ダンジョン・ザ・チョイス
413.塗り変わる勢力図
「……オクネル、戻ってきたのは何人だ?」
治療されたのち、獣の聖地にある城の玉座に腰掛けていた。
「十八人中、七名です」
コヨーテのオクネルが、正直に話してくれる。
「……そうか」
既に、今までのように獣の聖地全体を取り仕切るのは難しい状況。
「……この城と聖域を放棄する。そして、自己防衛以外での他種族への戦闘行為を禁ずる」
「本気ですか……ヴァルカ様」
「SSランク武器の女は危険だ。これ以上、同胞達をあんな女の犠牲にするわけにはいかん。この城さえ放棄すれば、奴は次のステージに消えるかもしれん」
「例のイズミという女……そこまでですか」
「ああ、遺憾ながらな」
レジスタンス共にも、あの女の暴挙を伝える必要があるか。
「トゥスカを呼べ。話したい事があると伝えてな」
俺がしてきた事は、いったいなんだったのだろうな……トゥスカ。
●●●
「隠れNPC引換券を一枚ゲットして、こっちはチップを四つ手に入れたよ」
メルシュから、向こうの戦果を確認していた。
メルシュの側に、他の人間は居ない……なにかあったりしないよな?
左腕の件もあって、今回は強く出られない。
まあ、表示されるレギオンメンバーの数は変わっていないから、大丈夫だとは思うけれど。
「さっそくチップを使うのか?」
「一つは、モモカやバニラのお世話のために使おうかなって。今の所、戦闘に参加させるかは未定かな。まあ、まだモモカのLvが足りてないんだけれど。唯一使用人を作れるバニラに、チップを使わせるのはやめておきたいしね」
「使用人NPCは、ステージを直接クリアしなくても付いてきてくれるものなのか?」
リューナが尋ねる。
俺達の場合は、ちゃんとステージをクリアしないと、魔法の家や庭園でしか直接会うことが出来ない。
「うん。パーティーに加えるのかも自由で、Lvは使用人を作った本人と同じになるみたい」
隠れNPCよりも融通が効く部分が多い。
「ただ、本来使用人NPCは魔法の家に居るのが基本だから、家が無いとパーティーから外したりとかは出来ないから。それと、チップは後から取り出したり出来ないから、使用する時は慎重にね」
一回戦闘用にしたら、倒されない限り元には戻せず、チップも返ってこないと。
「他に特徴とか無いの? 注意点みたいな」
今度はマリナが尋ねた。
「衣服だけは、魔法の家以外の場所では専用の物が強制装備になるんだよね。幾つか種類が用意されていて、プレーヤーによってある程度デザインを変えられるけれど」
「なるほど、その辺もコセの腕の見せ所だな」
「なんのだよ」
思わず、リューナにツッコミを入れてしまう。
「ちなみに、衣服は全てAランクだから」
「確定装備なら、ランクアップジュエルでさっさとSにするのもありか」
「マスター達は、明日は攻略を休むの?」
「それは……」
メルシュの言葉に、重苦しい沈黙が。
「ここの暑さが嫌な面子が多くて、早く次のステージに進もうってことになってる」
ネレイスが増えた事で、“カリスマリーダーの指輪”が一つしか無い状況ではパーティーを二つに別けざるおえない。
別ルートのアイテムを手に入れることも出来るし、悪い事ばかりでも無いけれど。
その場合、一人だけでも使用人NPCをパーティーに組み込みたいところ。
「じゃあ、第三十三ステージについて説明しようと思うんだけれど……その前に、特にエリューナに言わなきゃいけないことがあるんだよ」
「私に?」
「スヴェトラーナとルフィルの二人が、貴女のパーティーから抜けるって」
「…………へ?」
リューナから、か細い乾いた声が。
「既に“森の戸建て”を引き払って、隠れNPCのシルキーと一緒に二十五ステージの魔人の皇都のどこかに居るはずだよ」
「ど、どうして……」
