ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

392.サキュバスのモエモエ

「……あ」

 天空遺跡でリューナから貰った“ゴルドアーマーウィング”を使って仲間を捜索していた俺の前に、荒廃の大地の村で遭遇した十手の二刀流使いの女、ミキコが視界に入る。

 忍者服のような、動きやすそうな薄紫の着物と、小さめの漆の具足を身に着けた、二つの青メッシュ入りの黒髪の女……前は具足なんて付けてなかったよな?

 男と戦っていたようだが、刃付きの十手を首に突き刺して絶命させたようだ。

「ようやく見付けたぞ、クソ男!」
「クソ男なんて呼ばれる筋合いは無いんだが」

 ここに居るって事は、二十九ステージから三十一ステージまで辿り着いたって事か……凄いな。

「まさか、《ザ・フェミニスターズ》全員が来ているのか?」
「貴様に答える義理などない!」

 厄介な高Lv女集団。

 かなり戦い慣れしていたっぽいし、面倒そうなんだよな。

「お互い、今は仲間との合流を優先した方が良いと思うんだが?」
「ク! ……良いだろう。命拾いしたな!」

 空を飛んでいる俺に、まともに攻撃する手段があったのだろうか?

 そんなことを思いながら、俺は上を目指して飛んでいく。


●●●


『見付けたぞ、裏切り者ぉぉ』

 解放軍と思われるナマケモノの獣人の男が、“獣化”を使用した状態で僕に襲い掛かってくる。

「裏切り者呼ばわりされる謂われなんて、こっちには無いんですけれどね!」

 水で出来たような美しい両刃の斧、“ザ・ディープシー・ラビュリス”を振るい、鋭い爪の一撃を牽制する!

『獣人の女は、簡単に他種族に靡く奴等が多すぎるのだ! ――“閻魔焰えんまほむら”!!』

 身の丈を超える背の大刀を抜き、刀身に荒々しい赤暗い炎を纏わせた!

「――“獣化”」

 白牛の人獣となり、同じ土俵へ!

 神代文字に頼れないこの状態を、今度こそ使いこなして見せる!


●●●


「……オラよ!!」

 骨と金属で出来た大刀を振り下ろしてくる、竜骨の鎧を纏った荒々しい黒髪の女性。

「“瞬足”」

 なんとか躱す私。

「小っこいのにやるじゃないか、アンタ」
「私の名前はウララです。貴女は?」
「ウォーダイナソーの隠れNPC、バルバザードってんだ」

「隠れNPC……」

 じゃあ、彼女を倒せば私達の戦力に出来るのね。

「アンタ、うちのマスターよりもやるようだね。だが悲しいかな。そっちは完全な後衛職なうえ、私はマスターに、敵は見つけ次第殺せと命令されているんだ」

「遠慮は要りません。貴女は、私の物にします」

「へー、出来るもんならやってみな! “恐竜召喚”――アサルトラプトル!!」

 二メートルくらいの背丈持つ俊敏そうな恐竜が、二体現れる!

「“二重魔法”、“雷雲魔法”――サンダークラウズスプランター!!」

 雷と氷の二種属性魔法で、召喚早々に二体を消し炭に!

「“竜剣術”――ドラゴンブレイク!!」

 恐竜は、接近するための囮!

「“魔断障壁”!」

 障壁が一瞬だけ剣を止め、すぐさま後退する私。

「日に三度しか使えない、魔法を完全に防ぐスキルを使い捨てにするとはね。“至高のグリモワール”に“煙雲月露の魔女法衣”。その他も高ランクで装備を固めているみたいだし、末恐ろしい女だ」

「どうやら貴女とは、全力で闘わなければならないようね――“神の朗読”」

 サブ職業、“神の司書”のスキルを行使し、サブ装備の書物を新たに二冊空中に顕現させ、私の意思により書物が開く。

 同時に、この手の“至高のグリモワール”も空へと浮かべる。

「第三十三ステージのユニークスキル、“神の朗読”。装備している本を自在に操り、同時に行使可能にする能力! オイオイ、どんだけ運が良いんだよ、お前」

「弟と一緒に、このゲームを遊んだことがあるだけよ」

 だから、オリジナルでのユニークスキル入手法を、たまたま少しだけ知っていた。

「これ以上の消耗は避けたいから、これで終わらせるね」

「させるか――“飛竜剣”!!」

「“不可侵条約”!」

 “締結の聖典”を盾に、繰り出された竜属性の斬撃を止める!

