ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

419.スライムのバルンバルン

「ここからは、河の支流を選んで進んでいくよ」

 皆で河を下ってきたら、その河が四つに割れていた。

「途中からパーティーごとになるから、気を付けてね」

 パーティーごとに転移されるって事か。

「それで、どのルートにはどういう要素が?」

 クマムがメルシュに尋ねる。

「ルートは四種類あるけれど、転移するまでどの種類に出るかは不明。一つはスキル、一つは財宝と特殊なアイテム、一つは武具、一つは衣服関係に設定されているよ」

 パーティーは五つ。

 ジュリーがリーダーの、サキ、タマ、スゥーシャ、スライムのバルンバルンのパーティー。

 クマムがリーダーの、ナノカ、ナオ、カナ、メルシュのパーティー。

 サトミがリーダーの、リンピョン、メグミ、クリス、モモカ、バニラのパーティー。

 ユリカがリーダーの、ヨシノ、レリーフェ、ユイ、シレイアのパーティー。

 ルイーサがリーダーの、フェルナンダ、私、サンヤ、ヒビキのパーティー。

「ランダムって事は、好きに選んで良いんだよな?」
「出て来る敵もランダムだから、教えても意味ないだろうしね。ただ、ルートは出来るだけバラバラのを選んでね」

 どの支流がどのルートかは分からないけれど、一応は固定なんだ。時間とか日にちで変わるってこと? ……なんか、昨日くらいから小難しい事を考えがちだな、私。

「行こう、アヤナ」
「ええ」

 五人で、一番左の支流を進む。

 すると霧が現れ……すぐに晴れたと思ったら、さっきと変わり映えしない景色。

 湿気が高くて、陽射しも強い……気持ち悪いな。

 私達が選んだ河、ひたすら左側に伸びてるから、元来た沼地帯も見えてるし。

「皆さん、上流から舟が!」

 ヒビキの声に後ろを振り向くと、木造の中型舟がこっちに向かってくる。

「弓を構えたっすよ!」

 サンヤの言うとおり、複数人がこっちを狙っていた。

 舟の上に居る奴等は、モンスター扱いってわけね。

「“河賊”だ。舟に財宝を詰んでいるはず」

 フェルナンダが、私達が選んだルートが財宝系だと教えてくれる。

「あれ、丸ごと沈めても良いのよね?」

 矢が降ってくるなか、前に出ながらフェルナンダに尋ねた。

「ああ、問題ない」

「だったら――“光線魔法”、アトミックジャッジメント!!」
 
 上空から、青白い裁きを墜とす!!

「ちょ! ヤバいっすよ、これ!」

 無意識に神代文字を使っていたせいか、あまりの威力により河が氾濫――全員ビショ濡れになってしまう。

「アヤナ……お前」
「さすがに、少々抗議したいのですが」

 ルイーサとヒビキから非難の目を向けられる。

「……まあ、涼しくなって良いじゃない」

 いつもならもっとオドオドしながら誤魔化すか、渋々謝っていたであろう私。

 ……アオイを失った事で、私の中の何かが壊れちゃったのかな。

 あの子が生きて居たときは、こんな孤独感は欠片も無かった。

 双子じゃない皆はいつも、常にこんな……寂しさを胸に抱えていたのかな。


●●●


「“蒼穹魔法”――アジュアダウンバースト!!」

 河から次々と飛び出してくる水で出来た美女、ワッカカムイをまとめて叩き伏せます!

「あとは私が! “万雷魔法”、サンダラスレイン!!」

 バルンバルンさんが放った魔法が、ワッカカムイにトドメをさした。

 マスターの命令で襲い掛かってきたとかで、スゥーシャが返り討ちにして奪ったスライムの隠れNPC、バルンバルンさん。

「身体が水なのに、雷を使うのですね」

「前のマスターも水属性特化だったから、代わりに色んな魔法を覚えさせられたんだよ。向こうは戦士だったし」

「ああ、あの女性、戦士だったのですか。それにしては、後方からばかり攻撃する変な人でしたけれど」

 スゥーシャは、結構辛辣な一面があります。

「そう言えば、なぜバルンバルンという名前に?」

 さすがに変すぎますよね?

「前のマスターが、おっぱいがバルンバルン揺れるのが好きだったみたい……女なのに」

「「おっぱいがバルンバルン……」」

 私とスゥーシャは、そんなに大きくない……まあまああるけど。

 ノーザンさんは、背丈が同じくらいなのに結構大きかった……このレギオン、おっぱい大きくてスタイルが良い人が多い。

「ほら、そろそろ行くよ」

 女神のように美しいジュリー様に促される……やっぱり、ジュリー様の美しさには憧れちゃいます。

 私も、あんな風にエレガントな女性になってみたいです!

「あ、皆さん。前にも言ったけれど、私の事はバルンとだけ呼んでね。このレギオンは良い名付けをする人ばかりみたいだけれど、ふざけた名前を付けることは、この私が許さないんだから!」

「よっぽど嫌だったんですね……」

「大丈夫、ネーミングセンスには自信がある」
「そんなこと言われたら期待しちゃうよ~。試しに私の名前を付けてみてよ、ジュリー」

 あ、これはマズいです!

「そうだね……ガールアオっていうのはどうかな?」

「ガール……アオ」

 さすがに、この場の全員が愕然としてしまっている。

「マスター、それはさすがに……自分にサキって名前が付いたのが、とてつもない奇跡に思えてくる」
 
「まさか、バルンバルンの方がまだマシって思える日が来るなんて……ジュリー、もし子供が産まれても、貴女は絶対に名前を付けちゃダメだからね。旦那か友人に頼むんだよ? 絶対よ!」

「へ? じ、自分の子供か……どうするかな」

 子供……コセ様との子供……♡

「お話はその辺にしましょう。新手です」

 サキさんが教えてくれたのは、水と砂で出来たようなゴーレム達。

 その額には、カードのような物が貼り付いている。

「スキルゴーレム。周囲の物質を取り込んで生まれるという設定で、個体ごとにランダムでスキルを一つ使える奴等だよ」
「あまり強くないけれど、気を付けた方が良いよ。中にはレアスキル持ちも居たりするから。空白や名無し持ちも居るけれど」

 ジュリー様とバルンさんの言葉で、油断は禁物と気を引き締めます!

「どうやら、こっちはスキルルートだったようですね。“古代鞭術”――オールドラッシュヒット!」

 鞭を振るい、向かってくるゴーレムを打ち倒していくサキさん。

「速い!」

 連続で瞬足らしき物を使用した個体が、スゥーシャの側面を取った!

「――”チャランケカムイ”!!」

 灰色のオーラを纏って、ゴーレムの拳を蹴り上げる!

「はああッッ!!」

 私の友達は、絶対に傷付けさせない!!

 “蒼穹を駆けろ”に九文字が刻まれ――筋肉質になったような青と紺のランス、“蒼天を駆け抜けろ”へと進化!!

「“猪突猛進”――“噴射”!!」

 “蒼天を駆け抜けろ”のランス部分の裏から青い息吹を放射し、スキルゴーレムに体当たりするように穿ち――他のスキルゴーレムも巻き込んで叩き潰す!

「ハアハア……ちょっと、ハリキリ過ぎちゃいました」

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