ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

384.盲目の告白

「イツツ……」
「……なんであんな所に居たのよ?」

 魔法で治してくれているマリナが呆れていた。

 気付くのが遅れた俺は、頭に椅子の角が掠ってしまってたのだ。

 その経緯が恥ずかし過ぎて、なにも言えない。

「は、早く行こう」

 安全エリアを離れ、ダンジョン扱いの島へと繰り出す。

「さっそく来たぞ」

 リューナの警戒の声と共に、地響きと無数の気配が迫ってくる。

 空と陸から、大量のモンスターがこちらに突っ込んできていた。

「上は私がやる! “空遊滑脱”!」

 リューナが空へと踏み出す。

「“二重魔法”――“硝子魔法”、グラスバレット!!」
「“吹雪魔法”――ブリザード!!」

 マリナとリューナの広範囲魔法により、全体的にダメージが入った。

「“大地讃頌”!!」
「“鞭化”、“狂血鞭術”――ブラッディーウィップ!!」

 俺の地面からの扇状の黄金光と、エルザの血の鞭の応酬により、地上のモンスターは粗方倒すことに成功。

「“蒸発魔法”――イヴァポレイションボム!!」

 空の敵は、チトセさんがトドメをさしてくれた。

「残ったのは逃げ出したか」

 俺は、ゲームで遭遇したモンスターは必ず倒す主義だったから、勿体ないと思ってしまう。

「皆様、お見事です」

 ステッキ片手に、手を叩くクオリア。

「それで、Lvはどれくらい上がった?」
「私は目が見えませんので」
「ああ……そうだったな」

 リューナが謝った。

「今ので、Lvが26に上がってますね」
「あ、4も上がったんですね。凄いです」

 まるで他人事のように語るクオリア。

 彼女が俺達の仲間になった時点でのLvは、22。

 隠れNPCのエルザのLvは、契約者であるチトセさんと同じになるため、俺達の中でもトップ。

 というわけで、暫くクオリアは戦力外になるだろう。

「明日のクエストの事もある。今日は積極的にモンスターを倒して進もう」
「異論はない」
「強くなるに越したことは無いからな」

 エルザとリューナが同意してくれる。

「とはいえ、そろそろ私の有用性を示しておかねば、呆れられてしまうかもしれませんね」
「へ? そんなことは……」

 マリナが言い淀んでいる横を通り、クオリアが俺達の先頭へ。

 暫く歩いていると、再び正面から陸上モンスターの大群が。

「では、ここは私が」
「本当に、任せて良いんですか?」
「ええ、おそらくは問題ないかと――“二重魔法”」

 マリナに応じたのち、魔法陣を二つ展開すると同時に――左腕の銀の装身具に、神代文字が九つも刻まれた!?

 流れるように神代文字のエネルギーが魔法陣に吸い込まれ――膨大なエネルギーを溜め込んでいる!!


「“瘴気魔法”――ミアズマプラズマ」


 二つの黒い靄の玉が、雷を発しながらモンスターの群れへと飛んでいき――雷を炸裂させた大爆発を引き起こす!!

「いかがでしょうか、皆様」

「いかがって……クオリアさんはなんともないんですか? 九文字も刻んだうえ、ああも自在に神代の力を操ったのに」

 チトセさんが尋ねた。

「九文字? この装身具の力の事ですか?」

 肘先から紫の布がヒラヒラしている銀の装身具を見せながら、なんて事ない様子のクオリア。

「少々精神力を消耗するようですが、同じMP消費量で威力を増大させられるため、重宝しておりますが?」

「いや、意識を持っていかれる感覚とか無いんですか?」

「意識……以前はありましたけれど、今くらいならなんの問題もありませんよ。これ以上の力を引き出そうとすると、確かに意識を引っ張られる感覚はありますが」

 それはつまり、九文字くらいなら平然と使いこなせるという事に……。

「これは、思わぬ拾い物かもな。こんな逸材、よく見付けられたな、コセ」

 リューナに尋ねられる。

「いやぁ……」

 俺、一番無口な人を紹介して貰っただけなんだけれど……ギャーギャー煩いのは嫌だなと思って。


             ★


「あれだけの襲撃があったから当然ですけれど……クオリアさんのLvが、もう33まで上がってます」
「私のLvも順調に上がってますし、ここらのモンスターの経験値が凄いのかもしれませんね」