フラつくリューナを支える。
「クエスト中に会ったアテルに迎合したみたい。だから、同盟相手の《日高見のケンシ》に参加するって」
一先ずは協力者だが、いずれは明確に最悪の敵となる事が決まっている相手になった……か。
「向こうと合流するために、暫くこの街に滞在するってさ」
「ツェツァと話を……」
「直接話したくないから、私に伝言を頼んだみたいだよ。あとはサンヤに聞いてだって」
まさかこのタイミングで、リューナの仲間が分裂する事になるなんて。
「サンヤは……残ってくれたのか」
「一応、ヒビキもね」
かなり上のステージから落ちてきたって言う人か。
「……すまない、コセ。すぐにサンヤと話したい」
「ああ、攻略情報は俺が聞いておく」
足早に別の部屋へと向かうリューナ。
アテルのレギオンに加わるのは、不幸中の幸いと言うべきなのか……いずれにしろ、リューナが彼女達と直接話す機会は訪れるだろう。
果たして、その時はどうなるのか。
●●●
「……トゥスカさん?」
偵察に出ようと獣の聖地近郊から外に出ると……暗闇の中に彼女が立っていた。
彼女の姿を見た瞬間――裏切られたという感情が一瞬だけ込み上げる。
数時間前に払拭したはずの疑念は、まだ私の中で燻っているらしい。
「解放軍リーダーのヴァルカから、レジスタンスメンバーに伝えたい情報があるとのことで、伝言を預かって来ました。ウララさん達も交えて話したいのですが?」
念のため周囲の気配を探るも、彼女以外は居ない。
「……分かりました」
恋愛話をした事もある目の前の女の子よりも、今日出会って少しばかり行動を共にした彼のことを信じているのだから……不思議な物だ。
●●●
「ほ、本当に行くんですか、イズミさん?」
元レジスタンスのリーダー、タイキがビクついている。
私達は、次のダンジョンの入り口がある城に潜入していた。
「解放軍の奴等が引き上げた今がチャンスなんだよ。何度も説明させんな」
ぶっちゃけ、コイツに求めてんのはコイツが契約している魔法の家だけ。
あとは、生きながら従順な下僕が欲しかったしね。
適度に性欲も解消したいし、顔もまあまあだから、コイツは色々都合が良い。
死体だと勃たないし。
「つうかさ、今頃レジスタンス側には、アンタが私の命令で動いたって事がバレてんの。アンタに他の選択肢なんて無いのよ」
「わ、分かりました……」
もう少し聞き分けが良い奴が良かったわ。
「ぅぅ……ぅぅうsjh」
「なに、この呻き声?」
「た、たぶん牢屋にいる変な女です。アップデートの靄に入ったことでおかしくなっているけれど、代わりに妙な力を手に入れているかもしれないという報告が……」
「……へー~」
そんなの、私の“エンバーミング・クライシス”にピッタリじゃない!!
治療されたのち、獣の聖地にある城の玉座に腰掛けていた。
「十八人中、七名です」
コヨーテのオクネルが、正直に話してくれる。
「……そうか」
既に、今までのように獣の聖地全体を取り仕切るのは難しい状況。
「……この城と聖域を放棄する。そして、自己防衛以外での他種族への戦闘行為を禁ずる」
「本気ですか……ヴァルカ様」
「SSランク武器の女は危険だ。これ以上、同胞達をあんな女の犠牲にするわけにはいかん。この城さえ放棄すれば、奴は次のステージに消えるかもしれん」
「例のイズミという女……そこまでですか」
「ああ、遺憾ながらな」
レジスタンス共にも、あの女の暴挙を伝える必要があるか。
「トゥスカを呼べ。話したい事があると伝えてな」
俺がしてきた事は、いったいなんだったのだろうな……トゥスカ。
●●●
「隠れNPC引換券を一枚ゲットして、こっちはチップを四つ手に入れたよ」
メルシュから、向こうの戦果を確認していた。
メルシュの側に、他の人間は居ない……なにかあったりしないよな?
