ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

371.天空遺跡へ

「夜鷹」
「“空遊滑脱”」

 ”猛禽類の両翼ウィッグ”によって頭から翼を生やしたマリナとチトセさんと共に、鳥葬の廃都の上空を目指す俺達。

 “飛行魔法”を使わないのは、MPの節約のためと、いざという時の機動力が足りないから。

「来たな――“吹雪魔法”、ブリザード!!」

 襲ってきた複数種類の鳥モンスターの動きを、鈍らせてくれるリューナ。

「“閃光魔法”――フラッシュレイ!」

 マリナの光の針が鳥達に突き刺さり、機動力を奪う!

 その隙に、鳥の群れが居る高度を突破する俺達。

「“二重魔法”、“水蒸気魔法”――イヴァポレイションバースト!!」

 チトセさんが二つの水蒸気球を真下に放ち――炸裂! 鳥モンスターの群れを一蹴してくれる!

「とんでもない威力だな」

 薬液が無くても、チトセさんは充分に強い。

「急げ! 奴等はすぐにポップするぞ!」

 リューナの言うとおり、この鳥葬の廃都に出没する鳥モンスターは、倒しても倒してもきりがない。

 途中からリューナの腕を掴み、ひたすら上昇していく俺達。

 なんとなくマリナが睨んでいる気がするけれど、今は無視。

 翼で飛んでいる俺達と違って、リューナは空を走っているため疲労しやすいのだから。

「見えてきましたね」

 昨日買った“鳥葬のボーンスレイヤー”を使用し、追い縋ってくる新手を退けながら――俺達は、目的地である天空遺跡に到着する。

 雰囲気は、どことなく遺跡村の建造物に似ているな。

「ここまで来れば、鳥モンスターは襲ってこないはずだ」
「アイツら、思っていた以上にしつこかったし」
「溶解液で溶かしてあげたかったです」

 チトセさん、それは下の人に被害が及ぶかもしれないのでやめましょう。

 まあ、あの街を昼間に彷徨っている輩は少なそうだけれど。

「中央を目指せば良いんだったな」
「ああ。ただ、出来るだけモンスターと戦いながら宝箱も回収していく」

 リューナと気安く話せることに、なんだかとても奇妙な感覚を覚える。

「なんか来た!」

 マリナの指摘する方向から現れたのは、“古生代ギア”。

 古生代モンスターの特徴である黄土色の煉瓦に機械部分が包まれた、空飛ぶ独楽こまみたいなモンスター。

「スナイプモード」

 チトセさんが、腰のホルスターから取り出したボトルを“マルチギミック薬液銃”に装着し、俺達に自分の行動が判るようにモードを口にしてくれる。

「へ? 古生代モンスターが一瞬で……」

「スキルではなく薬液だから、“古代の力”っていうのが反応してないのか」

 マリナの驚きように対し、冷静なリューナ。

「ボトルの中身はなんですか?」
「“腐食液”です。金属系のモンスターに有効なんですよ」

 俺達の金属製の武器にも有効そうで怖い。

「腐食液って、金属の表面加工に使われる程度の物じゃ無かったか?」
「金属腐食って言葉もあるし、実際の名称とゲーム内の効能はイコールじゃないだろうからな」

 リューナの疑問に、一応答える俺。

「まあ、金属製の敵全般に有効なのは間違いありません」

 全身が純粋な岩石で出来た古生代モンスターには通用しないだろうけれど、消費が激しい薬液を攻撃手段にするメリットは、俺が思っていた以上に色々ありそうだ。

 俺が歩き出すと、三人も付いてきてくれる。

「それで、他の古生代モンスターに有効そうなのはあるのか?」

 “古代の力”によりスキルや武具効果によるダメージが五分一に減らされてしまうため、調合した薬で戦うチトセさんに頼りたい所ではある。

「一応、“調合”で作った”ダイナマイト”がありますよ。どうやら、岩石系モンスターへのダメージが倍になるそうです」

「なんで岩石系モンスターにだけ?」

 マリナの疑問。

「実際に硬い岩盤を砕いたりする際にダイナマイトは使われるから、そこから来てるのかもしれないな」

 トンネル掘りなどで、昔はよく使われていたはず。

「なるほど……て、なんで”調合”でダイナマイトが作れるの?」
「火薬も複数の物質を混ぜ、望みの効能を引き出す物だからな。花火の色合いなんかも、成分を変えたり、分量を調節して演出しているはずだ」