 チトセさんとマリナが、安全エリア内で話している。

「どうやらここも、安全エリアに自由に出入り出来るタイプのダンジョンのようだな」

 リューナが声を掛けてきた。

「取り敢えず、森を目指せば良いんだっけ?」

 今回俺は、昨夜に感情的になった事でダンジョンの詳細を聞いていない。

「ああ。そのあとは……へと、ひたすら中心地に向かえば良いはずだ。森は大量にモンスターが向かってくるわけではなく、強い個体が少数で現れるらしい」

「リューナ……なにかあったのか?」

 昨日はいっぱいいっぱいで気付かなかったけれど、思えば俺がエルザとクオリアを連れて戻った辺りから、どことなく様子がおかしかった。

「……やっぱり鋭いな、お前は」

 自嘲気味に笑うリューナ。

「昨日、ツェツァ達に……私達の関係を明かした」

「……そっか」

 芳しくない結果だったのは、その泣きそうな顔から読み取れた。

 肩を抱き寄せて、正面から抱きしめる。

「すまん、まだ言うべきじゃなかったのに……」
「良いよ、大丈夫だから」

 むしろ、昨夜の時点でリューナが俺に胸の内を明かせなかったのは……俺の余裕の無い姿に気を遣わせてしまっていたから。

 男はドンと構えていろっていう言葉が、身に染みた気分だ。


「お二人はラブラブなのですね」


「「おわ!?」」

 いつの間にかすぐ近くまで来ていたクオリアに、途轍もなく驚いてしまう俺達!

「複数人と男女の関係と聞いていたので、もっとふしだらな感じを想像していました」

「ふしだらなって……」

「先程のお二人の様子を視ていれば、純愛で結ばれているようにしか見えませんよ」

「純……」
「……愛」

 ――急に恥ずかしくなってきた!!

「フフフ、初心なのですね」

「クオリア……お前、本当は見えているんじゃないだろうな?」

「勘違いですよ、エリューナ様。私はただ、お二人の心音と辺りの気温の急な上昇でそう判断しただけで」

 余計に羞恥を掻き立てないで!

「それに、”立体知覚“のおかげで、大まかな形状やポーズくらいは分かりますから」

 あくまで立体のため、色や文字は分からないと。

「お、お前、あんまりそういう恥ずかしいことを面と向かって言うなよ!」

 珍しく、ベッド以外で顔が赤いリューナ……可愛い。

「まあまあ。それにしても、ここは熱いですね」

 スリット入りの黒ドレスのスカート部分をブワブワさせて――大人っぽい紫の下着が見え取とる!

「お、おい、下着が見えてるぞ!」
「? ああ、そう言えば、殿方は下着に興奮してしまうのでしたか」
「女の下着で興奮するのが、男だけだと思うなよ!」

 なんでそこは力説なの、リューナ?

「申し訳ありません。私は目が見えないので、下着で性的興奮を覚えるという感覚がよく分からず」

「そういう物なのか?」
「ていうかクオリア、お前っていつから見えないんだ?」

「産まれた頃から視力はとても悪く、どんどん落ちていって。完全に見えなくなったのは、四つか五つだったかと」

 あっけらかんと、これまた他人事のように。

「というわけで、見た目による価値観というものがよく分からないのですよ」

「なるほどな……よし。分からない事があったら、いつでも私に聞くと良い」

 リューナ……人に構うことで、不安や悲しみを紛らわせようとしているのかもな。

 

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