ダンジョン・ザ・チョイス
442.硝子が見据える敵
「……本当に普通なんだな」
チトセさんが調合室に閉じ籠もってしまったのもあり、俺はナターシャと二人で“吸血皇の城”を見て回っていた。
以前数多の墓所へと通じていた場所は地下倉庫となっており、城には広い食堂やキッチン、広大な薔薇の庭、使用人用の部屋や巨大な温水プールなども完備されている。
「たまになら、泊まりに来たくなるかも」
ここで暮らしたいとは思えないけれど。
「早く”神秘の館”に戻りたい」
本当に、我が家が恋しいよ。
そんなことをボーッと考えながら一点を見詰めていたら、それが窓を拭く吸血鬼メイドのお尻だったことに気付く。
「お尻に興味がおありなのですか?」
「いや、別にそういうわけじゃ!」
NPCとはいえ、身体に触ったりすることに罪悪感を憶えるし。
胸やお尻なんて、もってのほかだ。
「幾らでも、触らせてくださる方々がおりますしね」
「それはそうだけれど……胸を触らせてなんて、頼んだことないからな?」
人として恥ずかしすぎる。
「私にであれば、いつでも構いませんよ」
「……へ?」
ナターシャのデザインに自分の好みがかなり入っているため、つい動揺してしまう!
「へ、変な気を遣わなくていいから」
「私の身体、ピチピチですよ?」
「やめない」
どこで憶えたんだ、そんな言葉。
「そ、そう言えば、Lvは幾つになったのかな!」
我ながら、話の逸らし方が下手!
○戦士.Lv58になりました。スキル・スキルカード変換機能が解禁されます。
○戦士.Lv59になりました。アイテム属性変換機能が解禁されます。
「……なんだこれ?」
特殊クエストでLvが2も上がっている事に驚いたけれど、それ以上に新しい機能の意味が分からない。
「スキル・スキルカード変換機能は、一部のスキルを変更する機能です。一度につき10000Gを消費し、例えば”水属性強化”を”火属性強化”などに変更できます。他にも、○○属性付与、属性付きの武術、魔法なども対象になります」
「なるほど」
状況によっては特定の属性がまったく役に立たない場合もあるし、自分に合わない魔法のスキルカードを手に入れても、好きな物に変更できるってわけか。
「後者はそのアイテム版ですね。”竜の短剣”を”闇の短剣”に変えたり出来ます。一番使用対象になりやすいのは指輪かと」
「ジュリーやメルシュが、不要なアイテムをあまり売ろうとしなかったのって……」
この機能について知っていたからなのか?
「細かな制約はありますが、使いこなせれば、この先の冒険が多少なりとも楽になるかと」
「確かに……もしかして」
”共有のティアーズ・グリーン”を対象にしてみようとする……けれどダメだった。
「名前が違うだけで、属性が異なるわけではありませんので」
「やっぱり、鍛冶屋に持ち込まないとダメか」
一日掛かると考えると、地味に面倒なんだが。
●●●
「出来た」
「マリナ様……あの?」
部屋の椅子に座らされたと思ったら、急に髪をセットされてしまった。
「前髪が鬱陶しいのですが」
「言うほどオデコは隠してないでしょ」
それでも、なんだか鬱陶しい。
「オールバックなんて可愛くないもの。ちょっとくらいお洒落したって良いじゃない」
「はあ……」
目が見えない私には、見栄えというものがよく分からない。
「きっと、ユウダイも気に入るはずよ」
「そう……いう物でしょうか♡?」
コセ様にどう想われるか考えるだけで頬が熱くなり、胸が苦しくなってしまう。
昨晩、あんな行為をするまでは……こんなこと無かったはずなのに。
「あの……マリナ様は、私にお怒りだったのでは?」
部屋に連れ込まれた時は、暴力の一つでも振るわれるのかと覚悟したのですが。
「まあ、多少は気にくわないけれど、もう受け入れちゃってるし。最大のライバルなんて、私達以上にユウダイに……愛されちゃってるし」
「トゥスカ様ですか」
まだお会いしたことはありませんが、コセ様にもっとも愛されるなんて、いったいどのような方なのか。
その人の事を考えると少し……黒い感情が芽生えてしまいますね。
●●●
「戦闘音がしたけれど、なにがあったの?」
「ちょっとゴミ片付けをしていただけよ。派手にね」
NPCのナースにセクハラしまくってた汚物をね……あんまり人のこと言えないけれど。
で、でも、私はあそこまで下品じゃないし。
「じゃあ、全員揃った事だし、今日中にこの工場地帯で出来ることを終わらせちゃおうか」
「全員? ユリカとジュリーのパーティーが見当たらないけれど?」
そう言えば、モモカとバニラも居ない。
「ユリカが疲れちゃったみたいで、せっかくだからバニラ達と一緒に戻って貰ったよ」
「ああ」
さっきみたいな男達とあの子達を、万が一にも接触させたくないもんね。
「それで、ジュリー達は?」
ルイーサが尋ねる。
「先に、この場所特有のイベントをこなしにいってくれているよ」
「特有のイベント?」
●●●
「マシーンが欲しい」
とある工場の奥にいた、老人NPCに頼む。
「……俺は、腕の良い奴にしかマシーンを売らねー。そんなに欲しけりゃ、腕を見せな」
○タイムアタックレースに挑みますか?
