ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

411.虹彩色の奇蹟

「邪魔!!」

 槍のような鋭い鏡の盾である“鏡の中の鑑み”と、石の柄と硝子の刃で出来た“キヤイウメアイ”で死体モンスターを蹴散らしていく!


「“霙竜技えいりゅうぎ”――スリートドラゴンブレス!!」


 流刑の孤島で偶然手に入ったサブ職業、“霙王竜”に含まれているスキルの一つで、氷雪と冷水の息吹により――死体共を纏めて吹き飛ばす!

「クソ!」

 それでも、絶え間なく魔法や遠距離攻撃が飛んでくる!

「これ……さすがに長くは保たない」

 上からチトセさんが援護してくれているみたいだけれど、長期戦になればなるほど不利。

「“六重詠唱”」

 魔法陣を六つ展開!

「“氷河魔法”」

 全ての魔法陣が、濃い青色へ。


「――グレイシャーバーン!!」


 スリートドラゴンブレスで濡れていたのもあり、広範囲の敵を一斉に氷付けにしてやった!!

「ハアハア、ハアハア」

 ここまでで大分消耗しているし、今のでMPがほぼ尽きた。

「……あとは頼んだわよ、トゥスカ」

 でも、ユウダイの一番は私が貰うから!!


●●●


 マリナが敵の猛攻を一時的にませてくれた隙に、イズミへと“爆走”で接近する!!

「止めろ、バーサーカー!!」

『“瞬足”』
「――オールセット1」

 装備した“古生代の転剣”により、“古代の力”が適用された状態でバーサーカーの斧を受け止めた!

「“隕石魔法”!!」
「――また、彼等を巻き込むつもりですか!!」

「なに言ってんの、お前? コイツらは死人だし、どうせあとで復活できんだからさぁ」

「自分の駒にするために殺しておいて!!」

『ハイパワーブレイズ』
「ハイパワーバニッシュ!!」

 衝撃波で、バーサーカーを後退させる!

「だからなにさ! 殺されるような間抜けが悪ーんだろうがよ!! 良い子ぶってんじゃねぇよ、性格ブス!!」

 この女にだけは、性格ブスなんて言われたくない!!

「周りに死体しか居ない貴女は、良い子ぶる必要なんてありませんもんね? まともなコミュニケーション能力が無くても、なんの問題にもならないんですから。どの死体が貴女の彼氏なのです?」

 精一杯の皮肉を込める。

「お――お前みたいなクソブスを選ぶ男は、希代のクソ頭な奴だけなんだよぉぉッッッ!!!」


「今――――なんて言った?」


 私の、私が生まれて初めて心を開いて、愛した人を……私を愛してくれた人を……バカにした?

 まともに誰かを愛する能力なんて、誰かを愛する感覚なんて一切理解できていないくせに――恋愛ごっこと惰性で肉体関係を結ぶバカ共と一緒にするな。

 愛を理解できない人間が愛を知ったかぶるのも、愛を否定するのも――――赦せない。


   《私のコセは、クソなんかじゃない》


「あ、頭に……声が響いた?」

 驚いている様子のイズミとは裏腹に、私の心は不気味な程に静まりかえっていく。

 この、声が内側で響く感じ……あの時のご主人様と同じ。

「な、なによ……その光は」

 “荒野の黄昏は大いなる導”に刻まれた十二文字の神代文字が――

「こ、殺せ、お前ら!!」

 残っていた死体達が、一斉に飛び掛かってきた。

《“神代の転剣”》

 虹色の刃を纏わせ、そのまま群がる死体達を蹴散らしていく!!

