ダンジョン・ザ・チョイス
379.流刑の孤島
「……トゥスカさん、戻ってきませんね」
「お姉様……」
カプアと二人で合流地点に待機してから数時間……お姉様は現れない。
「もうすぐ暗くなります。私はともかく、ノーザンさんには不利でしょう。トゥスカさんにも」
僕もお姉様も夜行性の獣人じゃないから、暗闇で夜行性の獣人に襲われたら不利。
「僕が……最初から“獣化”を使いこなせていたら」
「いきなりでは無理もありませ――見回りです。この辺りが限界かと」
「く!」
きっと、お姉様は動けないから、どこかに潜伏して居るだけ……そうであって欲しい。
「分かりました……戻りましょう」
「あとで、私が情報を探ってみます。どうか、気落ちしないでください」
むしろ、一人で突っ走ってしまいそうな感情を必死に抑え込み……僕は、“崖の中の隠れ家”に戻ることにした。
●●●
「……なんというか、これまた凄いところに出たな」
「まさか、海のど真ん中に祭壇があるなんて……」
驚いている様子のリューナとマリナ。
「梯子を進んだ先にあるあの島が、目的地の流刑の孤島だ」
祭壇の中腹にロープで出来た橋があり、島まで続いている。
「どうせなら、島に直接転移してくれれば良いのに」
「まあまあ。暗くなる前に進みましょう、マリナさん」
「かなり横風が強いな。飛んでいくのも危なそうだが、このロープ橋では心許ないんだが……」
空を自在に歩けるからか、余計にそう思うんだろうな、リューナは。
「あ、ヨッちゃんが!!」
飛んでいた鳥獣戯画・夜鷹が横風に煽られ……荒れる海に落ちてしまった。
「“鳥獣戯画”が解けた。海は即死扱いになるのかもしれないな」
「大人しく橋を渡った方が良さそうだ」
「私は、出来るだけ身軽になります」
特大リュックの装備を外すチトセさん。
そんなこんなで、俺を先頭に四人で海を渡り始めた。
★
「なんとか、島まで辿り着けたな」
「こ、怖かった」
「もう、手脚がプルプルなんだけれど……」
「風で橋がブワーンって九十度くらい動いたときは、さすがに怖かったですねー」
二人が参っている中、一番小柄なチトセさんが割と平気とは……ここ、モモカとバニラが通るときが心配だな。
「流刑の孤島なんて付いてましたけれど、割と普通の町って感じですね」
木々が多く、起伏も激しそうな場所だ。
「道は狭いけれど建物が多いし、回るのは明日の方が良いですかね」
「ですね」
ぶっちゃけ、魔神と戦うよりも橋を渡る方が疲れたし、もうすぐ日が落ち始めてしまう。
「二人とも、急いで泊まれる場所を探そう」
俺がそう言った時だった――チョイスプレートがいきなり開いたのは。
○明後日の昼、12:11より大規模突発クエストを決行。
○今夜19:11に詳細説明あり。安全を確保し、説明を聞くことを強く推奨。
「この前アップデートがあったと思ったら、今度は大規模突発クエストと来たか」
しかも、わざわざ二日前に予告と詳細説明をするという、前代未聞のやり方で。
「……さっさと休んで、聞き逃さないようにした方が良さそうだな」
「嫌な予感がしますね」
コッチは、さっさとトゥスカ達に合流したいって言うのに。
それにしても、なんで今回もわざわざ11分を指定するんだ?
★
「そろそろか」
宿泊エリアの入口に居たNPCにお金を払い、円柱状の白い壁と青い円錐の屋根の一戸建てを借り、四人で19:11になるのを待っていた。
○これより、明後日の大規模突発クエストの詳細説明を始めます。
あの時のように、全員分のチョイスプレートが強制展開される。
『早い再会となったな、プレーヤー諸君。ダンジョン・ザ・チョイス運営統括責任者のオッペンハイマーである』
アップデートの説明時と同じ声。
『明後日に行われる突発クエストの名は――隠れNPC獲得争奪戦』
「わざわざ、獲得と争奪がセットになっている?」
リューナの疑問。
『このクエストは自由参加型だが、全てのプレーヤーが参加することが可能。ただし、隠れNPCとその契約者は強制参加となる』
俺のレギオンは、間違いなく隠れNPCとの契約数がトップクラス。
なら、このクエストの狙いは……。
『このクエスト内では、隠れNPC、もしくは契約者が殺された場合、未契約者が新たに隠れNPCと契約することが出来る。そうでなくとも、隠れNPCの固有スキル、またはサブ職業を手に入れる事も可能だ』
「これって……隠れNPC所持者が一方的に狙われるシステムなんじゃ……」
「狙いが俺達かアテル達なら、当然の内容か」
マリナの言葉は、核心をついている気がする。
『本来、隠れNPCは異世界人にしか契約出来ない仕様だが、今回のクエストに限っては、その他の種族にも契約の権利が与えられる』
「他の種族にもメリットを与えて、参加人数を増やすのが狙いか」
『隠れNPC所持者達のメリットは、最後まで生き残った場合に“シュメルの指輪”が手に入ること』
「なに!?」
隠れNPCによってパーティーが分散されやすい俺達にとっては、ありがたいアイテム!
