最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第9話 初めてのクエスト

 今日もまたソフィはレグランの実を求めて露店を練り歩く。

 毎日のようにソフィが露店に顔を出しては、大量にレグランの実という果実を買っていく為に、グランの町の露店通りでソフィは馴染の客として有名になっていた。

 この『リラリオ』の世界にしかないレグランの実を相当に気に入ったらしく、ソフィは毎日露店にレグランの実が売られていれば、買い占める程の勢いでレグランの実を買いあさっていく程であった。

 そして先日、ギルドの場所を教えてくれた露店主にお礼のつもりで、この町の冒険者ギルド長の依頼を達成させた時に手に入れた白金貨で、一山のざるに入ったレグランの実の代金を支払おうとしたが、露店主のおやじに『そんな大金のお釣りが出せない』と言われて突き返されてしまった。

 ソフィはお礼のつもりで渡そうとしていた為に釣りはいらないと告げたが、おやじは頑なに受け取ろうとしなかった。

 まだ他にクエストを受けていないソフィは、他に代金を支払う術がない為に、その時も無一文の時のように困りながらレグランの実を眺めていたのだが、それを見ていたおやじはまたもやソフィに代金は今度でいいからと、レグランの実をざるごと渡してくれたのであった。

 どうやらこの露店のおやじは相当にソフィを気に入っているようで『代金はツケてやるから持っていけ』と顔を見せるたびに渡してくれて、帰り際にはいつもソフィに『また来いよ』と声を掛けてくれるのだった。

「しかし坊主よ、お前がこの町にきてまだ数日だっていうのに、』まで手に入れてくるなんて、まだ信じられねぇよ」

「全てギルドを紹介してくれたお主のおかげだぞ店主よ。お主には必ずいい思いをさせてやると約束するぞ」

 ご満悦といった顔を浮かべながらそう告げて、またもや貰ったレグランの実をソフィは食べるのだった。

「いやお前、Eランクになっても『白金貨』は手に入らねぇだろう……」

 Eランクのクエスト報酬は多くても銀貨三枚程であり『白金貨』を手に入れてる為に、コツコツクエストをこなしていては、数日どころか数か月はかかる筈である。

 それが数日で笑いながら白金貨を渡してくるのだから、徒者ただものではないと露店のおやじは思ったそうである。

「俺たちが金貨一枚を稼ぐのですら相当苦労するっていうのによ、白金貨なんて渡されたらたまんねぇよ」

「だからレグランの実と交換でいいといったではないか」

 またいつものように二人が言い争いを始めるが、そこへ突然二人の間に割って入る様に、乱入者が現れるのだった。

「ソフィ! 早く私に会いに来てよ!」

「うおおおあ!」

 突然に音もなく忍者のリーネが現れたと思えば、大声でソフィに声を掛けてくるのであった。

 ソフィは平然とした表情で現れたリーネを見るが、リーネが『忍者』だと知らない店主は急に現れた驚きで椅子から転げ落ちるのだった。

「リーネよ、あまりおやじを驚かせるでないぞ」

 ソフィがレグランの実を齧りながらリーネを窘めると、頬を膨らませながらリーネは愚痴を零し始めた。

「あんたあれからギルドに全然来ないじゃない! 私が毎日どれだけアンタが来るのを待っていると思っているのよ!」

「いやリーネよ、まだあれから二日ではないか。それに我は毎日ギルドに行くとはいってはおらぬぞ」

 そう言うとリーネは溜息を吐いて、信じられないといった顔で口を開いた。

「あのねぇ、ソフィ君。貴方みたいな強さの冒険者が、いつまでもEランクに留まってどうするのよ? そうでもなくてもこの町に高ランク冒険者はあまりいなくて困っているのに」

