ダンジョン・ザ・チョイス
430.荒ぶる直情
「あ! ねー、出口が見えたわよ!」
先頭のマリナがそう叫ぶと、確かに目の前の通路の先には質素な木製の扉が。
ようやく迷路が終わるか。
『よくここまで来られたな、冒険者共! キキ!』
ドアの上部分の天井に、真っ赤な“吸血バット”が留まっていた。
「なにコイツ?」
「まだ攻撃するなよ、マリナ」
「わ、分かってるわよ」
なんとなく、止めてなかったら攻撃してた気がする。
『吸血皇様が居る部屋の入り口は、この先にある! ただし、門番が居るから気をつけな~。キキキキキ!!』
「“熱光線”」
俺達の頭上を飛び越えて消えようとした吸血バットだったが、マリナによって仕留められた。
「たぶん、ここでしっかりと準備をして置けって言うありがたいメッセージだったんだろうな」
マリナに、若干の非難を向ける。
「さっきの奴を倒したら、“Lvアップの実”が三個も手に入ったけど?」
「そ、そうなんだ……」
倒せる機会が少ない故の、ボーナスキャラでもあったのか。
「それで、先に進まれますか?」
「クオリア、もしかして疲れちゃった?」
「いえ、そんなことは」
目が見えないクオリアの精神的負担は、歩くだけでも俺達以上だろう。
「五分ほど休憩しよう。今のうちに水分補給やトイレを済ませるんだ。ナターシャ、後ろの見張りを頼む」
「畏まりました」
こういう時、本当にNPCに有り難みを感じる。
「クオリア、もし疲れてたり負傷したりしたら、遠慮無く言って良いんだからな」
ナオやアヤナはともかく、頑張りすぎるクオリアにはこれくらい言った方が良い。
「……はい、以後気を付けます」
これは、隠そうとしたけれどバレてしまったとか思われそうだな。
●●●
ああ、ウザ。
気遣いの言葉を聞かされた瞬間、そう思ってしまった。
「……やっぱり、変な男」
ああいう言葉を掛けられたことが、無かったわけじゃない。
でも、そういう人間に限って、土壇場で弱者を見捨てる。
だから……コセ様の言葉に、少し怖くなってしまった。
この人も、私を見捨てるんじゃないかって。
「甘えても……良いのかな」
今まで誰も許してくれなかった、目の見えない私なんかが……甘えたことを口にしても許されるのかな。
「……フ」
お願いだから、幸せなんて求めさせないでよ。
●●●
五分の休憩を終え、俺達は扉をくぐる。
「……すご」
暗い箱状の部屋の壁全体に、金銀財宝の山が置かれていた。
「中央に居るな」
俺とナターシャが前に出て、吸血バットが言っていたであろう門番にゆっくりと近付いていく。
微動だにせずにそこに居たのは、黄土色の甲冑を纏う……腕と脚が六つに、三つの頭を持つ異形の騎士!
「あれはゲリュオーンです、ユウダイ様!」
よく見ると胴体も三つあって、背中と腹が縦にくっ付いているだけだったようだ。
それでも、俺の倍はありそうなほどの身長を持つ巨体が三つともなると、その圧迫感は凄まじい。
――ある程度近付いた所で、ゲリュオーンが動きだす!
『ゥオオオオオオオオオ!!!』
「先手必勝だ! “飛王――」
「“瘴気魔法”――――“直情の激発”」
俺とナターシャの間から黒の瘴気の激流が走り抜け――ゲリュオーンの三本の左腕と共に、左胸をゴッソリと持っていった。
『ぐぎ……グガ……』
「“冥雷魔法”――――“直情の轟発”ッ!!」
飛行して上から急接近したクオリアが、黒の雷迸る魔法陣をゲリュオーンに叩き付け……爆音と衝撃波を撒き散らし、完全に消し去ってしまう。
「……クオリア」
自分から接近戦を仕掛けるなんて。
「ユウダイ様、あれを」
ゲリュオーンがいた辺りの空間が揺らいで、赤いゲートのような物が現れる。
「城主の部屋への入口か……クオリア、無事か?」
「大技を使ったので、MPをかなり消費してしまいました」
初めて会った時よりも、距離を感じてしまう。
「……あの、なんのつもりですか?」
気付いたら、優しく彼女を抱き締めていた。
「腹が立ったなら、俺にはそう言って良いから」
「……わ、私は別に……」
「俺に一生涯面倒を見ろって言うなら、もっと素直になって欲しい。これは、最低限の条件だ」
きっとクオリアは、まともに誰かに自分の気持ちを伝えられなかったのだろう。
誰も自分の心なんて見てくれないという想いに、目が見えないという負い目が合わさって、ずっと自分の感情を抑え込んでいたはず。
俺もトゥスカに出会うまで、自分の心に触れてくれる人になんて出会えなかったから……殻に閉じこもりたくなる気持ちは、よく分かる。
「……私を――搔き回さないで!!」
クオリアに……突き飛ばされた。
「ハアハア、ハアハア……」
「ちょ、クオリア! なにしてんのよ!」
マリナが感情的になってしまう。
「いきなり抱き付いたのは俺だから……ごめん、クオリア」
愛妾宣言とかされてたせいか、調子に乗ってたんだろうな、俺は。
「いえ……私の方こそ、申し訳ありません」
