ダンジョン・ザ・チョイス
377.呪いと洗脳の片鱗
「強いな、夜鷹」
ゴリラみたいな機械のモンスター、”マッスルギア”を猛禽の脚で掴み、身を翻して空高くから叩き付けて半壊させてくれる鳥獣戯画・夜鷹。
動きが鈍った所を俺達で畳み掛け、難なく撃破する。
「元が夜鷹だからか、暗闇でも大体見えているみたい」
意図せずして、この状況における最高の組み合わせだったらしい。
「“鳥獣戯画”、前に手に入れた軍馬の指輪に対しても使えるのか?」
リューナに尋ねられる。
「元が人型だと適用されない場合もあるみたいだけれど、ほぼ全てに適用可能らしい」
組み合わせ次第で、その状況に適した強力な仲間を生み出せる……かなり強力なユニークスキルだけれど、生かすなら後衛専門の魔法使いに使わせた方が良いのかもしれない。護衛にもなるだろうし。
「かなり下に来ましたけれど、安全エリアが全然ありませんね」
チトセさんがそんな話をしていると、目の前に下に行くためのリフトが見えてくる。
「随分大きなリフトだな」
「教室二つ分くらいありそう」
「お金がかかってそうですねー」
各々の感想が聞こえてくるけれど、俺はまったく別のことを考えていた。
「こういう大きなリフトが出て来る場合、大体移動中に襲われるんだよな……」
ここがゲームを再現した場所である以上、そういう仕掛けがあっても全然おかしくない。
「だとしたら、気を引き締めた方が良さそうだ」
「私は、いつでも行けるよ」
「私も、問題ありません」
『キュルル』
隠れNPC取得に必要な物は既に手に入れたし、他に道も無さそうだ……行くか。
「じゃあ、全員乗り込んでくれ」
四人プラス一羽がリフトに乗り込んだのち、リフトにくっ付いているコンソールを操作して機動。ゆっくりと真下に向かって動き出す。
「段々速くなってきたな――上から来るぞ!」
リューナの警告後、リフト上に落ちてきた二つのスライムのような粘液が形を変え、人型のバイオモンスターとなる!
「戦闘をするには狭いな――“氷柱針”!!」
複数の氷柱を飛ばし、牽制してくれるリューナ。
「“飛剣・靈光”!!」
マリナが飛ばした斬撃により、難なく倒せた。
「新手です!」
今度は蝙蝠のバイオモンスターが、群れでリフトに接近してくる!
「“煉獄魔法”――インフェルノ!!」
「“吹雪魔法”――ブリザード!!」
時間差で異なる属性を当てて、こちらも難なく葬り去れた。
運良く生き残った複数の個体は、戦わずに引き上げていく。
逃げられると経験値やドロップアイテムが貰えなくなるし……そういう意味では厄介だな。
まあ、スナイプモードでチトセさんが全部撃ち落としてくれたけれど。
「また来るぞ!」
リューナがいち早く察知すると、二足歩行の小型戦車みたいなのがリフトに乗り込んできた!
その後も機械、バイオモンスターの襲撃は続き、俺達はリフト下の安全エリア、ボス部屋前のポータルで一旦休むことにした。
●●●
「二人ともー、偉い偉ーい」
”囁きのASMRマイク”という、両耳を模した物が付いた小型のマイクを使って、ナオさんとナノカの前で囁く。
「「うぅハ~ん♡」」
二人が気持ちの悪い声を!
