最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第79話 ゴスロリ服を着た魔族、スフィア
縛られていたミナトを解放したソフィは、ミナトの荷馬車に乗り込み『ステンシア』の町を目指していた。
ミナトは今回の事件の発端となった薬を売っていたのがソフィにバレた事で、少し気まずさを表情に出していたが、あのまま組織に監禁されて、いずれは殺されていたかもしれない事を考えて、素直にソフィには恩を感じていた。
「ソフィさん、この度はすみませんでした」
「ん、何の事かな?」
「僕の売っていた薬の事です。この薬のせいで町が大変な事になっているという事は分かっていました」
確かにギルドを巻き込んで多くの冒険者や、ステンシアの町の人間達が危険に晒されている。
その原因となった薬草を売っていたミナトは、決して許される事ではないだろう。
もちろん町に着いた後にミナトには、責任をとって冒険者ギルドへ出頭して貰う事にはなるだろう。
しかしソフィはその時にギルド長の『リルキンス』には、少しだけミナトの事を口添えをしておこうとは考えていた。
確かにミナトの売っていた薬草を悪用されて魔物達を狂暴化させられたりはしたが、悪意をもって行ったのは組織の男であって、ミナトはただ新種の薬草を商売品として売っていただけに過ぎない。
結果だけを見れば諸悪の原因はミナトにあるが、この薬は使い方を間違えなければ確かに『新薬』になる可能性さえあった。
結局はこの薬の使い方の問題だったのだ。
商品として売れると分かれば、何でも売るのが商人である。
その事に他者がどういう考えに行きつくかで結論は変わるだろうがソフィにとっては、生活の為に商人としての性質で薬を売っていたミナトをそこまで責めるつもりは無い。
結果的に冒険者ギルドがどういう判断をするかまではソフィにも分からないが、ミナトが商人として再起出来るようにはリルキンスに告げて取り計るつもりではある。
「うむ。これに懲りたら次はもう少し考えて商売する事だな。お主の気持ちもよく分かるが欲を掻きすぎれば当然危険も伴うのだからな」
ソフィがそう言うとミナトは、余りのソフィの優しい言葉に目を潤ませ始めた。
「はい……。すみませんでした、ソフィさん」
「だが、やってしまった事についての反省はせねばなるまい? お主の薬が原因で中には怪我人が出ているのも確かだ」
ギルドの依頼を受ける冒険者は、死を覚悟してクエストを受けてはいる。
だが、町の人々は直接被害を受けてはいないといっても怖がらせている事は事実である。
その責任の一端を担っている以上はお咎め無しというワケにもいかないだろう。
「分かっています。一度は失った命だと思えば、何度でもやり直す覚悟は出来ています」
ミナトの言葉を聞いてソフィは大きく頷いた。
そして荷馬車は、ステンシアの街道に到着する。このまま真っすぐ道沿いに進めばステンシアの町につくだろう。
――だがそこで見慣れぬ服を着た女性が、ミナトの荷馬車が来るのを待っていたかの如く立っていた。
「む?」
その女性に気づいたソフィが訝し気に声を出す。
「どうかしましたか、ソフィさん?」
そんなソフィの視線の先を追ってミナトも女性の方を見る。
「こんな街道に女性が一人で、立っているのは珍しいですね?」
その女性こそが自分を仮死状態にさせた魔族だと知らないミナトは、呑気にそんな事を言っていた。
「血の匂い……?」
ソフィは女から人間の血の匂いをかぎ取ったようである。
「ごきげんよう。ここを通っていたら、貴方に会える気がしていたわよ」
ゴスロリ服を着た女は、ソフィを見てニコッと笑顔を浮かべた。
「我はお前を知らぬが、どこかで会ったか?」
「私は貴方の事を知っているけれど、貴方は私の事を知らないと思うわ」
ソフィは異な事を言う女性のその言葉に眉を寄せる。
「ふむ? まぁよい。我は急いでいるのでな、用があるなら後にしてもらえぬかな?」
「うふ、うふふふ、そんな態度を私にとっていいのかしら? 大切なお友達がこの世を去るわよ?」
ミナトに先へ行くように、促そうとしていたソフィの口が閉じられる。
「どういう事だ?」
「少しお話に付き合ってもらえないかしら?」
ソフィとその女性は互いに無言で視線を交わし合う。