「――私は刻む!! “雷雲魔法”!!」

 カバー表皮に二人の男が刻まれた“目眩く禁断を読み耽り”に青白い六文字を刻み――魔法陣に力を流しこむ!


「サンダークラウズスプランター!!」


「神代文字を――良いじゃん」

 最後の抵抗を警戒していたけれど……バルバザードは、無防備に魔法を食らって消えた。

「最後……笑ってた? でも、これで」

 また一歩、ラキを救う道を進む事が出来たんだ。


●●●


「お前、アスラか」

 荒々しい茶髪をポニーテールにした、白い胴着を着るアスラの隠れNPC。

「そういうアンタは、最強候補のヴァンピールじゃないか」

 お互いに戦闘態勢を取っていたが、同時に構えを解く。

「まあ、我々が争っても大して意味が無いしな」
「だな」

 私が勝てば貴重なアスラの装備やスキルが手に入るが、この状況では仲間との合流が最優先だろう。

「ところで、最強候補とはどういう意味だ?」
「ああ……そっか。イベントの都合上、アンタはまだ知らないのか」

「イベントだと?」

 一体なにを言っている?

「まあ、いずれ分かる事だから気にするな。じゃあな」

 下の板へと飛び降りていくアスラ。

「思わせ振りな事を」

 そう言えば、名前を聞きそびれたな。

「まあ、どうでも良いことか」

 取り敢えず、私は上を目指してみることにする。


●●●


「お、おい! コイツをどうにかしろよ、モエモエ!!」

「無茶言うな、バカマスターが!!」

 私はサキュバスの隠れNPCなのよ! 女相手じゃ私の固有スキル、“悪魔の魅了”は役に立たないし!

 でも、氷の玉座に座ったあの女は魔法使いだろうから、私の“搾精”でMPを吸収し続ければ……。

「貴女、普通の人間じゃないわね。隠れNPCという奴かしら?」
「だったら?」

 魔法を使ってくれた方が、MPを減らせるのに。

「可愛い子。私の、《ザ・フェミニスターズ》に入れてあげるわ」

「は?」

 フェミニスターズって……よく自分からそんな恥ずかしい名前を名乗れたな、この女。

「“凍土魔法”――フロストバーン!!」

「“空衝”!!」

 ヒット&アウェイでプレッシャーを掛けて、魔法を撃たせまくってやる!

「隠れNPCなのに間抜けね」

 地面を凍らせる魔法を避けて空から攻めると――女が座っていた玉座が一瞬で氷に変わり、そこから触手が伸びてきた!

「まさか、ユニークスキルの“永獄の玉座”!!」

 なんで気付けなかったのよ、私!!

「クソ!」

 脚が、氷の触手に掴まれてしまった!

「まあ、無理もないわ。この“偽造の指輪”を使っていたし」

 制限付きとはいえ、アイテムなどの見た目を変えられる対プレーヤー用のSランク装備!

「おい、モエモエ!!」
「ごめん……マスター」

 身体を、あっという間に凍結され尽くした。

 アイツは好きじゃなかったけれど、こうも一方的に倒されたのは、申し訳……な…………。


●●●


「隠れNPC、今すぐ使えるというわけではないのね」
 
 あのキュートな赤紫ツインテール悪魔娘が私の物になったと言うだけでも、よしとしようかしら。

「ああ……」
「あら、まだいたの? ――“魔力砲”」

 あの子のマスターだった男を、一撃で消し去る。

「タマコ様!」
「ご無事ですか?」
「よく合流してくれました。ユリナ、ホノカ」

 さて、例のパーティーはいずこかしら?

「あの男を殺して、彼女達を私のコレクションに絶対に加えなければ」

 ああ、早く会いたい!


『三十分が経過した! これより、強力なモンスターを十体送り込むぞー!』


 穢らしい男の声が耳に届くことで、私の気分が激しく害される!!

「男なんて、皆死ねば良いのよ」

 生きていて良いのは、私に従順な家畜おとこだけなのだから。

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