ダンジョン・ザ・チョイス
404.凶兆の魔法使いアヤナ
「――ぁぁぁぁぁぁあああああああああッッッッッッ!!!」
どうして――どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてッ!!
死ぬのはアオイじゃない――死ぬのは、役立たずで臆病な私じゃなきゃいけなかったのに――お姉ちゃんである私が、なんでアオイに助けられてッッ――――
「アオイ……」
ルイーサが頽れ……膝を付いた。
武器から文字が消えて、完全に戦意を失っている。
「全部……私のせいだ」
いつもいつもいつもいつも、偉そうにしているくせに肝心な時には役に立たなくて……誰かを危険な目に遭わせてきた。
そんな私が、最後まで生き残れるはずがないって分かってたから……だから、Lv48になったら遺言機能を使って……いざという時は、皆のために命を捨てるつもりで――なのに。
『なんだ? 仲間が一人死んだくらいで戦えなくなったのか? 女は惰弱だな~。ハハハハハハ!!』
笑ってる……アオイを殺した屑鉄風情が――――嗤っているッッ!!!
「“悪魔槍術”――デビルストライク!!」
誰かが、翼が生えた石の鎧の女が、アオイを殺したロボットを空から強襲した。
「……ま……しないでよ」
アオイを殺した奴を――勝手に私から奪わないでよ。
「私の半身の――仇を奪うなぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
どうしてこの世界は――私が信じていた――縋っていた物が――――ゴミだって思わせようとするのッッッッ!!!
「……ふ、フフフフフ」
私の”双銀鳥の仕込み杖”が、黒い宝石を閉じ込めた銀の杖――”凶兆片翼の銀鳳凰”となり――――青紫の神代文字を九つ刻んでいたskb3hfk3んhjm。
「“光線魔法”――――アトミックレイsk3jx3mッッ!!!」
『へ? なに――――』
壊れていく自分の精神など厭わず――私の全てを注ぎ込んだ一撃により、アオイを殺したロボットに……紫白の裁きの鉄槌を下し……た…………。
●●●
「アヤナ……今のは」
「かなり、無理に文字の力を行使したようですね」
私達を助けてくれた女が、傍に降り立つ。
「お前は、誰なんだ?」
「ガーゴイルの隠れNPC、オードリーです。援護が遅れてしまい、申し訳ありません」
《日高見のケンシ》が契約した奴か。
「――いや……助かった」
オードリーの言い方に込み上げた感情を抑えつけ、なんとか感謝を述べる事に成功する。
「もうすぐアムシェルとキジナが合流してくれます」
「そうか……」
アヤナは気絶し、私の精神力も限界……本当に助かるな。
まあ……もう、正直心が折れてしまっているが。
リリルの時は、死ぬ瞬間を直接目にしたわけじゃなかったからか、ここまでじゃなかった。
実際、生きていてくれたし。
念のためチョイスプレートを確認するも、私達のパーティーの中にアオイの名前は無い。
「アヤナ……」
この先アヤナは……生きていけるのだろうか。
●●●
「――”剛力竜衝”!!」
左掌を人獣の胸に押し当てた状態で、“剛力竜王の甲手”の効果を使用。大きく弾き飛ばす。
『貴様!!』
“サムシンググレートソード”に六文字刻んだ状態で別の人獣の爪を避け――カウンターでその胸を斬り上げる!
「“壁歩き”――“空衝”!!」
左足を地面に縫い付け、右足蹴りと共に放った衝撃で人獣を後退させた。
「まだやるつもりか?」
俺を狙ってきた人獣三体が、ようやく膝を付いて動きを止める。
『こ、コイツ……ヴァルカ様と同じ……』
『なんて強さだ……』
『だ、だが、この程度では“獣化”を使用した俺達は殺せんぞ!』
「貴方達は、まだ気付いていないのですか!」
トゥスカ達が世話になったという狸獣人が、半ば呆れたように叫んだ。
「彼は、わざと殺さないように貴男方を叩きのめしたのですよ!」
『な、なんだと!?』
『ふ、ふざけるな!』
『そんなバカな事があってたまるか!』
「伝言を頼みたかったのさ」
少し低い声で、言葉を紡ぐ。
「お前達のリーダーに、こう伝えろ。近いうちに、義弟が会いに行くと」
トゥスカの家族だ。余程の事が無ければ、その仲間も手に掛けたくはない。
「さっさと行け。ただし、俺の仲間に手を出したら――その時は問答無用で殺す」
『……ひ、退くぞ!』
三体の人獣が撤退していく。
「……あまいのですね」
狸獣人のカプアに指摘される。
「かもしれない」
さっきの奴等が、なにも知らずに俺の仲間を襲う可能性だってあるし。
「仲間と合流するまで、一緒に行動しませんか?」
俺から提案する。
「……ええ、助かります」
初対面だけれど、彼女なら背中を預けられそうだ。
●●●
「ハアハア、ハアハア」
ネレイスとかいう青い肌の人魚を……殺した。
「アイツのおかげでチップを手に入れられたような物だったから、見逃そうと思っていたのに」
あまりにしつこく攻め立ててきたため、やむなく返り討ちに。
「それにしても、妙に強かったな」
死を恐れないような苛烈な攻めに、危ない時も多々あったし。
「……クオリアか」
接近してくる気配が彼女の物だと解り、安堵の息を吐く。
「ご無事ですか、エリューナ様」
「リューナで良い」
なぜか、クオリアには愛称で呼ばれても良いと思えた。
「では、リューナ様と」
「まったく」
コセがクオリアにイラついていた理由が、なんとなく解ったかもしれない。
クオリアは……自分を卑下している。
無意識なのだろう。目が見えないからなのか、それ関連で他者に植え付けられた固定観念かまでは分からないが、他人より自分を下に位置づけているのは明白。
コセはきっと、そうならざるおえなかったクオリアの境遇に怒りを覚えたんだろうな。
さすが、私が惚れた男だ。
「少し休まれた方が良さそうですね」
「ああ。文字の力も無理に使ったし、周囲の警戒を頼めるか?」
「お安い御用です」
クオリアが私から離れ、静かに佇む。
太股まで見える綺麗な美脚……堪らん。
●●●
「“二重武術”――“逢魔転剣術”、オミナスブーメラン!!」
兄さんに、斜め左右上からブーメランで強襲させる!
「まだ諦めんか――ハイパワーアックス」
「“爆走”!!」
迎撃行動に入った瞬間に、正面から距離を詰めた!
「――爆裂脚!!」
「“獣化”」
黒い犬の人獣となって、正面から――胸で受け止められてしまう!?
『ぐぅ! 良い蹴りだ!』
「ぁあッッ!!!」
裏拳を食らい、地面をバウンドするほど強く打ち付けられた!!
『兄を殺してでも、その男のために生きるつもりか? トゥスカ』
「私の全ては……ご主人様のために」
『……理解出来ないな。他者に隷属することを自ら望むなど』
隷属……か。
「誰も、親兄弟ですらも、私の孤独を癒してはくれなかった」
私だけが、この家族や知り合い達の中で……違うのだと、幼い頃から漠然と感じていた。
その感覚は、自分だけは特別でありたいというエゴから来ている物なのだと……決め付けて生きてきた。
でも、ご主人様と出会って孤独じゃなくなった事で、私の抱いていた感覚は、夢想なんかじゃないって理解できた――だから。
「私は、私の唯一の――本当の家族のために戦う!!」
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