「仕方あるまい……。お主を無視すると、よからぬ事が起きそうな気がしてならぬ」
ソフィの言葉を聞いた女性は、また気味の悪い笑いを見せるのだった。
「この道の向こうからそこの男を連れてきたという事は、私たちの主に会ったという事よね?」
レルバノンの事を言っているのだと察したソフィは、その言葉に首を縦に振った。
「それにしても凄いわね。レルバノン様の屋敷に乗り込んで無事にその男を連れ出してくるなんて、西側の魔族の連中でもなければ、おいそれとは出来ない事よ?」
「西側の連中? それはまさか他にも『魔族』がいるのか?」
今度はその言葉にスフィアが驚く。
「貴方って、本当に野良の魔族なのね……」
「よく分からぬが、我がこの世界で出会った魔族は『エルザ』と『レルバノン』のみだ」
(レルバノンが無事に屋敷から帰したという事は、洗脳に失敗したという事よね。まさか戦って負けたということはないだろうから、他にこの少年の利用価値を見出したという事でしょう……)
「まあいいわ。それで貴方はこれからどうするつもりかしら?」
「ステンシアに戻ってギルドに報告して、その後は町を襲わせている男に会う予定だ」
「『ルノガン』に? 会ってどうするつもりかしら?」
「無論、勝手な薬で魔物を襲わせているのをやめさせるのだ」
「うふふ。残念だけどね、それは無理な話よ」
スフィアが心の底から楽しそうに笑う。
「彼はたとえ組織の意向に背いてでも、町の人間を続けるからよ」
ソフィは目の前の女の言っている意味が分からなかった。
組織に命令されてやっている男が、組織の主に辞めるように言われて続ける理由がない。
「彼には続ける理由があるのよ。そうしなければ生きている意味がないと思っているからね」
「やけにお主は事情に詳しいのだな」
ゴスロリ服の女はくすくすと笑った。
「当然でしょう? 私が彼に襲わせているのだから!」
――次の瞬間、ゴスロリ服の女の目が紅く光る。
「!?」
ソフィは自衛の為に魔瞳である『紅い目』を発動した事で、相手のゴスロリ服の女からの魔瞳の影響を受けなかった。
だが、次の瞬間――。
荷馬車が勝手に動いたと思うと、ミナトが狂ったように笑いながら川沿いの方へと馬車を動かしていく。
「何をしているミナト! 止まるのだ!」
「ク、クヒヒヒヒヒッ!!」
目が血走り涎を垂らしながら奇妙な声をあげ始める。
そしてまるでソフィの声が聞こえていないかの如く、ソフィを乗せた荷馬車は一直線に崖に向かっていく。
「ふふっ! そのまま谷底へと落ちて死になさい」
スフィアの魔瞳はソフィには通用しなかったが、ゴスロリ服の女性の魔瞳に対抗する手立てがない普通の人間の『ミナト』は『紅い目』で操られてしまっていた。
そしてソフィを乗せた荷馬車ごと、そのまま谷底へ落とそうとしているのだった。
「ふむ。先程の『魔瞳』は我ではなく、狙いはミナトであったのか」
すでに崖は目の前まで迫っており、ミナトを止める為に今からではソフィが『紅い目』でミナトを操ったとしても間に合わないだろう。
「仕方あるまい……」
ソフィは苛立ち混じりに舌打ちをしつつ、ミナトを抱えて荷馬車から飛び降りる。
強引に荷馬車から引きはがした為に、二人は地面に叩きつけられる。
「うふふ、うふふふ!」
そして空からゴスロリ服の女が、ミナトを殺そうと腕を突き出してきた。
ソフィはそれを見て瞬時に、ミナトを蹴り飛ばしてゴスロリ服の女から庇う。
ミナトの命は救われたが代わりにソフィが、ゴスロリ服の女の攻撃をまともに受けてしまうのであった。
「……」
咄嗟に紅いオーラで覆った右手で防御はしたが、軽々とその右手を吹き飛ばされてしまう。
「うふふ、うふふふ」
目の焦点が合っておらず、狂気とも思える形相を浮かべたゴスロリ服の女が、ソフィを殺そうと今度は心臓目掛けて鋭利な爪を持つ右手を突き入れようとしてくる。
「調子に乗るでないわ!」
その女の手首をガシッと掴み、ソフィは力任せにスフィアを蹴り飛ばす。
「うふふ、少しばかり力が足りないわね」
だが、スフィアはそんなソフィの蹴りをまともに受けても、少し体勢を崩す程度で直ぐに持ち直す。
何とかソフィはミナトを殺させずにすんだが、ソフィはこのままの形態でミナトを守りながら戦うのは難しいと判断した。
エルザのように正々堂々といった性格を待ち合わせてはおらず、スフィアは対象を殺す為には弱いところから狙って、確実に仕留めようとする魔族らしい魔族だったからである。
