最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第59話 到着、ステンシアの町

 荷馬車の手綱を引いてミナトは街の中へ入っていく。

 『ケビン王国』の領土内でも一番冒険者が多いとされる町なだけはあり、町の中は活気に溢れていた。

 至る所に武器や防具それに雑貨屋等が立ち並んでおり、露店の数もグランの露店通りの比ではない。

「凄い人の数だな! この前行った『サシス』の町より多いのではないか?」

 ソフィが感嘆の声をあげながら周りを見渡す。

「そこまではどうか分からないけど、この町は間違いなく『は人が多いでしょうね」

 目をキラキラさせているソフィに向けて、リーネはそう説明するのだった。

「色々見て回りたいでしょうが、まずはギルドに向かわせてくださいね」

 荷馬車を引いているミナトが笑みを浮かべてソフィたちに言った。

「うむ、まずはこやつらを届けてからだな」

 そういってソフィが盗賊たちに視線を送ると、ミシェイル達はびくっと身体を震わせた。

 彼らにとっては早くラルフから離れたいと思っている様子であった。

 ステンシアの町の冒険者ギルドは、一目で分かりやすい程の場所にあった。

 グランにしてもサシスにしてもそうだが、やはり冒険者ギルドは利用者が多いという事もあって、どの町でも分かりやすい場所にある事が条件のように感じられるソフィであった。

 ミナトがギルドの馬小屋スペースに荷馬車を預けた後、ソフィとラルフ達が盗賊達と、その盗賊の持っていた金品等を持ってギルド内に足を踏み入れる。

 ソフィ達が中に入ると、めざとくギルド職員達がこちらに向けて手を振っていた。

 『ステンシア』の門番達が、話を通してくれたおかげであろうが対応が早かった。

「あなた方が盗賊を捕縛された方々ですね。すみませんが奥の部屋までご足労願います」

 ギルド職員にそう言われたソフィ達は、盗賊達を連れて奥の部屋へと通された。

 部屋の奥で目つきの鋭い男が、こちらを見て立ち上がる。

「貴方達が、盗賊を捕まえてくださった方々かな?」

 どうやら今喋っているこの男がこのギルドの長だろうか。

 なかなかの強面であり、ソフィは最初に『グラン』の町で『ディラック』を見た時と印象が似ていると感じられた。

 ミナトもどうやらこの強面のギルド長らしき男を怖いと思ったのか、ぱくぱくと口を動かしてはいるがその声は全く出ていなかった。

 仕方なく代わりにソフィが答える。

「うむ。この町に入る時にギルドにまず来るようにと、門番に言われたので来たのだが……」

 ソフィが口を開いた事でギルド長がソフィを見るが、その瞬間にハッとした顔を浮かべる。

「間違っていたらすまないが、も、もしや! き、君はまさか『グラン』のギルド所属の大型ルーキーの『破壊神ソフィ』ではないか!?」

「何? 破壊神? な、何なのだその禍々しい二つ名は?」

 今大陸中にその二つ名で騒がれている事を知らない張本人は、物騒な二つ名を聞かされて狼狽える。

「はっはっは、成程! 今噂されている盗賊団を捕らえた冒険者というからどんな奴らかと思ったが、勲章ランクAの『スイレン』と最強の剣士と名高い『リディア』を破った『破壊神』であれば納得がいくというものだ!」

 ガハハッと大声で笑うギルド長らしき男は、合点がいったとばかりの顔を浮かべていた。

「おっと、失礼。私はこの街のギルド長『リルキンス』という。宜しく頼むよ」

 そう言ってリルキンスは頭を軽く下げた後に、ソフィに手を差し出して来る。

 ソフィは仕方なくその手をとって握手をする。

「しかし噂の盗賊団は数十人規模だと聞いたが、他の者達はどうしたのかね?」

 この場にミシェイルとラッケンスの二人だけしか居なかった為に、リルキンスは他の盗賊団はどうしたのかと首を傾げながら聞いてくるのだった。

「すまないが、こいつら以外の盗賊はにしてしまったのでな。もうこの世にはおらんよ」

 平然とそう告げるソフィにリルキンスは顔に冷や汗を浮かべた。

「えっ……!? あ、え、そ、そうか。い、いやはや流石は『破壊神』と呼ばれる事はあるな……」

(わ、私もソフィ君に対して対応を間違えないようにせねばなるまいな……)

 何やらリルキンスに酷い勘違いをされている気がするが、皆殺しにしたのは後ろに控えているラルフである。

 いちいち説明するのも面倒なので、その事は黙っておくことにしたソフィであった。

「それで、こやつら二人が今まで貯めこんでいた金品等も持ってきたのだが、お主に渡せばよいのだろうか?」

 ソフィがそう言うと後ろに居たリーネとラルフが、両手で持っていた盗賊達の財宝をその場においた。

「ふむ? 律儀に届けてくれたのか? 普通であれば捕らえた盗賊達の持ち物は冒険者がこっそり抜くものなのだがな。少しでも残してくれるとありがたい事だが、大半は最初から手元になかったと嘘をついて全て持っていく冒険者も居るくらいなのだが……」

 それがこの世界の常識なのだろうが、ソフィにその常識は通じなかった。

「そうなのか、まぁ別に我は『報奨金』とやらが貰えればそれでよい」

「成程、流石にソフィ君は大物だな」

 リルキンスが部屋に備え付けられているブザーを鳴らすと、控えなノックと共にギルド職員が数人入ってきた。

「ではソフィ君、早速だが盗賊はそちらのギルド職員に、引き渡してもらってよいかな」

「うむ」

 盗賊達は入ってきたギルド職員たちに連れていかれたが、その顔は、とても嬉しそうにしているのであった。

 盗賊達がギルドに突き出されたというのに、喜んでいるように見えた職員達は訝しそうにしていたが、口に出すことまではせずに首を傾げながら、盗賊達を連れて部屋を出て行くのであった。

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