『隠れNPCのデメリットは、隠れNPCを二体以上パーティーに組み込めない事だが、この“シュメルの指輪”はそのデメリットを回避し、更には装備者に、隠れNPC専用のS、もしくはAランクアイテムを装備可能にするというメリットもある』
隠れNPC専用装備は、ほとんどがS……欲しいと思う人間は多いだろう。
『更にもう一つ、このクエスト限定の強力なモンスターが多数登場するが、そのモンスターを倒した場合、このクエストでしか手に入らない特別な消費アイテム、“戦闘メイドのAIチップ”、もしくは“戦闘執事のAIチップ”を一つ選択して手に入れられる』
女性の絵と男性の絵が刻まれた、二種類の機械部品が表示される。
「戦闘メイド?」
ここに来て、まったく分からない要素が。
『この特別なアイテムの使い方だが、これはLv54で解禁されるシステム、使用人選択で作成可能なNPCに使用できる』
俺なら、あとLvが1上がれば使用可能だけれど……。
『このチップを使えば、只の使用人に過ぎないNPCを感情豊かに動かし、自身のパーティーに奴隷として加えることが可能。ただし、そのNPCがゲームオーバーになった場合、チップが破壊されて元の使用人NPCに戻ってしまう。もう一度チップを使うことは可能だが、記憶はリセットされているのであしからず。これ以上の詳細は、あとでライブラリから確認したまえ』
「それって、誰でも隠れNPCを手に入れられるって事なんじゃ……」
「おそらく、固有装備やスキルが無い隠れNPCって扱いなんでしょうね」
下手をすると、隠れNPC二体をパーティーに入れられないというデメリットが、この使用人NPC同士には無いかもしれない。
『使用人NPCは特殊な能力が無い代わりに、種族設定と容姿は完全自由。つまり、今まで宝の持ち腐れだった種族専用装備の使い道が出てくるというわけだ』
参加者を一人でも多く募りたいのか、メリットばかり説きやがる。
『ここからはルール説明だ。明後日の12:11、参加希望者と隠れNPC、その契約者は強制的に専用フィールドに転送されることになる。その際、第二ステージから十ステージ、十一から二十ステージまでと、辿り着いているステージごとに別々のフィールドに転送されるのであしからず。これは、実力差が開きすぎないようにするための配慮である』
数ステージ違えば、装備などに差が出そうな気がするけれど。
これも、参加者を増やすための方便……おためごかしか。
『フィールドには宝箱も設置されており、制限時間である三時間を生き残れれば、10000000Gをプレゼントしよう』
「金で釣りに来たか。浅ましい連中だ。だが……」
「どう考えても、参加しなければ戦力に開きが出るだろ……」
俺達にもだが、それ以上にその他の人間のメリットがデカすぎる。
なぜなら使用人NPCの存在によって、隠れNPCを所持しているメリットがますます薄れるからだ。
『ああ、そうだ。大事な事を言い忘れる所だった』
まだなにかあるのか。
『特別大サービスだ。参加したレギオンの生き残り人数がもっとも多かったレギオン上位三つに、隠れNPC引換券を一枚あげよう』
「また露骨に……」
参加人数を増やすための小細工を……。
『隠れNPC引換券を使用し、未契約の隠れNPCと契約することが出来る。ただし、自分が参加した十ステージ内に配置された隠れNPCに限るがね』
参加するのは危険だが、メリットが大きすぎて無視できない。そこに、大人数で出るだけでメリットがある要素の提示……参加を渋っていた奴等を焚き付けるための、悪魔の誘惑だな。
『参加受け付けは明日の12:00まで。振るっての参加希望、心よりお待ちしている』
○これにて、明後日の大規模突発クエストの説明を終わります。
○明後日の大規模突発クエスト、隠れNPC獲得争奪戦に参加しますか?