 リーネはもちろん自分とパーティを組んでもらいたいというのが本音だが、今告げた言葉もまた嘘ではなく、ギルドの為にソフィに適正ランクまで上げて欲しいとも思っている。

 ソフィはリーネの目から見ても適正ランクは、Bランク、いやAでもおかしくはないと思っている。

 前回、リーネがソフィを試した時に感じた事だが、少なくともこのソフィは、勲章ランクBである自分より弱い筈がないと判断していた。

「そうだな。確かにそろそろ一度くらいは受けておかねばなるまいな。毎回おやじに果実の代金をツケてもらうのも忍びないと思っておったところなのだ」

 ソフィが冒険者ギルドに向かう事に前向きになった事で、リーネは嬉しそうな表情を浮かべながら頷くのだった。

「それではおやじよ、すまぬが我はギルドに行く事にする。今度まとめて果実の代金を支払いに来るから、もう少しだけ待ってくれ」

「あ、ああ……! 慌てなくても構わないから無理だけはするなよ?」

「うむ、すまぬな本当に。それではまたなおやじ」

 申し訳なさそうにおやじに告げるソフィと、ぺこりと頭を下げて挨拶をするリーネにおやじは、別れの挨拶をしながら手を振って見送ったが、その二人の後ろ姿を見ながら彼は思うのだった……。

(あいつまだ、!)

 ――と。

 …………

 そして二人がギルドの門を開けてカウンターに向かって歩き始めると、口々にソフィを噂する声が聞こえてくるのだった。

「お、おい! あいつだろ? アウルベアを下僕にしたガキって……」

「あ? ああ、しかもあいつはEランク筆頭の『両斧使いのジャック』と、そのパーティを組んでいる仲間三人を同時に瞬殺したらしいぞ」

「とんでもねぇガキだ……! 絶対にアイツに喧嘩だけは売るなよ」

 ひそひそといった感じの声だが、ソフィの聴覚は人間より優れている為に全てソフィの耳に入ってくる。

 そしてその横にいるリーネもまた元忍者であり、訓練の末に一般人とはかけ離れた聴覚をしている為にソフィと同様に全て聞こえていた。

「我は別に誰も殺してはおらんのだがな」

 聞こえて来た言葉に反応して静かにソフィが呟くとリーネは『噂っていうのは、尾ひれがつくものよ諦めなさい』と窘めていた。

 そして二人がギルドの窓口に顔を出すと、いつもいる美人の受付のお姉さんが笑顔で口を開いた。

「ようこそ『グラン』の町のギルドに。本日はどういったご用件でしょうか?」

 透き通った声でギルドの受付のお姉さんは、言い慣れているのであろう言葉を掛けてくる。

「ああ、すまぬがクエ……」

 ソフィが口を開こうとしたが、それを遮るようにリーネが早口で捲し立てる。

「私とこの子でパーティ組ませて! Eランクのクエストを後で受けるから」

 美人の受付のお姉さんは唐突なリーネの言葉に呆気に取られていたが、直ぐにいつも通りの顔つきになって笑顔で頭を下げた。

「承りました。パーティを組むのでしたら、お二人の冒険者ライセンスカードを提示していただく必要がございますが、こちらにお渡し願えますでしょうか」

「ええ、分かっているわ。それともうフレンド登録も済ませてあるから」

「ありがとうございます」

 受付から提示したライセンスカードを受け取ったギルド職員が、何やらスキャナーと呼ばれる機械でチェックを行う。

 そして僅か数秒程で冒険者ライセンスカードを返却してくれた。

「お待たせ致しました。ライセンスカードをご確認下さい」

 二人は自分のライセンスカードを受け取ると裏面を見る。提示する前にはなかった項目が増えており、

 ――【パーティメンバー:ソフィ・リーネ】と書かれてあった。

「よし、これでパーティを組めたわね、早速掲示板でクエストを探しましょう」

 ソフィはリーネに手を引っ張られながら掲示板の方へ向かう。

 その様子に受付のお姉さんは笑みを浮かべて、温かい目で二人を見るのだった。

 ――――

 ・ギルドのクエストの受け方は、掲示板にクエストの内容が書かれた紙が随時貼られており、冒険者がそれを見て受けたいと希望するならば、その貼りだされているクエストが書かれた紙を持って窓口に提出する。ランク勲章とクエストレベルが合致していれば、受ける事が可能である。

 ・原則的に一度クエストを受けるとそのクエストを達成するか、破棄する旨を窓口で伝えなければ、他のクエストを受ける事ができない。

 ・クエストは自分のランクより一つ上のランクまでは、受けることが可能できるが、無理に自分より上のランクを受けて、失敗した場合はギルド勲章に失敗と記載されて、何度も繰り返していると勲章ランクが下がる事がある(※適正ランクであれば、何度失敗しても勲章ランクが下がる事はない)。

