ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

457.獣人解放軍VS龍意のケンシ

「来たな、コセ!」
「ああ」

 言われた通り正午に聖地の中央に行くと、大勢の獣人を引き連れたヴァルカがいた。

「始めろ、オクネル」
「はい。“決闘場”、展開」

 赤味を帯びた白髪の犬獣人が“決闘場”を使用すると――頭上に巨大な円形の構造物が展開される!

 模型と同じデザインだが、その巨大さ故に大きな影が生まれ、俺達を日陰に落としていた。

「これより、《獣人解放軍》と《龍意のケンシ》による六対六の決闘を、頭上の闘技場で行う! 観戦したい者は、この扉をくぐるが良い!」

 ヴァルカが、数十人の獣人達を引き連れ、“決闘場”と共に現れたドアを潜って姿を消す。

「行くぞ」

 レギオン加入予定のメンバーを加えた十六人で中へと入ると、闘技場の観客席上部に出た。

「私が、選手の控えへと案内をさせて頂きます」

 さっき“決闘場”を使用した女性……俺達を持っていたのか。

「お願いします」

 彼女に付いていき、下の階へ。

「ここが、皆さんの控えです」

 石の椅子や机がある区画。

 かなり広いため、十六人でも問題は無いけれど……ここから全員で観戦するのは難しいな。

「そこの格子が開いたら、選手は入場してください。そこを潜ったらすぐに格子が閉まりますので、お気をつけを」

 丁寧な説明をしてくれるオクネルさん。

 格子の先には下り階段があり、その先の円形の闘技場の周りの溝には水が溜められている。

 広さは、確か直径三十メートルだったか。

「観客の入場もありますので、開始は13:00から。勝敗は死を持って決し、試合が終わったらすぐに次の試合となります」

「これ、審判は居るんですか?」

 ウララさんが尋ねた。

「ヴァルカ様がクエストで手に入れた、ヤクザという種族の隠れNPCが務めます」
「隠れNPCが」
「兄さん、私の前に現れる前に戦ってたんだ」

 確か、腐葉土村で手に入れられる隠れNPCだったよな。

「彼女の役目は、開始の合図くらいです。たとえ命乞いや降参をしようとも、勝敗は死のみで決します」

 審判による不正の可能性は無いと言いたいんだろうな。

 隠れNPCなら、途中で変な気を起こすなんて可能性も無いだろう……命令されていない限りは。

「俺に文句は無い」
「……分かりました」

 ウララさんが引き下がってくれる。

「では、開始時間までゆっくりと休んでいてください。それと、殺されても復活できるのはあのフィールドの上でのみ。なので、一応周囲を警戒しておくことをお薦めします」

 物騒な話だ。

「それでは、私はこれで失礼します」

 さっさと去っていくオクネルさん。

「あー、私も出たかったなー」

 突然ぼやくトキコさん。

 褐色肌の異世界人で、強い人間と戦いたがりな傭兵。

 ……昨日も同じ事でぼやいていたけれど、またか。

「トキコさんの実力は解放軍に知れ渡ってますから、あまり意味が無いんですよ」

「身体能力で劣るという意味では、私の方が効果的でしょうしね」

 目が見えないクオリアが口にする。

「この勝負は、俺達全員が解放軍を完膚なきまでに叩き潰す必要がある」

 獣人の強さをレジスタンス側の人間に見せ付けつつ、獣人以外の種族でも“獣化”を身に着けた獣人を超えられると解放軍の過激派に思い知らせなければならない。

 この試合は、解放軍とレジスタンス、互いの溜飲を下げるための茶番でもあるのだから。

「そうだよな、トゥスカ」

「はい。全力の解放軍メンバーを、正面から叩き潰してください」

「「おう!」」
「「「はい!」」」

 士気を高めつつ、試合開始の時間が訪れるのを待つ。


●●●


『闘技場の皆様方、わっちは今回の戦いの開始と勝者を言い渡す者。隠れNPCのオリョウでありんす』

 サバサバとした女の人の声が響く。

 時間か……途端に緊張してきちゃったな。

『これより、一対一の決闘を、計六試合執り行うでありんす! ただし、勝敗を決するのは最終試合のみ! つまり、その前の五試合は前座にすぎんのでありんす』

 その後も、試合のルール説明が行われる。

『それでは、最初の試合を始めるでありんす! 選手は入場しなぁぁ!』

 オリョウさんの言葉が終わると同時に、格子が上へと吸い込まれていった。

「それで、最初は誰が行く?」

 エリューナさんが、選手に向かって尋ねる。

 ――次の瞬間、会場の方から騒音と言って良いほどの声援と罵声が響いてきた!!