「まずは、メルシュ達との情報交換か」
十中八九、レギオンメンバーの大半が参加する事になるだろうけれどな。
「お姉様……」
カプアと二人で合流地点に待機してから数時間……お姉様は現れない。
「もうすぐ暗くなります。私はともかく、ノーザンさんには不利でしょう。トゥスカさんにも」
僕もお姉様も夜行性の獣人じゃないから、暗闇で夜行性の獣人に襲われたら不利。
「僕が……最初から“獣化”を使いこなせていたら」
「いきなりでは無理もありませ――見回りです。この辺りが限界かと」
「く!」
きっと、お姉様は動けないから、どこかに潜伏して居るだけ……そうであって欲しい。
「分かりました……戻りましょう」
「あとで、私が情報を探ってみます。どうか、気落ちしないでください」
むしろ、一人で突っ走ってしまいそうな感情を必死に抑え込み……僕は、“崖の中の隠れ家”に戻ることにした。
●●●
「……なんというか、これまた凄いところに出たな」
「まさか、海のど真ん中に祭壇があるなんて……」
驚いている様子のリューナとマリナ。
「梯子を進んだ先にあるあの島が、目的地の流刑の孤島だ」
祭壇の中腹にロープで出来た橋があり、島まで続いている。
「どうせなら、島に直接転移してくれれば良いのに」
「まあまあ。暗くなる前に進みましょう、マリナさん」
「かなり横風が強いな。飛んでいくのも危なそうだが、このロープ橋では心許ないんだが……」
空を自在に歩けるからか、余計にそう思うんだろうな、リューナは。
「あ、ヨッちゃんが!!」
飛んでいた鳥獣戯画・夜鷹が横風に煽られ……荒れる海に落ちてしまった。
「“鳥獣戯画”が解けた。海は即死扱いになるのかもしれないな」
「大人しく橋を渡った方が良さそうだ」
「私は、出来るだけ身軽になります」
特大リュックの装備を外すチトセさん。
そんなこんなで、俺を先頭に四人で海を渡り始めた。
★
「なんとか、島まで辿り着けたな」
「こ、怖かった」
「もう、手脚がプルプルなんだけれど……」
「風で橋がブワーンって九十度くらい動いたときは、さすがに怖かったですねー」
二人が参っている中、一番小柄なチトセさんが割と平気とは……ここ、モモカとバニラが通るときが心配だな。
「流刑の孤島なんて付いてましたけれど、割と普通の町って感じですね」
木々が多く、起伏も激しそうな場所だ。
「道は狭いけれど建物が多いし、回るのは明日の方が良いですかね」
「ですね」
ぶっちゃけ、魔神と戦うよりも橋を渡る方が疲れたし、もうすぐ日が落ち始めてしまう。
「二人とも、急いで泊まれる場所を探そう」
俺がそう言った時だった――チョイスプレートがいきなり開いたのは。
○明後日の昼、12:11より大規模突発クエストを決行。
○今夜19:11に詳細説明あり。安全を確保し、説明を聞くことを強く推奨。
「この前アップデートがあったと思ったら、今度は大規模突発クエストと来たか」
しかも、わざわざ二日前に予告と詳細説明をするという、前代未聞のやり方で。
「……さっさと休んで、聞き逃さないようにした方が良さそうだな」
「嫌な予感がしますね」
コッチは、さっさとトゥスカ達に合流したいって言うのに。
それにしても、なんで今回もわざわざ11分を指定するんだ?
★
「そろそろか」
宿泊エリアの入口に居たNPCにお金を払い、円柱状の白い壁と青い円錐の屋根の一戸建てを借り、四人で19:11になるのを待っていた。
○これより、明後日の大規模突発クエストの詳細説明を始めます。
あの時のように、全員分のチョイスプレートが強制展開される。
『早い再会となったな、プレーヤー諸君。ダンジョン・ザ・チョイス運営統括責任者のオッペンハイマーである』
アップデートの説明時と同じ声。
『明後日に行われる突発クエストの名は――隠れNPC獲得争奪戦』
「わざわざ、獲得と争奪がセットになっている?」
リューナの疑問。
『このクエストは自由参加型だが、全てのプレーヤーが参加することが可能。ただし、隠れNPCとその契約者は強制参加となる』
俺のレギオンは、間違いなく隠れNPCとの契約数がトップクラス。
なら、このクエストの狙いは……。
『このクエスト内では、隠れNPC、もしくは契約者が殺された場合、未契約者が新たに隠れNPCと契約することが出来る。そうでなくとも、隠れNPCの固有スキル、またはサブ職業を手に入れる事も可能だ』
「これって……隠れNPC所持者が一方的に狙われるシステムなんじゃ……」
「狙いが俺達かアテル達なら、当然の内容か」
マリナの言葉は、核心をついている気がする。
『本来、隠れNPCは異世界人にしか契約出来ない仕様だが、今回のクエストに限っては、その他の種族にも契約の権利が与えられる』
「他の種族にもメリットを与えて、参加人数を増やすのが狙いか」
『隠れNPC所持者達のメリットは、最後まで生き残った場合に“シュメルの指輪”が手に入ること』
「なに!?」
隠れNPCによってパーティーが分散されやすい俺達にとっては、ありがたいアイテム!
