ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

390.大規模突発クエスト・隠れNPC獲得争奪戦

「ここは……」

 黄色に発光する半透明な板が上にも下にもある、奇妙な光景。

 そこかしこに光の板があり、プレーヤーは一枚の板に一人だけになるよう配置されている様子。

 辺りの空間はマーブル状に常に蠢いており、ここが異空間であることを嫌でも実感させられる。

「ご主人様かノーザンは……」

 板の中心地はほぼ透明なため、沢山の人間が見えるけれど……知り合いは一人も見当たらない。

 参加者は、三十一から四十ステージまでのプレーヤー……ご主人様のおかげでLvが上がっているとはいえ、ここに居る大半が格上だと思った方が良い。

『総参加人数二千七百六十七名、プラス三十六体の隠れNPC。諸君らの参加に感謝するぞ! ガハハハハハハ!!』

 この前の、オッペンハイマーという男とは別の声。

『これより、以前話したルール以外の部分について説明させて貰う! お前達には、これからサバイバルバトル形式で争って貰うわけだが、例の強力なモンスターは三十分後に投入される!』

 モンスターが出て来てくれた方が、混乱で自由に動き回れそう。

『更にここでサプライズ! 制限時間三時間のうち、残り一時間になると”隠れNPCシャドウ”が出没するようになるぞー! ヤェーー!!』

「隠れNPCシャドウ?」

 シャドーの隠れNPCなら、《日高見のケンシ》の所にいるはず。

『”隠れNPCシャドウ”とは、隠れNPCと同等の性能、武器を持った黒き影。倒せば、隠れNPCの強力な固有サブ職業を手に入れる事が可能だ! 一人でも多く倒すことを推奨させて貰おう! ガハハハハハ!!』

「ここに来て、生き残る難易度を急激に上げてくるなんて」

 やはり、観測者達は卑怯者の集まりか。

『ああ、忘れる所であった! この突発クエストに限り、殺した人間に掛けられた懸賞金を手に入れる事が出来る! ちなみに、そのステージに居る一億越えの懸賞金の持ち主はコイツらだ!』

 チョイスプレートに表示された顔の中に――ご主人様が!

「……良かった」

 追ってきてくれてたんだって確証が持てて……心が潤い、幸福の熱が込み上げてくる。

「でも……」

 一億越えのプレーヤーは四人。その中に、何故か兄の顔がある。

 観測者に狙われているご主人様はともかく、レギオンを率いているとはいえ、どうして兄さんが……。

『それでは、大規模突発クエスト・隠れNPC獲得争奪戦――スタートだ!!』

 どこからか聞こえてくる歓声を無視し、私は近場の宝箱からスキルカードを回収。

 見通すのが難しい上を目指し、光の階段を駆け上がっていく!


●●●


「思っていた以上にヤバいルールにしてくれたね、アイツら」

 モモカとバニラを不参加にして良かった。

「さてと」

 緑の半透明な板が上下に伸びるフィールドを見渡し、レギオンメンバーを捜す。

 板の広さはマチマチだけれど、階段よう以外は最低でも一辺、五メートルはあるみたい。

「あら、意外」

 私の前に現れたのは、アテルの隠れNPCであるタイタンのアシュリー。

「私を手に入れに来た?」
「冗談を言うな、メルシュ。同盟を組む前ならいざ知らず、現状でうちのレギオンがお前を奪うのは不可能だ」

 同盟レギオン同士は、相手を殺せない。

 でも、同じレギオンメンバーであれば殺すのは可能なんだよね。

「合流できたのは助かったわ。アテルもこのステージに?」
「ああ。そっちのレギオンリーダーは上だったか」

 昨日のうちに、ザッカルを通して一通りの情報交換は行っている。

「それにしても、さっそく戦っているバカも居るようだな」
「三時間という長期線を考慮して、最初は仕掛けずに仲間との合流を狙っている人間が多いのにね」

 ただ、マスターから情報があった女の一団、《ザ・フェミニスターズ》と思われる者は見当たらない。

 仲間がばらけているだろうから、それらしい一団を見付けるのはすぐには無理か。

「我々は動かないのか、メルシュ?」

「私達が居るこの場所は、広大なフィールドのちょうど中心地みたい」
「つまり、ここを動かぬ方が味方と合流できる可能性が高いと」
「そゆこと」

 この判断が、吉と出るか凶と出るか。


●●●


「ああ……う、腕が」

「ごめんなさいね。ある出来事があってから私、エルフの男が大っ嫌いなの」

 おかげで、出会い頭にエルフの男の腕を、“匠の拘泥り庖丁”でぶった切ってしまったわ。

「――お仲間か」

 背後からのエルフの奇襲を、“ウルリクムミの剣石甲”で防いで距離を取る!

「貴様、よくも我等親衛隊の同胞を!」

「親衛隊?」

 ノーファからは、親衛隊なるものの名前は聞いていない。

「どこの親衛隊なのかしら?」
「我等は、美帝ユウコ様のレギオン、《黒茨親衛隊》である!」

「ユウコ……」

 そう言えば、《龍意のケンシ》側からの情報にそんな名前があったような。


「私の可愛い愛玩具達を――よくも傷物にしてくれたわね」


 黒ドレスを着た白髪の女が、鞭を手に降り立つ。

「貴女がユウコ?」

 絶世の美女と言われてもおかしくない美貌の持ち主かもしれないけれど、数多のエルフの男を統率しているとは思えない。

 確かにその怜悧な眼差しには、精巧な人形を思わせる不思議な魅力があるけれど。

「ゆ、ユウコ様……」

「さっさと腕を治しなさい、フェルゼ。でないと、今夜のご褒美は抜きよ」
「す、すぐに!」

 今、エルフの男の顔が下卑た笑みに……。

「逆ハーレムをガチで作ってるってわけ?」
「あら、羨ましかったかしら?」
「全ッッ然ッ!!」

 気持ちの悪い女!

「あの女……神代文字を」

 私が大刀に六文字刻んだ事で、動揺するエルフ達。

「なるほどね。武器交換――“黒茨の惨殺鞭”」

 長く鋭い棘が植物の茎の葉のように一定間隔で密集している、凶悪な鞭に持ち替えた!

 しかも、文字を九文字も刻んだ!?

「この鞭の養分にしてあげる」


●●●


「その“精霊のファルシオン”を寄越せよ、坊や! “超高速”!!」

 黒い鎧の男が目で追えない程の速度で動き回り、こちらのガードを崩そうと畳み掛けてくる!

「――“天元侵蝕”」

 奴の斧が靄を纏った瞬間、僕の”シルバーアイアン”を容易くボロボロに!

「く!」

「なんだ、ビビっちまったのか? この前戦った女は、お前よりも勇敢に戦ってたぜ~」
「お前!!」


「ソイツは俺のことか? ――“万の悪穿ち”!!」


「な!? ――“超高速”!!」

 男が立っていた周囲に黒い槍の雨が降り注ぎ、衝撃が駆け抜けていく!

「て、テメー……こんなに早く出くわすなんてよ!」

「それは俺のセリフだぜ」

 上から降りてきたのは、“絶滅の剣槍”を手にした黒豹獣人のザッカルさん!

「ザッカルさん!」
「悪いな、リョウ。コイツは俺の獲物だ」
「い、いえ」

 少し、自分が情けないと思ってしまった。

「お前は自分のパーティーメンバーと合流しろ。上の方でエレジーを見掛けた」

「わ、分かりました!」

 そうだ。僕のくだらないプライドなんかより、大切な仲間の命を優先しなきゃ!

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