ミナトは今回の事件の発端となった薬を売っていたのがソフィにバレた事で、少し気まずさを表情に出していたが、あのまま組織に監禁されて、いずれは殺されていたかもしれない事を考えて、素直にソフィには恩を感じていた。
「ソフィさん、この度はすみませんでした」
「ん、何の事かな?」
「僕の売っていた薬の事です。この薬のせいで町が大変な事になっているという事は分かっていました」
確かにギルドを巻き込んで多くの冒険者や、ステンシアの町の人間達が危険に晒されている。
その原因となった薬草を売っていたミナトは、決して許される事ではないだろう。
もちろん町に着いた後にミナトには、責任をとって冒険者ギルドへ出頭して貰う事にはなるだろう。
しかしソフィはその時にギルド長の『リルキンス』には、少しだけミナトの事を口添えをしておこうとは考えていた。
確かにミナトの売っていた薬草を悪用されて魔物達を狂暴化させられたりはしたが、悪意をもって行ったのは組織の男であって、ミナトはただ新種の薬草を商売品として売っていただけに過ぎない。
結果だけを見れば諸悪の原因はミナトにあるが、この薬は使い方を間違えなければ確かに『新薬』になる可能性さえあった。
結局はこの薬の使い方の問題だったのだ。
商品として売れると分かれば、何でも売るのが商人である。
その事に他者がどういう考えに行きつくかで結論は変わるだろうがソフィにとっては、生活の為に商人としての性質で薬を売っていたミナトをそこまで責めるつもりは無い。
結果的に冒険者ギルドがどういう判断をするかまではソフィにも分からないが、ミナトが商人として再起出来るようにはリルキンスに告げて取り計るつもりではある。
「うむ。これに懲りたら次はもう少し考えて商売する事だな。お主の気持ちもよく分かるが欲を掻きすぎれば当然危険も伴うのだからな」
ソフィがそう言うとミナトは、余りのソフィの優しい言葉に目を潤ませ始めた。
「はい……。すみませんでした、ソフィさん」
「だが、やってしまった事についての反省はせねばなるまい? お主の薬が原因で中には怪我人が出ているのも確かだ」
ギルドの依頼を受ける冒険者は、死を覚悟してクエストを受けてはいる。
だが、町の人々は直接被害を受けてはいないといっても怖がらせている事は事実である。
その責任の一端を担っている以上はお咎め無しというワケにもいかないだろう。
「分かっています。一度は失った命だと思えば、何度でもやり直す覚悟は出来ています」
ミナトの言葉を聞いてソフィは大きく頷いた。
そして荷馬車は、ステンシアの街道に到着する。このまま真っすぐ道沿いに進めばステンシアの町につくだろう。
――だがそこで見慣れぬ服を着た女性が、ミナトの荷馬車が来るのを待っていたかの如く立っていた。
「む?」
その女性に気づいたソフィが訝し気に声を出す。
「どうかしましたか、ソフィさん?」
そんなソフィの視線の先を追ってミナトも女性の方を見る。
「こんな街道に女性が一人で、立っているのは珍しいですね?」
その女性こそが自分を仮死状態にさせた魔族だと知らないミナトは、呑気にそんな事を言っていた。
「血の匂い……?」
ソフィは女から人間の血の匂いをかぎ取ったようである。
「ごきげんよう。ここを通っていたら、貴方に会える気がしていたわよ」
ゴスロリ服を着た女は、ソフィを見てニコッと笑顔を浮かべた。
「我はお前を知らぬが、どこかで会ったか?」
「私は貴方の事を知っているけれど、貴方は私の事を知らないと思うわ」
ソフィは異な事を言う女性のその言葉に眉を寄せる。
「ふむ? まぁよい。我は急いでいるのでな、用があるなら後にしてもらえぬかな?」
「うふ、うふふふ、そんな態度を私にとっていいのかしら? 大切なお友達がこの世を去るわよ?」
ミナトに先へ行くように、促そうとしていたソフィの口が閉じられる。
「どういう事だ?」
「少しお話に付き合ってもらえないかしら?」
ソフィとその女性は互いに無言で視線を交わし合う。
「仕方あるまい……。お主を無視すると、よからぬ事が起きそうな気がしてならぬ」
ソフィの言葉を聞いた女性は、また気味の悪い笑いを見せるのだった。
「この道の向こうからそこの男を連れてきたという事は、私たちの主に会ったという事よね?」
