ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

461.突発クエスト・莫大な財宝と栄光を手に入れよ

『十分後、この聖域に居る奴隷以外の男プレーヤーは全員、聖域と同じ別空間に転移される』

 今のうちに”ソーマ”を飲んで、TP・MPを回復しながら魔法で傷を癒す。

 厄介なのは、神代文字を使いまくった事で精神力がボロボロということ。

 体力も、底をついている状態。

「男プレーヤーだけ……か」

 つまり俺は、仲間の助けを一切期待できない。

『そこに現れるのは、古代の戦士や凶悪な古の魔物共。ソイツらが守る金銀財宝を手に入れられるのは一人のみ!』

「一人……」

 また、プレーヤーの潰し合いを狙うのか。

『この世界で、一生遊んで暮らせるほどの莫大な財宝のありかは、かつての獣の王の居城、その最上階となる! ただし、その部屋の扉を開けるには、特別に強いモンスター三体を倒し、それぞれから三種の鍵を手に入れなければならない!』

 鍵は三つ……全てが必要。

『このクエストは、誰か一人が財宝を手にするか、プレーヤーが全滅するまで終わらない!! さあ、ここから十分間だ――せいぜい足掻くが良い!!』

 気配が消える。

 十分……とにかく、体力の回復に努めないと。

「ご主人様!!」

 トゥスカを初め、皆が舞台の上へ。

「よりによって、私達じゃどうにも出来ないとか!」

 マリナが文句を言う。

「男だけって言うのがな」

 このレギオンの最大の弱点を突かれた気分だ。

 しかも、明確に敵対している二つの組織があるこのステージでとは。

「《龍意のケンシ》の皆々様がた、舞台上の会話はこの闘技場内全体に聞こえているでありんす。控えに戻ってから相談する事を薦めるでありんすよ」

 ヤクザの隠れNPCに指摘された。

 雰囲気的に、ヤクザの女って言うより花魁みたいだ。

「だな、助か……る」

 右肩をトゥスカ、左肩をマリナに支えられ、あっという間に運ばれてしまう俺。

 息ピッタリだったな、今の。

「男でも奴隷はダメって事は、今から急いで男の使用人NPCを造っても……」
「はい、使用人NPCは奴隷扱いなので、参加できません。ちなみに、今は奴隷解除も次のステージに進むことも出来ません」

 リューナの疑問に答えるナターシャ。

「コセ様、これを」
「……なら、私からも渡しておくか」
「では、私も」

「これは……三人とも、ありがとう」

 俺は、クオリア、リューナ、ナターシャからある物を受け取った。

「他に、今のうちに俺に出来ることは……あれ?」

 壊れた“グレートグランドキャリバー”の代わりを用意しようとチョイスプレートを開いたら……“グレートグランドキャリバー”がどこにも見当たらない!?

 あの剣……気に入ってたのに。

「仕方ない」

 新しいスキルの修得、三人から借りた物を使用した戦術をシミュレート。

「残り一分です、ユウダイ様」
「お気を付けて、ご主人様」
「コセ様、無理はされないでくださいね」

「ああ」

 トゥスカ、ノーザンを始め、みんなに励まされる。

「生き残るのを……第一にしなさいよ」

 マリナの心配そうな言葉。

「そうだな……じゃ、行ってくる」

 俺の身体が、光に変わっていく。


            ★


「ここは……」

 聖地の特徴的な白黄石の街並みと打って変わり、緑が広がる暗い場所に出た。

 奥には大樹があり、前後左右にはこの場所を囲うように配置された壁。

 地面には、黒い牙が石のプレートから生えたような墓? が幾つも。

「ここって、“獣化”を修得出来るって言う聖域か?」

 トゥスカから聞いた場所に、よく似ている。

「は、始まっちまうのか」

 俺以外にも、獣人や異世界人と思われる男達が。

 戦う気があるのかって格好の奴等も居るな。

『それでは始めよう! 突発クエスト・莫大な財宝と栄光を手に入れよ! ――開始だ!!』

 さっきの天の声が響いた瞬間、辺りに赤い光の柱が出現――“古生代ナイト”やキメラと思われるモンスターへと変質していく!

