ダンジョン・ザ・チョイス
450.可愛い家族
「……なんだか落ち着かないな」
今日の攻略を早めに切り上げ、“吸血皇の城”へと戻ってきた俺達。
チトセさんは手に入れた素材を使った調合へ、マリナとリューナは攻略中に食べやすい食事、ナターシャとネレイスは今夜の食事の準備を。
クオリアはというと、エルザに戦闘訓練をして貰っているらしい。
「……俺はどうするかな」
明日からは別エリア。順当にいけば、明日のうちにトゥスカに会える……今、完全にノーザンの事が頭から抜けてたな。
「トゥスカにもうすぐ会えると思うと、なんだか落ち着かないな」
城の廊下を歩きながら、そんなことを呟いていた。
「フーン、そんなにトゥスカさんに会いたいんですね~」
角から現れたのは、チトセさん。
「大規模突発クエストの時、コセ君たら、感極まってあんな熱烈なキスしてたしね~」
そう言えば、あの時チトセさんにも見られてたんだった。
「あの……調合してたんじゃないんですか?」
「なんだか集中出来なくて、大きなお風呂があるっていう浴場に行こうかなって。コセ君も一緒に行く?」
コセ君か……なんで初めてあった頃みたいに、君に戻ったんだろう?
「……そうですね」
汗で身体がベトついてるし、粘液の悪臭が若干臭うし。
★
「……あの、本当に良いんですか?」
てっきり男と女で分かれていると思い込んでいた俺は、脱衣所に来るまで混浴である事に気付いていなかった。
「私が良いと言ってるんですから……誘ったのは私だし」
チトセさんに申し訳なさそうに説得され、俺達はタオルで身体を隠しながら一緒に巨大ジャグジーで入浴する事に。
そう言えば、他に温水プールもあるんだっけ。
「それに、二人だけで話しておきたい事もあって」
「それじゃあ……」
かけ湯ののち、二人で湯船に浸かる俺達。
気を遣って離れた場所に浸かろうとするも、チトセさんから隣りにやって来た。
「……」
「……」
……湯に浮かぶ花弁から、仄かに良い香りが。
小さい頃は、この匂いを何倍にも凝縮したような香水の匂いが本気で嫌いだった。
あまりにも匂いが強すぎて、鼻が曲がりそうなくらいの悪臭と区別が付けられないくらい最悪に感じていた程だ。
その感覚を元凶の母親に訴えたけれど、一切理解してはくれなかったな。
「フー……それで、話したい事って?」
「……私が銃火器を使うと性格が変わるの……気付いてますよね?」
「まあ……」
吸血皇と戦った時、初めて目撃したチトセさん本来のバトルスタイルと人格。
「昨日、マリナ達からたびたび豹変していたとは聞きましたけれど」
俺が気を失っていたり、別ルートを通っているときに、仲間のピンチに銃火器を使って助けてくれていたと。
「あの……やっぱり、ああいう女の子は……嫌い……ですよね」
無意識なのか、左右の人差し指を何度もくっ付けるチトセさん。
「ギャップには驚きましたけれど、オラオラ系の妻が一人居るので」
ザッカルは、今どの辺りに居るのかな?
「そう……なんだ」
「それに、普段のチトセさんも豹変したチトセさんも、どっちもチトセさんなんでしょ?」
少なくともチトセさんは、良い子ぶって自分に都合の良い嘘を付くような卑怯者じゃない。
「コセ君って……本当に十五歳?」
「へ?」
「私が十五歳の時よりしっかりしているって言うか……大人っぽいなって」
まあ、同級生や家族より人間性は大人だったろうな。
「そういう、心の隙間を埋めるような手で、数々の女の子を物にしてきたってわけなんだね」
「そんなことは……」
そもそも、この世界に来るまでモテた事なんて……一応、マリナは昔から俺の事が好きだったらしいけれど。
「うーん……私も、元の世界には帰らずに、こっちに残ろっかな!」
急に背伸びして、チトセさんの胸元のタオルが少しズレる! ……結構大きいよな、チトセさん。背が低い割に。
「どこ見てるの、コセ君?」
「いや……すみません」
さすがにこれは狡くないか、チトセさん。
「ところで……なんでくん呼びに?」
「コセ君は頼りになるから、いつの間にかさん付けになってたけれど……頼りになる他人より、可愛い家族みたいに思いたくなったのかな…………ぁ」
家族という部分に、特に深い意味なんて無いんだろうなって思おうとしたのに、そんな反応されたら……。
「……もし私が居なくなったら……嫌?」
その言い方は、幾らなんでも狡すぎるだろ!