『隠れNPCのデメリットは、隠れNPCを二体以上パーティーに組み込めない事だが、この“シュメルの指輪”はそのデメリットを回避し、更には装備者に、隠れNPC専用のS、もしくはAランクアイテムを装備可能にするというメリットもある』
隠れNPC専用装備は、ほとんどがS……欲しいと思う人間は多いだろう。
『更にもう一つ、このクエスト限定の強力なモンスターが多数登場するが、そのモンスターを倒した場合、このクエストでしか手に入らない特別な消費アイテム、“戦闘メイドのAIチップ”、もしくは“戦闘執事のAIチップ”を一つ選択して手に入れられる』
女性の絵と男性の絵が刻まれた、二種類の機械部品が表示される。
「戦闘メイド?」
ここに来て、まったく分からない要素が。
『この特別なアイテムの使い方だが、これはLv54で解禁されるシステム、使用人選択で作成可能なNPCに使用できる』
俺なら、あとLvが1上がれば使用可能だけれど……。
『このチップを使えば、只の使用人に過ぎないNPCを感情豊かに動かし、自身のパーティーに奴隷として加えることが可能。ただし、そのNPCがゲームオーバーになった場合、チップが破壊されて元の使用人NPCに戻ってしまう。もう一度チップを使うことは可能だが、記憶はリセットされているのであしからず。これ以上の詳細は、あとでライブラリから確認したまえ』
「それって、誰でも隠れNPCを手に入れられるって事なんじゃ……」
「おそらく、固有装備やスキルが無い隠れNPCって扱いなんでしょうね」
下手をすると、隠れNPC二体をパーティーに入れられないというデメリットが、この使用人NPC同士には無いかもしれない。
『使用人NPCは特殊な能力が無い代わりに、種族設定と容姿は完全自由。つまり、今まで宝の持ち腐れだった種族専用装備の使い道が出てくるというわけだ』
参加者を一人でも多く募りたいのか、メリットばかり説きやがる。
『ここからはルール説明だ。明後日の12:11、参加希望者と隠れNPC、その契約者は強制的に専用フィールドに転送されることになる。その際、第二ステージから十ステージ、十一から二十ステージまでと、辿り着いているステージごとに別々のフィールドに転送されるのであしからず。これは、実力差が開きすぎないようにするための配慮である』
数ステージ違えば、装備などに差が出そうな気がするけれど。
これも、参加者を増やすための方便……おためごかしか。
『フィールドには宝箱も設置されており、制限時間である三時間を生き残れれば、10000000Gをプレゼントしよう』
「金で釣りに来たか。浅ましい連中だ。だが……」
「どう考えても、参加しなければ戦力に開きが出るだろ……」
俺達にもだが、それ以上にその他の人間のメリットがデカすぎる。
なぜなら使用人NPCの存在によって、隠れNPCを所持しているメリットがますます薄れるからだ。
『ああ、そうだ。大事な事を言い忘れる所だった』
まだなにかあるのか。
『特別大サービスだ。参加したレギオンの生き残り人数がもっとも多かったレギオン上位三つに、隠れNPC引換券を一枚あげよう』
「また露骨に……」
参加人数を増やすための小細工を……。
『隠れNPC引換券を使用し、未契約の隠れNPCと契約することが出来る。ただし、自分が参加した十ステージ内に配置された隠れNPCに限るがね』
参加するのは危険だが、メリットが大きすぎて無視できない。そこに、大人数で出るだけでメリットがある要素の提示……参加を渋っていた奴等を焚き付けるための、悪魔の誘惑だな。
『参加受け付けは明日の12:00まで。振るっての参加希望、心よりお待ちしている』
○これにて、明後日の大規模突発クエストの説明を終わります。
○明後日の大規模突発クエスト、隠れNPC獲得争奪戦に参加しますか?
「まずは、メルシュ達との情報交換か」
十中八九、レギオンメンバーの大半が参加する事になるだろうけれどな。
「ファンタジー」の人気作品
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