 今度はリューナが答えてくれる。

「つまり、これも立派な調合というわけです。材料を揃えて、それ専用の設備を利用して用意する必要がありますけれど」

 チトセさんの話を聞いてると、調合師ってTP・MPの代わりに時間を消費しているんだなって思う。

「専用の設備って事は、今は”調合”出来ないのか?」
「全部ではないですけれど、その通りですね。お金を掛ければ、魔法の家の中に調合部屋を用意することは可能だとNPCさんから聞きましたけれど」

 コンソールを調べれば、そういう部屋も追加出来るのかな?

「お喋りはここまでだな」

 リューナの見詰める先には、煉瓦造りの迷路。

「ここ、飛んでいくわけにはいかないのか?」
「迷路の上空は、飛べないようになっているらしい。ただ、迷路の壁よりも下なら飛行自体は可能なはず」

 迷路の高さはともかく、幅は三メートルくらい。武器を振り回すには心許ない幅。

「先頭は盾持ちの俺が行くとして、後ろは誰が担当します?」

 後ろから襲われるのは地味に厄介なため、対応力の高い人を配置したいけれど。

「私が殿を務めます。その方が溶解液を使いやすいですし」

「「「な、なるほど」」」

 確かに、理には適っている。

「深海の盾」

 前にメルシュが使っていたのと同じ青い盾を、指輪で左腕側に呼び出すチトセさん。

 俺も六角形の巨大盾、大地の盾を左腕側に出現させたのち、迷路内部へと足を踏み入れる。


●●●


「この状況で、《獣人解放軍》に攻勢を掛ける? SSランク武器を持つ女を筆頭とした一団が、どこかに潜伏しているのかもしれないのにですか!?」

 コンソールを使用して来られる庭園のような場所にて、主だったレジスタンスメンバーによる集会を開いていたのですが……そこで出された提案に、私は反対を示す。

「だからこそですよ、カプアさん。奴らの目が、我々レジスタンスから離れているのは自明の理。これは、未だかつてないチャンスなのです」

 寄せ集めの組織であるレジスタンスの実質的リーダー、タイキが、大規模な反攻作戦を実行しようとしてしまっている。

「既に、謎の一団がSSランク武器を持つ輩だという情報は流しています。この状況で各地に電撃作戦を仕掛ければ、完全に奴らの虚を突けるはず」

 理屈としては理解しますが、多くの犠牲者が出るのは確実。

 なにより、祭壇に居た解放軍メンバーを全滅させた奴等がどう動くのか、まるで予想出来ないというのに……。

「一気に解放軍共を潰す気か?」

 ガタイの良い人魚の男、ジャッフィがタイキに尋ねる。

「あくまで、奴等の戦力を削るのが目的です。今はまだ、全面衝突は避けるべきでしょう」

 それを聞いて、取り敢えずは安心した。

「つまり、ヒット&アウェイで確実に被害を与えると?」

 鳥人の男、コルファンが尋ねる。

 一応、私を含めたこの四人が、レジスタンスの過激派筆頭メンバーということになっていた。

 少なくとも、解放軍の連中はそう認識している。

「同時に、戦力アップを図るのも目的です」
「それはつまり……」

「この作戦の本命は、レジスタンスメンバーの獣人を聖域に届け、“獣化”のスキルを修得させること」

 確かに、“獣化”が使えるかどうかで獣人の戦闘力は大きく変わる。

「というわけでカプアさん。貴女には、希望する獣人を率いて聖域を攻めて貰います。一度制圧する必要があるでしょうから、戦力はそちらに集中させるつもりです」

「……分かりました」

 なんだろう、この違和感。

 タイキ殿の作戦の内容があまりにもちゃんとし過ぎていて……昨日までの彼とは、まるで別人のように感じてしまう。

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