「――嫌に決まってるでしょ」
正面から距離を縮め、彼女の瞳を見詰める。
「私も……良いの?」
「むしろ、俺で良いのか? 自分で言うのもなんだけれど……たくさん居るし」
「もし私を捨てたら――絶対に赦さないから」
本物の殺気に……玉が冷えた。
「グッ!?」
チトセさんの足が!!
「二人でお風呂に入ってるの、誰かに気付かれる前に……ね」
「チトセさんて……」
大樹村で俺達に付いてくるって言ったときもそうだったけれど……この人、かなり強引だ。
「その気にさせた責任、取って貰うからな」
「コセ君の方が年下だけれど……お姉さんに色々教えて♡」
頬を赤らめて上目遣いになっているチトセさんの唇を奪い、彼女の身に着けていたタオルを湯船の中へと沈めた。
●●●
『もしもーし。ジュリー達、聞こえてる?』
通信機からメルシュの声が。
「ああ、聞こえてるよ。もしかして、そっちはもう着いたの?」
『うん。なんかこっちのパーキングエリアに待ち伏せしている奴等が居たけれど、全員片付けたとこ。仇だとか言ってたから、ジュリー達が遭遇した奴等の仲間だったと思う』
あの集団、やっぱり他にも居たのか。
「モモカは……見たの?」
人を殺すところを。
『バイク組に先行して貰ったから、その辺は大丈夫。まあ、薄々気付いているような気もするけれど』
「……そう」
私達は、モモカの良いお手本になれているのだろうか。
『そっちは、あとどれくらいで到着しそう?』
「もう見えてきてる。五分くらいかな」
『なら、今日中にボス戦まで行けそうだね』
「ああ」
このステージのボス戦を終えたら、次はいよいよ二十八ステージ……コセ達が落ちた場所か。
そろそろ、コセのぬくもりが思い出せなくなってきているな。
「早く、コセに抱かれたいなー」
『『『聞こえてるぞ、ジュリー』さん』ちゃん』
「…………」
私は、無言で通信機を切った。
今日の攻略を早めに切り上げ、“吸血皇の城”へと戻ってきた俺達。
チトセさんは手に入れた素材を使った調合へ、マリナとリューナは攻略中に食べやすい食事、ナターシャとネレイスは今夜の食事の準備を。
クオリアはというと、エルザに戦闘訓練をして貰っているらしい。
「……俺はどうするかな」
明日からは別エリア。順当にいけば、明日のうちにトゥスカに会える……今、完全にノーザンの事が頭から抜けてたな。
「トゥスカにもうすぐ会えると思うと、なんだか落ち着かないな」
城の廊下を歩きながら、そんなことを呟いていた。
「フーン、そんなにトゥスカさんに会いたいんですね~」
角から現れたのは、チトセさん。
「大規模突発クエストの時、コセ君たら、感極まってあんな熱烈なキスしてたしね~」
そう言えば、あの時チトセさんにも見られてたんだった。
「あの……調合してたんじゃないんですか?」
「なんだか集中出来なくて、大きなお風呂があるっていう浴場に行こうかなって。コセ君も一緒に行く?」
コセ君か……なんで初めてあった頃みたいに、君に戻ったんだろう?
「……そうですね」
汗で身体がベトついてるし、粘液の悪臭が若干臭うし。
★
「……あの、本当に良いんですか?」
てっきり男と女で分かれていると思い込んでいた俺は、脱衣所に来るまで混浴である事に気付いていなかった。
「私が良いと言ってるんですから……誘ったのは私だし」
チトセさんに申し訳なさそうに説得され、俺達はタオルで身体を隠しながら一緒に巨大ジャグジーで入浴する事に。
そう言えば、他に温水プールもあるんだっけ。
「それに、二人だけで話しておきたい事もあって」
「それじゃあ……」
かけ湯ののち、二人で湯船に浸かる俺達。
気を遣って離れた場所に浸かろうとするも、チトセさんから隣りにやって来た。
「……」
「……」
……湯に浮かぶ花弁から、仄かに良い香りが。
小さい頃は、この匂いを何倍にも凝縮したような香水の匂いが本気で嫌いだった。
あまりにも匂いが強すぎて、鼻が曲がりそうなくらいの悪臭と区別が付けられないくらい最悪に感じていた程だ。
その感覚を元凶の母親に訴えたけれど、一切理解してはくれなかったな。
「フー……それで、話したい事って?」
「……私が銃火器を使うと性格が変わるの……気付いてますよね?」
「まあ……」
吸血皇と戦った時、初めて目撃したチトセさん本来のバトルスタイルと人格。
「昨日、マリナ達からたびたび豹変していたとは聞きましたけれど」
俺が気を失っていたり、別ルートを通っているときに、仲間のピンチに銃火器を使って助けてくれていたと。
「あの……やっぱり、ああいう女の子は……嫌い……ですよね」
無意識なのか、左右の人差し指を何度もくっ付けるチトセさん。
「ギャップには驚きましたけれど、オラオラ系の妻が一人居るので」
ザッカルは、今どの辺りに居るのかな?