「ジュリー様、これからなにをするのですか?」
タマに尋ねられる。
「この工場地帯を出るにはマシーンが必要なんだけれど、そのマシーンを手に入れるか、高値でバスに乗せて貰うかが選べるんだ」
乗せて貰う場合、自分のLv×10000G払わなければならない。
しかも、その間アイテムは一切手に入らなくなってしまう。
「それで、ここで乗り物を売って貰おうと思うんだけれど、このイベントを高い成績でクリアすれば、一人につき一度だけ半額でマシーンを売ってくれるんだ」
ただし、難易度が高い上、隠れNPCや使用人NPCはこのイベントの対象外。
通常の奴隷は参加できるけれど、奴隷がクリアした場合は主に値引きの権利が与えられるらしい。
私は、参加するという意味のYESを選択。
「建物の裏に来な」
言われたとおり工場の裏に行くと、サーキットの端でさっきの老人が待っていた。
「そこのバイクに乗ってコースを三周しろ。七分を切れたら売ってやる。チャレンジ出来るのは三度までだからな」
五分を切れば三割引、三分を切れば半額になる。
ここ以外にもマシーンを売っている場所はあるけれど、安くして貰えるのはここだけだし、オプションを付けられるSランクを手に入れられるのもここだけ。
「タマとスゥーシャは一応、私の走りを見ておいて」
さて、オリジナルなら余裕でクリアできるけれど、今回はリアルオートバイでクリアしなければならない。
途中で買ってきた“レーサー”のサブ職業のお陰で操縦法は頭に入ってきているし、偶然手に入れたレールバイクで練習もしたけれど……本番はどうなるかな。
“聖霊の大ケープ”などの邪魔になるものを外して、髪を後ろで結わえ、紺色の自動二輪に、前屈みになるように乗り込む。
「用意はいいか?」
「オーケー」
「この音をよく覚えな」
ピッ、ピッ、ピーという音が鳴る。
「三つ目の音が開始の合図だ。もう一度聞くか?」
「大丈夫、始めて」
「なら行くぞ!」
音が鳴り始め――三度目の音が響くと同時に、左ハンドルを回して走り出す!!
チトセさんが調合室に閉じ籠もってしまったのもあり、俺はナターシャと二人で“吸血皇の城”を見て回っていた。
以前数多の墓所へと通じていた場所は地下倉庫となっており、城には広い食堂やキッチン、広大な薔薇の庭、使用人用の部屋や巨大な温水プールなども完備されている。
「たまになら、泊まりに来たくなるかも」
ここで暮らしたいとは思えないけれど。
「早く”神秘の館”に戻りたい」
本当に、我が家が恋しいよ。
そんなことをボーッと考えながら一点を見詰めていたら、それが窓を拭く吸血鬼メイドのお尻だったことに気付く。
「お尻に興味がおありなのですか?」
「いや、別にそういうわけじゃ!」
NPCとはいえ、身体に触ったりすることに罪悪感を憶えるし。
胸やお尻なんて、もってのほかだ。
「幾らでも、触らせてくださる方々がおりますしね」
「それはそうだけれど……胸を触らせてなんて、頼んだことないからな?」
人として恥ずかしすぎる。
「私にであれば、いつでも構いませんよ」
「……へ?」
ナターシャのデザインに自分の好みがかなり入っているため、つい動揺してしまう!
「へ、変な気を遣わなくていいから」
「私の身体、ピチピチですよ?」
「やめない」
どこで憶えたんだ、そんな言葉。
「そ、そう言えば、Lvは幾つになったのかな!」
我ながら、話の逸らし方が下手!
○戦士.Lv58になりました。スキル・スキルカード変換機能が解禁されます。
○戦士.Lv59になりました。アイテム属性変換機能が解禁されます。
「……なんだこれ?」
特殊クエストでLvが2も上がっている事に驚いたけれど、それ以上に新しい機能の意味が分からない。
「スキル・スキルカード変換機能は、一部のスキルを変更する機能です。一度につき10000Gを消費し、例えば”水属性強化”を”火属性強化”などに変更できます。他にも、○○属性付与、属性付きの武術、魔法なども対象になります」
「なるほど」
状況によっては特定の属性がまったく役に立たない場合もあるし、自分に合わない魔法のスキルカードを手に入れても、好きな物に変更できるってわけか。
「後者はそのアイテム版ですね。”竜の短剣”を”闇の短剣”に変えたり出来ます。一番使用対象になりやすいのは指輪かと」
「ジュリーやメルシュが、不要なアイテムをあまり売ろうとしなかったのって……」
この機能について知っていたからなのか?
