ダンジョン・ザ・チョイス
455.獣の聖地
「来たな」
「ここが……獣の聖地」
先に来ていたリューナ達と合流後、俺は祭壇の上からその威容を見渡していた。
木々や平原の広がる広大な岩場の上に、石で出来た外壁と家々。
その中心に聳えるのは、年代を感じさせるような石の城。
植物が絡まり、罅どころか崩れている部分まで見える。
「向こうが、例の聖域?」
マリナが見据えるのは、外壁内部にある緑地帯。
白っぽい黄土色の石壁により長方形状に覆われた、奥の方に大樹が一本聳えている場所。
その樹の幹は異様に太く、背はあまり高くない。
「こんなに落ち着く場所は、大樹村以来かもな」
「確かに」
同意してくれるリューナ。
このステージに《獣人解放軍》が居を構えた理由は、そういうところにもあったのかもしれない。
「ご主人様ー!!」
微かに聞こえた声に、目視するよりも早く身体は動いていた!
“地天衝のブーツ”から“偉大なる英雄の天竜王鎧”へと受け継がれた空を踏む能力で、急ぎ祭壇の麓へと向かう!!
「トゥスカ!!」
「ご主人様!!」
勢いよく抱き付き、その勢いを逃がすようにトゥスカを軸に身体を回転させ、着地と同時に抱き上げ――衝動任せにキスを交わす!
「ん、チュパ、ん♡ チュプ、クチュ、んん♡♡」
この前の続きと言わんばかりに、十秒以上、タップリとキスを続けた俺達。
このままトゥスカをベッドに連れ込んで、会えなかった分のぬくもりを、情愛と共に貪りたくなってしまう。
「……コセ様」
「ノーザン、久し振……り」
背後から聞こえた懐かしい声に振り返ると…………ノーザンとは別の獣人六人が突っ立っていた。
その中心に居る人物は、今にも射殺しそうな眼光を俺に向けている!
「貴様がコセか……死ね」
「兄さん、私を怒らせたいの?」
途轍もない殺気を放つ男を、柔らかな圧で宥めるトゥスカ……怖い。
「ェホン!! ……俺はトゥスカの兄で、レギオン、《獣人解放軍》のリーダーでもあるヴァルカだ」
「《龍意のケンシ》のレギオンリーダー、コセです。お義兄さん」
「お義兄!!? ……い、一応初めましてだな、義弟よ」
めちゃくちゃイライラしているように見えるんだが。
獣人至上主義を掲げている奴等のリーダーである以上、仕方がないのかもしれないが。
「ユウダイ!」
そうこうしているうちに、駆け付けてくれるマリナ達。
「ず、随分女を侍らせているようだが……まさかとは思うが、俺のトゥスカ以外の女と関係を持っているわけではなかろうなッ!!」
この人、絶対シスコンだ。
トゥスカの顔を窺うと、深いため息を吐かれた?
「兄さん。優秀な男が、複数の女を囲うのは当たり前のことでしょう。自分だって、五人もの女を囲っているくせに」
「それは獣人の雄の場合の話だ! ソイツは異世界人だぞ!!」
その論理は狡くないか?
「そもそも貴男はここで、トゥスカ達と一緒に俺を待ってたんですよね? 用件はなんですか?」
「貴様という男を見極めようと思ったのだ! この俺よりも強い男でなければ、大事な妹を任せられんからな!!」
「この前のクエストでご主人様は最後まで立っていて、どっかの誰かさんは這いつくばってましたけれどね」
「クッ!!」
トゥスカの言葉に、大ダメージを受けている様子のヴァルカ……?