「そう……なんだ」
「それに、普段のチトセさんも豹変したチトセさんも、どっちもチトセさんなんでしょ?」
少なくともチトセさんは、良い子ぶって自分に都合の良い嘘を付くような卑怯者じゃない。
「コセ君って……本当に十五歳?」
「へ?」
「私が十五歳の時よりしっかりしているって言うか……大人っぽいなって」
まあ、同級生や家族より人間性は大人だったろうな。
「そういう、心の隙間を埋めるような手で、数々の女の子を物にしてきたってわけなんだね」
「そんなことは……」
そもそも、この世界に来るまでモテた事なんて……一応、マリナは昔から俺の事が好きだったらしいけれど。
「うーん……私も、元の世界には帰らずに、こっちに残ろっかな!」
急に背伸びして、チトセさんの胸元のタオルが少しズレる! ……結構大きいよな、チトセさん。背が低い割に。
「どこ見てるの、コセ君?」
「いや……すみません」
さすがにこれは狡くないか、チトセさん。
「ところで……なんでくん呼びに?」
「コセ君は頼りになるから、いつの間にかさん付けになってたけれど……頼りになる他人より、可愛い家族みたいに思いたくなったのかな…………ぁ」
家族という部分に、特に深い意味なんて無いんだろうなって思おうとしたのに、そんな反応されたら……。
「……もし私が居なくなったら……嫌?」
その言い方は、幾らなんでも狡すぎるだろ!
「――嫌に決まってるでしょ」
正面から距離を縮め、彼女の瞳を見詰める。
「私も……良いの?」
「むしろ、俺で良いのか? 自分で言うのもなんだけれど……たくさん居るし」
「もし私を捨てたら――絶対に赦さないから」
本物の殺気に……玉が冷えた。
「グッ!?」
チトセさんの足が!!
「二人でお風呂に入ってるの、誰かに気付かれる前に……ね」
「チトセさんて……」
大樹村で俺達に付いてくるって言ったときもそうだったけれど……この人、かなり強引だ。
「その気にさせた責任、取って貰うからな」
「コセ君の方が年下だけれど……お姉さんに色々教えて♡」
頬を赤らめて上目遣いになっているチトセさんの唇を奪い、彼女の身に着けていたタオルを湯船の中へと沈めた。
●●●
『もしもーし。ジュリー達、聞こえてる?』
通信機からメルシュの声が。
「ああ、聞こえてるよ。もしかして、そっちはもう着いたの?」
『うん。なんかこっちのパーキングエリアに待ち伏せしている奴等が居たけれど、全員片付けたとこ。仇だとか言ってたから、ジュリー達が遭遇した奴等の仲間だったと思う』
あの集団、やっぱり他にも居たのか。
「モモカは……見たの?」
人を殺すところを。
『バイク組に先行して貰ったから、その辺は大丈夫。まあ、薄々気付いているような気もするけれど』
「……そう」
私達は、モモカの良いお手本になれているのだろうか。
『そっちは、あとどれくらいで到着しそう?』
「もう見えてきてる。五分くらいかな」
『なら、今日中にボス戦まで行けそうだね』
「ああ」
このステージのボス戦を終えたら、次はいよいよ二十八ステージ……コセ達が落ちた場所か。
そろそろ、コセのぬくもりが思い出せなくなってきているな。
「早く、コセに抱かれたいなー」
『『『聞こえてるぞ、ジュリー』さん』ちゃん』
「…………」
私は、無言で通信機を切った。
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