「向こうは、既に出て来たようですね」
「――アイツは!!」

 敵の選手を目視した瞬間――全身が雷に打たれたように……憎悪が込み上げてきた。

「ウララ様、あの男は……」
「ラキを傷付けたッ!!」

 “獣の聖域”への転移直後、問答無用でラキの脳天に斧を振り下ろした――クソ野郎ッッ!!!

「……私が出ます」

 怒りを奥底へと封じ込め、頭を回すためのガソリンとして使う。

「……気を付けて」
「ウララ様……」

 コセさんとカプアの案じる声が、私の怒りを鎮めようとしているようで煩わしく感じてしまう。

「どんなのが出て来るかと思えば、異世界人の小娘か。つまんね」

 赤茶髪をオールバックにした胡狼ジャッカルの獣人が、上半身裸で闘技場の上に立っていた。

 細身で、俊敏な一撃離脱戦法が得意そうな……私のような完全後衛職にとって、天敵のような存在。

「見たところ、完全な後衛職。せいぜい、さっさと殺してしまわないように嬲ってやるよ」

 声が、やけに響いている気がする。

「俺達、獣人の溜飲を下げるための贄となるが良い!」

 会場から罵声が響く。

 やっぱり、舞台上の会話は丸聞こえなんだ。

 肩を露出するように黒い派手な着物を着崩した隠れNPC、オリョウさんもなにかの装置を使っているわけではない……“決闘場”の仕様ってことなのね。

「私のこと、憶えていないようね」
「は?」

「早く試合を始めてください、オリョウさん」
「そちらは構わないか?」

 オリョウが男に……カザルフに確認を取る。

「ああ、良いぜ!」

「では両者、名を名乗れ」

「ジャッカルの獣人、カザルフ!」
「ウララです」


「それでは、カザルフVSウララ。第一試合――開始!!」


「“闘気斧”!!」
「“魔断障壁”――“神の朗読”」

 半円の障壁で初撃を受けきると同時にユニークスキルを使用――五冊の本を私の周りに召喚し、浮かべる!

「最初の一撃で仕留められなかった時点で、貴男の負けよ」
「は? 本を浮かべたくらいで何を強がってやがる! “紅蓮斧術”――クリムゾンスラッシュ!!」

 障壁が消えた途端、踏み込んできた。

「――“不可侵条約”」

 頭上から振り下ろされた一撃を、開かれた“締結の聖典”が纏う力場で受け止める。

「チ!」

 後退するカザルフ。

「お前、なぜ今のを防げた!」

「時間を掛けて嬲るというブラフを、わざわざチラつかせたのに。とでも言いたいのかしら?」

「て、テメー、弱っちい異世界人風情が!!」
「貴方の手口や人間性は探らせてた。だから、貴方の卑怯ぶりはよく知ってる。解放軍では、一番姑息な男と呼ばれているらしいわね」

「――――殺してやる。“獣化”ッ!!」

「ようやくか」

 赤茶のジャッカル人獣となるカザルフ。

「これで、私も本気を出せる」

『はあ? 余裕かましてんじゃねぇぞ、テメーーッ!!』

 斧を手に、正面から突っ込んでくるだけ、か。


「“黄金の悪魔”」


 Sランクの書物、”ソロモンの黄金書”より、黄金の毛並みと鎧持つ山羊の人獣悪魔を呼び出す。

『な!?』

 ”黄金の悪魔”が持つ二股の槍を避けた瞬間、大きな拳を叩き付けられるカザルフ。

「“失墜の怨嗟”」

 “堕とされし外典”、Sランクの効果で、私のTPの四分の一を使用し――“黄金の悪魔”を大幅に強化。

『ブベッッ!! グベババベブベッッッ!!!』

 槍を捨てさせ、両拳を連続で打ち込ませ続ける。

『も、やめ」

「“獣化”が解けるのが早過ぎる。自分から解いたわね」

 “黄金の悪魔”にカザルフの身体を掴ませ、掲げて貰う。

「さっさと死んで楽になりたいってこと? ――ざけんな!!」

「ギャァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!」

「魔法使いに魔法の一発も使わせずに敗北するなんて――恥ずかしくないのかッ!!」

 思いっ切り、舞台に叩き付けさせる!!

「お前みたいな雑魚に、転移直後の不意打ちじゃなければ――私のラキは負けなかったッ!!!」

「――ブゴーーーッッッ!!!」

 全身の骨をバラバラにしたはずだけれど、なんとかまだ死んでいないみたい……好都合ね。

「ハイヒール」
「……な……なんで」

 見る見る傷が治っていくカザルフ。

「ウララ選手、勝敗は死のみが決するでありんす。回復させても、棄権は認められていないでありんすよ?」



 この程度で、私の憎悪が晴れるはずないのだから。

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