ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

406.隠れNPCシャドウ

「お!」

 宝箱から”Lvアップの実”が出て来た。

 これで、昨日手に入れた“万能プランター”を生かせる。


『クエスト開始から二時間が経過した! これより、隠れNPCシャドウを送り込むぞー!』


 カプアさんと共に浮かぶプレートの上を目指していたら、いきなりそんなアナウンスが聞こえてきた。

「来たか」

 厄介そうな敵だけれど、隠れNPCの固有サブ職業が手に入るなら悪くない。

『”隠れNPCシャドウ”の出現数は四十七体! 第三ステージから第五十ステージまでのが一体ずつだ! では、武運を祈ろう! ガハハハハハハ!!』

「心にも無いことを……あれ?」

 三から五十なら、四十八体じゃないとおかしくないか?

「コセさん、アレ」

 カプアさんの視線の先から、真っ黒なシルエットの女が、プレートとプレートの間を火の玉のように跳び越えながら近付いてくる!

「コイツが……隠れNPCシャドウ」

 しかも、俺達の前に現れたのは……そのシルエットからおそらく……アマゾネス。

 つまり、シレイアの偽物と戦わなくてはならなくなったらしい。

「後ろからも」

 向こうは、アマゾネスのように大刀などの武器を持っていない……素手で戦うタイプの隠れNPCか。

 少なくとも、俺が知っている隠れNPCではないのは確か。

「向こうはお願いします」
「了解です」

 俺は、アマゾネスシャドウと戦うことにした。


●●●


「一難去ってまた一難か」

 獣の聖域で見掛けた、トゲ鎧の戦闘狂お姉さんを見付ける。

 しかも、隠れNPCシャドウ三体に襲われているようだ。

『“大悪魔化”』

 一体のシャドウが形を変え、巨大な人獣のような形をとる!

「ぶっ飛びやがれ! “紅蓮砲”!!」

 彼女と一緒にいた異世界人の男が巨大な悪魔に攻撃するも、倒しきれない。

『“大海魔法”、マリンスプラッシュ』

「ぁぁあああああッッ!!!」

 その隙を突くように人魚のようなシャドウが水の魔法を放ち、男を板の端から落下させてしまう。

 下手したら、そこらのプレーヤーを相手にするよりも厄介。

「クソ、やってられるかよ!」

 鳥人と思われる女が翼を羽ばたかせて背を向けた瞬間、下半身が蛇のようなシャドウの目が赤く光り……女を石化させてしまう。

 その石を容赦なく砕く悪魔。

「アイツら……さすがに、分が悪すぎんだろ」

「“雪玉発射”」

 悪魔以外の二体を牽制し、一番厄介そうな半人半蛇へと突っ込む!


「“極寒断ち”!!」


 半蛇のシャドウを、“極寒忍耐の破邪魂”で両断! 消滅させる!

「僕はレジスタンスの協力者です!」
「助かる! “六腕”!」

 以前にも使用していた能力で、左右の肩当たりにそれぞれ二本ずつ黒い腕を浮かばせる戦闘狂。

「装備セット3」

 六つの腕それぞれに、それぞれ別の金棒を装備させた?


「“三重武術”、“衝撃棒術”――インパクトブレイク!!」


 右腕の三つの金棒で悪魔を打ちのめし、すぐさま左腕の金棒三つで“逢魔棒術”を叩き込んで倒してしまう。

 さすがに強い。

「“獣化”」

 白い牛人間となって、逃げようとする人魚に回り込み――“氷河の盾”の鈍器部分で頭を攻撃――すかさず胴体を両断して終わらせる。

『ハアハア」

 クエストを始めてから二時間以上……さすがに疲れてきた。

「さっきの人獣の姿、見覚えがあるな」
「僕も、貴女がこの前聖域で戦っているのを見ました」
「なるほどね。だから私を、レジスタンスの一員だと思ったわけか」
「違うんですか?」
「間違いでもないけれどね。タイキの奴に、傭兵として雇われてやってるって所さ」

 僕達と同じ、協力者の立場を取ってるって事かな?

「助けて貰った礼に、一つ面白い話をしてやるよ」
「面白い話?」

 なぜだろう……急に嫌な予感が。


「レジスタンスのリーダー、タイキには気をつけな」


「理由は、なにかあるんですか?」
「アイツは、良くも悪くもザ・凡人なんだ。そんな男が、この前の作戦を見事と言って良いくらい上手く段取りやがった。今までの奴からは考えられねー」
「それは……参謀的な人間が付いたとかですかね?」

 他に思い付かないし、それだけなら喜ばしい気も。

「その参謀的な人間について、なんの情報もねーのよ。それに、奴が作戦で受け持った場所に居た解放軍の獣人は、幹部諸共全滅したらしい。それでいて、タイキの軍勢は犠牲者ゼロとか抜かしていやがった」

「“獣化”が使える獣人の戦闘力が脅威だから、陽動目的の作戦だったはずなのに……確かに変ですね」

 ……なんだか、本当にとんでもない事態に陥ってしまっている気がしてきた。


●●●


「――“連結”」

 “覆われし太陽の金光”と“覆われし太陽の銀光”の柄頭を合わせ――双剣と成す。

「“飛剣・靈光”!!」

 瞬間的な十八文字から放った巨大な斬撃により、ワイズマンの隠れNPCシャドウを両断した。

 アップデート中に襲ってきた奴を殺して手に入れたスキル。

 本当は他の二体も巻き込むつもりだったが、躱されてしまったか。

 しかも、生き残った二体のシャドウは逃げへと転じてしまう。

「そう上手くはいかないな」

 ――十八文字引き出した影響で、膝をついてしまう!

「あ、アデール、追撃を」

 貴重なサブ職業を手に入れるチャンス、逃す手は無い!

「その状態のマリサを、一人に出来るはずないだろう」

 フランス人にしては律義というか、真面目というか。

「それに、ワイズマンのサブ職業が手に入ったのは大きな収獲だ。ますますお前を死なせるわけにはいかなくなった」
「遺言機能で、私が死んでもアテルの手に渡るって」
「まがりなりにも、お前はアテル様を超える神代文字を刻める。私などよりも、よっぽどアテル様の役に立てるというもの」

 本来の限界は九文字だから、十八文字は本当に数秒しか維持できないっていうのに。

「誰が死んだって、アテルは悲しむぞ」
「無論、心得ているとも。だが、私の願いは既にアテル様に托している」

 飼い慣らされたフランス人達を、DS諸共粛清したい……か。

「お前は、ストイック過ぎるよ」
「それ程に腐っているのだ、奴等は。故郷の人間達に限った話ではない。あの世界は、本当に優しい人間の勇気と尊厳を踏み躙る。聞き心地のいい言葉と、もっともらしい支離滅裂な言葉を信じる……本当の現実を見る勇気が無い、ご都合主義者で溢れてしまっているから」

「本当に……救いが無いよなー、アイツらって」

 そう……人類自身が、人類を救いようのない場所まで堕とし続けてしまったんだ。

 本当に価値あるものを全部ドブに捨てて、大して価値のない物に価値があるように見せかけて、世の中はそんなものばかりで溢れかえっていた。

 物心ついた頃から、その事を感覚的に理解していた私達は全員、世間一般的には異常者。

「アデール……絶対に、アテルの望みを叶えような」
「当然だ」

 正直、もう私には、人類なんてどうでも良い。

 私の望みは、私が異常者ではないと確信させてくれたアテル達の望みを……叶える手助けをする事だけだ。

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