「そもそも、ご主人様は私より強いの。力がどうとかいうのなら、私に負けた兄さんが偉そうにするのはおかしいでしょう!」
「そ、それは……」
完全に、トゥスカの方が力関係は上のようだ……色んな意味で。
「……義弟――貴様に決闘を申し込む!!」
「へ?」
「勝負は一対一の試合形式。それぞれ選手は六人! 勝敗その物は、大将である俺とお前の試合のみで決める!!」
「へ? じゃあ、その前に行う五試合はなんのために……」
「そっちの参加メンバーからは、獣人は除外しろ! 良いな!」
随分、違和感のあるルールだな。
「勝敗というが、どうやって決めるつもりだ?」
「どちらかの死だ」
「……なら、この勝負は受けられない」
「臆したか、異世界人!!」
「戦う勇気もない臆病者が!」
「――黙れ!!」
ヴァルカの一括に、この場の空気が震え……引き連れていた獣人達が押し黙る。
「こちらには、一定空間内であれば死んでも死なずに済む、“決闘場”というアイテムがある」
円形闘技場のような、手の平サイズの模型を見せてくるヴァルカ。
「ナターシャ」
「はい。ヴァルカ様の言うとおり、“決闘場”には舞台で殺されても復活する事が出来る機能が備わっています。使用できるのは、街や村の内部でのみになりますが」
「……俺の一存では決められない」
「良いだろう、一日だけくれてやる。ただし、逃げた場合はトゥスカをこの先の旅に連れては行かせんからな!」
そう来るか。
「俺と一対一じゃダメなのか?」
「ダメだ」
他の奴等は関係ないだろうに。
「俺が勝った場合は、トゥスカを奴隷から解放して貰う。そして、二度と貴様とは関わらせん!」
横暴な。
「俺が勝った場合は?」
「同盟を組んでやる。こちらで手に入れた高ランクアイテムを譲ってやっても良い。魔法使い用の物は、俺達が持っていても意味が無いしな」
ちゃんとメリットは用意しているっていう。
「私は構わないぞ、コセ」
リューナが肯定した?
「私も。なんか、コイツらムカつくし」
「そうですね」
「高圧的な態度は嫌いです」
マリナ、チトセ、クオリアまでやる気に!
「ありがとう……勝負を受けるよ、お義兄さん。いや、ヴァルカ」
「ならば、明日の正午丁度に聖地の中心地に来い。観客を連れて来ても構わんぞ」
「分かった」
俺の返事を最後に、背を向けて去っていく黒犬の獣人、ヴァルカ。
「なにか起きるだろうなとは思っていたけれど……」
まさかお義兄さんと、殺し合いを前提とした決闘をすることになるとは。
◇◇◇
『奴等がボス戦で消耗している隙にクエストを発動させようと思っていたが、面白い事になったな』
この状況を利用すれば、あのコセとかいうガキを始末できる可能性が上がる。
『この手で奴を殺せれば、俺の地位は不動のものとなるだろう』
いずれは、オッペンハイマーを蹴落としてこの俺が統括者の座に!!
『フハハハハハハ、ハハハハハハハハハ!!』
このチャンス、絶対に物にしてやるぞ!
「ここが……獣の聖地」
先に来ていたリューナ達と合流後、俺は祭壇の上からその威容を見渡していた。
木々や平原の広がる広大な岩場の上に、石で出来た外壁と家々。
その中心に聳えるのは、年代を感じさせるような石の城。
植物が絡まり、罅どころか崩れている部分まで見える。
「向こうが、例の聖域?」
マリナが見据えるのは、外壁内部にある緑地帯。
白っぽい黄土色の石壁により長方形状に覆われた、奥の方に大樹が一本聳えている場所。
その樹の幹は異様に太く、背はあまり高くない。
「こんなに落ち着く場所は、大樹村以来かもな」
「確かに」
同意してくれるリューナ。
このステージに《獣人解放軍》が居を構えた理由は、そういうところにもあったのかもしれない。
「ご主人様ー!!」
微かに聞こえた声に、目視するよりも早く身体は動いていた!
“地天衝のブーツ”から“偉大なる英雄の天竜王鎧”へと受け継がれた空を踏む能力で、急ぎ祭壇の麓へと向かう!!
「トゥスカ!!」
「ご主人様!!」
勢いよく抱き付き、その勢いを逃がすようにトゥスカを軸に身体を回転させ、着地と同時に抱き上げ――衝動任せにキスを交わす!
「ん、チュパ、ん♡ チュプ、クチュ、んん♡♡」
この前の続きと言わんばかりに、十秒以上、タップリとキスを続けた俺達。
このままトゥスカをベッドに連れ込んで、会えなかった分のぬくもりを、情愛と共に貪りたくなってしまう。
「……コセ様」
「ノーザン、久し振……り」
背後から聞こえた懐かしい声に振り返ると…………ノーザンとは別の獣人六人が突っ立っていた。
その中心に居る人物は、今にも射殺しそうな眼光を俺に向けている!