「細かな制約はありますが、使いこなせれば、この先の冒険が多少なりとも楽になるかと」
「確かに……もしかして」
”共有のティアーズ・グリーン”を対象にしてみようとする……けれどダメだった。
「名前が違うだけで、属性が異なるわけではありませんので」
「やっぱり、鍛冶屋に持ち込まないとダメか」
一日掛かると考えると、地味に面倒なんだが。
●●●
「出来た」
「マリナ様……あの?」
部屋の椅子に座らされたと思ったら、急に髪をセットされてしまった。
「前髪が鬱陶しいのですが」
「言うほどオデコは隠してないでしょ」
それでも、なんだか鬱陶しい。
「オールバックなんて可愛くないもの。ちょっとくらいお洒落したって良いじゃない」
「はあ……」
目が見えない私には、見栄えというものがよく分からない。
「きっと、ユウダイも気に入るはずよ」
「そう……いう物でしょうか♡?」
コセ様にどう想われるか考えるだけで頬が熱くなり、胸が苦しくなってしまう。
昨晩、あんな行為をするまでは……こんなこと無かったはずなのに。
「あの……マリナ様は、私にお怒りだったのでは?」
部屋に連れ込まれた時は、暴力の一つでも振るわれるのかと覚悟したのですが。
「まあ、多少は気にくわないけれど、もう受け入れちゃってるし。最大のライバルなんて、私達以上にユウダイに……愛されちゃってるし」
「トゥスカ様ですか」
まだお会いしたことはありませんが、コセ様にもっとも愛されるなんて、いったいどのような方なのか。
その人の事を考えると少し……黒い感情が芽生えてしまいますね。
●●●
「戦闘音がしたけれど、なにがあったの?」
「ちょっとゴミ片付けをしていただけよ。派手にね」
NPCのナースにセクハラしまくってた汚物をね……あんまり人のこと言えないけれど。
で、でも、私はあそこまで下品じゃないし。
「じゃあ、全員揃った事だし、今日中にこの工場地帯で出来ることを終わらせちゃおうか」
「全員? ユリカとジュリーのパーティーが見当たらないけれど?」
そう言えば、モモカとバニラも居ない。
「ユリカが疲れちゃったみたいで、せっかくだからバニラ達と一緒に戻って貰ったよ」
「ああ」
さっきみたいな男達とあの子達を、万が一にも接触させたくないもんね。
「それで、ジュリー達は?」
ルイーサが尋ねる。
「先に、この場所特有のイベントをこなしにいってくれているよ」
「特有のイベント?」
●●●
「マシーンが欲しい」
とある工場の奥にいた、老人NPCに頼む。
「……俺は、腕の良い奴にしかマシーンを売らねー。そんなに欲しけりゃ、腕を見せな」
○タイムアタックレースに挑みますか?
「ジュリー様、これからなにをするのですか?」
タマに尋ねられる。
「この工場地帯を出るにはマシーンが必要なんだけれど、そのマシーンを手に入れるか、高値でバスに乗せて貰うかが選べるんだ」
乗せて貰う場合、自分のLv×10000G払わなければならない。
しかも、その間アイテムは一切手に入らなくなってしまう。
「それで、ここで乗り物を売って貰おうと思うんだけれど、このイベントを高い成績でクリアすれば、一人につき一度だけ半額でマシーンを売ってくれるんだ」
ただし、難易度が高い上、隠れNPCや使用人NPCはこのイベントの対象外。
通常の奴隷は参加できるけれど、奴隷がクリアした場合は主に値引きの権利が与えられるらしい。
私は、参加するという意味のYESを選択。
「建物の裏に来な」
言われたとおり工場の裏に行くと、サーキットの端でさっきの老人が待っていた。
「そこのバイクに乗ってコースを三周しろ。七分を切れたら売ってやる。チャレンジ出来るのは三度までだからな」
五分を切れば三割引、三分を切れば半額になる。
ここ以外にもマシーンを売っている場所はあるけれど、安くして貰えるのはここだけだし、オプションを付けられるSランクを手に入れられるのもここだけ。
「タマとスゥーシャは一応、私の走りを見ておいて」
さて、オリジナルなら余裕でクリアできるけれど、今回はリアルオートバイでクリアしなければならない。
途中で買ってきた“レーサー”のサブ職業のお陰で操縦法は頭に入ってきているし、偶然手に入れたレールバイクで練習もしたけれど……本番はどうなるかな。
“聖霊の大ケープ”などの邪魔になるものを外して、髪を後ろで結わえ、紺色の自動二輪に、前屈みになるように乗り込む。
「用意はいいか?」
「オーケー」
「この音をよく覚えな」
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