いたたまれない空気を払拭したいのか、俺達は自然と、血のように赤いゲートを潜っていた。
○ゲリュオーンを七分以内に撃破したため、討伐報酬が倍の12000000Gとなります。
●●●
「では、私のレギオン、《黒茨親衛隊》を抜けるという事で良いのね?」
ユウコの居城、“薔薇園の古城”を訪れた俺とレイナで、彼女のレギオンを離れる旨を伝えた。
『ああ、世話になった』
パーティーを二つに別ける必要があり、仲間に出来たエルフが一人だけだったため、一時的にレギオンを組ませて貰っていたユウコ。
男のエルフの奴隷を何人か失って荒れていると聞いたが、話し合いその物は滞りなく進んでくれてほっとしている。
もしかしたら、今彼女の横に控えている執事風のエルフのお陰かもな。
おそらく、使用人NPCなんだろうが。
それにしても、以前よりも凄みが増しているな、この女。
「一度で良いから、その仮面の下を見てみたかったわね」
『言っただろう。酷い火傷の跡があって、他人に見せられた物じゃないと』
血の繋がっていない父親に熱湯を掛けられて、左眼はほとんど見えていないしな。
『手切れ金というわけじゃないが、1000000Gを置いていく』
金袋を実体化させて、取りに来た執事エルフに渡す。
「別に良いのに。そういう事なら、私からはこれを贈るわ」
ユウコが実体化させた物を、再び執事エルフが持ってきてくれる。
『“最高級な分裂リング”か……ありがたい』
装備した状態で日を跨ぐと勝手に一つ増えるという、ただそれだけのSランク装備。
ただし、オリジナル以外は装備品としてカウントされず、売る以外に使い道は無い金策用アイテム……本来ならば。
「悪魔召喚士の彼女に、ちょうど良いと思ってね」
“悪魔召喚士”のユニークスキルを持つミドリは、贄にしたアイテムのランクで呼び出せる悪魔が決まる。
Sランクを贄にしなければ、最上級悪魔の七十二柱を呼び出すことは出来ないため、これはありがた過ぎるくらいだ。
『ほとんど一方的に世話になってしまったな』
「別に良いわよ。良い男と話せただけでも、私には宝物だもの。最後に、一発ヤらせてくれるっていうなら喜んで跨がってあげるけれど?」
「ちょっと、ユウコさん! なに言ってるんですか!!」
レイナが叫ぶ。
「勘弁してくれ」
俺は、色恋沙汰になんて興味ないんだよ。
むしろ……トラウマって言うべきか。
先頭のマリナがそう叫ぶと、確かに目の前の通路の先には質素な木製の扉が。
ようやく迷路が終わるか。
『よくここまで来られたな、冒険者共! キキ!』
ドアの上部分の天井に、真っ赤な“吸血バット”が留まっていた。
「なにコイツ?」
「まだ攻撃するなよ、マリナ」
「わ、分かってるわよ」
なんとなく、止めてなかったら攻撃してた気がする。
『吸血皇様が居る部屋の入り口は、この先にある! ただし、門番が居るから気をつけな~。キキキキキ!!』
「“熱光線”」
俺達の頭上を飛び越えて消えようとした吸血バットだったが、マリナによって仕留められた。
「たぶん、ここでしっかりと準備をして置けって言うありがたいメッセージだったんだろうな」
マリナに、若干の非難を向ける。
「さっきの奴を倒したら、“Lvアップの実”が三個も手に入ったけど?」
「そ、そうなんだ……」
倒せる機会が少ない故の、ボーナスキャラでもあったのか。
「それで、先に進まれますか?」
「クオリア、もしかして疲れちゃった?」
「いえ、そんなことは」
目が見えないクオリアの精神的負担は、歩くだけでも俺達以上だろう。
「五分ほど休憩しよう。今のうちに水分補給やトイレを済ませるんだ。ナターシャ、後ろの見張りを頼む」
「畏まりました」
こういう時、本当にNPCに有り難みを感じる。
「クオリア、もし疲れてたり負傷したりしたら、遠慮無く言って良いんだからな」
ナオやアヤナはともかく、頑張りすぎるクオリアにはこれくらい言った方が良い。
「……はい、以後気を付けます」
これは、隠そうとしたけれどバレてしまったとか思われそうだな。
●●●
ああ、ウザ。
気遣いの言葉を聞かされた瞬間、そう思ってしまった。
「……やっぱり、変な男」
ああいう言葉を掛けられたことが、無かったわけじゃない。
でも、そういう人間に限って、土壇場で弱者を見捨てる。
だから……コセ様の言葉に、少し怖くなってしまった。
この人も、私を見捨てるんじゃないかって。
「甘えても……良いのかな」
今まで誰も許してくれなかった、目の見えない私なんかが……甘えたことを口にしても許されるのかな。
「……フ」
お願いだから、幸せなんて求めさせないでよ。
●●●
五分の休憩を終え、俺達は扉をくぐる。
「……すご」
暗い箱状の部屋の壁全体に、金銀財宝の山が置かれていた。
「中央に居るな」
俺とナターシャが前に出て、吸血バットが言っていたであろう門番にゆっくりと近付いていく。
微動だにせずにそこに居たのは、黄土色の甲冑を纏う……腕と脚が六つに、三つの頭を持つ異形の騎士!