 ・クエストを達成した後、一週間以内に達成したことをギルドに伝えなければ失敗扱いとなる。
 ・クエストを達成するとポイントが加算されていき、自分の階級のギルド勲章の上限までポイントが貯まればランクアップすることができる(※ポイントはクエストを受けるときの紙の右上に記載されており、随時確認する事ができる)。

 ――――

「うーん、今貼りだされているクエストで一番高いポイントは30Pね」

「我は別に慌ててランクを上げようとは思っておらぬから、お主が良いと思ったモノで構わぬぞ?」

 自分よりもリーネの方が真剣に、ソフィのクエストを選んでくれているのだった。

「そうね。Eランクなら上限もそこまで高くはないし、最初はこの辺でもいいかもしれないわね。ソフィ君も確認してみて」

 『グランの町の近くの森に生えているキノコ。クラトマイタケを五つとってきて欲しい 30ポイント』。

「単に森に生えているキノコを採ってくるだけっと。簡単に思えるけどあそこの森は最近までギルド指定されていた『アウルベア』の縄張りがあるからね。もう大丈夫って言われても信用できないのも仕方ないわね」

 そう言って受けるつもりの紙をソフィに渡してくるリーネだった。

「でもソフィ君ならこのクエストは何も問題はないわね。そもそもアウルベアは君の下僕だしね」

 厳密には下僕というより配下であるのだが、まぁ似たようなものかと口出しせずに紙を受け取った。

「うむ、これを窓口に提出すればよいのだな?」

「ええ、さっきの受付の人に渡せばいいよ」

 そう言いながらもソフィの頭を撫でようとするので、ソフィはさりげなく触ってこようとしているリーネの手を躱すのだった。

 躱されたことで口を尖らせていたリーネにソフィは笑みを見せて窓口に紙を提出する。

「このクエストを受けたいのだが、これでよいのか?」

「はい、承りました」

 クエストを受ける冒険者も少ない時間帯なので、二人の様子を眺めていた受付嬢は含みのある笑い顔を見せながら、それでいて気品あふれる振る舞いで仕事をする。

「クエストを破棄される場合は、早めにお伝えくださいね。それではお二人共お気をつけて、いってらっしゃいませ」

 クエストを受理した受付のお姉さんは、ソフィ達にペコリと頭を下げた。

「よし、行くわよソフィ!」

 またリーネはソフィの手を引っ張って、ギルドの外に連れ出したのだった。

「さて、さっそくキノコを採りに行きましょうか」

「うむ。それはよいのだが、手をつないだまま森へ行くのか?」

 ソフィが繋がれたリーネの手を見ながらそう告げるが、リーネは当然とばかりに頷いた。

「ええ、森で迷子になったら大変でしょ?」

「それならば森に入ってから繋ぐものではないのか?」

「え、うんそうだけど、まぁいいじゃない」

 ぎゅっと手を握りなおしてくるリーネに仕方がないとソフィは、溜息をついて好きにさせるのであった。

 そして二人が『グラン』の町の外に出て少し歩いた先にある森の到着すると、匂いを辿ったのかアウルベアたちが勢揃いして森の中からこっちに手を振っていた。

「おお、よく我が来ることが分かったな」

「ええ、お久しぶりですソフィ様」

 ソフィ殿からソフィ様に呼び方が変わっていることに気づいたが、ソフィはその点には触れないで置いた。

「それで、こちらの方は?」

 メダルを持つアウルベアが、ちらりとリーネのほうを見る。

「初めまして、ソフィとパーティを組んでいるリーネよ」

 ギルド指定であった凶悪な魔物として、懸賞金をかけられていたアウルベアを前にしても堂々としているリーネを数秒程、アウルベアたちは何かを確かめるように見ていたがやがて頭を下げた。

「初めまして、殿。どうやら貴方は我々を恐れてはいないようですね?」

「まぁね。ソフィと親しいのはわかっているし、貴方たちならある程度は私の実力も分かっているでしょう?」

 先程リーネを値踏みするように見ていたアウルベアは、戦力値を数値化しなくてもある程度判断がついている。

 もしアウルベアの群れではなく一対一の戦いならば、リーネが勝つだろうという判断を下したのだった。

 アウルベアはギルド指定の魔物ではあるが、その指定レベルはCである。

 勲章ランクがBであるリーネであれば、討伐もい《・》といった戦力対比値であった※しかし彼女は興味が無い事には首を突っ込まない性質な為、討伐などは行わなかったであろう