「癒される~」
「さすがクマムちゃん。声が綺麗だから、本気で癒される~♡」
「そ、そんなにですか?」
「うんうん、もうサイッコー!」
ナオさんは、全肯定ASMRとか上手そう。
「一昔前は、耳舐めASMRとか凄かったよね~。医学的に癒やし効果もあるって言われてて、ASMR動画が一番伸びてた○チューバーさんとかいたし」
「私にも一応、そういうASMRの仕事をしないかってマネージャーに言われたことありましたけれど、未成年がやると叩かれるかもって自然消滅してましたね」
ちょっとやってみたかったかな……耳舐めはやりませんけれど。
でも、直接顔を合わせない方が大胆になれる気がするし、母の意向が無ければ、ヴァーチャルアイドルとしてデビューしたかった。
あくまで、アイドルをやるならだけれど。
「そう言えば、ASMRって年々厳しくなってったんだっけ。普通の雑談ですら広告を付けられなくなって、引退する人が増えたって」
「人気コンテンツだったのに、お金儲けに走りがちな芸能人事務所が一斉に手を引いたんですよね。アレってなんだったんでしょう?」
「そりゃ、本当に癒やし効果があったからだろう。ASMRに」
ナノカが急に断言した。
「……普通、逆じゃないの?」
「癒されるって事はストレスが軽減され、ストレスが軽減されるって事は、病気になりづらくなる。そうなったら損するのは?」
「……病院とか?」
「製薬会社……ですか」
前にメグミさん達が、そんなことを話していた気が。
「健康になれば薬を売れない。薬を売って儲けるとどうじに薬漬けにして人口を削減したい奴等からしたら、実際に効果があるASMRなんて目障りでしょうがないだろう」
「そう言えば、テレビで紹介されてる健康法とか試したけれど、結局意味なかったみたいな話は結構聞いたな~」
「精神病で精神科に通っていたけれど、薬を飲むのをやめたら徐々に良くなっていったなんて話もありますけれど……」
どこか半信半疑だった黒い話の数々、よくよく思い返してみると状況証拠だけなら幾らでもあった。
「目に見えない物を信じるのは難しいけれど、目に見えないことをいいことに、デタラメな情報を植え付けてでも金儲けをする。人間なんて、どいつもこいつもそんな奴ばっかりだよ。自分達が卑怯な思想で生きているって薄々気付いていながら、臭い物に蓋をしたままおためごかしで生きている、真実を見る勇気のない負け犬」
「……真実を見る勇気……」
自分に都合の良い情報だけを取捨選択して、それを常識とのたまって生きている……それが人間。
「まあ、余が真実を口にしている保証などどこにもない。せいぜい自分達で考えてみることだ。ただし、真実ほど残酷で痛みを伴う物も無いがな」
「でもさ、お金がなきゃ生きていけないのがそもそも悪いんじゃない? 日本は年々貧乏になってるってやってたし、そりゃ狡してでも少しは利益を上げたいって気持ち……分からなくはないわよ」
「貧困が犯罪を増長させているのは、間違いないですからね」
お金が無くて、やりたいことが出来なくて進学、夢を諦めたなんて人、二十年も生きていない私ですらたくさん見てきた。
人気が無くなったら終わる番組も、作品も、売られなくなる商品も、結局は儲かるか儲からないか。
でもそれは、資本主義である以上仕方がないこと。
だからって、共産主義が良いとも思えない。
頑張った人も頑張ってない人も同じように利益を貰えるなんて……て、そんなの、共産主義じゃなくてもまかり通っていることか。
私がアイドルとして稼いだお金、使って遊んでたのはお母さんだったし。
どうして私……ずっとそんな母に従って生きてきたのかな。
「そもそも、お金っていう概念が存在すること自体が非効率的なんだけれどね」
お金……か。
この世界で生きていくためにも必要なお金……まるで、お金っていう概念その物が呪いみたい。
ゴリラみたいな機械のモンスター、”マッスルギア”を猛禽の脚で掴み、身を翻して空高くから叩き付けて半壊させてくれる鳥獣戯画・夜鷹。
動きが鈍った所を俺達で畳み掛け、難なく撃破する。
「元が夜鷹だからか、暗闇でも大体見えているみたい」
意図せずして、この状況における最高の組み合わせだったらしい。
「“鳥獣戯画”、前に手に入れた軍馬の指輪に対しても使えるのか?」
リューナに尋ねられる。
「元が人型だと適用されない場合もあるみたいだけれど、ほぼ全てに適用可能らしい」
組み合わせ次第で、その状況に適した強力な仲間を生み出せる……かなり強力なユニークスキルだけれど、生かすなら後衛専門の魔法使いに使わせた方が良いのかもしれない。護衛にもなるだろうし。
「かなり下に来ましたけれど、安全エリアが全然ありませんね」
チトセさんがそんな話をしていると、目の前に下に行くためのリフトが見えてくる。
「随分大きなリフトだな」
「教室二つ分くらいありそう」
「お金がかかってそうですねー」
各々の感想が聞こえてくるけれど、俺はまったく別のことを考えていた。
「こういう大きなリフトが出て来る場合、大体移動中に襲われるんだよな……」
ここがゲームを再現した場所である以上、そういう仕掛けがあっても全然おかしくない。
「だとしたら、気を引き締めた方が良さそうだ」
「私は、いつでも行けるよ」
「私も、問題ありません」
『キュルル』
隠れNPC取得に必要な物は既に手に入れたし、他に道も無さそうだ……行くか。
「じゃあ、全員乗り込んでくれ」
四人プラス一羽がリフトに乗り込んだのち、リフトにくっ付いているコンソールを操作して機動。ゆっくりと真下に向かって動き出す。
「段々速くなってきたな――上から来るぞ!」
リューナの警告後、リフト上に落ちてきた二つのスライムのような粘液が形を変え、人型のバイオモンスターとなる!
「戦闘をするには狭いな――“氷柱針”!!」
複数の氷柱を飛ばし、牽制してくれるリューナ。
「“飛剣・靈光”!!」
マリナが飛ばした斬撃により、難なく倒せた。
「新手です!」
今度は蝙蝠のバイオモンスターが、群れでリフトに接近してくる!