「あれはゲリュオーンです、ユウダイ様!」
よく見ると胴体も三つあって、背中と腹が縦にくっ付いているだけだったようだ。
それでも、俺の倍はありそうなほどの身長を持つ巨体が三つともなると、その圧迫感は凄まじい。
――ある程度近付いた所で、ゲリュオーンが動きだす!
『ゥオオオオオオオオオ!!!』
「先手必勝だ! “飛王――」
「“瘴気魔法”――――“直情の激発”」
俺とナターシャの間から黒の瘴気の激流が走り抜け――ゲリュオーンの三本の左腕と共に、左胸をゴッソリと持っていった。
『ぐぎ……グガ……』
「“冥雷魔法”――――“直情の轟発”ッ!!」
飛行して上から急接近したクオリアが、黒の雷迸る魔法陣をゲリュオーンに叩き付け……爆音と衝撃波を撒き散らし、完全に消し去ってしまう。
「……クオリア」
自分から接近戦を仕掛けるなんて。
「ユウダイ様、あれを」
ゲリュオーンがいた辺りの空間が揺らいで、赤いゲートのような物が現れる。
「城主の部屋への入口か……クオリア、無事か?」
「大技を使ったので、MPをかなり消費してしまいました」
初めて会った時よりも、距離を感じてしまう。
「……あの、なんのつもりですか?」
気付いたら、優しく彼女を抱き締めていた。
「腹が立ったなら、俺にはそう言って良いから」
「……わ、私は別に……」
「俺に一生涯面倒を見ろって言うなら、もっと素直になって欲しい。これは、最低限の条件だ」
きっとクオリアは、まともに誰かに自分の気持ちを伝えられなかったのだろう。
誰も自分の心なんて見てくれないという想いに、目が見えないという負い目が合わさって、ずっと自分の感情を抑え込んでいたはず。
俺もトゥスカに出会うまで、自分の心に触れてくれる人になんて出会えなかったから……殻に閉じこもりたくなる気持ちは、よく分かる。
「……私を――搔き回さないで!!」
クオリアに……突き飛ばされた。
「ハアハア、ハアハア……」
「ちょ、クオリア! なにしてんのよ!」
マリナが感情的になってしまう。
「いきなり抱き付いたのは俺だから……ごめん、クオリア」
愛妾宣言とかされてたせいか、調子に乗ってたんだろうな、俺は。
「いえ……私の方こそ、申し訳ありません」
いたたまれない空気を払拭したいのか、俺達は自然と、血のように赤いゲートを潜っていた。
○ゲリュオーンを七分以内に撃破したため、討伐報酬が倍の12000000Gとなります。
●●●
「では、私のレギオン、《黒茨親衛隊》を抜けるという事で良いのね?」
ユウコの居城、“薔薇園の古城”を訪れた俺とレイナで、彼女のレギオンを離れる旨を伝えた。
『ああ、世話になった』
パーティーを二つに別ける必要があり、仲間に出来たエルフが一人だけだったため、一時的にレギオンを組ませて貰っていたユウコ。
男のエルフの奴隷を何人か失って荒れていると聞いたが、話し合いその物は滞りなく進んでくれてほっとしている。
もしかしたら、今彼女の横に控えている執事風のエルフのお陰かもな。
おそらく、使用人NPCなんだろうが。
それにしても、以前よりも凄みが増しているな、この女。
「一度で良いから、その仮面の下を見てみたかったわね」
『言っただろう。酷い火傷の跡があって、他人に見せられた物じゃないと』
血の繋がっていない父親に熱湯を掛けられて、左眼はほとんど見えていないしな。
『手切れ金というわけじゃないが、1000000Gを置いていく』
金袋を実体化させて、取りに来た執事エルフに渡す。
「別に良いのに。そういう事なら、私からはこれを贈るわ」
ユウコが実体化させた物を、再び執事エルフが持ってきてくれる。
『“最高級な分裂リング”か……ありがたい』
装備した状態で日を跨ぐと勝手に一つ増えるという、ただそれだけのSランク装備。
ただし、オリジナル以外は装備品としてカウントされず、売る以外に使い道は無い金策用アイテム……本来ならば。
「悪魔召喚士の彼女に、ちょうど良いと思ってね」
“悪魔召喚士”のユニークスキルを持つミドリは、贄にしたアイテムのランクで呼び出せる悪魔が決まる。
Sランクを贄にしなければ、最上級悪魔の七十二柱を呼び出すことは出来ないため、これはありがた過ぎるくらいだ。
『ほとんど一方的に世話になってしまったな』
「別に良いわよ。良い男と話せただけでも、私には宝物だもの。最後に、一発ヤらせてくれるっていうなら喜んで跨がってあげるけれど?」
「ちょっと、ユウコさん! なに言ってるんですか!!」
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