弱っている現状で手を出さない理由がなかった。

 こうして魔族達の大陸『ヴェルマー』は、多くの者の命を奪う戦争の幕が上がろうとしていた。

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