「ところで本日はどうして、こちらの森に参られたのですか?」

「ああ、今日はギルドのクエストで森の中にあるキノコを採りにきたのだ」

「そうでしたか。どういったキノコかを教えていただければ我々も手伝いますよ」

「おお、それは助かるが、しかしどういったキノコか、口頭で説明するのも難しいな? 『』っていってお主は分かるか?」

 やはり人間がつけた名称では流石に分からなかったようで、アウルベアは皆一様に分からないといった様子で首を捻っている。

「ああ、それなら私が絵を描くわ」

 そういってリーネはカバンから筆を取り出して、サラサラとあっという間にキノコの絵と特徴を描いてくれた。

 とてもリアルに描かれた絵で色を塗れば本当に、絵がキノコに見える程の立体感であった。

「り、リーネ殿! こ、これは凄いですね!」

 リーネの絵描きとしての技術にアウルベアは感嘆の声を上げた。

「ふふ、当然よ。それでこの絵のキノコあるかしら?」

「これならばだいたい生えている場所は分かりますよ。少し歩きますが宜しければ早速ご案内しましょう」

 そう言うとアウルベアたちは、同胞のアウルベアたちと頷き合うと森の中に入っていった。

 その様子を見ながらソフィたちも彼らの後を追うのであった。

 そして十分程であっさりと目当てのキノコが集められた。

 その後はアウルベアたちの縄張りに案内されて、アウルベアの用意した動物の肉を焼いて皆で食べて歓談し笑い合った。

 余程ソフィを自分の縄張りに連れてきて仲間達に紹介したかったようで、配下にしたアウルベアは喜色満面といった様子だった。

 そして楽しい時間はあっという間に過ぎていき、そろそろ夜も更けてきた事でギルドに戻ろうかという話になった。

「うむ、とても素晴らしい日だった」

「ええ、私も楽しかったわ」

 二人が満足そうな顔だったので、アウルベアたちも笑顔で頷いた。

 クエストを受けに来たはずが気が付けば、その数倍もの時間をアウルベアの縄張りで過ごす二人であった。

「またいつでも来てください。今度は他の種族の者たちも呼んでおきますので、是非!」

「ほう、それは楽しみにしておこう。おっと、忘れるところであった」

「? どうされましたか」

「うむ、これからお前の事はベアと呼んでもよいか?」

「え? もちろん構いませんが……。名前をいただいてもよろしいのですか?」

「うむ。名前をやるというよりだが、?」

 そしてソフィが、それをアウルベアがしたことにより、ここで新たに『名付けられた魔物ネームド・モンスター』が誕生した。

 ※『名付けネームド』とはこの世界における『魔王』。またはそれに準ずる『高位魔族』によって、個別に名前をつけられた『魔物』が更なる力を持つことである。

「む……、確かに名前をつけたらお主強くなっておるな?」

 ソフィが『漏出サーチ』を使いベアを確かめると戦力値が上がっていた。

 【種族:アウルベア 名前:ベア(ソフィのネームド)年齢:77歳 
  魔力値:244 戦力値:24748 所属:大魔王ソフィの配下】。

「本当ですか! ありがとうございます」

「名前をつけたら戦力値が上がるって、?」

 冗談めかして告げるリーネだが、名付けネームドは、魔王が名前を付けた時に力が強くなるものなので間違ってはいない。

 だが、自分が別世界の『大魔王』と気づかれると厄介なので、ソフィは苦笑いを浮かべて有耶無耶うやむやにするのだった。

「さて、じゃあ我らはギルドに報告に戻るとしよう」

「そうね、それじゃあなたたち今日はありがとうね! 

「お待ちしております。それではソフィ様、お元気で!」

 そういってベアたちは森の入り口まで送ってくれた後、その場所で片膝をついて忠義の礼を尽くしたのだった。

「うむ、お前たちもな!」

 ソフィたちが今日やったことはピクニックのようなもので、非常に楽しいクエストとなった。

 そして二人がギルドにキノコを届けて、クエストを達成したことを申し出ると、受付は内容を確認してクエスト完了のハンコを押してくれた。

 こうして無事に

 【種族:魔族 名前:ソフィ 年齢:??? 性別 男 
 魔力値:999 戦力値:??? 職業:冒険者:ランクE 30ポイント】。

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