「ぱっと見、どれも強力そうなモンスターばかり」

 石で出来た“古生代ナイト”以外にも、強そうな甲冑の騎士が複数。

「……なに?」

 内部から青白い輝きを放っていた大樹までもが赤い光に包まれ――より巨大な、毒々しい大樹へと変貌していく!?

「まさかあれが……三体の強力なモンスター」

 さっそく遭遇してしまったって言うのか!

「……計画が、さっそく丸つぶれだ」

 この聖域の出入り口が半透明な油のような物で塞がれており、空もその油でピラミッドの内側のように塞がれてしまっている。

「財宝は諦めて、誰かがクエストをクリアするまで身を隠すつもりだったのに」

 これも、観測者の謀か。

『ゥオオオ!!』

 大きな斧と盾を持った鈍色の鶏冠騎士が、俺に向かって武具を振り下ろしてきた!

『一億越えの男――お前を殺せば、俺は生き返れるッ!!』

「コイツ、まさか!!」

 死んだプレーヤーの意識を入れられているタイプか!!

「やってくれるな!」

 “サムシンググレートソード”で斧を打ち払い、空を蹴って逃れる!

「一億越え……バウンティーハンターのように、俺の懸賞金が見えているのか」

 しかも、一億越えを狙うって事は、特定のプレーヤーしか狙われないということ……ますます不利だな。

 頭上は覆われ、このエリアから逃れることも出来ない……。

「く、来るなぁぁ!!」
「舐めてんじゃねぇぞ、トカゲがよ!!」

 俺以外のプレーヤーは動物系のモンスターに襲われ、騎士タイプは俺だけを狙っている。

 騎士タイプには全て意思があり、一億越えを狙っている可能性が高い。

「――クソ!!」

 大樹に近付きすぎたのか、毒々しい濃紫の枝が襲ってきた!!

 地上は敵だらけ。空からは逃れられず……休む暇がまったく無い!!

「来い――“究極生命体”!!」

 リューナが”実験都市”で手に入れたユニークスキルにより、OPの全てと引き換えに青い粘液に包まれた巨大骸骨を召喚!!

 コイツは、あらかじめセットしておいたTP、MP、OPのいずれかを吸い上げ、力とする。

 タフさに極振りしたような八メートル程の巨人だが、コイツにはバイオモンスターの特徴である“耐性向上”のスキルが備わっているため、特定の攻撃手段しか持たないモンスター向き!

「頼んだぞ」

 “究極生命体”には、大樹の相手をして貰う。

「さてと」

 一度地上に降りる。

『逃げるな、一億越え!!』
『俺達のために、死んでくれぇぇ!!』

「一度死んだくせに、生者を生贄にしようとするなよ――生命白銀狼!! 妖怪・鎌鼬!! 猛禽恐竜!!」

 クオリアから借りた三つのSランク指輪で、白銀狼のバイオモンスター、鎌が脚から生えた大型イタチ、手脚や額から刃が生えた黒灰の肉食走竜を召喚!!

 消耗した俺を守るため、俺の代わりに戦える存在を呼び出す手段をくれた三人。

「必ず――生き残る!!」


●●●


「……凄い」

 コセさんが消えた後、突如闘技場上空に映し出された各地の映像。

 その中の一つには、獅子奮迅の戦いをするコセさんの姿が。

「……格好いい」

 あれだけの戦いの後なのに、死にもの狂いでこの理不尽に抗っている!

「でもなんだろう……」

 なにかを忘れてしまっているような。

「…………ラキ……様」

「……へ?」

 カプアが突如発した言葉の意味が……理解できなかった。

 むしろ、本能的に理解することを拒むように……真っ白に。

 ラキはずっと眠ったままで――『』――――まさか!!!!

「…………うそ」

 映像の一つに、眠ったまま横たわるラキと……そのラキに近付く、涎を垂らしたドラゴンの姿が――――――


「――いやぁァァーーー-ーーーーーーーーーーッッッ!!!!」


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