左腕の件もあって、今回は強く出られない。
まあ、表示されるレギオンメンバーの数は変わっていないから、大丈夫だとは思うけれど。
「さっそくチップを使うのか?」
「一つは、モモカやバニラのお世話のために使おうかなって。今の所、戦闘に参加させるかは未定かな。まあ、まだモモカのLvが足りてないんだけれど。唯一使用人を作れるバニラに、チップを使わせるのはやめておきたいしね」
「使用人NPCは、ステージを直接クリアしなくても付いてきてくれるものなのか?」
リューナが尋ねる。
俺達の場合は、ちゃんとステージをクリアしないと、魔法の家や庭園でしか直接会うことが出来ない。
「うん。パーティーに加えるのかも自由で、Lvは使用人を作った本人と同じになるみたい」
隠れNPCよりも融通が効く部分が多い。
「ただ、本来使用人NPCは魔法の家に居るのが基本だから、家が無いとパーティーから外したりとかは出来ないから。それと、チップは後から取り出したり出来ないから、使用する時は慎重にね」
一回戦闘用にしたら、倒されない限り元には戻せず、チップも返ってこないと。
「他に特徴とか無いの? 注意点みたいな」
今度はマリナが尋ねた。
「衣服だけは、魔法の家以外の場所では専用の物が強制装備になるんだよね。幾つか種類が用意されていて、プレーヤーによってある程度デザインを変えられるけれど」
「なるほど、その辺もコセの腕の見せ所だな」
「なんのだよ」
思わず、リューナにツッコミを入れてしまう。
「ちなみに、衣服は全てAランクだから」
「確定装備なら、ランクアップジュエルでさっさとSにするのもありか」
「マスター達は、明日は攻略を休むの?」
「それは……」
メルシュの言葉に、重苦しい沈黙が。
「ここの暑さが嫌な面子が多くて、早く次のステージに進もうってことになってる」
ネレイスが増えた事で、“カリスマリーダーの指輪”が一つしか無い状況ではパーティーを二つに別けざるおえない。
別ルートのアイテムを手に入れることも出来るし、悪い事ばかりでも無いけれど。
その場合、一人だけでも使用人NPCをパーティーに組み込みたいところ。
「じゃあ、第三十三ステージについて説明しようと思うんだけれど……その前に、特にエリューナに言わなきゃいけないことがあるんだよ」
「私に?」
「スヴェトラーナとルフィルの二人が、貴女のパーティーから抜けるって」
「…………へ?」
リューナから、か細い乾いた声が。
「既に“森の戸建て”を引き払って、隠れNPCのシルキーと一緒に二十五ステージの魔人の皇都のどこかに居るはずだよ」
「ど、どうして……」
フラつくリューナを支える。
「クエスト中に会ったアテルに迎合したみたい。だから、同盟相手の《日高見のケンシ》に参加するって」
一先ずは協力者だが、いずれは明確に最悪の敵となる事が決まっている相手になった……か。
「向こうと合流するために、暫くこの街に滞在するってさ」
「ツェツァと話を……」
「直接話したくないから、私に伝言を頼んだみたいだよ。あとはサンヤに聞いてだって」
まさかこのタイミングで、リューナの仲間が分裂する事になるなんて。
「サンヤは……残ってくれたのか」
「一応、ヒビキもね」
かなり上のステージから落ちてきたって言う人か。
「……すまない、コセ。すぐにサンヤと話したい」
「ああ、攻略情報は俺が聞いておく」
足早に別の部屋へと向かうリューナ。
アテルのレギオンに加わるのは、不幸中の幸いと言うべきなのか……いずれにしろ、リューナが彼女達と直接話す機会は訪れるだろう。
果たして、その時はどうなるのか。
●●●
「……トゥスカさん?」
偵察に出ようと獣の聖地近郊から外に出ると……暗闇の中に彼女が立っていた。
彼女の姿を見た瞬間――裏切られたという感情が一瞬だけ込み上げる。
数時間前に払拭したはずの疑念は、まだ私の中で燻っているらしい。
「解放軍リーダーのヴァルカから、レジスタンスメンバーに伝えたい情報があるとのことで、伝言を預かって来ました。ウララさん達も交えて話したいのですが?」
念のため周囲の気配を探るも、彼女以外は居ない。
「……分かりました」
恋愛話をした事もある目の前の女の子よりも、今日出会って少しばかり行動を共にした彼のことを信じているのだから……不思議な物だ。
●●●
「ほ、本当に行くんですか、イズミさん?」
元レジスタンスのリーダー、タイキがビクついている。
私達は、次のダンジョンの入り口がある城に潜入していた。
「解放軍の奴等が引き上げた今がチャンスなんだよ。何度も説明させんな」
ぶっちゃけ、コイツに求めてんのはコイツが契約している魔法の家だけ。
あとは、生きながら従順な下僕が欲しかったしね。
適度に性欲も解消したいし、顔もまあまあだから、コイツは色々都合が良い。
死体だと勃たないし。
「つうかさ、今頃レジスタンス側には、アンタが私の命令で動いたって事がバレてんの。アンタに他の選択肢なんて無いのよ」
「わ、分かりました……」
もう少し聞き分けが良い奴が良かったわ。
「ぅぅ……ぅぅうsjh」
「なに、この呻き声?」
「た、たぶん牢屋にいる変な女です。アップデートの靄に入ったことでおかしくなっているけれど、代わりに妙な力を手に入れているかもしれないという報告が……」
「……へー~」
そんなの、私の“エンバーミング・クライシス”にピッタリじゃない!!
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