「貴様がコセか……死ね」
「兄さん、私を怒らせたいの?」
途轍もない殺気を放つ男を、柔らかな圧で宥めるトゥスカ……怖い。
「ェホン!! ……俺はトゥスカの兄で、レギオン、《獣人解放軍》のリーダーでもあるヴァルカだ」
「《龍意のケンシ》のレギオンリーダー、コセです。お義兄さん」
「お義兄!!? ……い、一応初めましてだな、義弟よ」
めちゃくちゃイライラしているように見えるんだが。
獣人至上主義を掲げている奴等のリーダーである以上、仕方がないのかもしれないが。
「ユウダイ!」
そうこうしているうちに、駆け付けてくれるマリナ達。
「ず、随分女を侍らせているようだが……まさかとは思うが、俺のトゥスカ以外の女と関係を持っているわけではなかろうなッ!!」
この人、絶対シスコンだ。
トゥスカの顔を窺うと、深いため息を吐かれた?
「兄さん。優秀な男が、複数の女を囲うのは当たり前のことでしょう。自分だって、五人もの女を囲っているくせに」
「それは獣人の雄の場合の話だ! ソイツは異世界人だぞ!!」
その論理は狡くないか?
「そもそも貴男はここで、トゥスカ達と一緒に俺を待ってたんですよね? 用件はなんですか?」
「貴様という男を見極めようと思ったのだ! この俺よりも強い男でなければ、大事な妹を任せられんからな!!」
「この前のクエストでご主人様は最後まで立っていて、どっかの誰かさんは這いつくばってましたけれどね」
「クッ!!」
トゥスカの言葉に、大ダメージを受けている様子のヴァルカ……?
「そもそも、ご主人様は私より強いの。力がどうとかいうのなら、私に負けた兄さんが偉そうにするのはおかしいでしょう!」
「そ、それは……」
完全に、トゥスカの方が力関係は上のようだ……色んな意味で。
「……義弟――貴様に決闘を申し込む!!」
「へ?」
「勝負は一対一の試合形式。それぞれ選手は六人! 勝敗その物は、大将である俺とお前の試合のみで決める!!」
「へ? じゃあ、その前に行う五試合はなんのために……」
「そっちの参加メンバーからは、獣人は除外しろ! 良いな!」
随分、違和感のあるルールだな。
「勝敗というが、どうやって決めるつもりだ?」
「どちらかの死だ」
「……なら、この勝負は受けられない」
「臆したか、異世界人!!」
「戦う勇気もない臆病者が!」
「――黙れ!!」
ヴァルカの一括に、この場の空気が震え……引き連れていた獣人達が押し黙る。
「こちらには、一定空間内であれば死んでも死なずに済む、“決闘場”というアイテムがある」
円形闘技場のような、手の平サイズの模型を見せてくるヴァルカ。
「ナターシャ」
「はい。ヴァルカ様の言うとおり、“決闘場”には舞台で殺されても復活する事が出来る機能が備わっています。使用できるのは、街や村の内部でのみになりますが」
「……俺の一存では決められない」
「良いだろう、一日だけくれてやる。ただし、逃げた場合はトゥスカをこの先の旅に連れては行かせんからな!」
そう来るか。
「俺と一対一じゃダメなのか?」
「ダメだ」
他の奴等は関係ないだろうに。
「俺が勝った場合は、トゥスカを奴隷から解放して貰う。そして、二度と貴様とは関わらせん!」
横暴な。
「俺が勝った場合は?」
「同盟を組んでやる。こちらで手に入れた高ランクアイテムを譲ってやっても良い。魔法使い用の物は、俺達が持っていても意味が無いしな」
ちゃんとメリットは用意しているっていう。
「私は構わないぞ、コセ」
リューナが肯定した?
「私も。なんか、コイツらムカつくし」
「そうですね」
「高圧的な態度は嫌いです」
マリナ、チトセ、クオリアまでやる気に!
「ありがとう……勝負を受けるよ、お義兄さん。いや、ヴァルカ」
「ならば、明日の正午丁度に聖地の中心地に来い。観客を連れて来ても構わんぞ」
「分かった」
俺の返事を最後に、背を向けて去っていく黒犬の獣人、ヴァルカ。
「なにか起きるだろうなとは思っていたけれど……」
まさかお義兄さんと、殺し合いを前提とした決闘をすることになるとは。
◇◇◇
『奴等がボス戦で消耗している隙にクエストを発動させようと思っていたが、面白い事になったな』
この状況を利用すれば、あのコセとかいうガキを始末できる可能性が上がる。
『この手で奴を殺せれば、俺の地位は不動のものとなるだろう』
いずれは、オッペンハイマーを蹴落としてこの俺が統括者の座に!!
『フハハハハハハ、ハハハハハハハハハ!!』
このチャンス、絶対に物にしてやるぞ!
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