ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

398.実力者達

「……あの、そろそろ諦めては貰えませんか?」

「な、なんで当たらないんだ、この女!!」

 短剣の二刀流で私を殺そうとする男性ですが、私はステッキを用いたステップにより、最小限の動きで避け続けている。

「あまりしつこいのであれば、命を奪うことになります」

「テメー、本当は目が見えてんのか! バカにしやがって!」

 勝手に、私がブラフで目隠しをしているかのように。

 目は見えずとも光は感じるため、それが鬱陶しくて厚めの黒い目隠しをしているだけなのですが。

「最近、聡明な人達としか話していなかったから、すっかり忘れていました」

「バカにしやがって、俺は医者の息子だぞ!!」
「フッ!」
「笑いやがったなぁぁ!!」

 私の目も治せない医者なんて、存在するだけ無駄。

 アイツらはいつも、何かにつけて副作用のある高額な薬を買わせることしか考えていない。

 両親が偽善で買った薬のせいで、何度体調を崩したことか。

 私の身体が拒絶しているのに、両親は私よりも医者という肩書きを信じ続けた。


「”瘴気魔法”――――”直情の発露”」


 再び斬り込んで来た男の下腹部に左手を翳し、”瘴気魔法”を爆発的な威力で放って――綺麗に吹き飛ばした。

「そう言えば、チトセ様は調合師でしたか」

 居心地が良くて、すっかり忘れていました。


●●●


『た、助けで……』

 ”溶解液”を大量に浴びせ、人獣を溶かしていく。

「他人の命を狙っておいて命乞いするなんざ、解放軍と言うのは恥知らずの集まりらしいな!」

『やめ……で…………』

 今のが噂の”獣化”か。

「再生能力が厄介だったから、ついコイツを使っちまったぜ。オールセット1」

 ”妖魔悪鬼への憤慨”を消す。

「……ハー、昨日に続いて今日もなんて」

『ハハハハハハ!! お前、二重人格者かよー。面白ー!』

 機械のモンスター。さっき向こうで戦っているのは見えていたけれど、戦闘を終わらせてこっちへとやって来たみたい。

 ”薬液工廠リュック”のホースを”マルチギミック薬液銃”から外し、”薬液用四穴ホルスター”から一本抜いて装着――薬液銃をシャワーモードへ。

「さようなら」

『無駄だ無駄だ! 溶解液なんかで、このボディーは……』

「掛けているのは”腐食液”です。”薬液充填”」

 調合師の墓場で手に入れたスキルで、空になったボトルに、同じ薬液一本分を充填。

 代わりに、チョイスプレート内の”腐食液”が一つ消費される。

『お、おい、ふざけんな! こんな物……そうだ、腐食が効かないのは上のステージから…………』

 溶け崩れ、光に変わっていくロボットモンスター。

「もしかして、四十一から上だと腐食が効かない仕様になっているって事?」

 ステージによって、このロボットモンスターの性能は違っているんだ。

「だとすると、割とラッキーだったのかも」

「マスター!」

 下側からやって来たのは、ヴァンピールのエルザ。

「一時間以上経って、ようやく合流できたか」

「他の人は?」

「まだ誰も見ていない」

「心配ですね」

 特に、目が見えないクオリアちゃんは心配です。

「誰か来る」
「休んでる暇も無いか」

 と思って見た先に居たのは……金糸の黒ローブを着たシスターみたいな格好の女の人と、ボリュームのある赤ツインテールにしたヤンキーっぽい人……あの人の服、赤い学ラン? 不良のように羽織っているだけだけれど。

「私はシスター、ナキリ」

 一人が前に出てくる……シスターって自分で言うんだ。

「貴女方は、男性をどう思われますか?」

「どう?」
「男性は男性では?」

 この人、なにが言いたいんだろう?

「男は皆けだもの。女を食い物にする外道なのです」

「それはいくらなんでも……」

 コセさんは……うーん。

「私も、以前はこのような極端な考えには懐疑的でした。ですが、この世界に来て実感したのです! この世に神はおらず、男は不要な存在なのだと!」

「あの……でも男性が居ないと、子孫を残せない……気が……」

 なにを口走って居るのだろう、私。

「……残念です」

 ――いきなり包丁で斬り付けてきた!?

「貴様!」

 エルザが、黒い槍で私を守ってくれる!

「どういうつもりだ」
「男が必要とか思ってる女はぁぁぁ――全員死になさぃぃー!!」

「おい、ナキリー。お前、また暴走してんぞぉぉ」

 ガントレットを打ち付け、火花を散らしながら近付いてくるツインテールの――へ?

「がハッッ!!」

 シスターのお腹を殴って……担いだ?

「悪かったな。私は仲間と合流したいから、じゃあな」

「逃がすと思っているのか? こっちは命を狙われたんだぞ」
「私は、突発クエストでユニークスキルを手に入れている。言っている意味は分かるか?」

 ユニークスキル。ゲーム内に一つしか存在しない特別な能力。

「エルザ。私達も、皆との合流を優先しよう」

 クエストが終わるまではまだ時間がある。今は消耗を避けるべき。

「行ってください」
「あんがとよ……そうだ。もし《ザ・フェミニスターズ》って名乗る奴等にあったら、マキが見逃したって言いな。絶対じゃないが、戦闘を避けられるかもしれない」

「は、はあ……」

 《ザ・フェミニスターズ》って……変な名前。


●●●


「”光擴”」

 ”偉大なる英雄の光擴転剣”のパーツを三つに分離し、内側から緑のエネルギー刃を生成。一点二メートル程の剣と成し、三文字を刻む。

「なかなかやるじゃん」

 人魚族とは違う、全身鱗の鎧を纏う女。

 ”多目的ガンブーメラン”との二刀流で追い詰めるも、トライデントのガードを崩しきれない!

「強いね、アンタ。奴隷なのが勿体ないくらいだ」

「この奴隷紋は、私の親愛の証です」

「別にそういう意味じゃなかったんだが、まあ良いか!」

「無駄な消耗は避けたい。退いてはくれませんか?」

「マスターにさ、Aランク以上のレア武器を持ってる奴がいたら、殺して奪えって言われてんだよ。悪いな」

「マスター……貴女は隠れNPCですか」

 一度距離を取る。

「NPCなら、主人の命令は絶対でしたね」
「まあ、そういうことさ」

 下手に背中は見せられない……殺し合うしかありませんか。


「なら、貴女で試させて貰います――“獣化”」


 全身が黒い毛に覆われ、黒犬の人獣となる。

『この形態の時は、鎧の方が良いかもしれませんね』

 武器も、近接戦の重い武器の方が合っていそう。

「強い獣人にそれを使われると、さすがに厄介だな」

 神代文字を使える感覚は、やっぱり無い。

 それに、気が昂ぶってきて暴走してしまう気さえしてくる。

『――”爆走”』

 人獣の強力な筋力により、以前よりも柔軟にこの爆発的スピードを制御できそう!

「“氷河魔法”――グレイシャーバイパー!!」

 氷と水の大蛇を紙一重で避け、女に肉迫する!


『パワースラッシュ!!』


 ”偉大なる英雄の光擴転剣”で、隠れNPCの首を刎ねる。

 ”獣化”を解きながら見た彼女の生首は……笑っていた。

「彼女、いったいなにを考えて……」


『――ここに居たか、トゥスカ」


「クッ!!」

 ご主人様よりも先に、ヴァルカ兄さんと遭遇してしまうなんて!!

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