「な、なんなのよ、コイツ……急に」

 あの時の、アルファ・ドラコニアンと戦っていた時のご主人様のように、“荒野の黄昏は大いなる導”で有象無象を切り刻む。

『“魔力砲”』
『“竜技”、ドラゴンブレス』
『“光線魔法”、アトミックレイ』

 残っていた死体達の、一斉攻撃。

《“獣化”》

 虹色の光でできた光犬獣となり、残っていた死体のほぼ全てを光速でぶった切った。

 “獣化”は神代文字との相性が悪いため、すぐに効果を切る。

「う、嘘……これだけの数を一瞬で……」

《貴女は終わりです、イズミ》

「私の頭の中に入って来んな!! ――バーサーカーッ!!」

 獣と化したバーサーカーの攻撃は苛烈で、この状態の私にもなんとか食らい付いてくるほど。


「“隕石魔法”――コメット!!」


 頭上からの隕石。落ちれば、マリナと兄さんまで巻き込まれる。

《爆裂脚――“魔力砲”!!》

 バーサーカーを蹴り飛ばし、すぐさま頭上の脅威を取り払う。

「ふ、ふざけるな――くたばれよ、“暗黒砲”ッ!!」

 全身に虹彩の光を纏い――イズミの背後へと瞬間移動する。

「な、なんで!?」

《貴女にだけは、慈悲は与えない》

 “荒野の黄昏は大いなる導”を振り下ろした瞬間――身体が硬直した!?

《どう……して」

 精神力が尽き、虹彩色の力どころか神代文字まで消えてしまう!!


『突発クエストの開始より、三時間が経過した。これにて、大規模突発クエスト・隠れNPC獲得争奪戦を終了とする!』


 動けるようになると同時に、身体が光へと変わり出す!

「く、クソが!!」

 バーサーカーが彼女を抱え、逃げ出した。

「お前は、絶対に許さないッッ!!」

 追う気力などなく、膝をついてしまう私。

「ハアハア、なんとか……生き残れた」

 正直、何度諦めかけた事か。

「トゥスカ!!」

 ご主人様の……声?

「本当に……――ご主人様!!」

 プレートの上に降り立ち、フラつく足取りで駆けてくる姿を見た瞬間――私も無我夢中で駆けていた!!

 ぶつかるように抱き締め合い、言葉を交わすよりも先に熱い口付けを交わし合う!

「ん、チュパ、ぁん、んん、んっ♡♡♡」

 互いの吐息を、唾液を、ぬくもりを、離れていた期間を埋めるように少しでも多く求め合った。

 よかった……ご主人様の心はまだ、ちゃんと私に向いてくれている。

 こんなにも、私を求めてくれている。

 ……光に変わっていく身体から、キツく抱き締めているはずのご主人様のぬくもりが……感じられなくなっていく。

「ハアハア……すぐに、迎えに行くから」
「ハアハア……はい、ずっと……待ってますから」

 最後にソフトなキスを交わし、ご主人様の顔は、綺麗な光の中へと消えていった。


◇◇◇


『危ない危ない。もう少しで、貴重なSSランク武器が奴等の手に渡ってしまう所だった』

 強制的にプレーヤーの動きを止め、クエスト終了を三分ほど早めた。

『SSランクでは最弱と言って良い“エンバーミング・クライシス”とはいえ、あの殺人鬼であるイズミとは相性が良いのも事実。まだまだ引っかき回して貰わんとな』

 SSランクの使い手に選ばれたのは、我々にとって最良のプレーヤーばかりなのだから。

『良い判断だったね、ブルーノ君』

『これはこれは、オッペンハイマー様』

 総括者殿がこうも早く連絡を寄越すとは。

『なにか問題がありましたかな?』
『いいや。私としては中々面白かったとも。シーカーの方々やアルファ・ドラコニアンはなにやら騒いでいるようだが、そちらは私に任せたまえ』
『……助かります』

 シーカーを恐れんとは、大したお方だ。

 レプティリアンをゲームに巻き込むと聞いたときは、少々肝を冷やしたが。

『とにかくご苦労だった、ブルーノ君。休暇が欲しければ、遠慮無く申請してくれて構わないよ』
『お気遣い、感謝します』

 どこまで本気で言っているのやら。

 まあ我が輩は、功績とボーナスがあればそれで良いのだがな。

 この世は――肩書きと金で、大抵の物は手に入るのだから!!

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