レルバノンの事を言っているのだと察したソフィは、その言葉に首を縦に振った。
「それにしても凄いわね。レルバノン様の屋敷に乗り込んで無事にその男を連れ出してくるなんて、西側の魔族の連中でもなければ、おいそれとは出来ない事よ?」
「西側の連中? それはまさか他にも『魔族』がいるのか?」
今度はその言葉にスフィアが驚く。
「貴方って、本当に野良の魔族なのね……」
「よく分からぬが、我がこの世界で出会った魔族は『エルザ』と『レルバノン』のみだ」
(レルバノンが無事に屋敷から帰したという事は、洗脳に失敗したという事よね。まさか戦って負けたということはないだろうから、他にこの少年の利用価値を見出したという事でしょう……)
「まあいいわ。それで貴方はこれからどうするつもりかしら?」
「ステンシアに戻ってギルドに報告して、その後は町を襲わせている男に会う予定だ」
「『ルノガン』に? 会ってどうするつもりかしら?」
「無論、勝手な薬で魔物を襲わせているのをやめさせるのだ」
「うふふ。残念だけどね、それは無理な話よ」
スフィアが心の底から楽しそうに笑う。
「彼はたとえ組織の意向に背いてでも、町の人間を続けるからよ」
ソフィは目の前の女の言っている意味が分からなかった。
組織に命令されてやっている男が、組織の主に辞めるように言われて続ける理由がない。
「彼には続ける理由があるのよ。そうしなければ生きている意味がないと思っているからね」
「やけにお主は事情に詳しいのだな」
ゴスロリ服の女はくすくすと笑った。
「当然でしょう? 私が彼に襲わせているのだから!」
――次の瞬間、ゴスロリ服の女の目が紅く光る。
「!?」
ソフィは自衛の為に魔瞳である『紅い目』を発動した事で、相手のゴスロリ服の女からの魔瞳の影響を受けなかった。
だが、次の瞬間――。
荷馬車が勝手に動いたと思うと、ミナトが狂ったように笑いながら川沿いの方へと馬車を動かしていく。
「何をしているミナト! 止まるのだ!」
「ク、クヒヒヒヒヒッ!!」
目が血走り涎を垂らしながら奇妙な声をあげ始める。
そしてまるでソフィの声が聞こえていないかの如く、ソフィを乗せた荷馬車は一直線に崖に向かっていく。
「ふふっ! そのまま谷底へと落ちて死になさい」
スフィアの魔瞳はソフィには通用しなかったが、ゴスロリ服の女性の魔瞳に対抗する手立てがない普通の人間の『ミナト』は『紅い目』で操られてしまっていた。
そしてソフィを乗せた荷馬車ごと、そのまま谷底へ落とそうとしているのだった。
「ふむ。先程の『魔瞳』は我ではなく、狙いはミナトであったのか」
すでに崖は目の前まで迫っており、ミナトを止める為に今からではソフィが『紅い目』でミナトを操ったとしても間に合わないだろう。
「仕方あるまい……」
ソフィは苛立ち混じりに舌打ちをしつつ、ミナトを抱えて荷馬車から飛び降りる。
強引に荷馬車から引きはがした為に、二人は地面に叩きつけられる。
「うふふ、うふふふ!」
そして空からゴスロリ服の女が、ミナトを殺そうと腕を突き出してきた。
ソフィはそれを見て瞬時に、ミナトを蹴り飛ばしてゴスロリ服の女から庇う。
ミナトの命は救われたが代わりにソフィが、ゴスロリ服の女の攻撃をまともに受けてしまうのであった。
「……」
咄嗟に紅いオーラで覆った右手で防御はしたが、軽々とその右手を吹き飛ばされてしまう。
「うふふ、うふふふ」
目の焦点が合っておらず、狂気とも思える形相を浮かべたゴスロリ服の女が、ソフィを殺そうと今度は心臓目掛けて鋭利な爪を持つ右手を突き入れようとしてくる。
「調子に乗るでないわ!」
その女の手首をガシッと掴み、ソフィは力任せにスフィアを蹴り飛ばす。
「うふふ、少しばかり力が足りないわね」
だが、スフィアはそんなソフィの蹴りをまともに受けても、少し体勢を崩す程度で直ぐに持ち直す。
何とかソフィはミナトを殺させずにすんだが、ソフィはこのままの形態でミナトを守りながら戦うのは難しいと判断した。
エルザのように正々堂々といった性格を待ち合わせてはおらず、スフィアは対象を殺す為には弱いところから狙って、確実に仕留めようとする魔族らしい魔族だったからである。
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