「“煉獄魔法”――インフェルノ!!」
「“吹雪魔法”――ブリザード!!」
時間差で異なる属性を当てて、こちらも難なく葬り去れた。
運良く生き残った複数の個体は、戦わずに引き上げていく。
逃げられると経験値やドロップアイテムが貰えなくなるし……そういう意味では厄介だな。
まあ、スナイプモードでチトセさんが全部撃ち落としてくれたけれど。
「また来るぞ!」
リューナがいち早く察知すると、二足歩行の小型戦車みたいなのがリフトに乗り込んできた!
その後も機械、バイオモンスターの襲撃は続き、俺達はリフト下の安全エリア、ボス部屋前のポータルで一旦休むことにした。
●●●
「二人ともー、偉い偉ーい」
”囁きのASMRマイク”という、両耳を模した物が付いた小型のマイクを使って、ナオさんとナノカの前で囁く。
「「うぅハ~ん♡」」
二人が気持ちの悪い声を!
「癒される~」
「さすがクマムちゃん。声が綺麗だから、本気で癒される~♡」
「そ、そんなにですか?」
「うんうん、もうサイッコー!」
ナオさんは、全肯定ASMRとか上手そう。
「一昔前は、耳舐めASMRとか凄かったよね~。医学的に癒やし効果もあるって言われてて、ASMR動画が一番伸びてた○チューバーさんとかいたし」
「私にも一応、そういうASMRの仕事をしないかってマネージャーに言われたことありましたけれど、未成年がやると叩かれるかもって自然消滅してましたね」
ちょっとやってみたかったかな……耳舐めはやりませんけれど。
でも、直接顔を合わせない方が大胆になれる気がするし、母の意向が無ければ、ヴァーチャルアイドルとしてデビューしたかった。
あくまで、アイドルをやるならだけれど。
「そう言えば、ASMRって年々厳しくなってったんだっけ。普通の雑談ですら広告を付けられなくなって、引退する人が増えたって」
「人気コンテンツだったのに、お金儲けに走りがちな芸能人事務所が一斉に手を引いたんですよね。アレってなんだったんでしょう?」
「そりゃ、本当に癒やし効果があったからだろう。ASMRに」
ナノカが急に断言した。
「……普通、逆じゃないの?」
「癒されるって事はストレスが軽減され、ストレスが軽減されるって事は、病気になりづらくなる。そうなったら損するのは?」
「……病院とか?」
「製薬会社……ですか」
前にメグミさん達が、そんなことを話していた気が。
「健康になれば薬を売れない。薬を売って儲けるとどうじに薬漬けにして人口を削減したい奴等からしたら、実際に効果があるASMRなんて目障りでしょうがないだろう」
「そう言えば、テレビで紹介されてる健康法とか試したけれど、結局意味なかったみたいな話は結構聞いたな~」
「精神病で精神科に通っていたけれど、薬を飲むのをやめたら徐々に良くなっていったなんて話もありますけれど……」
どこか半信半疑だった黒い話の数々、よくよく思い返してみると状況証拠だけなら幾らでもあった。
「目に見えない物を信じるのは難しいけれど、目に見えないことをいいことに、デタラメな情報を植え付けてでも金儲けをする。人間なんて、どいつもこいつもそんな奴ばっかりだよ。自分達が卑怯な思想で生きているって薄々気付いていながら、臭い物に蓋をしたままおためごかしで生きている、真実を見る勇気のない負け犬」
「……真実を見る勇気……」
自分に都合の良い情報だけを取捨選択して、それを常識とのたまって生きている……それが人間。
「まあ、余が真実を口にしている保証などどこにもない。せいぜい自分達で考えてみることだ。ただし、真実ほど残酷で痛みを伴う物も無いがな」
「でもさ、お金がなきゃ生きていけないのがそもそも悪いんじゃない? 日本は年々貧乏になってるってやってたし、そりゃ狡してでも少しは利益を上げたいって気持ち……分からなくはないわよ」
「貧困が犯罪を増長させているのは、間違いないですからね」
お金が無くて、やりたいことが出来なくて進学、夢を諦めたなんて人、二十年も生きていない私ですらたくさん見てきた。
人気が無くなったら終わる番組も、作品も、売られなくなる商品も、結局は儲かるか儲からないか。
でもそれは、資本主義である以上仕方がないこと。
だからって、共産主義が良いとも思えない。
頑張った人も頑張ってない人も同じように利益を貰えるなんて……て、そんなの、共産主義じゃなくてもまかり通っていることか。
私がアイドルとして稼いだお金、使って遊んでたのはお母さんだったし。
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